たんぼ日記

田んぼのことやら日記

絵姿女房

2016年10月19日 | 絵本

昔な、丹波の山奥に、それはそれは、働きもんの男がおったんやて。
朝は早うから畑にでて、夕方日ぃが暮れるまで、まぁよう働いたそうや。
お金持ち言うことはあらへんけど、周りのもんも、あとは早よええ嫁さんを
もらうだけやと話してたんやって。

そんな男のところにも、縁あって嫁さんが来ることになってな、
それがここらでは見たことないほど、べっぴんさんやったんやて。


男は、きれいな嫁さんが来てから、毎日嫁さんに見とれてしもて、
どうも仕事が手につかへん様になってしもてな。

嫁さんに弁当こしらえてもろて、畑には出るけども
ぼんやりと、嫁さんの顔を思い浮かべて、すぐに家に帰っては
嫁さんの顔を見て、また仕事に行っては嫁さんの顔見ぃに家に帰ってくる言うあんばいで
しまいには、男は仕事にも行かんと嫁さんばっかり一日見てる様になってしもたんやて。


ほとほと弱った嫁さんは、
紙に自分の絵姿を描いて、男にこう言うた。
「こないに大事にしてもうて、私は幸せもんやけど、あんたが働いてくれへんと
どないもなりまへん。この絵姿を私や思て、仕事に連れて行っとくれやす」

見事に描かれた嫁さんの絵姿を見て、男は喜んで、仕事に出ていったそうや。


毎日、嫁さんのこしらえた弁当と絵姿を持って、朝早うから日ぃが暮れるまで、
男はよう働いた。
嫁さんも、家の仕事をようして、男も嫁さん大事にしたさかい、
この夫婦はたいそう仲よう幸せにくらしてはったそうや。

その日も、いつもと同じ様に、男は弁当と絵姿を持って仕事にでたんやな。
今日は風が強いな、そう言うと、男は絵姿をしっかり木の枝に結わえた。
男が鍬を持って畑を耕し始めたらな、


強い風がびゅうっと吹いて、大事な嫁さんの絵姿が遠い所に舞い上がってしもた。
男は鍬を放り出して、絵姿を追いかけた。そやけど、とうとう、絵姿を見失うてしもた。
がっくり肩を落とした男は、そのまま家に帰って嫁さんに一部始終を話して聞かした。
嫁さんは、「なんや、そんなこと」言うてまた紙に自分の絵姿を描いたんやて。
男は新しい絵姿もって、放ってきた鍬のこと思い出して、また畑に戻っていったそうや。


その頃、風に飛ばされた嫁さんの絵姿は、遠い遠い、国のお城の庭に飛ばされてたんやな。
暇を持て余してぽーっと空を見てはったお殿様が、飛んできた紙きれを拾い上げはった。
なんと、こんな美しい女の人がいるもんやろかと、絵姿に見とれてはったんやけど、
家来を呼んで、「なんとしても、この女を探してわしの嫁にしたい」と言いださはった。
このお殿様、嫁ももらわんと仕事もせんと、毎日ぼーっと過ごしてはったさかいに、
家来はそら大喜びで、始終手を尽くして、この絵姿の女の人を探して回った。
とうとう丹波の山奥の嫁さんの噂を聞きつけて、絵姿の女の人を見つけてしもた。


ほんで、無理むり、この幸せな夫婦を引き離して嫁さんをお城へ連れていかはることになってしもたんやて。
嫁さんは、男の耳元で「しばらくしたら、裏の木ぃに栗がなります。その栗をようけ拾て、お城に栗売りに来ておくれやす」そう言い残すと、お殿様のお迎えの籠に乗せられてお城に連れて行かれてしもた。
男は悲しいて、また仕事が手につかん様になってしもたけど、嫁さんの言う通りにしようと思ったんやて。


嫁さんの方は、お城で綺麗な着物を着せてもろて、贅沢な暮らしをして、お殿様もほんまに大事にしはったんやて。そやけど、嫁さんは丹波の山に帰りたい言うて、毎日泣き暮らしてはった。
お殿様も嫁さんに、なんとか笑うてもらいたいと、芸人を呼び寄せたり、宴を催さはったんやけど、やっぱり嫁さんがお殿様の前で笑う様なことはなかったんやそうや。

そんな日が何日もあって、ある日外から妙な声が聞こえ始めると、嫁さんの顔が急にぱっと明るうなった。


お殿様が外の声をじっと聞いてみると
「栗、栗〜。丹波の栗はいらんか〜、丹波の栗はいらんか〜」
外から聞こえるのは、栗を売る声やった。そうか、嫁さんは、丹波の栗が懐かしいんやな。
そうしているうちに、嫁さんはくすくすと、おかしそうに笑い始めたんやそうや。
ああ、やっと絵姿でみたにっこり笑ぅた嫁さんの顔が見られたと
お殿様はすぐに栗売りをお城に入れる様に家来に言いつけた。


栗売りが「栗、栗〜。丹波の栗はいらんか〜」と言いながら嫁さんの前まで入ってきたら
嫁さんが楽しそうに声を出して笑うさかいに、お殿様は栗売りの男が羨ましいてしょうがない。
ほんで、栗売りに着物を脱ぐ様に言いつけると、自分が脱いだ立派な着物は、嫁さんを笑わせた褒美やと言うて栗売りに上げてしまわはった。


代わりにお殿様は栗売りの粗末な着物を着て、肩から栗がようけ入ったカゴを提げて嫁さんの周りを「栗、栗〜、丹波の栗はいらんか〜」と言いながら歩いてみせはった。すると、さっきよりも面白そうに嫁さんが笑うさかいに、お殿様は調子にのって、あっちこっち掛け声をかけながら歩き回って、とうとうお城の外に出てしまわはったんやて。


ぐるっとお城の周りを回って、お殿様がお城に戻ろうと思わはったら、門番は粗末な栗売りの格好をしたお殿様に「これ、栗売りの男!ここはお殿様のお城じゃ。許しもなく入る事はならん!」と追い返してしもたそうや。なんぼお殿様が話しても、門番は「お殿様はちゃんとお城にいらっしゃる」と、聞いてくれへんのやて。


栗を売りに来た嫁さんの旦那は、そのままお殿様の着物を着て、お城で嫁さんと、夫婦仲良ぅ幸せに暮らさはったそうや。この殿様、それはそれは、よう働かはるさかい、国はたいそう栄えたんやて。前のお殿様か?さあ、どうしはったんやろなぁ。
こんで、この話はおしまい。
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