石油の内外情報を読み解く

内外の石油・天然ガス関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。(元ジェトロリヤド事務所長 前田高行)

平和の切り札トランプ? 米国中東政策の動向を探る(5完)  

2017年06月14日 | その他

2017.6.14

荒葉一也

 

4.トランプ中東歴訪:米国、サウジ、イスラエルの損得勘定

 サウジアラビア、イスラエルを歴訪したトランプ大統領は5月24日、イスラーム、ユダヤ教と並ぶ三大一神教キリスト教の聖地バチカンを訪問した。やり手のビジネスマンとして不動産王にまで上り詰めたトランプが敬虔なキリスト教信者であったかどうか定かではない。しかし信仰に篤い保守層を味方に引き入れて大統領に当選した彼として就任早々にバチカンを訪問することは「お礼参り」の意味もあったであろう。

 

 俗世の最高権力者トランプ米国大統領とカトリックの最高聖職者フランシスコ法王との会談はまさに清々しい一幅の絵画である。会談で法王は地球温暖化問題、難民問題等について大統領を優しく諭し、これに対してトランプは借りてきた猫のように従順な素振りを見せている。

 

 しかし借りてきた猫もそこまでであり、続くブリュッセルのNATO首脳会議、さらに伊シチリア島で開催されたG7サミットではトランプ大統領は爪を立てて参加国にかみついたのであった。NATO会議では持論である各国による応分の防衛費負担を求め、G7サミットでは選挙公約であった気候変動パリ協定からの離脱及び保護貿易主義の立場を明確にした。共通して流れているのは彼の持論「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」であり、ビジネス流の手法「ディール(取引)」である。

 

 こうしてトランプ大統領は9日間にわたる就任後初の外国訪問を終え、5月27日帰国した。前半は聖地訪問というパフォーマンスの旅であり、後半は米国の立場を鮮明にする主張の旅であった。彼は米国民に向かってその成果を誇った。そこには世界平和或いは地球の未来と言った崇高な理念は見られない。ただ崇高な理念が無かったからと言ってトランプを非難するのは酷かもしれない。トランプと言えども米国という一国家の中でトップに上り詰めたのであって、世界や地球のための大統領になった訳ではない。オバマ前大統領を始め歴代の米国大統領が平和や環境破壊に正面から取り組むのは常に政権末期であり、名を後世に残すためのレガシー(遺産)作りである。就任早々のトランプの目が国内向けであることは誰にも非難できないであろう。

 

 トランプが今回の外遊から持ち帰った課題は少なくないが、ここでは問題を中東に絞り、今後のトランプ外交の損得勘定について特にサウジアラビア、イスラエル及び米国を中心に推理してみたい。

 

 まずIS(イスラーム国)問題であるが、IS撲滅に参戦する当事国の間に不協和音はあるものの、近い将来ISが壊滅することに異論はないであろう。問題はその後である。シリア、イラクに平和(紛争が無いというだけの意味かもしれないが)が訪れ、難民は故郷に戻ることができる。難民流入に悩むヨーロッパ諸国は幾分重荷から解放されるであろう(アフリカ難民の問題はなお残るが)。シリアではアサド政権が息を吹き返し全土を掌握することになる。イラクはシーア派が中央政府を握り、IS掃討に大きな力を発揮したクルド人勢力がより広範な自治権を獲得しそうである。イラク政府は経済復興のため石油増産に励むであろう。因みにアサド政権もイラク政府もイランと同じシーア派であり、中東地域でこれまで見え隠れしていた「シーア派の弧」が目に見える形で姿を現すことになる。

 

 この事態を最も恐れているのがサウジアラビアである。サウジアラビアは既に昨年1月にイランと断交しており、さらに最近ではシーア派過激組織を支援しているとの理由でカタールとも断交した。スンニ派のサウジアラビアがシーア派の台頭を警戒している、とするのが一般の見方である。但し筆者はシーア派イラン対スンニ派サウジアラビアというだけの見方は取らない。むしろ同国の本質はサウド家が専制支配する世俗王制国家であり、宗教勢力が支配するイラン或いは(多少の問題はあるにせよ)国民が選んだ共和制国家であるイラクやシリアを恐れているのである。

 

 それらの国々が直接サウド家を脅かすという訳ではない。国民が周辺諸国の変化に影響されて宗教に目覚め或いは民主化運動に目覚めることを恐れているのである。これまでは豊かな石油の富にあかせて国民を懐柔してきた。しかし人口が増加する一方石油収入は停滞し、これまでのレンティア国家という社会・経済モデルが維持できなくなっている。このため政府は2030年までに石油依存体質から脱却するビジョン2030を掲げて走り出した。国営石油会社アラムコのIPO(株式公開)はその一例である。

 

 しかし石油に頼り切った安穏な生活を変革することは容易ではない。政府の計画が100%達成されることは無理であろう。夢だけを与えられ現実の生活が苦しくなる庶民、特に若者たちの不満が今後大きくなることは間違いない。そのような若者が走る道は二つ。一つは宗教への回帰であり、もう一つは民主化の要求であろう。共にサウド家支配体制に対する反逆であり、宗教復興思想はイスラーム原理主義と結びつきイスラーム・テロとして社会を脅かす。そもそもサウジアラビアの国教はイスラーム原理主義のワッハーブ派である。オサマ・ビンラーデンに始まるアル・カイダ運動がサウジ国内に出現しないという保証はない。また欧米で高等教育を受けた若者を中心に民主化運動が活発になる可能性も否定できない。いつの日かサウド家が倒れ、サウジ人女性の中からパキスタンのマララ・ユスフザイ、或いは隣国イエメンのタワックル・カルマンのようなノーベル平和賞受賞者が現れるかもしれない。

 

 サルマン国王以下サウド家の王族はそうならないようにと必死で対策を講じるであろう。奇妙なことであるが今そのサウド家を支えようとしているのが米国でありイスラエルなのである。両国とも中東に真の平和が訪れるなどと能天気なことは考えていないはずである。中東アラブ諸国がある程度不安定であり、その中で資金の担い手としてのサウド王制が続くことが米国とイスラエルにとって望ましいのである。つまりそうなればイスラエルは中東問題の中で忘れられた存在になり、思うがままにパレスチナ入植活動を展開できるのであり、また米国にとってはサウジアラビアが格好の武器輸出先、外貨獲得先になるのである。そのため米国はイラン情報を餌にサウジアラビアのサウド家とイスラエルのネタニヤフ政権をつなぎ留めるつもりであろう。トランプ政権にとってはイスラエルとサウド家が安定なら中東全体の不安定化はむしろ米国の利益になる、即ち「アメリカ・ファースト」と「ディール」の一挙両得という訳である。

 

 

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       荒葉一也

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