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内外の石油・天然ガス関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。(元ジェトロリヤド事務所長 前田高行)

八方ふさがりのサウジアラビア副皇太子(3)外交篇  

2017年03月19日 | 荒葉一也シリーズ

2017.3.19

荒葉一也

 

 

 

3.外交篇:米トランプ政権誕生で漸く腹が据わったサウジアラビア外交

 しばらく鳴りを潜めていたムハンマド副皇太子が3月14日ホワイトハウスでトランプ米国大統領と会談、イラン、シリア、イエメン、イスラム国など山積する中東問題について意見を交換した。トランプ新政権誕生後、中東アラブ諸国の首脳が大統領と直接顔を合わせるのはこれが初めてである。しかも歴代大統領が国家元首以外ではこれまで慣例として認めていなかった大統領執務室(オーバル・オフィス)での写真撮影を許可し、さらに会談後は昼食に招くなど異例の厚遇ぶりを演出した。

 

 ムハンマド副皇太子の訪米外交に力を入れたのはサウジ側も同じである。オバマ前大統領時代に過去最悪ともいえるまでに落ち込んでいた対米関係を改善することはサウジの悲願だったからである。実は同じ時期にサルマン国王一行が大人数を従えて日本を訪問したのであるが、予定されていた複数の有力閣僚が直前に訪日をキャンセルしている。Al-Jubeir外務大臣は副皇太子の露払いとして先行渡米し、またFalihエネルギー相はエネルギー会議「CERAウィーク」出席を名目にテキサス州ヒューストンに飛んでいる。共に副皇太子を支えるためと考えられる。サルマン国王にとっては米国に出かけたムハンマド皇太子のことがよほど心配だったに違いない。副皇太子は第二副首相兼国防相に加え経済開発問題会議議長も兼務しているが外交は直接の担当分野ではない。外交は首相を兼務するサルマン国王が前駐米大使のAl-Jubeir外相を指揮する形である。しかし国王は実質的な外交の決定権を当初から息子のムハンマド副皇太子に委ね、外相もテクノクラートとして副皇太子の指示に忠実に従っている格好である。

 

 2015年1月のサルマン国王即位時の米サウジ関係は最悪の状態であった。オバマ前大統領は一連の「アラブの春」騒動でアラブの民主勢力に肩入れし、さらに核開発問題をめぐってイランと「歴史的な核合意」を締結した。これによりオバマは中東における戦争の脅威が薄れたとして、外交・国防の重点を中東から太平洋地域にシフトした。この結果、中東に「力の空白」が生まれ、シーア派のイランがシリア・アサド政権及びイエメン反政府組織のフーシー派を支え、またシリアとイラクにまたがる地域ではイスラーム過激派「イスラム国」が台頭した。スンニ派の盟主を自認するサウジアラビアにとっていずれも耐え難いことであった。

 

 スンニ派の「イスラム国」はイスラム原理主義を標榜しており、この点では同じスンニ派原理主義であるワッハーブ派を奉じるサウジアラビアと「イスラム国」は似た者同士である。しかしサウジアラビアのサウド王家は実際は絶対君主制の世俗政権であり、従って中東でイスラーム宗教勢力が強くなりすぎることは好ましくないのである。サウジアラビアがイランを極端に嫌うのもシーア派とスンニ派の宗派闘争というよりむしろ世俗君主制政権対宗教政権の対立が根底にあり、サウジアラビアはそのことが表面化することを嫌っているからというのが一面の真理であろう。イランの宗教性を嫌っているのは米国も同じであり、だからこそサウジアラビアは米国べったりの姿勢を見せ石油政策および武器輸入で米国の歓心を買っていたのである。

 

 しかしオバマ政権末期にはサウジアラビアの米国に対する期待はことごとく裏切られアブダッラー前国王は米国に嫌悪感すら抱くようになった。このような状況を引き継いだサルマン国王は2016年1月の即位直後から米国依存脱却を模索した。同年6月にムハンマド副皇太子がロシアのプーチン大統領及びフランスのオランド大統領と相次いで会談したのは米国離れにより中東情勢を転換しようとしたためと見ることができる。しかし中東情勢を動かすことができるのは米国の他にはないことをサウジは思い知らされた。ロシアもフランスもサウジアラビアに対して外交辞令を並べるか、さもなくば武器の売り込みに熱心なだけであった。結局サウジアラビアが頼る先は米国しかないことを思い知らされたのである。

 

 オバマ民主党政権からトランプ共和党政権に交代し、サウジアラビアの期待が一気に膨らんだ。トランプ大統領はイスラム国の殲滅に米軍を投入し、イランとの核合意を破棄する姿勢を見せている。場合によっては直接イランを叩くことすらほのめかしている。サウジアラビアにとっては願ってもないことである。

 

 但しサウジアラビアはトランプ米政権の中東政策の真の意図を忘れてはならない。それは二つある。一つは(邪悪とみなす)イスラーム思想が米国に広がるのを阻止すること。トランプはイスラーム思想そのものは民主主義と相いれない過激思想と見ている。彼にとってはヨーロッパ諸国のイスラームとの融和政策こそがこれら各国にイスラーム・テロをもたらし、イスラーム難民を呼び込んだ元凶に映る。だからこそイスラーム思想に忠実な宗教国家イランは我慢がならないのである。

 

 トランプ中東政策の二つ目の意図は徹底したイスラエル擁護政策である。これはトランプを支える共和党の伝統的な政策であり、保守派の米国白人層を代弁したものでもある。米国のビジネス特に金融界を牛耳るユダヤ人の実力は不動産業で浮き沈みを経験したトランプにとって十分すぎるほどわかっているはずだ。

 

 イスラームを国家の基本理念に据え、また歴史的にパレスチナ支援の姿勢を明確にしているサウジアラビア政府にとってはこのようなトランプ政権の二つの意図はいずれも簡単に受け入れられるものでないことは間違いない。しかし今のサウジアラビアが頼れる相手は米国しかないのである。トランプ政権の誕生でサウジアラビアの外交はようやく腹が据わったようである。

 

(続く)

 

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       荒葉一也

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