今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

266 札幌(北海道)・・・一極に人満ち満ちて野辺哀し

2010-02-08 17:14:45 | 北海道

夕張に向かうため小樽での予定を早めに切り上げ、札幌で高速バスに乗り継ごうとしたら、2時間余の待ち時間が生じてしまった。夕張へのバス便はそれほど少ない、ということだが、それはともかく、どうしたものかと思案したあげく、手軽な選択としてJR札幌駅の駅ビル探検を試みることにした。札幌にはこれまで何度か来ているものの、駅はいつも通過するだけだったから、再開発された評判の駅ナカを未だ体感していないのだ。

デパートのクローク(今時、このサービスが生き残っていた!)に荷物とコート(北海道の屋内暖房は暑過ぎる!)を預けると、「JRタワーアートプロジェクト」という案内板を見つけた。北海道ゆかりの作家らの現代アート52点がビルのあちらこちらに展示されていて、駅ビル全体が美術館になっているのだ。何とも楽しい仕掛けである。受け付けでいただいた図録入りの配置図を手に、出発進行だ。

作品No.1は駅コンコースに鎮座する安田侃の大理石像。世界的作家の作品をベンチ代わりにして、人待ち顔のおばさんらが座っている。6階のレストラン街は昼の行列ができ始め、その上のシネコンでは、12もあるスクリーンを目指してやって来る映画ファンを、流政之のブロンズ像が反射している。38階の展望室は爽快なパノラマで、ちびっ子たちが「ボクの街」を写生している。駅ビル全体が、よくできた一つの街だ。

駅は、利用客がスムースに移動するための施設だから、人口の多寡がその規模を左右するのは当然として、不思議なほどに街の雰囲気を映し出すものだ。その土地の地理的気象条件や産業、年齢構成、時には歴史文化まで反映させて、いつのまにか街の顔になっていたりする。例外的につまらないのは新幹線の駅で、全国どこでも似た顔つきの、味気ない空洞が広がっている。幸い北海道は、まだ新幹線に染まっていない。

札幌駅はおしゃれで清潔で、デパートは東京より賑わっている。ここを探検している限り、北海道は元気で明るい笑顔に満ちているように思われる。しかし私がいた3日間に、新聞やテレビが伝えた大きなニュースは「道内の有効求人倍率は0.32倍に低迷したまま」「道税収入が21年ぶりに5000億円を割り込む」「高卒の就職内定率は51%」「夕張の財政再建策を19年間に圧縮」「丸井今井の再建が難航している」といったものばかり。

北海道経済の苦戦が伝えられて久しいが、今では日本全体が衰退期に入ったかのように元気がない。近代日本で奇跡の人口増を実現した札幌は、東京区部、横浜、大阪、名古屋に次ぐ人口190万人の街になったのだけれど、見方を換えれば、それは道内他地域の衰退が招いた集中なのかもしれない。「開拓」という瑞々しい意欲が張り巡らせた血管が、経済不振という旱魃で、大地からしだいに引き始めていているのだろうか。

札幌は、通勤通学者を含む「都市圏」でみると、人口250万の大都会であり、さらに「経済圏」の視点に立てば、北海道560万人の60%、340万人が包含される街だ。一極集中という、日本全土で見れば東京で進行している事象が、北の大地では、ここ札幌に起きているということだ。「集中」はなぜ起きるのだろう。街の市場原理か? いや、そうではあるまい。国づくりの歪みが、地表に噴き出して来る現象なのだろう。


札幌の、なかでも人々が集中する駅で眺めていると、東京の繁華な街角にいるかのような気分になる。華やかな街の表情が、不況の翳りを何とか隠している危うさも、札幌は東京とよく似ている。地下道の一角に「きたぐにの詩」と題する壁画があった。豊かな大地の稔りが、明るい色彩で描かれている。その前を、談笑する若者が通り過ぎて行く。この街は元来、こうした魅力に満ちているのだろう。

豊かな自然と若々しいエネルギーを感じる楽しい駅ビル散歩だった。それにしてもタワー展望室の入場料700円は、いかにも高過ぎはしないか。道民100円、道外者300円といったあたりが妥当だろう。JR北海道は、その程度の社会還元をしたらよろしい。もっとも私は、高齢者割引対象者として600円にオマケしていただいたものだから、小さな声で主張しておく。(2010.1.28)
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