第46話 保健所から業者が来ますから!

数日後、9匹の仔猫ちゃんは、ベランダから外へも出て行ってお出かけできるようになっていた。ノラは、そんな野良猫達の巣立ちの過程を眺めていた。

毎日、うちのアパートの駐車場で小学生がその野良仔猫を抱っこして遊んでいた―。とっても可愛がっていて、ノラのように、カーテンの中からこっそり監視するお母さんの目には、微笑ましく映っていた。だが、先日の寅午不動産からの通告の電話―。それを思うと頭痛がして、家事が進まない時もあった。

親の三毛猫ちゃんたちは、ちょっと切なかった―。ノラは仲間と遊べる野良猫ちゃんが
羨ましくて、切なかった―。
ノラは日当たりの良いこのアパートのベランダの窓が大好きだった―。それは野良猫達も同じだった―。

　隣に住む103号室の父猫・満ちゃんの飼い主で、タクシー運転手のおじさんが出てきた。駐車場で野良仔猫達に餌をやっていた―。
　上に住む202号室の星加さんも餌を玄関の前に置いて仕事に出かけるようになった―。202号室のお嫁さんはある地域の星加市長の娘だった。
　こうして増えていった野良猫ちゃんたちの繁栄は、最大のクライマックスを迎える―。

　そんな毎日の中である、小学生3人トリオは野良猫と遊んでいて、103号室のおじさんは、餌をやっていた―。そのとき、寅午不動産と大家さんは駐車場を視察しに来た。それで、野良猫と彼らに出くわしてしまった―。

「処分しなくても良いじゃないですか―。」
おじさんは申し訳なさそうに頼む。小学生の3人は泣きわめく。しかし、おじさんの頼みは無視されてしまった―。どうやら、野良猫の電話はうちだけではなくアパート全体にクレームの電話が不動産からまわってきていたのだった―。

　「明日、保健所から業者が来ますから。」
「そんな～。可愛いのに…。」わめく小学生―。
その仔猫は、小学生の中で、この辺のアイドルだった。そして、ノラは、隠れプリンス王子。

　お母さんは、しっかり、レースのカーテンの中から耳を傾けていた―。ノラもなんとなくぴくぴく耳を動かしていた。