先月訪問した国立西洋美術館で、オーギュスト・ロダン(1840〜1917年)の彫刻作品を見てきました。パリの装飾美術館の門扉として、1880年に依頼された「地獄の門」は、ロダンが1917年に亡くなるまで制作を続けた作品です。・・・国立西洋美術館の地獄の門
「地獄の門」の扉の上に置かれた「考える人」は、やがて切り離され、「詩人」という名で1888年にコペンハーゲンで初公開されています。最近読んだ、ジェフリー・アーチャーの小説の中にその「考える人」が出てきましたので、イギリス人のジェフリー・アーチャーの薀蓄を紹介しましょう。<・・・>が小説からの引用です。
<彼(ロダン)は、自分の英雄であるダンテ(1265〜1321年叙事詩・「新曲」の作者)にオマージュ(尊敬する作品に影響を受けて似たような作品を創作する行為)を捧げたかったんです。そして、ロダンとこの作品が切っても切れない関係になったために、彼は(墓地のあるムードンで)この像の下に埋葬されたのです>・・・ロダンの作品・カレーの市民
<ロダンの「考える人」で最も人気があるのは、パリにある彼の生涯の鋳造所で、アレクシス・ルディエールが鋳た9作品なんですよ。(ところが)ロダンの死後、残念なことにフランス政府が限定版を作ることを認めて、別の鋳造所で再制作させたのです。しかし、それらの作品はロダンの生前の作品ではないので、真面目なコレクターからは、真性とはみなされていません>・・・ロダン作品・私は美しい
<元々のルディエールが鋳た作品はパリに三点あります。ルーヴル美術館、ロダン美術館、ムードン(ロダンの墓地)それからニューヨークのメトロポリタン美術館、レニングラードのエルミタージュ美術館、あとは個人のコレクターが三点所有しています(中略)一点はバロン・ド・ロスチャイルド、一点はアメリカ人収集家のポール・メロンが所有しています>・・・ロダン作品
<三点目の行方は長いこと謎に包まれていたのですが、10年ほど前にマルボロ・ギャラリーが個人収集家に売っています。 所有者は誰でしょう? それが判らないのです(中略)売り手(と買い手)が匿名であることを望んでいるということです>(これが小説にロダン作品を登場させた理由でしょう)・・・弓を引くヘラクレス・ブールデルの作品
さて、静岡県立美術館の公式HPによれば<「考える人」の原型は高さ63cm。人気を博したため、ロダンは高さ38cmのより小さい像も作っている。静岡県立美術館はこの小型像のほか、世界に21体ある高さ183cmの拡大像も所蔵している>この小さい像のことは、ジェフリー・アーチャーの小説に出てきません。・・・こちらは弓を引くヘラクレスの拡大像
世界に21体あるという高さ183cmの「考える人」の拡大像がロダンの死後にフランス政府によって別の鋳造所で再制作させたものなら、真性とはみなされない作品となります。・・・西洋美術館の彫刻
隣の女性と比べると、国立西洋美術館の「考える人」は、世界に21体ある高さ183cmの拡大像の一つかも知れません。
参考文献:クリフトン年代記第3部「裁きの鐘は」ジェフリー・アーチャー著・戸田裕之訳