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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

「本という不思議」

2008-03-10 18:22:44 | 好きなもの・講座やワークショップ

地元の図書館で開かれた、詩人の長田弘氏の講演会に行きました。
会議室にて、定員40名の、ちょうどいい感じの会でした。

すこし迷いましたが、期待をこめて『森の絵本』を持っていきました。


長田弘さんはいったいどんなお顔をしているのだろう?
谷川俊太郎さんのお顔は、写真やテレビで見たことがあるけれど、
思えば他の詩人の方のお顔は、見たことがありません‥

背広にネクタイ、短く刈った髪に手さげタイプの革のカバン。
館長に紹介され、席に着いて、カバンから取り出したのは
薄い本が2冊に、(たぶん)時計でした。
セッティングを済ませると、季節の挨拶も、初めて訪れたという川口の
印象の話も何もなく、すっと本題に入られました。

もしも、詩を書いている人だとしらなければ、話はじめの時は
役所関係か、郵便局の人(簡易保険担当)?と思ったかもしれません。



話の最初はこうでした。

本という不思議、ということでお話しますが、
みなさんは、本というと、書かれている中味が大切とお思いになるでしょう。
けれど、本にとって大切なのは、中味ではなく、「器」が何より大切なのです。

本の器。
本という器。

これがこの日のキーワードでした。


入れ物があるからこそ、中味を入れることができる。
入れ物がなければ、水をすくうことも、食べものを入れることもできない。
本にとってもそれは同じことで、本という2500年の歴史を持つその体裁が
あってこそ、中味を維持できるということです。

形あるものが、その形をとり続けることの大切さに、話は展開していきました。
それは日常わたしたちが使っている日本語も、形があるものは
それが言葉として残っているけれど、使われなくなり、ものとしての形が
なくなると、いつしかそれを表していた言葉がなくなり、言葉がなくなると
いうことは、文化がなくなることだと、おっしゃっていました。

具体例として、写真アルバム。
誰もがパソコンで写真を管理して見るようになると、いつしか「アルバム」が
どういうものだったのか忘れられていき、すると、「思い出のアルバム」などという
日本語の比喩もなくなってくる‥

その昔、本を綴じる技術がなかった日本の書物は、巻物に記していた。
だから今でも、本のことを一巻、二巻と数えるし、「本を紐解く」という言い方も
残っている。それは巻物が紐で結わかれていたときの言葉が今も生きている
ということです‥



日本語が崩れていくスピードがどんどん早くなっていくことを
憂いている気持ちが、じわじわと伝わってきましたし、それと同時に、
本を心から愛していることが、よーくわかりました。

お話の終盤、「本は自分がお金を出して買ったものであっても、
わたしは預かりものだと思っています。こういう機会を通してみなさんに
お願いするのは、本を、器としての本を汚さないでほしいということです。
書き込む時は、ぜひ鉛筆でお願いします」とおっしゃいました。

この日、持ってきていた(話の中でも度々紹介してくれました)薄い本は、
古本屋で見つけたという明治時代の小学生高学年向きの辞書でした。

「大切にされていた本は、こうやって今でも手に取ることができるのです。
本の器を、自分の生活の中に置いておくための本をどうぞお持ちに
なってください。」

‥本は、そこにあるだけで、毎日の暮らしが潤います。

長田さんの言葉はカッコの中で終わっていましたが、私は心の中であとを
続けました。‥からあとは私の気持ちです。
本は、本という形を持っているだけで美しく、本であるというだけで
いいものなのです、やっぱり。



すっかり長田弘さんに共感した私は、『森の絵本』とサインペンを持って
いそいそと、長田さんに近づいて
行きました。
サインしていただけますでしょうか、と申し出ると、
優しい笑顔で、快く引き受けてくださいました。

「この本は、最初に詩があって、それに絵がつけられたのですか?」と私。

「そうですね。わたしは、たいていの場合、最初は会わないのですよ。
ただ、書いたものを渡すだけで。このときも、一度も荒井君には会いませんでした。
その後は、たびたび会いますがね、荒井君とは」

「荒井さんの描いた絵はすぐに気に入りましたか?」

「ええ。それはもちろん、気に入りました」

「すごく好きな本なんです」と、再度、私。

「そうですか、この本、好きですか」

とても嬉しそうにそうおっしゃってくださいました。



サインは写真に撮って、手帳のその日の欄に貼ることにしました。


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10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
いいお話 (マーガレット)
2008-03-11 07:26:27
詩人ならではの 言葉を大切にするいいお話ですね。
クレヨンハウスの本の学校で お話を聞きながら、ものすごく静かで 先生の講義っぽくて、ぐーぐー寝てしまった自分を反省しているところです。
言葉を大事に使うことは 私も肝に銘じたいことです。
返信する
Unknown (まつかぜ)
2008-03-11 12:11:12
心にしみわたるお話ですね。
褪せないように留めておこうとおもいます。
長田弘さん、どんな方なんだろう?rucaさんのお話を読めば読むほど興味がわいてきます(笑)

返信する
羨ましいですよー。 (jasumin)
2008-03-12 11:12:01
いいなぁ、rucaさん。やはり、直接顔を拝見しながらお話を伺えるって、いいですね。
以前、片山健さんにお会いしたときの記事と同じで、rucaさんが感じた作り手さんの雰囲気がとても素敵で
私もお会いしたような気持ちになります。
お話、ききたくなります。
「森の絵本」私も持ってるのになぁーーーー!(笑)

本も言葉も文化ですものね。文化を残すこと、大事にしたいです。

先日、地域を選んでレポートする番組で、rucaさんの町がたくさんでました。
わぁやっぱり都会だなーって見てました(笑)
返信する
マーガレットさんへ (ruca)
2008-03-12 15:34:14
こんにちは。

長田弘さんは、クレヨンハウスの本の学校でも講師をなさってるのですね。

>ものすごく静かで 先生の講義っぽくて、ぐーぐー寝てしまった自分

よくわかります!
私もよっぽど「役人か郵便局の人か学校の先生」と書こうと思いましたもの。
でも、学校の先生の講義のような威圧感がちっともないところがいいですよね。最初の30分は、睡魔くんがちらちらやってきて困りましたが(笑)

詩を書く方は、やはりただものではないと思い知った2時間でした。
返信する
まつかぜさんへ (ruca)
2008-03-12 15:47:11
こんにちは。

ほんとうにいいお話でした。
3日前の申込みで、しかも無料で、こんなお話聴かせて
いただいていいのかなーというくらい。

まつかぜさんのコメント読んでから、「どんな方みたい」って
お教えしたらいいのかとずっと考えていました。
が、いまだ思いつきません。私の周りにはいないですね~
あんなに物静かにお話になる方。
テレビ等に出る方の中でも、ちっとも思い当たりません。

世の中全体が、おもろい人を求めているようなところが
あるじゃないですか。面白くないって言われるよりは
「あの人おもしろいね」ってみんな言われたがってるような‥。
でも、長田さんは、そういうこととはまるで関係のないところに
居るって感じがしました。すごく新鮮でした。
返信する
jasuminさんへ (ruca)
2008-03-12 15:57:11
こんにちは。

思わぬところで、いいお話を聴くことができて、ほんとに
ラッキーでした。
あ。と思う言葉をメモしておいて、それを見ながらブログの
記事にしたのですが、何かを感じていただけたのならよかったです。

大きな声では言えませんが、私、「森の絵本」とあとわずかな絵本でしか、
長田さんの作品読んだことがないのです。詩集は1冊も。
でも、出ている本ぜんぶよみたーい、と伊勢さんに続いて
またまた思っているところです。

>地域を選んでレポートする番組

土曜日の夜、ご覧になったのですね?
埼玉のマンハッタン。恥ずかしいー。
番組内で紹介されていた大きな図書館ではない、駅の
西口にむかしからある小さな図書館で、講演会はあったのです。
川口。あんなところですが、今度ぜひ遊びにきてくださーい。あ、アトリアもすこし登場してましたね。
返信する
楽しみにしてました (こもも)
2008-03-14 10:22:08
うわあ。楽しみにしてました。

役所関係か、郵便局の人(簡易保険担当)?
の印象だったんですねー。
想像がふくらみすぎて、頭がおかしくなりそうです(笑)

長田さんの詩は、とても言葉が大切にされていて
一つ一つが、きらきら輝いているというイメージが
私の中であって、
だから、うんうんと頷きながら読みました。
大切にしたいですね。日本語。

本という形を持っているだけで美しいというrucaさんのお話にも、大きく頷きです。
本当に。本当に。
だから、私たちを魅了してやまないのですよね。

*サイン、いつか見せて下さいね♪

返信する
お久しぶりです (miyaco)
2008-03-16 03:25:18
最近すっかりご無沙汰してますが、元気にしてます。
rucaさんもお元気そうですね!

羨ましいなぁ。長田さんのお話。
私もいつか聴いてみたいな。
森の絵本、小学生には難しいような気もしますが、
6年生くらいだとちょうどいいかもしれませんね。

お互い、小学校生活もあと1年ですね。
(結局来年度も副会長を引き受け、ぱたぱたしている私です)
楽しく過ごしましょうねー♪
返信する
こももさんへ (ruca)
2008-03-17 14:46:52
再び、こんにちは。

長田弘さんの講演のお知らせを見て、真っ先に浮かんだのが
こももさんのことでした。(って前にも書いたかな?)

お話を聴いている間も、きっとここのところに大きく頷く
だろうなあとか、このお話は、きっとみんなもそう思っているよねーとか
ここで、集って、コメント欄でお話している方たちを、
すごく意識しました、私。
特にお話終盤の、「だから本という器をみなさん大事にしてください」のあたりは、
まるで、ことり文庫を巡っている大きな輪のことを、
言っているのではないかと思ってしまいました。

本の美しさにとりつかれた方が、ここにもひとり、
ここにもひとり‥

※サイン入り「森の絵本」。今度のおはなし会に必ず
もっていきますねー。
返信する
miyacoさんへ (ruca)
2008-03-17 14:54:23
こんにちはー!!
お久しぶりです。お察しのとおり、元気に過してますよー。
そして、miyacoさんの活躍ぶりも、なつめさんのとこで
ちょこちょこ「お見かけ:」してました。

長田さんの講演は、ほんと思わぬところで、思わぬお話を
聴く事ができて、ラッキーでした。
もっと前からわかっていたら、miyacoさんだったら
来られる近さでしたねー(って仕事があるからだめかな)
1年に1度くらいで、考えてます、って司書の方が
おっしゃっていたので、次回に期待しています。

『森の絵本』に決める前は、『ルリユールおじさん』を
読もうかなとも思っていたのです。
でも、すっかりそのこと忘れて、さっさと
『森の絵本』読んじゃいました。ペアで同じクラスに
入ったKさんが、一番気に入ってくれていたみたい。

※短くてもいいから「散歩な生活」の更新も
お願い致しますね♪
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