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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

秋の気配

2005-09-24 17:44:50 | 好きな絵本

 今日はあいにくの雨ですが、空の高さ、空気の匂い、陽射しの角度がゆるやかに
「秋」へ移っていくのがわかるこの頃です。

 10月が近づいたら、ぜひここに載せたいなと思っていたのが、ほるぷ出版から
出ている、この本です。(20世紀初めの頃でしょうか。アメリカ東海岸の村で暮らす
家族の話に、B・クーニーが丁寧に描いた絵がついている、とても美しい絵本です)

『にぐるまひいて』 ドナルド・ホール文 
  バーバラ・クーニー絵 もきかずこ訳

 
 10月 とうさんは にぐるまに うしを つないだ.
 それから うちじゅうみんなで
 この いちねんかんに みんなが つくり 
 そだてたものを なにもかも にぐるまにつみこんだ.

 
 いろんな荷物を積み込んだ荷車を、とうさんはどうするのかな、と思って
ページをめくると、まだ行き先も目的も告げられず、4月に刈り取った羊の毛だとか、
家族みんながそれぞれ作った物だとか、かえでの樹液を煮つめて作ったかえでざとう
だとか、りんごだとか、荷車に積み込む品物の紹介が続いていきます。

荷車がいっぱいになると、とうさんはひとりだけで、うしをひいて10日がかりで、

 おかを こえ たにを ぬけ おがわを たどり
 のうじょうや むらを いくつも すぎて
 ポーツマスのいちばへ
 やってきました。 

 
家族4人が1年間かけて作ったものを売って、
 必要なものを買うためです。
 
 この日、とうさんが市場で売ったもの。
ひつじのけ・かあさんがつくったショール・5くみのゆびなしてぶくろ・
ろうそく・
やねいた・しらかばのほうき・じゃがいも・りんご・はちみつ・はちのす・かぶ・
キャベツ・かえでざとう・がちょうのはね・かえでざとうのあきばこ・りんごのあきだる・
じゃがいものあきぶくろ・からのにぐるま・うし・うしのくびき・うしのたづな

 そう、とうさんは持ってきたすべてのものを売り尽くしてしまいました。
そして、買ったものは‥。

 だんろにさげるてつのなべ・
 ししゅうばり(むすめのための)
 バーロウナイフ(むすこのために)
 うすみどりいろのはっかキャンディ2ポンド
 (かぞくみんなのため)

 鍋に買ったものをいれ、とってに棒を通して肩にかつぎ、残ったお金をポケットに入れて、
とうさんはまた同じ道のりを辿り、家族の待つ家に帰ります。
 かあさんは、新しい鍋で夕飯を作り、娘は新しい刺繍針で、刺繍に取り掛かり、
むすこは木を削り、とうさんは納屋にいる若牛のために、新しい手綱を編み始めます。
そうやって、また同じ季節の同じ仕事を黙々とこなし、10月になって、荷車をいっぱいに
するまで、同じ営みが続いていきます。

 家族が役割を分け合って、暮らしていくことの美しさ。
 毎日の時間の積み重ねこそが、暮らしそのものに
なっていく。

 この絵本を読むたびに、私はそんなことを思います。
 
 住んでいる場所も、時代も、この本の中とはまるで違うところにいますが、
人が生きていくこと、家族が他の家族を思いやるという基本は、同じなんだと思います。
19世紀のアメリカに生きたローラの家族の話、『大草原のちいさな家』が大好きだから、
私の中での思いいれが強いのかなと、思ってみました。しかし、そのシリーズをひとつも
知らない私の娘も、時折この絵本を手にします。
 こういう静かなお話の絵本は、子供自らが選ぶ事はほとんどないので、私はこの絵本を
私自身の楽しみのためとして、買い求めました。でも、思いがけず、娘も好きになって
くれたので、よかったなあと思います。

 「にぐるまひいて」の本の中の、むすめとむすこも、いつの日かそれぞれ相手を見つけ、
とうさんかあさんと一緒に過ごした家を出て行く日が来るでしょう。そのときには、
もう自分の家で作ったものを荷車に積んでいく必要はなくなり、宅配便のトラックが
農村にも来る様になっているかもしれません。
 でも、こどもたちの記憶の中には、とうさんが買ってきてくれたはっかキャンディを
食後にひとつづつ家族で楽しんだことは、残っているはず。

 そういう想い出が受け継がれていくことが、何かあった時に、人を強くしてくれるに
ちがいないと、信じています。
 

 

          

コメント (6)
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