春樹の秘密

威哥王

続続々サナルとトウシン

2017-01-01 15:03:45 | エンタメ
トウシンはまだ寝ている。

傷だらけのこの人は、私を否定しない。深い海の底から自分だけの力で這い上がってきたこの人は、私を否定しない。私の「助けて」をいつだって見逃さない。
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夜更けの山里は本当に静かだ。世界は時を進めることを躊躇している。騒がしい太陽を締め出すように、夜はそのとばりを下ろしたままだ。

私はこの人を愛していない。愛してはいけない。この人の苦しみを分かち、自分のものにしてしまった。彼が抱えてきた憎悪を、闇を、取り囲んで地中深くに埋めてしまえたらいいのに。

子供の頃。夜の鉄塔が怖くて泣いていた。どこまで逃げてもついてくるあの鉄塔は、いつしか私を踏み潰しにくるような気がしていた。でも、大人達は私の涙の理由に気づいてくれなかった。

「きっとトウシンなら気づいてくれただろうな。」

あの湖ならきっと、私を追い出さずに置いてくれるだろう。光が届かないところへ私は行かなくてはならない。私が私の闇を放つ前に。
威哥王