Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

容疑者Xの献身

2008-10-14 | 日本映画(や・ら・わ行)
★★★★☆ 2008年/日本 監督/西谷弘
<TOHOシネマズ二条にて鑑賞>

「今回ばかりはフジテレビの我慢ぶりを称えたい」


なんと、なんと、出来映えは、予想以上。ちょっと意外なほど。確かにドラマ『ガリレオ』の様式は残していますけど、かなり原作を重んじました。これ、大正解。今回、フジテレビはずいぶん我慢したんじゃないでしょうか。

冒頭、ドラマ同様、犯罪を立証する大がかりな実験から幕を開けます。これは、もろドラマファンサービス。でも、つかみとしてはアリでしょう。非常にワクワクします。以降、物語が動き始めてからは、石神(堤真一)と花岡靖子(松雪泰子)のふたりの関係に完璧にシフトします。冷静になって考えると、いくらドラマがヒットしたとはいえ、直木賞受賞作の映画化。もしかしたら、観客の比率は原作ファンの方が多いかも知れません。原作をいじれば、読者からの反発は大きかったでしょう。

それにしても。この映画の主役は、堤真一でしょう。この役、彼じゃなかったら、どうなってただろうと思います。確かに原作の石神はルックスの冴えない醜い男として描かれていて、堤真一とはギャップがあります。しかし、もしこの役を原作通りの見た目の俳優が演じていたら、それこそイケメン福山雅治ひとりが浮いてしまって、ドラマ的軽薄さが増したでしょう。あくまでも、福山雅治とタイマンを張る俳優ということで、堤真一にしたのは、とても賢い選択だったと思います。原作読んでるのに、ラストシーンは、かなり泣いてしまいました。また、松雪泰子もとてもいいです。最近多くの話題作に出ていますけど、「フラガール」より「デトロイト・メタル・シティ」より、本作の彼女の演技の方が引き込まれました。。

映画館を出てから息子に「あのシーン、なかったなあ。あの、ヘンな数式、その辺に書き殴るヤツ」と言われて気づきました。確かに。小学生の息子がヘンだと言うのですから、あれを映画に入れていたら台無しだったでしょうね。湯川先生(福山雅治)と内海(柴咲コウ)の関係にしても、あのフジテレビですから、ほんとは恋愛関係に持って行きたいところじゃないかと思います。しかし、我慢しましたね。「友人として」話を聞いてくれ、と湯川先生に言わせて、それをはっきりと表明しています。まるで「このふたりのキスシーンは我慢しました」というフジの製作者の無念の声が聞こえてくるようです(笑)。

結局、原作の力が大きいのです。そして、それは良い原作なのだから、それでいいのです。個人的には東野作品は「白夜行」のような重い物語の方が好きです。「容疑者Xの献身」が直木賞を取ったときも、正直これより前の作品の方が面白いのあるじゃん、と思いましたしね。でも、映画化ということで考えれば、この作品は向いているのかも知れません。数学VS物理の天才、という構図だとか、アリバイのトリックとか。確かに見終わって、あのショットがとか、脚本が、といういわゆる映画的な感慨もへったくれもないわけです。ただヒットドラマの延長線上で作った、というノリは極力抑えようとしたことが良かった。よって、ドラマファンの息子はもちろん大満足、そして東野ファンのオカンもそこそこに満足、という両方のファンをそれなりに納得させたことにおいて、今回ばかりはうまくフジがバランスを取ったな、と思います。 1本のミステリー作品としても、秀作ではないしょうか。

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