幻想伝説エッセイ

早く船を完成させて、大海原に飛び出したいのよ。

サイモリル、わたしがおまえを殺した

2006-10-01 17:19:32 | エッセイ
記念すべきエルリックのデビュー作品である「〈夢見る都〉」について書こうと思います。
実を言いますと、個人的にはエルリック・サーガの中では娯楽作品としてはあまりおもしろいと思わない作品だったりします。
自分がおもしろいと感じるのは「メルニボネの皇子」と「この世の彼方の海」で比較的後期に書かれた作品で、この頃のムアコック作品が一番自分の好みなのかなと。
そういう意味ではエルリックよりもコルムの方が物語としては好きで、一冊目の「剣の騎士」はイマイチでしたが、それ以降の作品は全部自分のツボにはまっていますね。
ただ白子のエルリック、黒の剣のストームブリンガー、混沌のアリオッホ(コルムやブラス城にも出てきますが)などキャラに関してはエルリックの方が際立っていますね。
そして何よりも作者の思いというものが注がれていて、単なるおもしろさ以上のものが込められているのがエルリックなのではないかと感じます。

この作品では許婚を自らの手で殺し、仲間を見殺しにし、故郷の歴史に自らの手で終止符を打ってしまうわけですが、それでも生きて行かねばならないエルリックの悲運というものが一番わかる作品と言えるかもしれません。
ただシリーズを通して読むと単なる悲劇的な作品というわけではなく、腐敗した古い時代が滅び去り、新たな時代を迎えるという作品だということが見えてくる思います。
「メルニボネの皇子」を読むと、古い時代の風習から浮いた存在であるエルリックの心の葛藤と周囲の意識のギャップというものがよく描かれていると思いました。
最愛の許婚であるサイモリルも結局はエルリックを理解できる存在ではなく、ゆえに古い時代の遺物であるメルニボネとともに死ななければ(滅びなければ)ならなかった、などと思ったりもします。

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