七夕 5
2017-07-08 | 七夕
「…いつまでも…無礼を働き…申し訳ありません…」
永遠に続けば良いと願った。なのに、小さな呟きと共に温もりが離れてしまう。それが分かったから。身体は勝手に動き、またその人を閉じこめてしまった。
「…あ」
「…けれど…」
俺は何を言おうとしたのだろう…。誤魔化したい本心を分かってはいけないと思う。それでも意思に反して、勝手に言葉は零れていく。
「…このまま…私のものに…」
何と大それた言葉だろうか。冗談だと笑い、許される範疇を超えている。幾らか動揺しながらも、奥から湧き上がるのは…止められない衝動だった。
何を言うのだと、突き放されたとしたら…そこで終わりだと思った。自らの力では終わりに出来ないと諦めたから、その人に結末を託そうとしたんだ。けれど、返されたのは…信じられない言葉。
「僕は貴方のものになります…」
頬を赤らめての囁きは、幻か…?呆けている間に、牛車から賑やかな声が上がり始める。
「チャンミン!貴方、何を!?」
「戯れはその位にして、早く戻って来なさい!」
飛び交う声に、反応しないその人は俺を見つめ…可憐に微笑む。
「姉様達が煩いから…このまま、何処かへ逃げませんか?」
「貴方の名前は…チャンミン?」
「ええ。貴方のお名前は?」
「俺の名は…ユノです」
互いの名前を知っただけで、嬉しさを分け合う俺達は…この状況が長く続かないと分かっている。このまま、チャンミンを奪い去れば…どんな未来が待ち受けるのだろう。想像もつかない恐ろしさは、不思議と感じない。それ程に…抱き合う喜びは半端ないと言う事なのだろう。
「…ユノ。本気で僕を貰い受けてくれますか?」
「ええ」
はっきりと返事をした時。門が開き、続々と中から出迎えが現れる。逃げる機会を更に失う。急いでチャンミンの手を握り、駆け出そうとした。しかし、それを止めたのは…長の声だ。
「何だ?この騒ぎは…」
世話になっている長に、迷惑を掛けるのは…。躊躇いのせいで、従者をに取り囲まれ、チャンミンを奪われると覚悟した。
「おお、ユノ!お前の花嫁と、もうその様に仲良くなったのか?それは良き事だ」
豪華な笑い声の意味が分からずに、俺もチャンミンも戸惑う。
俺がここに呼ばれた意味を聞かされていなかったのは、長のゆったりと構え過ぎる性格のせいだった。笑いながら、説明を聞く間にも。俺は信じられない幸運を現実と受け止められるまで、チャンミンの手を握ったままでいた。
。