Reverse

一応、秘密の…ホミンのお話置き場です。

ホミンだけ。ホミンの幸せが最上の幸せです。

夏の特別編 20

2017-08-09 | 夏のケーキ屋さん




「チャミナ!たいへん!ママをギュッとしなくちゃ!」
「うん!ユノ!わかった!!」

兄の号令に従う弟もピョンと膝から飛び降りて、母親の元に駆け寄る。まるで立場が逆転したように、幼い兄弟は母親を必死で慰めていた。


その様子を見ている医者の子供達は、苦笑いを浮かべ、他人事には思えないと洩らす。

「うちの両親も似たような事をしていますからね」
「我が家だけではないと知れて、安心しました!」

しっかりと手を握り合う医者の子供達が笑い合っていると、幼い兄弟は大声を上げる。



「ママ!はやくかえろう!」
「パパ、もうかえってるよ!」
「…そうかな」
「パパもママをギュッとしたくて、おしごと、がんばってるからね!」
「ケーキやさん!!ぼくたち、もうかえる!!」

ハッキリと言い切る態度は勇ましく、頼もしい。別れを惜しむ気持ちもあり、残念だと思った。けれど、憔悴する母親の様子は無視出来ないとも思った。

手土産を用意するからと立ち上がり、チャンミンを降ろそうとした時。幼い兄弟がまた大きな声を上げた。


「あっ!パパのこえがする!」
「ママ!はやくはやく!!」
「え?でも、お土産のケーキ…」

俺達には何も聞こえない。俺のチャンミンも不思議そうな顔をして、首を傾げる。それでも幼い兄弟は躊躇う母親を急かし、元気に礼を口にする。


「ケーキやさん!およめさん!ケーキ、いっぱい、ありがとう!!」
「かっこいいおにいちゃんと、かわいいおにいちゃん!またこんど、あそんでね!」


俺達にだけでなく、医者の子供達にも頭を下げた。少しでも手土産を渡したいと、慌てて飛び出していった親子を追ってみたけれど、その姿は何処にも見えなくなっていた。



不思議な体験を直ぐには受け止められない。
…と、思ったけれど、この世界には不思議な事は少なからずある。身を以て知っている俺は、短くても沢山の幸せを感じられた事に感謝をして、作業場に戻った。



頼まれた品を包装して渡し、医者の子供達を見送った。急に訪れた静寂を寂しく感じたのか。チャンミンが腕に巻き付いてきた。





「…ユノ様」
「どうした?」
「…僕、…ユノくんとチャミナくんと…もっと遊びたかったです…」
「ああ、そうだな」

予想通りにチャンミンは、急な別れを惜しんでいる。慰めようと額に唇を落とせば、今度は心配そうな顔をして、俺を見つめて動かなくなった。



「…チャンミン?」
「…ユノ様は…もっと大人な人が…良いですか?」
「え?」
「…だって、ユノ様…ユノくんのママに…デレデレしてました…」


何の事を言っているのか、一瞬、分からなかった。けれど、直ぐにチャンミンが怒っていた瞬間に思い当たり…言い訳ではなく、きちんとした説明を口にする。



「良いか、チャンミン。あの時、笑ったのはチャンミンの態度が可愛かったからだ」
「…え?」
「俺はやっぱり、俺のチャンミンが世界で一番可愛いと、改めて感じたんだ」
「……」
「俺のチャンミンは怒っても可愛い。何をしても可愛いと嬉しかったんだ」
「…それ、本当ですか?」
「ああ」

深く頷くと、チャンミンはパッと笑顔に戻り、大きな息を吐き出す。その途端、空腹を知らせる音が響き、チャンミンは顔を赤くした。



「チャンミン、折角作った、特製ロールケーキ、今からゆっくり味わおうか」
「はい!ユノ様!!」



またいつか、可愛い親子に会えると良い。同じ事を何度も口にしながら。俺は思う存分、大事なチャンミンを甘やかせていた。













おしまい。






ジャンル:
小説
コメント   この記事についてブログを書く
« 夏の特別編 19 | トップ | 秋の日。 »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

夏のケーキ屋さん」カテゴリの最新記事