ノベラーエクスプレス関東

 自作の小説がメインのブログです。
 主にSF、ファンタジー、ミステリーの脳内妄想を文章化したものです。

“Gynoid Multitype Sisters” 「ボーカロイドの憂鬱」

2017-04-23 21:39:37 | アンドロイドマスターシリーズ
[4月19日21:00.天候:晴 東京都江東区豊洲 豊洲アルカディアビル]

 敷島とエミリーを乗せたタクシーが、敷島エージェンシーの入居しているビルの前で止まった。

 エミリー:「タクシーチケットでお願いします」
 運転手:「ありがとうございます」

 エミリーが料金を払っている間にタクシーを降りる敷島。
 自分の会社が入居している18階を見ると、まだ電気が点いていた。

 敷島:「井辺君かな?本当にありがたいなぁ……」
 エミリー:「社長、お待たせしました」
 敷島:「ああ」

 夜間通用口から中に入る時、防災センター受付で記帳を行う。
 やや面倒だが、高層テナントビルならではの宿命である。
 その後で入館し、エレベーターで18Fに上がった。

 敷島:「ただいまァ」
 井辺:「あっ、社長。お疲れさまです。直帰ではなかったのですか?」
 敷島:「いや、俺もやり残した仕事があるから、ちょっとやってからにするよ。井辺君はまだ終わらないの?」
 井辺:「もうまもなくです。最終のバスには間に合う感じで」
 エミリー:「21時台後半の都営バスですね」
 井辺:「そうです」
 敷島:「イベントの幹事役を任せてしまっておきながらこんなこと言うのもあれだけど、無理はしないでくれよ?」
 井辺:「ええ。大丈夫です」

 敷島は事務室内に唯一残る井辺と別れると、社長室に入ろうとした。

 エミリー:「誰かいるのか?」

 エミリーは室内に気配を感じた。

 初音ミク:「たかお社長……」
 敷島:「何だ、ミクか。どうした?電気も点けないで……」

 エミリーは険しい顔をした。

 エミリー:「社長室に勝手に入るとは何事だ?」
 ミク:「ごめんなさい……」
 敷島:「いや、エミリー、いいよ」
 エミリー:「はあ……」
 敷島:「何かあったのか?」
 ミク:「わたしは……兵器なんですか?」
 敷島:「えっ?」
 エミリー:「これは……?」

 ミクが座る応接セットのソファ。
 その前のテーブルに置かれているのは、一冊の週刊誌だった。
 主に芸能界のスキャンダルなんかを扱う週刊誌で、そこにはボーカロイドが元々大量虐殺兵器として開発された経緯があるという噂をセンセーショナルに書いたものだった。

『南里志郎博士(故人)はライバルのウィリアム・フォレスト博士(同)に対抗する為、聴くだけで人間の脳幹を停止させる歌うロボットを開発した。それが形を変え、用途を変え、あろうことか敷島エージェンシーのボーカロイドとして稼働しているのである』

 敷島:「うわ、出たよ週刊“芸能セブン”!」
 エミリー:「またですか。いつぞやは私やシンディを大量虐殺兵器として書いていたんですよ」

 但し、マルチタイプの場合は当たらずも遠からずである為、この時は出版社に対して特段抗議しなかった。
 しかし、今回は……。

 敷島:「未だに噂の段階でこんなこと書かれてもなぁ……。これはさすがに明日、抗議しておく必要があるな」
 エミリー:「分かりました」
 敷島:「ミク、確かにお前達の歌が人間の脳に何らかの作用を与えているということまでは科学的に証明されている。だけど、脳幹を停止させるということまでは、脳科学者に問い合わせても分からないってよ」
 ミク:「本当ですか?」
 敷島:「ああ。平賀先生の知り合いに脳科学者がいるんだけど、その人の見解だ。科学的な根拠が無い以上、こんな週刊誌のことなんか気にしなくてもいいよ」

 ロボットの歌声が、どうしてあれだけのファンを呼び込むのかということに対しての回答でもある。
 ミク達の歌声に良い作用を受けた人間達がファンとなって、ミク達のライブに来てくれたりするのだろう。

 ミク:「分かりました。ありがとうございます」
 エミリー:「初音ミク、大丈夫か?」
 ミク:「……はい。わたし達は、これからも歌っていいんですね?」
 敷島:「もちろんだ。だから、明日からもよろしく頼むな?」
 ミク:「はい!」

 ミクはホッとした顔で社長室を出て行った。

 敷島:「全く。売れてくると、こういう嫌がらせがどんどん出て来るから困るよ」
 エミリー:「そうですね。コーヒーでもお入れしましょう」
 敷島:「ああ。頼むよ。今日は井辺君より帰りが遅くなるかな?」
 エミリー:「どうでしょうねぇ……」

 エミリーは苦笑を浮かべながら給湯室に向かった。
 だがその間、苦笑でも浮かべていた笑みが消えた。
 エミリーの昔のメモリーがダウンロードされたからである。

 エミリー:(平賀博士のお知り合いの脳科学者は、元々南里博士のお知り合いだった。ロボット研究者がどうして脳科学者と知り合いなのか疑問だったけど、そういうことだったのか……。敷島社長の知らないところで、南里博士は初音ミクを使った実験をしていたけど、これは黙っているべきなのか……)

 エミリーのメモリーには、初音ミクを使って実験を行っている南里とそれに助手として立ち会う平賀の姿があった。

 エミリー:(あの様子では、平賀博士はまだ社長にお話ししていない、か……)

 敷島の嫌いなところはそこだ。
 後で自分だけが知らなかったということが分かった時、激しい怒りを露わにするのだ。
 さすがにその怒りを抑えることは、自分でもシンディでも難しい。

 エミリー:(私がお話ししてもいいものかどうか……)

 給湯室でコーヒーを入れていると、その様子を覗く者がいた。
 それは巡音ルカ。

 ルカ:「あの、ちょっといい?」
 エミリー:「なに?」
 ルカ:「さっき、ミクが物凄く沈んだ顔で社長室の方に行ったんだけど、何かあった?」
 エミリー:「週刊誌に変な噂を書かれて、気にしていたらしい。科学的根拠の無い噂話だ。何も気にすることはない」
 ルカ:「そう」
 エミリー:「あなたも読んだのか?」
 ルカ:「ええ。その……私、昔、ドクター・ウィリーに歌声を封印されたことがあったでしょう?」
 エミリー:「あったな」

 ボーカロイドの歌唱機能を破壊するウィルスがウィリーによってばら撒かれ、それにルカが真っ先に感染・発症した。
 その時、まだ稼働していた前期型のシンディに、「歌えないボーカロイドはただのガラクタ」とバカにされた。

 ルカ:「あれはもしかしたら、私の歌が……その……大量虐殺できる力があるから、それを封印しようとしていたのかなぁ……なんて」
 エミリー:「考え過ぎだ。当時のウィリアム博士が、そこまで考えていたとは思えない。ただ単に、南里博士の研究を妨害しようとしていただけさ」
 ルカ:「そ、そうかな……?」
 エミリー:「あの週刊誌に書かれていることの半分以上は、科学的根拠の無い推測だ。だから、気にすることはない」
 ルカ:「……うん、分かった。ありがとう」

 ルカにようやく笑顔が戻り、ボーカロイドの部屋に戻って行った。

 エミリー:(この分だと、今度はリンとレン辺りか?)

 エミリーがコーヒーカップにコーヒーを注ぎ、給湯室を出ようとすると、案の定、今度はリンの姿があった。
 エミリーは社長室に戻るまでの間、リンとレンの不安も取り除いてやらないといけなかった。
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6 コメント

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んっ?さんへ (雲羽百三)
2017-04-24 13:04:00
こんにちは。

若鷹の掲示板に書かれた趣深い短歌の意味を是非教えてください。
板が板だけに、河童さんに宛てたものであろうことは想像つきますが。
差し支えが無ければお願いします。
こんにちは! (んっ?)
2017-04-24 14:05:58
http://d.hatena.ne.jp/sokaodo/19940424/p1
http://d.hatena.ne.jp/sokaodo/19990427/p1

当時を知る人でなければ理解できないでしょう。
一言で説明することは無理ですが
上記を御覧になれば、ある程度解ります。

河童君はこの当時は退転状態でしたから
後にネットでかじった程度です。

私の書き込み見てクジラ板に言い訳書いてますww
んっ?さんへ (雲羽百三)
2017-04-24 18:45:46
 こんばんは。

 ご回答ありがとうございます。
 “新・人間革命”からの一文でしたか。
 恐らくリンク先は……宗門関係者から見れば、
「何だこれwww」
「美化してんじゃねぇよwww」
「池田大作はピアノ弾けねーだろwww」
 て、なるでしょうね。
 宿坊2の掲示板辺りにアップしようものなら、明らかに武闘派さん達にコキ下ろされますよ。

 まあ、といっても宗門関係者は創価学会さんから見れば仏敵でしょうから、しょうがないでしょうね。
 で、本来なら内部のはずの河童さんが……いや、もう失笑ものです。

 自城魔突氏のコメントに賛同致します。
 確かに、厳虎さんの所でもたまに良い事を書く時があるのに、後から余計なことを書いて打ち消してしまうんですから。
 リアルでの河童さん、◯◯さ加減な所は確かに魅力なんでしょうねw
 いや、よく分かんないですけど。
こんばんは! (んっ?)
2017-04-24 19:42:07
この随筆が載った当時は法華講員が云ってました。

聴いてもいないくせに、自動演奏だなんてww

自動演奏なら、もっと上手に演奏出来ますよww

しかし、我々会員は演奏会を聴きたい訳ではないww
追伸 (んっ?)
2017-04-24 20:11:04
とにかく、当時は三流週刊誌並の悪口ばかり。

一番笑ったのは、池田は創価高校に通う女子高生を
囲ってるというものでした。

何故か判りますか?

創価高校は元々男子高として設立され
共学になったのはデマが出回るずっと後だったからww
んっ?さんへ (雲羽百三)
2017-04-24 20:55:47
 こんばんは。

 某“暁鐘”から出ていた、とある書籍内には、池田会長がピアノの自動演奏の音に合わせて手を動かしていたなんてのもありましたね。

 創価高校は、よく甲子園に出ている所ですね。
 あそこ、男子校だったんですか。
 ミッション系だと男子校・女子校に分かれているというのは珍しくないですが、新宗教系で男子校というのも珍しいですね。
 私が現役顕正会員だった頃、「創価高校に通う女子高生」ではなく、「女子部員を囲っている」なんて幹部が言ってたことがあります。
 今はどうだか分かりませんが。
 もっとも、浅井会長が言えた義理ではないのですがねw
 幹部が言ってるだけですね。

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