ノベラーエクスプレス関東

 自作の小説がメインのブログです。
 主にSF、ファンタジー、ミステリーの脳内妄想を文章化したものです。

“Gynoid Multitype Cindy” 「ボーカロイドの歌」

2016-09-18 22:50:08 | アンドロイドマスターシリーズ
[9月4日03:00.天候:晴 宮城県栗原市内・県道42号線(築館栗駒公園線)→国道4号線]

 廃坑をあとにした敷島達は、まずは仙台市内を目指そうと一般道を走っていた。
 マイクロバスを改造した『走る司令室』内では、皆一様に無言だった。
 ほとんど徹夜状態だというのに、不思議と眠くはなかった。
 ルディ……いや、KR団残党に悉く先手を打たれてしまったことによる敗北感、そして、未だにその影が無くなっていないことへの緊張がまだ抜けないからに他ならない。
 車内は完全に無音というわけではなく、それはもちろん走行音もあるのだが、敷島が持ち込んだボーカロイドのCDを掛けているからである。
 といっても、別に大音量というわけではない。
 本当に、走行中のBGMといった感じ。

 帰りは細倉マインパークの前は通らなかった。
 廃坑の近くを通る県道から国道457号線に入り、そこから県道42号線に入る。
 国道からまた県道へ?と思うかもしれないが、そもそも国道457号線自体がそれまでの県道を寄せ集めて指定しただけの『なんちゃって国道』であるため、大した違いは無い。
 実際、沿道の管理も宮城県に委託されている。
 敷島運転のマイクロバスが県道42号線に入り、南下を続ける。
 カーナビにはそこから国道4号線の上り線に入り、そこからしばらく南下して東北自動車道の築館(つきだて)ICに入るようにルート案内をしている。
 外灯もロクに無く、交通量の少ない(というか全く無い)県道をハイビームで照らして進む。
 すると、スピーカーから、初音ミクの歌声が聞こえて来た。
 “東京決戦”のテーマにもなった『初音ミクの消失』である。

〔「ボクは生まれそして気づく所詮ヒトの真似事だと知ってなおも歌い続く永遠(とわ)の命……」〕

 初っ端からミクの早口セリフが始まるのだが、これがミクの放つ電気信号である。
 これに感応したバージョン3.0の軍団は、シンディ(前期型)の周辺にいた者達以外は全て命令が解除され、フリーズしたり、シャットダウンしたり、同士討ちを起こしたりした。
 これに他のボーカロイド達が一緒に合唱してくれたこともあって、相乗効果が出たとされる。
 だが、シンディと同型機のエミリーとしては、

 エミリー:「他の・ボーカロイド達の・合唱による・相乗効果。それは・確かに・あったと・思います。ですが・やはり・初音ミクの・力が・89%あったと・私は・思います」

 との見解。

 エミリー:「初音ミクは・どの・ボーカロイドよりも、強い・電気信号を・放つ・歌唱力を・持って・います。人間に・限らず、ロイドや・ロボットで・多くの・ファンが・存在して・いるのは・その為です」
 敷島:「おい、その見解、初めて聞いたぞ」

 敷島は驚いたように、ルームミラー越しにエミリーを見た。

 平賀:「エミリーは、必要なこと以外は言いませんからねぇ……。でも、エミリーの見解は本当です。確かに歌唱力自体は、後継機の方が優れているでしょう。ですが、ミクがボーカロイドのトップアイドルで在り続けられる理由は……正しく、エミリーの言う通りなんですね。自分も何年か前、学会で発表しましたが、ミクの歌声は、音に関する専門の研究者から見ても、人間の脳へのヒーリング効果があるそうです」
 敷島:「確かに、聴いていて心地良いは本当ですね。でも、今はパンチの効いた歌を歌っていますけども……」
 平賀:「それでも、人間の脳波に良い影響を与える歌声であることに変わりはありませんよ」
 敷島:「脳波ねぇ……」

〔「守ったモノは♪明るい未来幻想を♪見せながら消えてゆくヒカリ♪壊れる音♪心削る♪せまる最期……」〕

 シンディ:「守ったモノ……明るい……ヒカリ……」
 エミリー:「シンディ!?」

 シンディは一応、車内のコンセントに接続して充電している。
 それでもウィルス感染のせいで、まだ10%に行っているか行ってないかだと思う。
 もちろん、マルチタイプは2ケタ以上のバッテリー残量で自動再起動できる機能を持ってはいるが、シンディは再起動できたのだろうか?
 しかし、目は閉じたままだ。
 マルチタイプは歌が歌えない。
 シンディは、ミクの歌を後から喋るように口ずさんでいた。

 アリス:「シンディの起動値が上がっているわ!信じられない!」
 平賀:「お、おい。まさか、今の歌にウィルス駆除の効果でもあるってんじゃないだろうな?」
 敷島:「でも、前期型のシンディはウィルスに汚染されたままでしたよ?それで、ウィリーを殺しちゃったんだから(※)」

 ※オリジナル版“ボーカロイドマスター”では殺しているが、リメイク版“アンドロイドマスター”による回想録では殺していない。殺したと思ったのは、よくできたウィリーのコピーロボットだったというもの。

 エミリー:「……パルプンテ」
 平賀:「何だ、エミリー?」
 エミリー:「パルプンテ・です。プロフェッサー平賀」
 敷島:「ドラクエシリーズで、『何が起こるか分からない魔法』だな?……この歌は、そんな効果があるのか!?」

 マイクロバスが宮野交差点に差し掛かる。
 ここは県道と国道4号線とのY字路交差点だ。
 赤信号で止まったので、敷島はCDを交換した。

 敷島:「確かこれはリンが言ってたヤツだな……。『これを歌ったり聴いたりしたら、元気が出るんだYo』って」

〔「積もり重なる♪色んな疑問(こと)♪凸凹(かべあな)となり♪難所作る♪」〕

 『初音ミクの消失』と同じ作曲・作詞者(cosMo@暴走P氏)が手掛けた『浅黄色のマイルストーン』である。
 これを歌のタイトルとマッチしていたことから、鏡音リンがアレンジ・カパーした曲を歌ったこともあったし、イベントでミクとリンが一緒に歌ったこともある。

〔「……歩き続けた意味を問う♪考え続けた時間(とき)を振り返る♪思考巡らせ♪予測する♪」〕

 シンディ:「……問う。振り返る……。予測する……」
 アリス:「いいわ!起動値が上がってる!もっと掛けて!」
 敷島:「ちょっと待て。信号が変わった」

 敷島は国道4号線の上り線に入った。
 こちらは国道交通省直轄管理とはいえ、栗原市内は一部を除いて片側1車線のローカル国道である。
 旧・築館町内で栗原市役所の前を通る市街地を走り抜けるわけだが、現在も尚、それを避けて通る為のバイパスが建設中である。
 創価学会の会館前の交差点で再び赤信号で止まったので、敷島は別のミクの持ち歌を掛けてみたが、それにはシンディは反応しなかった。
 その後も、持って来たミクのCDを掛けたが、シンディがそれ以上反応することは無かったのである。
ジャンル:
小説
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