報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「魔界の不思議な旅 〜アルカディアメトロ(魔界高速電鉄)〜」 2

2016-10-25 16:33:40 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月22日19:55.天候:不明 アルカディアメトロ(魔界高速電鉄)3号線→1号線]

 アルカディアメトロでは高架鉄道線には路線名が付き、軌道線(路面電車)は系統番号、そして地下鉄は号線で呼ぶ。
 稲生達の乗っている電車の運転士はオーガー(一角単眼の食人鬼)であるようだが、王都内に住む者は人喰いをすることもなく、こうして平和に労働に従事しているようである。
 ドラクエに出てくるようなフレイムやホイミスライムみたいなモンスターがハンドルを握っている所を、稲生は見たことがある。
 何も、人型でなくても良いらしい。
 何故なら、アルカディアメトロの電車は自動運転だからである。
 運転席からハンドルがガチャガチャ動く音は聞こえるが、それは運転士が回しているのではない。
 運転士は運転席に座って前方を監視しているだけ。
 もし自動運転ができなくなった場合、手動で運転することもあるが。
 あとは駅に到着したら、ドアの開け閉めをするだけである。

 魔界では遠慮することもないのか、イリーナもマリアも魔法の杖を取り出してそれを足に挟んだり、窓際に立てかけたりしている。
 王都内では魔道師の地位は高く、それを誇示する為もあるのだろうか。

〔「33番街、33番街です。お出口は、右側です」〕

 電車が途中駅のホームに滑り込む。
 停車すると、すぐにドアが開いた。
 普通なら運転席横のドアも開けるのだが、ニューヨーク地下鉄の車両にはそれが無いため、代わりに窓を開けるようだ。

 稲生:「何だか、豊洲駅とか都庁前駅みたい」

 この駅のホームは2面4線になっており、中線がある。
 電車は外側に止まっているので、中線が副線のようである。

〔「対向電車と待ち合わせを致します。5分ほど停車致します。発車まで、しばらくお待ちください」〕

 稲生:「は?対向電車って!?」

 稲生は思わず、電車の進行方向を見た。
 この電車も運転室が向かって右側にある半室構造になっており、左側には前面展望がある。
 しかし、暗いトンネルの中だからなのか、その先が単線になっているようには見えなかった。

 イリーナ:「まあ、もう夜だからね。既に片方の線路は、メンテをやってるからかもしれないね」
 稲生:「へえ……」

 稲生はホームに降りてみた。
 こちらは10番街駅と比べると、若干明るい。

 マリア:「あまり電車から離れないで」

 と、マリアが乗降ドアの前に立って稲生に言った。

 稲生:「えっ、どうしてですか?」
 マリア:「ここは魔界だ。勇太のハイスクールで起きていた現象の大元だから、ヘタするとはぐれるよ」
 稲生:「おおっと!」

 稲生は急いで電車内に戻った。
 もっとも、何か起きたわけではないのだが。

 イリーナ:「来る度に地下鉄やトラムの路線図が変わってるように見えるのは、正にマリアが言ったことさ。勇太君の高校は魔界の入口にあった為に、色々とそこから悪影響を受けていたわけだね。空間が捻じ曲がる現象が起きたなんて話は聞いたことないかい?」
 稲生:「えっと……!」
 イリーナ:「魔界内部でも空間ねじ曲がりなんてザラにあるわけだからね。アタシらは無意識のうちにそんなのに巻き込まれないようにしているわけだけど、勇太君はまだ修行中だから。まあ、魔法の杖を持っていれば大丈夫なんだけどね。ま、変なのにイタズラされる恐れもあるから、今はアタシらから離れない方がいいよ」
 稲生:「わ、分かりました」

 そんなことを話しているうちに、反対側のホームの外側に黄色い電車がやってきた。
 どこの国の車両だか分からないが、確かに保線用の車両に見えた。
 しかし、待ち合わせする電車はそれだけではないらしい。
 この駅も放送は無いらしく、再びトンネルの向こうから、別の電車の風切り音とモーター音が響いて来た。

 稲生:「銀座線の2000形車両に似てるな……」

 それがこちらのホームの隣の線に入って来た。
 すると、向こうの保線用車両が止まったホームは何のホームなのだろう?
 それこそ、イリーナが言っていた空間捻じ曲げによるものなのだろうか。

〔「お待たせ致しました。1号線直通、デビル・ピーターズ・バーグ行き、発車します」〕

 ブーというブザーがホームに響く。
 すぐにドアがバンッと閉まって、電車が走り出した。

〔「お待たせしました。トンネル緊急工事に伴いまして、この先、単線区間となっております。その為、この先においても対向電車との待ち合わせを行う箇所が発生することがあります。予め、ご了承ください。次は16番街、16番街です」〕

 稲生:「トンネル緊急工事?」
 イリーナ:「あー、なるほどねぇ……」

 ここから電車は、やたら警笛を鳴らして走るようになる。
 最初は作業員に注意を促す為かと思ったが、そうではないようだ。
 いや、確かにトンネルに人影は見えるのだが、作業員には見えない。
 イリーナはその理由が分かっているようだ。

 稲生:「何がですか、先生?」
 イリーナ:「勇太君の高校にもあったと思うけどね。校舎に取り残されて、そのまま行方不明になった生徒の話とか」
 稲生:「ええっ?」
 マリア:「アンナなら、その話を詳しく知っていそうです」
 イリーナ:「アーニャは話の内容を相手に侵蝕させるのが好きだからね。捻じ曲げた空間に閉じ込めてやるなんて魔法、あのコならやるわ」
 稲生:「はあ……。それで、それがこのトンネルとどんな関係が?」
 イリーナ:「電車の外をよく見てみな」
 稲生:「?」

 稲生は窓の外を見てみた。
 すると、そこにいたのは……。

 稲生:「あれは……!?」

 対向線をひたすら走る少年。
 彼は東京中央学園の制服を着ていた。

 イリーナ:「恐らく、無限廊下に捕まった少年だね。空間の捻じ曲がった廊下に足を踏み入れた為に、そのままその廊下に閉じ込められてしまったのさ」
 マリア:「おおかた、今でも彼の目に映っているのは夜の学校の廊下で、出口を探す為に走り回っているといったところでしょうか?」
 イリーナ:「そういうことだね。霊感が無く、しかし無限廊下に閉じ込められるとあんな感じ。そして……勇太君、今度は反対側を見てみな」
 稲生:「えっ?」

 今度はトンネルの反対側の壁際を見た。
 線路の外側は人1人分の幅の点検歩廊があるのだが、そこに立って電車に大きく手を振る少女の姿があった。
 だが、電車は冷酷な警笛を鳴らすだけで減速もせず、そのまま過ぎ去って行った。

 稲生:「あのセーラー服、東京中央学園の昔の制服に似てます」
 イリーナ:「その頃から行方不明になったコだろうね。ある程度、霊感が強かったようだ。だから、取りあえず自分が地下鉄のトンネルにいるという状況だけは分かっているみたいだね」
 稲生:「助けないんですか!?」
 イリーナ:「ここは魔界高速電鉄の範疇だからね、アタシらは勝手に手出しができないんだよぉ」
 マリア:「越権行為になるということですね」
 イリーナ:「そういうことさ。もちろん、依頼があれば助けるけどね」
 稲生:「そんな……!」
 イリーナ:「助けたかったら、早いとこ一人前になって、行方不明者の家族・親族の所へ『営業』に行くんだね。魔道師もまた、ビジネスに徹することがあるという一面さ」
 マリア:「私は興味が無いから」

 マリアはバッグの中から出したミク人形とハク人形を抱きながらそう言った。
 電車は無限廊下とリンクしているトンネルをひたすら進む。

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