ノベラーエクスプレス関東

 自作の小説がメインのブログです。
 主にSF、ファンタジー、ミステリーの脳内妄想を文章化したものです。

“大魔道師の弟子” 「稲生の杖」

2017-07-07 23:39:31 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月2日16:30.天候:晴 静岡県富士宮市 休暇村富士]

 マリアがトイレから戻って来る。

 マリア:「戻りました」
 イリーナ:「よし、じゃそろそろ行こうかね」
 稲生:「もう出来上がったんですか?」
 イリーナ:「スティーブンから連絡が来たよ」
 稲生:「本当に早くできるんですね。あ、でも、バスが……」
 イリーナ:「タクシーでいいよ」

 イリーナはアメリカンエキスプレスのプレチナカードを出したが、果たして都合良くカードの使えるタクシーがいるかどうか……。

 稲生:「あ、いた。すいませーん、乗ります」

 稲生は助手席に乗った。

 稲生:「富士見ヶ丘までお願いします。富士見ヶ丘の……」

 稲生が詳しい行き先を説明すると、運転手がカーナビに入力した。
 タクシーが走り出す。

 マリア:「師匠。今回の場合、観光というか……」
 イリーナ:「ほとんど調査だったかしらね」
 マリア:「山の形が似ているとはいえ、魔界のスーパーグレート火山と連動しているというのは本当ですか?」
 イリーナ:「完全に連動していると結論付けるのは早いわね。向こう側での調査も必要よ」
 マリア:「まあ、確かに。それにしても……。ああいう山クラスになると、魔界の穴も随分と開きやすいんですね」
 イリーナ:「まあ、火山エネルギーってそういうものだから」

 稲生が後ろを振り向いて尋ねる。

 稲生:「あれ?でも、先生。東京中央学園は?あそこには火山は無いはずですが……」
 イリーナ:「もちろん、魔界の穴が開く要件は1つだけじゃない。場所や条件によって、1つでも要件を満たせば開く所もあるし、全部満たさないと開かない所もある。東京中央学園の穴と富士山麓の穴は、全く別物と思った方がいいね」
 稲生:「なるほど……」

[同日17:00.天候:晴 富士宮市富士見ヶ丘 スティーブンの工房]

 タクシーが住宅街の中にある工房の前に止まる。

 稲生:「カードでお願いします」
 運転手:「はい。……ん?これは……?」
 稲生:「アメリカンエキスプレスですけど、使えますか?」
 運転手:「はい、大丈夫ですよ。最近のアメックスは変わった色をしてるんですね」
 稲生:「ええ。プラチナカードですから」
 運転手:「ええっ!?……失礼しました。どちらかの代表取締役様でしたか」
 イリーナ:「私はただの個人事業主ですよ。お得意様(某国政府高官並びに某大企業家、更には某宗教家)がこれを下さっただけです」
 マリア:「占い師って、個人事業主ですか?」
 イリーナ:「一応、そうじゃない」
 マリア:「うーむ……」
 運転手:「恐れ入りますが、こちらにサインを……」
 稲生:「はい」

 稲生はボールペンを滑らせ、アルファベットでイリーナの名前を書いた。

 運転手:「ありがとうございました」
 イリーナ:「スパスィーバ!」
 マリア:「師匠、自動通訳切れました」

 因みにロシア語で『ありがとう』とイリーナは言った。

 稲生:「いっそのこと、先生が起業するか立宗したらいいんじゃないですか?明らかに浅井会長より予言は当たっていますし、日蓮大聖人以上にメテオを召喚することは可能でしょう」
 イリーナ:「いいのいいの。クロック・ワーカーというのは、歴史の表舞台に出てはならないというしきたりなの。それに、私も歴史の教科書に名前が出るよりは、名前の出る人物の後ろで糸を操る方が好きだわ」
 マリア:「悪趣味」
 イリーナ:「何か言った?」
 マリア:「何でもないです」

 それでも旧ソ連に核兵器を使わせることは阻止したダンテ一門だったが、アメリカの方は抑え切れず、日本に2度も投下されてしまったことは大きく影を落としたという。
 今でもダンテ一門はアメリカの方には、あまり強いツテは無い。
 幸いにして魔界王国アルカディアの女王、ルーシー・ブラッドプール一世はアメリカのニューヨーク出身で、しかも皇太后に当たる人物がそのニューヨークで大企業の役員をしているということもあり、ダンテ一門ではポーリンを宮廷魔導師として送り込むことにより、アメリカでのツテを強めようとしている。
 因みにアルカディア王国における皇太后とは、単なる現・女王の母親という意味である。
 立憲君主制が敷かれてから即位した王がまだルーシー女王だけの為、先代国王の皇后なる人物が存在しないからである。
 尚、日本人首相の安倍春明が実際の日本国某首相と遠縁であるかのような噂が立っているが、真偽は【お察しください】。
 皇太后が一時期、視察と称して国政を牛耳り、首相が完全に空気になったことがあるが、さすがにマズいと思ったか、視察終了という形で国家権力が元に戻されている(それはまるで共和制のようだったという)。

 稲生:「こんにちはー」

 稲生は工房の中に入った。
 
 スティーブン:「やあ。未来の大魔道師さんの為にハッスルしちゃったよ」
 稲生:「そんな……!僕なんか、先生方の足元にも及びませんよ」
 イリーナ:「いずれはアタシを超えるよ。ていうか、アタシのこの体が朽ち果てるまでには自立してもらわなきゃ。この杖は、その為の先行投資だよ」
 スティーブン:「おっ、イリーナ先生。大きく出ましたなぁ」
 マリア:「師匠が言うんだから絶対でしょう……近づくな!」

 マリアが慌ててイリーナの後ろに隠れたのは、スティーブンがマリアに接近したからだ。
 マリアの人間時代のトラウマはまだ完全に克服されておらず、男性に心を開いているのは稲生だけである。
 例え『協力者』と言えども、稲生以外の男性には異常な警戒心を抱く。

 スティーブン:「いや、申し訳ない。でも、僕はただこの杖を稲生君に渡したいだけさ」
 稲生:「すいません」

 稲生はスティーブンから杖を受け取った。

 稲生:「先生やマリアさんみたいに、派手な装飾が付いていると思ったら、意外とそうでもないんですね」
 スティーブン:「HAHAHAHA!そりゃそうさ。何しろその杖は、キミと一緒に『成長していく』杖だからな。キミが魔道師として年季が入れば入るほど、その杖もまた一緒に『らしく』なっていくんだよ」
 稲生:「へえ……。まるで杖自体が魔法使いみたいですね」
 イリーナ:「そりゃまあ、魔法使いが松葉杖使うわけにもいかないからね」
 稲生:「それまでの金属製のステッキは自分で伸縮させていたのに、これはちゃんと僕の心の中で念じるだけで伸び縮みしてくれるんですね」
 スティーブン:「どうだい、凄いだろう?」
 稲生:「はい、ありがとうございます!それで料金の方は……?」
 イリーナ:「イリーナ組の方針は、『杖とローブは先生が弟子の面倒を見る』ことになっているからね。心配は要らないよ。その代わり、本当に私を超えるつもりで頑張ってね。……私に残された時間は、僅かだから」
 稲生:「先生……。はい、頑張ります」
 イリーナ:「よし。それじゃ、バスに乗る前にディナーと行くか」
 スティーブン:「アメックスのプラチナカードやブラックカードを持っているVIPが、移動手段がバスとは……」
 イリーナ:「いいのいいの。あくまで、お得意様からの『寄付』だから。……『寄進』と言ってもいいかな?」
 稲生:「絶対に先生は立宗した方がいいと思います」
 スティーブン:「だよね。ま、立宗しなくても、預言者としての才能が抜群なもんだから、彼女の『信者』はかなりいるよ。キミも気づいてるだろう?」
 稲生:「た、確かに……」

 稲生は毎日送られてくるイリーナ宛の手紙を思い出した。

 イリーナ:「ま、とにかく、欲しい物は手に入ったわけだし、次の目的地に行こうかねぇ……」
 稲生:「先生。バスの営業所の向かい側にガストがあります」
 イリーナ:「おー、いいねぇ!」
 スティーブン&マリア:「プラチナカード持ちがガスト!?」

 イリーナ組の旅はまだ続く。
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