報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔界紀行」 東京からアルカディアシティへ

2017-09-11 15:01:45 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月9日18:01.天候:晴 都営地下鉄森下駅→ワンスターホテル]

〔「まもなく森下、森下。お出口は、右側です。大江戸線はお乗り換えです」〕

 電車が森下駅に到着する。

 稲生:「やっと着いた……」
 マリア:「半日掛かりか。まあ、いいけど」

〔2番線の電車は、各駅停車、本八幡行きです。森下、森下。大江戸線は、お乗り換えです〕

 稲生:「こちらです」

 電車を降りた稲生達、地上へ向かう。

 イリーナ:「穴倉暮らししてる魔女もいるとはいえ、この階段はキツいねぇ……」
 マリア:「そりゃその人達、地上までテレポート移動しますから」
 イリーナ:「アタシもやっていい?」
 稲生:「大騒ぎになるのでやめてください」
 マリア:「リ・レミ・ツ使用の魔力と比べれば、フツーに階段登った方が楽です」
 イリーナ:「それもそうか」
 稲生:「途中にエスカレーターもありますから、それで」
 イリーナ:「そりゃ楽チンだ」

 で、そのエスカレーターで上の層へ上がる。

 稲生:「魔王城とか、全くこんなバリアフリー設備は無いでしょう?どうしてるんですか?」
 イリーナ:「いや、案外そうでもないよ」
 稲生:「そうなんですか?」
 イリーナ:「この前お邪魔した時なんか、階段がものの見事に勝手に上に上がってくれる仕掛けになってたよ」
 稲生:「魔法で階段がエスカレーターになるんですか」
 マリア:「便利だなぁ……」

 駅を出て都道50号線(新大橋通り)を進む。
 それから路地に入って少し行くと、ワンスターホテルがある。
 森下地区は都内にいくつかあったドヤ街の1つで、その当時のドヤ(簡易宿所)の一部は、ワンスターホテルのような安価なビジネスホテルに模様替えして営業を続けている。
 今ではバックパッカーが多く訪れるホテルとなり、彼らからもたらされる情報の集積所と化している。

 稲生:「こんにちはー」
 オーナー:「いらっしゃいませ。長旅、お疲れさまでした」
 稲生:「国内の移動ですからね、これでキツいと言ってはいけませんよ」
 イリーナ:「それもそうだね。……ナスターシャはもう先に行ったみたいだね」
 稲生:「そうなんですか?」
 マリア:「あー、本当だ」

 マリアはホテル近くのコインパーキングを指さした。
 元はドヤだったこのホテルには駐車場が無い為、車で来た客には近くのコインパーキングを紹介するシステムになっている。
 だが、そのコインパーキングをほぼ貸し切りにしている車があった。

 マリア:「アナスタシア組の車だけで満車になってる」
 稲生:「頑なに電車やバスで移動しない人達ですねぇ……。良かった。僕、イリーナ組で」
 イリーナ:「アタシの弟子になって良かったことはそれだけかい?」
 オーナー:「エレーナも先に行っています。お荷物はお預かりしますので、どうぞ」
 稲生:「泊まり掛けで行くんじゃ、預ける荷物もあまり無いような気がしますが……」
 イリーナ:「まあ、そうだね」

 宿泊客は行けないように設定されている地下1階へエレベーターで下りる。
 エレーナはここへ自分の部屋を作り、寝泊まりしている。
 通路の奥には魔法陣が描かれており、ここに聖水を振り掛ければ魔界へ行けるという寸法である。

 イリーナ:「じゃ、行くよ。準備はいい?」
 稲生:「はい」
 マリア:「OKです」

 イリーナはローブの中からクリスタル製の瓶を取り出すと、魔法陣の中に振り掛けた。
 3人が魔法陣から放たれた光に包まれる。
 こうして3人は、魔界へと旅立った。

[魔界時間9月9日18:30.天候:曇 魔界王国アルカディア王都アルカディアシティ南東部 アルカディア港]

 稲生:「着きました……って、ここどこですか?」
 マリア:「潮の匂いがする」
 イリーナ:「どこかの港みたいだね」

 稲生が取り出したスマホ。
 地図情報を出すと、一瞬東京みたいな地図が出てくる。
 アルカディア王国の国土は、東京都の形にそっくりなのである。
 で、王都アルカディアシティとは東京23区にそっくりである。
 これは安倍春明が国土を決める際に、東京を参考にしたからだという。
 但し、あくまで国土の形がというだけであり、実際の広さは東京都の数倍だ。
 王都の形までそっくりな23区でさえ、である。
 アルカディアメトロ環状線は東京の山手線みたいな路線だが、東京の方は1周1時間くらいなのに対し、こちらは2時間掛かる。

 稲生:「汐留……じゃなかった。アルカディア港ですね」
 イリーナ:「アルカディア港……?」

 イリーナは首を傾げて招待状を見た。

 イリーナ:「あ。パーティー会場、船上になってるわ」
 稲生:「マジですか?」
 マリア:「船の上とか聞いてません」
 イリーナ:「うん、ゴメン。言うの忘れてた」
 稲生:「何て名前の船ですか?」
 イリーナ:「えー……冥鉄汽船“スターオーシャン”号。……帰ろっか?」
 稲生:「帰りましょうか」
 マリア:「思いっ切り嫌な予感がしますねぇ……」
 イリーナ:「あ、でも聖水無くなっちゃった。どこかで補給しないと」
 稲生:「うへ……」
 エレーナ:「あ、そこにいたの!早く早く!イリーナ組が最後ですよ!」

 エレーナが稲生達を見つけて走って来た。

 稲生:「エレーナ!スターオーシャン号ってことは、サンモンド船長の船でしょう!?あの“クイーン・アッツァー”号と同型の姉妹船の!」
 エレーナ:「そうだよ。早く早く!出航しちゃうよ!」
 稲生:「鉄旅とバス旅は大歓迎なんだけど、船旅は嫌な予感しかしないんだよなぁ……」

 エレーナに連れられて客船ターミナルまで行くと、確かにそこには大型の豪華客船が停泊していた。
 本来、豪華客船なんてものは誰でも乗れるものではない。
 それに乗船できる機会を得たとあらば普通は気分が高揚するものだが、イリーナ組は全員ローテンションだった。

 稲生:(“クイーン・アッツァー”号の時の記憶が……)

 スターオーシャン号自体で何かが起きたわけではない。
 だが、“魔の者”との戦いの舞台になった船とは同型の姉妹船ということで、どうしてもその記憶が蘇ってしまうのだった。

 エレーナ:「タラップを登ったら、招待状の確認があるからね」
 稲生:「僕達は顔パスでいいんじゃないのかい?」
 エレーナ:「魔法使いに顔パスなんかできるわけないじゃない」
 イリーナ:「うん。それもそうだね」

 まさかの船上の人となった稲生達。
 稲生達が乗り込むのを確認したかのように、彼らが乗り込むとすぐにタラップが片付けられ、船尾にある鐘を鳴らしながらスターオーシャン号は出航していった。

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« “大魔道師の弟子” 「魔界紀... | トップ | “大魔道師の弟子” 「スター... »

コメントを投稿

ユタと愉快な仲間たちシリーズ」カテゴリの最新記事