報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「富嶽天生を仰ぎ見て」 2

2017-11-15 19:23:53 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月4日14:00.天候:晴 静岡県富士宮市 まかいの牧場]

 牛の運動場で牛を見ていたら、後ろから誰かに声を掛けられた。

 イリーナ:「出たな〜、ロシアンマフィア」
 アナスタシア:「誰がロシアンマフィアよ!」

 黒服で統一された弟子達をぞろぞろ連れている時点で、どう見ても裏世界の人達です。本当にありがとうございました。

 イリーナ:「何しに来たのよ?」
 アナスタシア:「そっちこそ何してんの?」
 イリーナ:「観光よ」
 アナスタシア:「観光でしょ」

 ものの見事に質問と答えが被った2人。

 イリーナ:「いつまで日本にいるのよ?早くロシアに帰って仕事しなさい」
 アナスタシア:「あなたこそ“魔の者”の脅威が無くなったんなら、早いとこイギリスに戻りなって」

 イリーナとアナスタシアが師匠同士で舌打ち合戦している中、弟子達は……。

 アンナ:「早いとこマリアンナから私に乗り換えなって」
 マリア:「帰れ!」
 稲生:「あ、いや、お気持ちだけ頂いて……」
 マリア:「頂くな!」

 のほほん指導のイリーナ組と、ビシバシ指導のアナスタシア組とは師匠も弟子も合わないらしい。
 とても同門とは思えぬ違さである。

 イリーナ:「さ、2人とも。次へ行くわよ」
 マリア:「おー!」
 稲生:「えっ?あの!ちょっと!?」

 イリーナとマリアは稲生をズルズルと引っ張って行った。

[同日15:00.天候:晴 同市内 富嶽温泉華の湯]

 稲生:「もうしばらく散策してから入ろうと思っていたんですけど……」
 イリーナ:「ゴメンねぇ。まさか、あそこでナスターシャ達も来るとは思わなかったわ」

 ナスターシャとはアナスタシアのロシア語における愛称である。

 マリア:(愛称で呼んでいる時点で、仲が悪いとも思えないんだよなぁ……)

 と、マリアは思っている。
 アンナに関しては、横恋慕して来やがったアホ魔女と思っているが。
 最近はポーリン組のエレーナやリリアンヌも稲生に色目を使ってくるようになってきたので、マリアとしてもなかなか気が抜けないところ。

 稲生:「最終バスの時間まで、ここの温泉で過ごしましょう」
 イリーナ:「了解」
 マリア:「まさかここにまでアナスタシア組が来たりはしませんよね?」
 イリーナ:「うん。一応聞いてみたら、休暇村富士って所に行くみたいだから」
 マリア:「また行くんですか」
 イリーナ:「温泉はそこに入るんだって」
 稲生:「場所は違えど、向こうも温泉目的ですか……」
 イリーナ:「アナスタシア組にも体に傷の付いた魔道師達は多いからね。その傷を癒す為の入浴(湯治)のアイディアをユウタ君が出したことが、門内に広まっているってことね」
 稲生:「えっ?別に、アイディアってほどのものでもないですよ?」
 イリーナ:「日本の温泉のことについては、日本人に倣うのがベストというのが広まったみたいね」
 稲生:「そんな、大したアレでもないのになぁ……」

 館内に入り、まずは靴を脱ぐ。
 因みに登山の終わった稲生はスーツではなく、普通の私服。
 なので靴もスニーカーだ。
 マリアはブレザーに合わせていることもあってかローファー。
 イリーナはロングブーツである。

 稲生:「先生、靴箱に入ります?」
 イリーナ:「大丈夫、大丈夫」

 イリーナがブーツの頭をトントンと叩くとシューッと丈が短くなった。

 イリーナ:「これで入った」
 稲生:「魔道師は着ている服から履いてる靴まで、全部魔法仕様ですか」
 イリーナ:「そうだよ。もっとも、全部揃える必要は無いけどね」
 マリア:「私のもローブと杖だけだ」
 稲生:「えっ、そうなんですか?つい、ブレザーとスカートもそうだと思った。どうしてブレザーとスカートなんですか?」
 マリア:「ユウタが『この恰好がいい』って言ったから」
 稲生:「えっ?……あ、えーと……」
 イリーナ:「おお、そうだった!まあ、酒の席での話だったもんね。ちょっとうろ覚えだよね。うんうん、しょうがないしょうがない。でも確かにアタシも聞いたよ」

 何故かイリーナが慌てたように、取り繕うように言った。

 稲生:「えーと、そうでしたっけ?……あ、何か言われてみればそんな気も……」
 イリーナ:「まあ、酒の席だからね。しょうがないよね。さぁさ、ここもチケットとかいるんでしょ?ユウタ君、頼むわ」
 稲生:「あ、はい。行ってきます」

 稲生は券売機で入館券などを買い求めた。

 マリア:「師匠?」
 イリーナ:「マリア、さらっとユウタ君が困るようなこと言わない」
 マリア:「確かにユウタからは直接その言葉聞いていませんけど……」
 イリーナ:(昔、マリアが勝手にユウタ君の私用PC覗いたら、JKモノのエロ動画が沢山あったもんでそれを意識しているってことは、さすがに……)

 ブレザー姿の女子高生が【ぴー!】というものだったり、スク水やブルマーもあったらしい。
 稲生も健全な男子であったということだ。
 その為、それまで寒色のロングスカートのワンピースを着ていたマリアだったが、一新して今の女子高生の制服風ファッションになったのはそれからだった。
 但し、悪魔との契約の都合上、悪魔のイメージカラーである緑は外せなかった為、稲生の母校の東京中央学園を参考にしたらしい。
 東京中央学園のブレザーの色は緑だからだ。
 今のマリアはモスグリーンのダブルのブレザーを着ている。
 稲生は黙っているが、その色がどうしても新幹線200系の窓回りやスカートの色や、JR東日本のコーポレートカラーに見えてしょうがないのである。
 悪魔としては緑であるなら、緑っぽい色のものなら何でもいいらしい。
 大昔は緑なら緑の色合いまで更に細かく指定していたらしいが、昨今の契約者不足により、そこまで厳しく求めなくなった。

 稲生:「お待たせしました」
 イリーナ:「じゃあ、行きましょう」

 当然ながら、また男湯と女湯に分かれる。
 稲生は男湯に入ると、渡された鍵の番号を元にロッカーを探した。

 稲生:(いや、僕は絶対マリアさんに『女子高生みたいな恰好してください』とは言ってない。多分、あれを見られたんだろうな……)

 マリアと見た目が似ている白人女優がJKの制服を着てアレやコレをされているエロ動画が、何故か勝手に再生されていたのだが、今からしてみると……。

 稲生:(皆さん、近くに女性がいる場合は十分に気をつけましょう)

 稲生は自分に言い聞かせるように心の中で言うと、ロッカーのドアを開けた。
コメント (4)
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“大魔道師の弟子” 「富嶽天生を仰ぎ見て」

2017-11-15 10:24:49 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月4日11:00.天候:晴 静岡県富士宮市 朝霧高原]

 国道139号線を北上するタクシー車内。

 イリーナ:「朝霧高原は前にも行ったと思うけど?」
 稲生:「その時は休暇村富士でした。今度は別の場所に行ってみたいと思います」
 イリーナ:「あえて街中には行かないか。なに?何か予知でもした?」
 稲生:「いや、予知するまでもないです」

 タクシーの車内には助手席の後ろに広告が載っている。
 昨日から3日間、浅間大社では大規模な祭りが開催されているのだ。

 稲生:「今回、さすがに謗法は避けます。前回と違って、今回は大石寺登山が目的だったので。今日の観光は、あくまでもついで
 イリーナ:「なるほど。まあ、趣旨は理解できるわ」
 稲生:「ありがとうございます」
 イリーナ:「それで、今日はどこへ行くの?」
 稲生:「まかいの牧場です」
 マリア:「なにっ!?」
 イリーナ:「ぬねの〜。そうじゃなくて、マリアが明らかに脳内漢字変換ミスってるっぽいから後で教えてあげた方がいいわよ」
 稲生:「先生は大丈夫なんですね」
 イリーナ:「んー、まあ、こう見えても人生長いから」
 稲生:「分かりました」
 マリア:「魔界の牧場とは……。ミノトーアとかセントーアでも飼っているのか?」
 稲生:「何ですか、それ?」
 イリーナ:「ユウタ君、ミノタウロスとケンタウロスは知ってる?」
 稲生:「ええ。昔のRPGではよく出てきましたし」
 イリーナ:「それはどちらもギリシャ語なのね。英語で言うと、今のマリアの発音になるの」
 稲生:「そうなんですか!?」

 ラテン語ではケンタウロスはセントールとなる。

 イリーナ:「日本で言う牛頭・馬頭ね」
 稲生:「例えとしてはいいかもしれませんが、設定がだいぶ違います」
 マリア:「設定!?」

 こうしてタクシーは牧場に到着する。

 稲生:「すいません、カードでいいですか?」
 運転手:「はい、ありがとうございます。お帰りの時間が分かりましたら、お電話頂ければお迎えに上がりますから」
 稲生:「分かりました」

 タクシーを降りる3人。

 イリーナ:「お?今日は天気がいいから富士山がよく見えるねぇ……」
 稲生:「そうでしょう」

 稲生はうんうんと頷いた。

 稲生:「ちょっと入場券買ってきます」
 マリア:「金取るのか!?」
 イリーナ:「そりゃそうよ。タダで入ろうものなら、ミノタウロスとケンタウロスという2大ボスがタッグで攻撃してくるわよぉ〜?」
 マリア:「既に魔界特有の瘴気が感じられない時点でウソ臭いです」

 とあるSFCソフトに登場したそのボス達は、ボスの中でも比較的弱い部類ではあったが。
 日本の地獄界における牛頭・馬頭も門番の役に就いているので、実際に閻魔大王を含む十王直属の獄卒よりは【お察しください】。

 稲生:「お待たせしましたー」

 稲生が入場券を買って戻って来た。

 マリア:「ユウタ、日本語の発音が同じというだけで、実際にここはアルカディアとは関係無いな?」
 稲生:「そうなんです。『まかいの』とは漢字で『馬飼野』。つまり、日本人の名字です。ここのオーナーが馬飼野さんと言うみたいで」
 イリーナ:「牧場主としてベストなファミリーネームだね」
 稲生:「確かに。じゃあ、早速回ってみましょう」

 ここで弟子2人、師匠の意外な一面を見ることができた。
 乗馬体験コーナーにおいて……。

 イリーナ:「はあっ!」
 スタッフ:「お、お客様!?」

 馬を駆る大魔道師イリーナ。

 稲生:「先生、馬に乗れたんですか!?」
 イリーナ:「昔はこれで魔法具をガメやがった盗賊を追い掛けたものだよ」
 マリア:「それは魔界での話ですか?それとも人間界?」
 イリーナ:「やあねぇ。アントワネットの首が落ちてから10年くらい後の話よ」
 稲生:「この人の昔話……」
 マリア:「ついていけねぇ……」

 マリー・アントワネットが刑死したのが18世紀である為、イリーナにとっては少し昔の話程度のものらしい。

 稲生:「この時には既にロシア人が入り込んでいたんですねぇ……」
 マリア:「革命の時は治安も悪くなるしなぁ……」
 イリーナ:「ユウタ君、次は?」
 稲生:「そろそろお昼時なので、昼食にしましょう」
 イリーナ:「おっ、いいね」

 というわけで、農場レストランへ。

 稲生:「やると思った」
 マリア:「うん、やると思った」
 イリーナ:「何が?」

 バイキング形式のレストランなのであるが、御多聞に漏れず、イリーナは山盛りにする。
 でも、それをペロッと平らげるのだから凄い。

 稲生:「先生、まだ体の耐用年数行けるんじゃないですか?」
 マリア:「そうそう。普通、歳取ったら食欲落ちるでしょ?」
 イリーナ:「そう思う?魔道師の体の中にはいくつかパターンがあるんだけど、これはある日突然逝く、突然死パティーンだから」
 マリア:「それはそれで困ります」
 稲生:「そうですね。何の警告も無いというのは……」
 イリーナ:「警告ならあるよ。ただ、自分にしか分からないけどね」
 稲生:「そりゃ自分の体なんですから、自分には分かるとは思いますが……」
 イリーナ:「大丈夫。ユウタ君がマスターになって、あなた達が『法統相続』するまでは生きるつもりだから」

 イリーナは目を細めたまま言って、紅茶を口に運んだ。

[同日13:30.天候:晴 まかいの牧場]

 稲生:「それじゃ、次はどこに行きましょうか?」
 イリーナ:「うーん……。馬……セントール……馬頭と来たから、今度は牛でも見に行きますか」
 稲生:「あくまでも、そっちに拘るんですね」

 牛の運動場に向かう3人。

 イリーナ:「牛1頭潰して、その肉をローストビーフにするのもいいかもねぇ……」
 稲生:「先生、それじゃまるでイギリス……あっ」

 稲生はマリアを見た。

 マリア:「まあ、確かにローストビーフは食べてたけど」
 稲生:「今でもマリアさんの屋敷では、夕食に出てきますもんね。ロシアではビーフストロガノフですか?」
 イリーナ:「そうだね。ストロガノフ伯爵の家では、よく御馳走になって……」
 マリア:「何さらっとVIPの知り合いを主張してるんですか。てか、ロシアの貴族と数百年前から知り合いなのに、移動手段が貨物船って……!」
 イリーナ:「貴族と知り合いだから、イコールこっちもセレブとは限らないのよ、マリアちゃん?」

 イリーナがようやくセレブになったのは、ここ100年くらいのことらしい。
 アメリカン・エキスプレスの事業者に今後の事業展開について占ってあげたら、その通りに大成功したので、その礼としてプラチナカードが送られたという。
 本来はその更に上を行くブラックカードを進呈してきたのだが、それは使わずにプラチナカードを受け取っている。
 魔道師の中では遅咲きである。

 ???:「勿体ぶらずに牛の1頭や2頭、買えばいいじゃない?」

 背後から聞き覚えのある声が聞こえて来た。
 その声とは……。
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