報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「再・学校であった怖い話」 〜無限廊下〜

2017-04-29 20:52:28 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月2日23:55.天候:雷 東京都台東区 東京中央学園上野高校・新校舎]

 2階の姿見には何やら仕掛けがあったようであり、これはイリーナが何かした。
 稲生は後ろで見ていたのだが、稲生の目にはイリーナが魔法の杖を翳して短く呪文を唱えただけのように見えた。
 とにかく、これで魔界への入口が開くフラグ立てはできたようだ。

 稲生:「次は3階ですね」
 マリア:「ユウタ、この建物は4階建てのようだけど、4階には無いのか?」
 稲生:「そうなんです。どういうわけだか、4階には無いんですよ」
 マリア:「なるほど……」

 マリアはニッと笑った。
 どうやらその意味を予想したようである。
 3階に到着すると、そこには異様な空気が漂っていた。

 稲生:「これは……!?」
 イリーナ:「ほほぉ……。ユウタ君も感じるかい?」
 稲生:「はい」
 マリア:「この廊下、何かある。ここに伝わる怪談は?」
 エレーナ:「無限ループ廊下になってる。それ?」
 稲生:「ほぼネタバレですね。そう、正しくそれです。旧校舎にも似たようなものがありましたが、新校舎にもあるんです」
 イリーナ:「それはどんな話だい?」
 稲生:「ええ。今から20年くらい前の話ですけど、そこの教室で放課後、補習が行われていたらしいんです。要はテストで赤点を取った人がプリントを渡されて、それを終えたら帰って良いというものでした。最後に1人だけ残った男子生徒が行方不明になってしまったんです。学校から出た形跡は無くて……。何でも、逢魔が時には、この廊下に巣くう妖怪が獲物を求めるのだという言い伝えです。それに捕まってしまったんだろうとのことでした」
 イリーナ:「うん、分かった。じゃ、ちょっとだけ追体験してみましょうか」
 稲生:「えっ?」
 マリア:「行くんですか?この廊下を……」
 イリーナ:「ええ」
 エレーナ:「いいんスか?どうせ私達じゃ、向こうが怖くなって逃げちゃいますよ?」
 イリーナ:「平気平気」

 魔道師達はわざと無限廊下の中に入った。
 無限廊下の罠に掛かると、どうなるのか。
 それは、廊下の向こう側に辿り着かないのである。
 永遠と右手に暗闇の広がる窓、そして左手には誰もいなくて真っ暗の教室が続くのである。

 稲生:「こ、こんなことが……」
 イリーナ:「おやおや。本当に私達に追体験させてくれるみたいだねぇ……」
 エレーナ:「いい度胸してますよ」
 マリア:「魔法で黒焦げにしてやるまでだ」

 確かに廊下の向こう側には、いつまで経っても辿り着かなかった。

 イリーナ:「それとも、これも私達の社会科見学の一環として協力してくれているのかねぇ……?」
 エレーナ:「いや。んな気遣いできるモンスター達じゃないと思います」
 マリア:「ここで、後ろを振り返ってみて」
 稲生:「は、はい!」

 後ろを振り返る稲生。
 しかし、後ろには何も無かった。
 というか、確かに今まで歩いて来た分の長さを感じる廊下が広がっていた。

 稲生:「ええ〜!?」
 イリーナ:「ユウタ君の知ってる話の主人公も、こういうのを体験してしまったってわけさ。学校の廊下の形をした亜空間にね」
 稲生:「え?それじゃ、するともうここが魔界の入口なんですか?」
 イリーナ:「ある意味では。でも、これだと私達の本当の目的地には行けない。私達が魔界のちゃんとした目的地に行くには、やっぱり姿見の仕掛けを解いてからじゃないとね」
 稲生:「じゃあ、どうするんです?」
 エレーナ:「おっ、何かいますよ。私達に挨拶してくれるのかな?」
 稲生:「ええっ!?」

 廊下には非常口誘導灯の明かりと消火栓の赤ランプしか明かりが無い。
 そこを稲生が懐中電灯を照らして進んでいたわけだ。
 少し先の廊下の片隅に、誰かがうずくまっていた。

 稲生:「だ、誰だ!?」

 稲生は懐中電灯を照らした。
 そこにいたのは黒い服を着た女?

 アンナ:「遅いじゃないですか、皆さん」
 マリア:「アンナ!?」

 それはアナスタシア組のアンナだった。
 黒い服は黒いローブに、黒いスーツを着ていたからだった。

 稲生:「びっくりした……」
 エレーナ:「いい演出してくれるじゃんよー。でも正に、そこにモンスターがいたっていうのが話の続きですよね?」
 イリーナ:「まあ、そうさね。そいつはどうしたの?」
 アンナ:「まだ私は会っていません。多分ですが、恐らく……」

 すると、廊下の向こうから何か聞こえて来た。

 稲生:「な、何だ?」
 マリア:「! ユウタは下がって!」
 稲生:「ええっ!?」

 それは男の叫び声だった。
 廊下の向こうから死に物狂いで走って来る、黄緑色のワイシャツを着てグレーのズボンをはいた男。
 正にそれは東京中央学園の男子生徒の夏服であった。

 男子生徒:「た、助けてくれぇぇぇぇぇっ!!」

 男子生徒は何かに追われているようだった。
 だが稲生には、その男子生徒が生きている人間には見えなかった。
 霊気を感じたからである。
 恐らく、幽霊と化してしまったのだろう。
 その男子生徒は何から逃げているのか。

 稲生:「な、何だあれは!?」

 それはセーラー服に身を包んだ……人間の女とは思えないほどの姿をしていた。
 セーラー服は東京中央学園の昔の旧制服に似ていた。
 ぎょろぎょろと大きく光る目、しぼんだように小さな顎にはひび割れた唇。
 しかも、1人だけではなかった。
 後ろから似たような姿の魔物達が、彼を両手両足を使うような奇妙な走り方で追い掛けているのだ。
 手はしなびていて、まるで老婆のよう。
 口々に意味不明なことを言いながら、今度は魔女達に向かってきた。

 イリーナ:「ヌィ・フ・ラゥム!」

 イリーナの魔法の杖から光が放たれ、セーラー服の魔物達を包み込む。
 光に包み込まれた魔物達は、次々と消え去って行った。
 だが、それでも光の攻撃を交わした個体がイリーナの脇をすり抜けて来る。

 エレーナ:「ヴェ・ギュ・ラマ!」
 マリア:「ヴェ・ギュ・ラマ!……って、真似すんな!」
 エレーナ:「いいじゃん、別に」
 アンナ:「稲生君、私から離れちゃダメよ。ヌィ・フ・ラゥム!」
 マリア:「コラーッ!」
 エレーナ:「修羅場だねぇ……」

 何とか魔物共を滅却、塵芥にした魔女達であった。

 男子生徒:「助かった……!ありがとう……ありがとう……」

 男子生徒の幽霊は恐怖から解放されたことで、スーッと消えていった。
 残されたのはソールピースである。
 見た目は紫色に光るゴルフボールのようだ。

 稲生:「これは……ソールピース。サンモンド船長を思い出すなぁ……」
 イリーナ:「それはユウタ君が持ってて」
 稲生:「いいんですか?」
 イリーナ:「今の男子生徒は稲生君を頼っていたようだからね」
 稲生:「僕は何もしてませんよ。というか……できなかった……」
 エレーナ:「大丈夫。1人でマフィアの本部に乗り込めば、度胸が付くって」
 マリア:「いや、それはオマエしかできない!」
 アンナ:「うんうん」

 さり気なく稲生の手を繋ごうとするアンナの手を叩くマリアだった。

 イリーナ:「みんな、いいかしら?無限廊下も解放したことだし、そろそろ本当の魔界の入口を開けるわよー」
 稲生:「あ、はい」
コメント (6)
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