報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「ダンテの付き人」

2017-03-26 22:44:32 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月2日13:00.天候:雪 長野県白馬村郊外山中 マリアの屋敷西側1F大食堂]

 稲生:「どれ……、そろそろ昼休みも終わりだ」

 稲生はマグカップに残っていたコーヒーを一気に飲み干した。
 それをテーブルの上に置いて、屋敷東側にある自分の部屋に戻ろうとした。
 その時、西側の奥に通じるドアが開かれた。
 即ち、そこは上座に1番近いドアである。
 屋敷の主人の部屋や、スイートルームに向かう通路のドアだ。
 そこから、イリーナが具合悪そうにやってきた。

 稲生:「あっ、先生!大丈夫ですか?」
 イリーナ:「うぃー……やっと起きれたよぉ〜……」

 そう言って、上座のすぐ隣の椅子に座る。
 屋敷の実質的なオーナーであるイリーナでさえ、上座には座らない。
 すぐにメイド人形のミカエラが、人間形態でイリーナに紅茶を持ってきた。
 人形形態だとデフォルメキャラとしてコミカルな動きをするミカエラだが、人間形態ともなれば、優秀なメイド人形の1つとなる。

 イリーナ:「ん……スッパ・スィーバ……」
 稲生:「先生、自動翻訳切れてロシア語のまんまになってます。日本語で『ありがとう』という意味くらいは分かってますけど」

 その時、マリアがエントランスホールからやってきた。

 マリア:「ユウタ、そろそろ部屋に戻……あっ、師匠!何やってるんですか!?もうお昼過ぎですよ!?」
 イリーナ:「マリア……ごめん……あんまり大きな声出さないで……。頭が……」
 マリア:「昨日、あんなにウォッカをガブガブ飲むから……!どこかで吐いてたりしてないでしょうね?」
 イリーナ:「ん……それは大丈夫。ちゃんとトイレで吐いたから」
 稲生:(吐いてはいたのか……)
 イリーナ:「ナスターシャとマルファは?」
 稲生:「午前中に帰られましたよ。まあ、あの先生方も相当グロッキーでしたが」
 イリーナ:「だろうねぇ……」

 イリーナは紅茶にミルクを入れて、ミルクティーにした。
 元々酔い覚ましに効くハーブを煎じた紅茶である為、それを飲んで少しは落ち着いたらしい。

 イリーナ:「悪いけど、こんな状態なんで、今日は自習でよろしく」
 マリア:「もう既に想定していますので、ユウタには私から課題を出してあります」
 イリーナ:「おっ、さすがマリア。ロー・マスター(1人前に成り立て)から、ミドル・マスター(中堅)に昇格する日も近いかねぇ……」
 マリア:「まだ、当分先の話だと思いますが」
 イリーナ:「いやいや……」
 稲生:「ところで先生、昨日はどんな話だったんですか?」
 イリーナ:「ん、それなんだけどね、ダンテ先生が来日されるのよ」
 稲生:「はい、それは聞いています」
 イリーナ:「あなた達が奇しくも泊まってしまった、東アジア魔道団の日本拠点に挨拶に伺うんですって」
 稲生:「あのペンションですか!」
 イリーナ:「ユウタ君、あんまり大声……」
 稲生:「あっ、すいません!……でもあのペンション、かなり山奥にあって、行くのはなかなか大変ですよ」
 イリーナ:「ま、この家もそうなんだけどね。ダンテ先生の魔力なら、簡単に行き来できるでしょう。……もしくは、ぺンション以外の場所で会談されるかもしれないしね」
 稲生:「なるほど……」
 イリーナ:「で、いかにダンテ一門の創始者とはいえ、先生お1人で敵か味方かも分からない集団の陣地に行くのは危険でしょう?」
 稲生:「確かに、そうですね」
 マリア:「どちらかというと、利害の対立で敵になりそうな感じですね」
 イリーナ:「私もそう思う。で、そう考えていたのはナスターシャもマルファも同じだったってわけ」
 稲生:「すると、イリーナ先生方で大師匠様の護衛をされるということですね」
 イリーナ:「そういうことになるね。ただ、ダンテ先生は団体旅行が嫌いな方なの。だから、直属の弟子を全員連れて行くわけにはいかないらしいわ」
 稲生:「そうなんですか。(大師匠様直属の弟子って、何人いるんだろう?)」
 マリア:「それで昨日、『誰が大師匠様の付き人になるか』で、ウォッカの瓶5本も空けるくらい騒いでいたというわけですか」
 イリーナ:「ま、そういうことね」
 稲生:「アナスタシア先生が、真っ先に立候補しそうですね」
 マリア:「確かにあの人は武闘派だから、魔道団が敵に回って来た途端、一気に死体の山が出来上がるでしょう」
 イリーナ:「それがねぇ、どうもナスターシャは断られたみたい」
 稲生:「あらまっ!」
 イリーナ:「ナスターシャは弟子が多いんだから、育成の方に力を入れろって言われたらしいよ」
 マリア:「物凄くごもっともなお言葉ですね」
 稲生:「ポーリン先生は、魔界の宮廷魔導師の仕事が忙しいから無理ですよねぇ……」
 イリーナ:「そうね」
 稲生:「マルファ先生はどうなんですか?」
 イリーナ:「ピリピリとした雰囲気の中、空気解読症のあいつが一緒だったら、絶対にブチ壊しになるわ」
 稲生:「ピリピリとした宮廷の空気を一新する役割として、中世には宮廷道化師という者がいたそうですが……」
 イリーナ:「あのねぇ、それはあくまでも宮廷内だけの話でしょう?対立するかもしれない相手との会談に連れて行くような者じゃないわ」
 稲生:「なるほど……」
 イリーナ:「ま、誰が付き人になるか知らないけど、いずれにせよ、会談の前後はこの家に立ち寄られると思うから、そこだけは想定しておいてね」
 稲生:「分かりました」
 マリア:「了解です」

[同日18:00.天候:晴 マリアの屋敷・エントランスホール]

 もうすっかり日が暮れてしまい、邸内ではまもなく夕食の時間になろうという頃、1人の来客があった。

 稲生:「あっ、エレーナ!」
 エレーナ:「こんばんはー。お届け物でーす」

 ダンテ一門の『魔女の宅急便』、ポーリン組のエレーナ。

 エレーナ:「といっても、今日はこれだけだけど」
 稲生:「封筒?メール便かい?」
 エレーナ:「どっちかって言うと、書留に近いね。だから、サインちょうだい」
 稲生:「了解」

 稲生はサラサラと受領印の部分にサインをした。
 ダンテ一門で漢字でサインするのは、当然ながら唯一の日本人である稲生しかいない。

 エレーナ:「じゃ、どーもー」
 稲生:「ああ、お疲れさん」

 エレーナはホウキに跨って、すっかり日の暮れた空へと舞い上がって行った。

 稲生:「イリーナ先生宛てだ。一体、誰からだろう?」

 稲生は封筒をひっくり返してみた。
 すると、そこには大師匠ダンテ・アリギエーリの名前が書かれていた。

 稲生:「大師匠様からだ……!」

 稲生は急いでそれをイリーナの所に持って行った。
コメント
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