報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「事件後初の出勤」

2017-03-14 20:58:49 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月8日07:04.天候:晴 JR東北新幹線“なすの”252号1号車内→JR東京駅]

 朝一上りの新幹線が上野駅の地下深いホームを発車する。
 小山駅の留置線から出発した新幹線は、朝ラッシュ直前の静けさを表すかのように静粛としている。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、東京です。東海道新幹線、東海道本線、中央線、山手線、京浜東北線、横須賀線、総武快速線、京葉線はお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 車内チャイムと放送が流れると、それが合図とするかのように仮眠を取っていた乗客達が起き出して、一気に空気が変わる。
 敷島は寝ていなかったが、それを合図にするかのように、脱いでいたコートを着始めた。

〔「……到着ホームは20番線、お出口は左側です。……」〕

 敷島:「少し早めに行くっつったって、結局は始発の新幹線じゃ、いつもの通りか」
 エミリー:「そうですね」
 敷島:「東京駅からバスだと……」
 エミリー:「いえ、駅からタクシーで向かわれることをお勧めします」
 敷島:「何で?」
 エミリー:「MEIKOの話によると、昨日、もしかして社長が夕方に現れるかもしれないと思ったマスコミ関係者がビルの入口で待っていたそうですから」
 敷島:「マジか。すると……」
 エミリー:「今朝は間違いなく社長が出勤されるので、記者さん達の人だかりができていると思われます」
 敷島:「俺はアリスを助けに行っただけだぞ?」
 エミリー:「アクション映画並みの活躍をされたのですから、騒がれもしますよ」
 敷島:「また記者会見やんなきゃいけないのか……。警察の記者会見が遅いんだよなぁ……」

 列車がホームに滑り込む。
 進行方向右手眼下には、東海道本線のホームが見えた。

〔ドアが開きます〕

 プシュー、ガチャ、ガラガラガラと随分大層な開扉音を立ててドアが開く為、アナウンスは必要無いような気がするのは、全盲経験が無いからか。

〔「おはようございます。ご乗車ありがとうございました。東京、東京、終点です。20番線に到着の電車は折り返し、7時16分発、“はやて”111号、盛岡行きとなります。……」〕

 ドアが開いてぞろぞろと降りる乗客達。
 その中に敷島とエミリーも混じる。
 ホームには、折り返し列車への乗車を待つ乗客達が長蛇の列を作っていた。
 列車内は静かなものだったが、駅構内はさすがに賑わっている。
 エミリーが先導するかのように進むと、敷島は駅の外へと向かった。

[同日07:30.天候:晴 東京都江東区豊洲 豊洲アルカディアビル]

 東京駅八重洲口からタクシーに乗った敷島とエミリー。

 敷島:「あーあ……都営バスで通っていた頃が懐かしい。あそこ、Wi-Fi使い放題だったのに……」
 エミリー:「しょうがないですよ。本当は社長、既にハイヤーや役員車を導入されて、それで通勤されても良いくらいなんですよ」
 敷島:「そんな、成り金みたいなことはしたくないねぇ……」

 するとビルの入口には、既にマスコミの人だかりができていた。

 敷島:「げ……!?」
 エミリー:「すみません、地下駐車場に入って頂けますか?」
 運転手:「は、はい」

 アルカディアビルには地下駐車場がある。
 多くの企業が入居している為、役員車やハイヤーの発着もある。
 それを考慮したビル側は、地下駐車場に車寄せを設けている。
 その為、送迎による一時駐車(10分間)のみは無料になっている。
 入場の仕方は入口で駐車券を取り、10分以内に出口で駐車券を入れれば良い。
 尚、納品車などが発着する荷捌場はまた別にある。

 敷島:「うわっ、気づかれた!」

 地下駐車場に入る際、歩道を横切る必要がある為、タクシーはそこで一時停車する必要がある。
 敷島達が乗っていた法人タクシーにはプライバシーガラス(スモークガラス)が無い為、すぐに気づかれた。
 すぐにカメラのフラッシュが焚かれ、マイクなどが向けられる。

 敷島:「やっぱ記者会見やろう。鷲田警視達には嫌味言われるだろうけど」
 エミリー:「しょうがないですよ」

 さすがに地下駐車場までは入って来れない報道陣。
 敷島達はそこの車寄せでタクシーを降りた。

 敷島:「ふぅ〜、びっくりした〜……」
 エミリー:「おはようございます。18階の敷島エージェンシーの者です」

 エミリー、警備員にテナント専用入館証を見せる。

 警備員:「はい、おはようございます。どうぞ」
 敷島:「どもども。地上にいるマスコミの人達、後で何とかしますんで」
 警備員:「はあ……」

 エレベーターに乗り込んで、すぐに事務所に向かった。

 敷島:「井辺君達にも迷惑掛けちゃったな。すぐに挽回しないと……」
 エミリー:「私もお手伝いします」

 エレベーターを降りると、すぐ目の前が事務所入口である。

 井辺:「社長、おはようございます」
 敷島:「おっ、井辺君。私より早いな」
 井辺:「申し訳ありません。本来でしたら、私が体を張ってでも社長をエントランスからお連れしないとと思っていたのですが……」
 敷島:「エミリーの機転で地下から来たよ」
 井辺:「あ、なるほど。車で来られたのですね」
 敷島:「そういうことだ。しばらくまたタクシー通勤が続くのか……。経費を無駄にして申し訳ない」
 井辺:「いえ、むしろ社長でしたら、タクシー会社とハイヤー契約をした方がよろしいかと思います」
 エミリー:「私も井辺プロデューサーと同意見です」
 敷島:「矢沢専務が、『キミの会社はそこまで儲かってるのかね?』と嫌味言ってきそうだ」
 井辺:「それなら大丈夫ですよ。今年度の決算報告書は、昨年度よりも明らかに高く記載できるくらいですし」
 敷島:「いずれにせよ、矢沢専務と敷島社長(※)に相談しないとダメだな」

 ※もちろんこれは、敷島孝夫の伯父で、親会社の四季ホールディングスの社長のことである。

 エミリー:「最高顧問より高い車に乗らなければ大丈夫ですよ」
 敷島:「センチュリーより高い車があるのか。……よし、ならば都営バス1台貸切で通勤してやろう」
 井辺:「そちらの方が明らかに経費を無駄にしているので、後で矢沢専務から叱責を頂くことになるかと」
 敷島:「ちぇっ……」
 井辺:「とにかく、社長室へ。目を通して頂きたいものが山ほどありますので」
 敷島:「足の踏み場も無いくらい?」
 井辺:「いえ、それほどではないです」

 社長室に入ると、机と椅子の上に山積みになった書類の数々が……。

 井辺:「お尻の座る場が無い程度です」
 敷島:「妙にリアルだな!」
コメント
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