報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「廃屋」 4

2016-10-06 20:53:43 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[時期不明 時刻不明 天候:晴 とある民家の廃屋?]

 私は廃屋の中にあったビデオテープを拾い、それを応接間のビデオデッキで再生してみた。
 それはいつ撮影されたのかは分からないが、6月1日に大学生3人が廃屋探索と称して興味本位で撮影していたものだった。
 そして彼らは、腐臭の充満する台所へと向かったのだが、いつの間にか1人、安藤という名の男子大学生が行方不明になってしまった。
 日野という名前のリポーター役と、倉石という名のカメラマン役が応接間に向かってくる。
 日野は懐中電灯で、応接間のドアを照らした。
 すると、中から何か物音がした。
 何かが倒れる音……?

 日野:「おい、今の聞いたか?何の音だ?」

 日野は応接間のドアを開けた。

 日野:「安藤!どこだよ!?」

 そして、中に入る。

 日野:「安藤を見つけたら一旦出よう」

 応接間の中は、今私がいるここと大した変わりは無い。
 一瞬映ったテレビの型も一緒だったが、ビデオデッキが見えなかった。
 このビデオデッキは、後から取り付けられたものなのか。
 日野は壁を懐中電灯で照らしながら、朽ちた暖炉の所までやってくる。
 今もそうだが、暖炉の奥のレンガもボロボロで一部が剥がれ落ちている。

 日野:「アドベンチャーだと、この暖炉の奥に隠し部屋とか隠し通路とかあるもんだ」

 日野はそう言って暖炉の壁、レンガを蹴ってみた。
 だが、実際はコンクリートの壁にレンガのようなタイルが貼り付けてあるだけのようで、崩れ落ちて隠し部屋や通路が現れるなんてことは無かった。

 日野:「ん?何だこれ?」

 しかし、日野は何かを見つけた。
 暖炉の中、太いチェーンに吊るされた三角形の取っ手のようなものがある。
 日野がそれを引っ張ると、何かが開く音がした。

 日野:「ん、何だ?何が起きた?」

 日野は辺りを懐中電灯で照らし、音の正体を突き止めた。
 テレビから暖炉に向かうまでの間の壁。
 その一部が隠し扉になっていたのだ。
 それが半開きになっている。

 日野:「なるほど、こういう仕掛けか」

 日野はしゃがんで、その中に入ってみる。
 その扉の高さは1メートルほどしか無い為だ。
 カメラマンの倉石も、後からついてくる。

 日野:「ここは……?おい、あれを見ろ」

 日野が懐中電灯で照らした先には、梯子があった。
 それも、下に続く……。

 日野:「どうやら秘密の地下室か何かあるみたいだぞ」
 日野は梯子の上から、その下を懐中電灯で照らした。

 日野:「暗くてよく見えねぇな……。倉石、先にちょっと下りてみてくれ。そろそろこの辺で、レポートを入れたい。俺が梯子から下りてくるシーンを撮ってくれないか?」

 倉石は承知したらしく、先に梯子を下り始めた。
 この間、一旦カメラは止めたらしく、次に映った時には既に地下室のシーンだった。

 日野:「おーい!地下に何かあるか!?」

 梯子の上から日野が呼び掛ける。
 倉石は取りあえず、地下室の奥へ向かった。
 水道管やガス管のパイプや、何かの機械の監視盤だか操作盤だかが入っていると思われるボックスがカメラに映る。
 すると、すぐに1人の人間の影が映った。
 それは行方不明になった安藤の後ろ姿だった。
 壁の方に向かって佇んでおり、一瞬、立ちションでもしているのかと思う体勢だ。

 倉石:「安藤さん?」

 倉石が後ろから安藤の肩を叩いた。
 するとそれに反応するかのように、安藤が振り向く。
 いや、倉石が肩を叩いた力で、自然に振り向いたと思われる。
 何故なら、安藤は仰向けに倉石に倒れて来たからだ。
 頭から血を流し、顔には全く生気が無い。
 しかし、頭から流れた血で真っ赤になっている。

 倉石:「わああああああああっ!」

 倉石は腰を抜かして尻餅をついた。
 そして、カメラには地下室の奥からやってくる、何者かの下半身が映った。
 カメラが地面に落ちたせいで、そいつの全体像が映らなかったのだ。
 恐らくは男なのだろう。
 迷彩色のズボンを履いている。
 そして、鈍い衝撃が何度もあって、そこで映像は止まった。

 マジかよ……。
 脱出のヒントどころか、却って恐怖の館だったということが分かっただけじゃん……。
 と、とにかく、行動開始だ。
 私は立ち上がって、ビデオテープを抜き取ろうとした。
「ん?」
 するといつの間にか、テレビの横にメモ書きが置いてあった。
『お前を石で叩き殺す』
 と。
 殴り書きのメモで、黒いマジックペンで書かれていたのだが、『奴ら』の上から赤いマジックで『お前』と訂正されていた。
 私は気味の悪さを抱えながらも、暖炉に向かった。
 確かに暖炉にはあの隠し扉を開く取っ手があり、引っ張ると、壁の一部が引っ込んだ。
 すぐに中に入ってみる。
「あっ!?」
 確かに隠し部屋の中には、地下へ向かう穴があった。
 だが、ビデオの中には下に下りる梯子があったのに、今はそれが無くなっていた。
 この穴の深さが、どれだけのものなのかは分からない。
 確か、日野を見上げるシーンを見るに、普通に1階と2階の高さと同じくらいだったと思う。
 が、私は飛び下りるのを止めた。
 今、下がどうなっているのか、手持ちの懐中電灯だけでは確認できないし、梯子が無いということは、飛び下りた後、最悪そこに閉じ込められてバッドエンドになる恐れがあるからだ。
 どこかにロープとか梯子があれば良いのだが……。
 私は反対側を見てみた。
 反対側は行き止まりになっていて、古い木箱が置かれていた。
 すると、その上に何かが置かれているのが分かった。
「これは……!?」
 それは鍵だった。
 見た目は普通の鍵である。
 どこの鍵だか分からないが、この家には鍵の掛かっているドアがある。
 どこかで使えるかもしれない。
 私はすぐにこの鍵を持って行くことにした。
 すぐに潜り戸的な隠し扉を潜って、応接間に戻る。
 この扉からだと、少し応接間から廊下に出るドアが見えるのだが、何故そのドアが開いていた。
 あれ?私、応接間のドア開けっ放しにしてたっけ?確か、ドアクローザーが付いていて、勝手に閉まっていたはずだったが……。
 それが壊れて、閉まらなくなっていたのだろうか。
 まあいい。
 とにかく、さっきの鍵を試して……。
「!!!」
 懐中電灯が一瞬廊下を照らしたのだが、そこに人が見えた。
 右から左に向かって廊下を通過した。
 ほんの一瞬だけだったのだが、カーキ色のボロボロの作業服を着た色白の男性のようにも見えた。
 待てよ。どこかで、見たような……?
「……似てる」
 暖炉の上には写真立てがあり、そこに初老の男女が写っている。
 そのうち、男性の方がさっきの人影によく似ていた。
 それは、ビデオの中に出て来た肖像画の男性にも似ているということである。
 ビデオの中では、それがこの家の主人であるようなことを言っていたが……。
 まさか!やっぱりこの家は限り無く廃屋に近いものの、ちゃんと所有者がいて、最低限の管理はされているということなのだろうか!
 私はさっきの男性を捜しに行こうとした。
 が、廊下に出る所で足を止めた。
 とはいえ、何かおかしくないか?
 もしさっきの男性がこの家の主人または関係者だったとしたら、私の気配に気づいているはずだ。
 さっき、私の懐中電灯に照らされたのだから。
 部外者がこの家にいると分かったら、すぐに駆け付けてくることだろう。
 それが何事も無かったかのように通過して行ったというのは、どういうことだ?
 工事業者か何かで、私をむしろ関係者だと勘違いした?……なワケ無いよな。
 それとも、私の見間違いか?
 ……まあいい。
 ここで何かを考えていても仕方が無い。
 少なくとも現時点においては、何も起きていないのだから。
 私は鍵を手に、まずは応接間隣の部屋のドアを開けてみることにした。
コメント
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