リムズ徳島クリニック院長の小川です。
久しぶりの投稿になります。
10月から11月にかけては、学会や講演会が多くてその準備に手間取り書き込みができませんでした。お待ちいただいていた皆様には深くお詫びをいたします。
今回は前回の表在リンパ管の続きでリンパ管の流れのうち深部リンパ管のお話しをします。
表在リンパ管で集められ太い集合管となったリンパの流れは、
頚部・
腋窩・
鼠径リンパ節に流れ込み、その後体の奥の深部リンパ管と呼ばれる太いリンパ管になります。
まず臍のラインから下の両下肢を含めた下半身の表在リンパ管は両側の鼠径リンパ節に入ります。その後
腸骨動静脈に沿って「後腹膜」と呼ばれる腹膜の外側の部分を通って上行します。(
腹膜とは?
後腹膜とは?という説明は専門的すぎて難しいため、今回は割愛します。)
両側のリンパ管は、臍の奥あたりで合流し一本の太いリンパ管になります。その後「乳び槽」と呼ばれるリンパ管が拡張した部分になり、そこに小腸や大腸などの腸管からのリンパ液が流れ込みます。腸からのリンパ液内には食べ物を消化して吸収された脂肪が多く含まれるため、脂肪分の多い食事をした後には白濁したリンパ液になります。
その後リンパ管は「胸管」と呼ばれる様になり、胸腔内を通って最終的には左の鎖骨の裏で頸静脈が鎖骨下静脈に合流する静脈角という部分で静脈に合流します。また、左顔面や左上半身のリンパ液も頚部リンパ節・腋窩リンパ節を経由して左静脈角に流れ込みます。
右顔面や右上半身のリンパ液は頚部リンパ節・腋窩リンパ節を経由して反対側の右静脈角に流れ込みます。
文章で書くと非常に難しくなりましたが、このような特徴的なリンパ管の走行は、リンパ浮腫がどのような手術を受けるとどの部位に発症しやすいかを理解するために必要な知識ですので、図を参考にしていただき理解してみてください。
深部リンパ管系の特徴的走行とリンパ浮腫の関係
①、深部リンパ管は直接心臓に流れ込むのではなく、一旦静脈角で静脈に流れ込んで全身の血流に入る。
②、両側の腸骨リンパ節を切除するような婦人科癌や膀胱癌・前立腺癌などは両下肢に浮腫を発症する可能性がある。(片足の場合が多いがその理由ははっきりしない)
③、直腸癌は切除するリンパ節が腸骨ではなくもっと奥のリンパ節でありリンパ浮腫を発症しにくい。
④、胃癌や膵臓癌・食道癌などの手術で胸管を切断してしまうと、両下肢に浮腫を発症することがあるがめったには起こらない。
⑤、胃・腸など腹部臓器からの転移は左静脈角付近にみられることがあるため、転移すると左顔面や左上肢に浮腫を発症することがある。
⑥、深部リンパ管系に入る前の腋窩リンパ節を切除する乳癌などの手術や鼠径リンパ節を切除する肛門癌・外陰部癌・下肢の悪性腫瘍では、脇道が少なくリンパ浮腫を発症しやすい。しかし重力の影響を受けやすい下肢の発症率が圧倒的に多い。
以上のような特徴がありますが、一律に決められるものではありませんのでご承知ください。
おおよそのリンパ浮腫発症率は、乳癌手術後で約5%程度。子宮癌手術後で20-30%といわれていますので、浮腫を発症しない患者様の方が多いと言うことを理解いただき、過度な心配をしないようにしてください。
今回の深部リンパ管の走行は、「用手的リンパドレナージ」という治療を行う際に非常に重要になりますので、難しいとは思いますが覚えておいてください。