曲学阿世:真実を追求し、虚実の世間に迎合するようなことはしたくない。

真実を曲解し不正な情報によって世間の人々にこびへつらい、世間にとり入れられるような、ことはしたくない。

<ロングインタビュー> 井手英策・慶応大教授

2017年01月03日 15時23分50秒 | 政治経済、社会・哲学、ビジネス、
<ロングインタビュー> 井手英策・慶応大教授
2016年7月8日
 
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◆「誰もが受益者になる社会に」

 僕は5年前に倒れて脳内出血になりまして、それから階段の上り下りがうまくできなくなりました。だから障害者の問題は身近です。障害があるかないかって運ですよね。あるいは、貧しい家に生まれるかどうかも100%運です。障害があったり、貧困であったりすることは、人生を左右します。でもおかしいと思いませんか。運が悪かっただけで人生が決まるような社会って。理不尽です。だからこそ、僕たちは闘わなくちゃいけない。
 どう闘えばいいのか。多くのリベラルや左派の人たちは「困っている人、貧しい人を助けよう」と言います。それは当然だけども、助けようと言うと同時に「私たちだって苦しいのになんで人のために税金を払わないといけないの」とそっぽを向く人たちがいます。日本社会で多数派を占める年収300~800万円の中間層です。彼らがそっぽを向けば、税金を払うのを嫌がり、増税に抵抗します。重要なのは、彼らにそっぽを向かせないこと。そのためには、税金を払うことで少なくとも中間層が恩恵を受けられるようにするしかありません。
 日本経済はバブル崩壊後、長く停滞しています。この20年間の実質経済成長率は平均で0.9%と低い。しかも安倍政権のアベノミクスは重要なことを証明しました。歴史的ともいうべき積極果敢な金融財政政策を打っても、経済成長は難しいということです。民間研究機関の日本経済研究センター(東京)による経済成長率の推計(標準シナリオ)では、2020年の東京五輪が終わった5年間が0.5%、その先の5年間は0%です。今後人口が減る中で、「経済は成長します。成長の果実を貧しい人に分配します」と訴える人は真実を語っているのでしょうか。経済成長は必要ですが、成長に全面的に依存する仕組みからは抜け出さないといけない。
 日本人は全体として、目に見えて貧しくなっている。専業主婦世帯が減り、共働き世帯が増えているにもかかわらず、世帯所得はピーク時より2割落ち込んでいます。反対に、年収200万円以下の世帯は全体の2割に達し、非正規の割合も4割を超えている。結婚して、子どもを持つことすら難しくなり、頼りの中間層が明らかに低所得層化しつつあります。中間層は不安におびえつつも自らが負担者だと考え、低所得者層や生活保護の受給者、働いていない人に厳しくあたります。悪い意味での右傾化の問題もささやかれている。日本の社会保障は高齢者に手厚く、あとは限られた資源を貧困対策に使うので、恩恵を受けない若者と高齢者の対立も深まっています。
 日本社会の至る所で、分断の線が引かれています。「保育園落ちた、日本死ね」のブログを機に待機児童の解消が国会で議論になりましたが、子どもがいないカップルや子育てが終わった50代、60代の人たちが一斉にそっぽを向いてしまう。保育士や介護士の給与アップを打ち出せば、その他の人たちは「なんであいつらだけ」となる。次から次へと分断線が入っていく。誰かの利益になることをすると、必ずどこからか反対の声が上がるので、結局政治は小出しで改正を続けることになってしまう。
 戦略を変えましょう。所得が落ちても、せめて人間らしく生活ができるように、誰にとっても必要なものを保障する仕組みをつくるしかありません。例えば、保育園や幼稚園は金持ちでも貧乏でもみんなが必要だから無償化を目指しましょうよと。介護の自己負担も、負担できない人だって必要なのだからできるだけ無償化に近づけましょうよと。誰もが受益者になる生活保障をセットでやればいいのです。ただし、無償化ですべてが解決するわけでない。この点は、また、のちほどお話をします。

◆みんなで痛みを分かち合う

 生活保障を考えるとき、財源論から逃げてはいけません。サービスの拡充にはお金がかかります。低所得者への負担となる消費増税と、富裕層の負担が大きい所得税、相続税や法人税の増税はセットで行われるべきです。多くの人たちが税金の使い道を知りません。自分たちが払っている税金の使い道を知らないのは、民主主義としておかしい。この国では民主主義が死にかけています。財政民主主義という言葉があるように、何が必要かを考え、そのためにみんなでお金を払う。このことを話し合うのが議会。財政にこそ民主主義のありようが映し出されます。
 例えば、消費税の増税分が何に使われたのか、みなさんは知っていますか。増税分の使い道のうち8割は借金の穴埋めに回されました。残りは医療、年金、介護、子育てという社会保障に広く、薄く使われています。さらに再増税で引き上げが予定されている2%の大部分は低所得者対策に回ります。これでは中間層に受益感がないので、多くの人が増税に賛成しません。しかし5%増税分のうち半分を社会保障と教育の充実に使えば、社会は劇的に変わります。保育園や幼稚園、そして大学の授業料を無償化に大きく近づけられます。介護の1割負担もなくせる。全国の公立病院が赤字で苦しまずにすむ。こういう社会になることを政治家が示せば、増税への抵抗は和らぐはずです。
 個別的な利益ではなく、みんなが必要なものは、みんなに出す。教育がいらない人なんていません。老後に認知症になったり、寝たきりになったりする可能性は誰にでもある。医療だって、死ぬまで病気にならない人はいません。みんなが必要なものは、みんなに出すということが分断を阻止する一番良い方法です。古代ギリシャの哲学者アリストテレスも、社会契約論を説いた思想家ルソーも、いや新自由主義の権化のようにいわれる経済学者フリードマンでさえ同じ視点を持っています。みんなに配るということは、金持ちももらうということ。みんなで痛みを分かち合うということは、貧しい人にも税をかけるということです。
 面白い統計があります。「格差の是正は政府の責任であるか」という質問に、日本では「そうではない」と答える人が多い。格差是正に関心を持っていない国がほかにもあります。高福祉高負担の北欧諸国です。要するに、困っている人にお金を上げようとか、助けてあげようというのは、どの国の人も嫌がるということです。でも、北欧の人たちは貧しい人を助けようと思っていないのに、格差を一番是正している。なぜなら、みんなに配っている結果、貧しい人も助かっている。北欧の真似をしようというのではありません。社会を変える本質に気づくこと、ここがポイントです。制度設計はそれぞれの国で考えればいいのですから。
 金持ちに配ってますます豊かになっても、貧しい人がより良く生きていけるなら、格差がもっと縮まるならそれでいいはずです。日本のリベラル左派と僕の議論の決定的な違いは、お金で人間を区別しない領域があるかどうかです。国は国民の生存を保障しなければなりません。ですから、社会的弱者にお金を給付していいし、所得税の累進性を強化したり、大企業に課税したり、相続税を強化してもいいでしょう。しかし、人間の生活を保障しているのは地方自治体です。だからこそ、地方分権を進め、あらゆる人が負担し、あらゆる人が受益者になる領域を創りだすべきなのです。そうすれば弱者への寛容さも育まれることでしょう。

◆最優先は教育の充実

 今回の参院選では、各政党が給付型奨学金の創設を公約に掲げています。近年、問題になっている「有利子」で貸与する奨学金を国がつくったのは1984年です。この奨学金制度の改革は、増税なき財政再建の余韻が残るなかで行われました。奨学金に税金を投入して拡充するのではなく、有利子の奨学金の財源には財政投融資資金(財投)が利用されました。財投は郵便貯金を原資にして借りるものなので、学生に給付することはできません。奨学金を金融の一部として運用したのです。ここには人間の教育や成長という視点がほとんどない。日本の奨学金制度は、財政健全化の理屈に縛られていて、子どもや若者の教育という本質的な問題からずれてしまっています。
 給付型の創設は、奨学金に税金を投入しようという議論なのでこれまでよりはマシです。ただ現状での財源の少なさから考えると、全学生が対象となるのではなく、所得の少ない世帯に限定した「貧困対策」となってしまうおそれがあります。確かに、貧困は教育の機会を妨げるので問題です。しかし、教育が普遍的な権利である以上、すべての子どもと若者を受益者にするべきです。そもそも、日本の大学授業料は世界的にみてかなり高いのが現状です。給付型奨学金によって、低所得層だけを救い、中高所得層と分断するのではなく、多くの現役世代の人たちが苦しんでいる授業料を低減し、できるだけ無償化に近づける努力をすべきです。
 教育の充実は最優先でやるべき課題です。教育は質の高い労働者を育て、犯罪などの社会的なコストを抑えます。さらに途中で職を失った人が職業訓練教育を十分に受けることができれば、新たな仕事に就くことができ、納税者になって税収の増加につながります。教育こそ、経済成長の源泉であり、財政再建の切り札でもあります。
 ただ注意すべきなのは、教育は経済のためのものではないということです。教育はあくまでも、子どもや若者の権利です。教育を保障し、充実させれば、結果として社会と経済の成長につながります。いわば、教育は人的な投資に他なりません。
 この点、注意して欲しいんです。たとえば幼稚園や保育園の無償化や働く人の給料引き上げがゴールではないんですよね。子どもの教育の質をどのように高めるかということが決定的に重要です。そのためには新たなカリキュラムや職員の研修プログラムが必要だし、その後の成果を追跡し、データ化する努力も必要です。さらにいえば、若い時の職業教育も大事。進学以外の道を切り拓けば、みんなが手に職を持ち、当初所得の格差も小さくなります。これらの視点が与野党の選挙公約からはすっぽり抜け落ちています。それがとても残念です。
 この投資のために、財源をどこから捻出すればいいのか。例えば、既存の枠組みでいえば、道路や橋の建設など公共事業の費用をまかなうために国が発行する「建設国債」が利用できます。建設国債は既に有利子の奨学金の財源として利用されてきました。これを踏まえれば、建設国債の投資対象に「子ども」と入れるだけで良い。これは財政法を書き換えるだけで、簡単にできる。しかも、教育の充実で将来的には税収が増えることが想定されるので、子どもが大人になって借金を返してくれるわけです。「未来の子どもにツケを残さない」というかけ声の元で新たな借金を抑制する流れがありますが、今借金をすれば今の子供たち、つまり将来の大人たちが返してくれる。
 もちろん、これは借金に逃げようと言うことではありません。そこは誤解しないでください。財源論から目をそらしてはいけません。ただ、国債発行がゼロになるというのもありえない話です。ですから、投資の中身を組み換え、可能な限り、質の高い教育を提供することで、借金も成長や財政再建につながるものに変えていくべきだと思うのです。

◆野党は20年後の社会を示せ

 未来の社会を構想する-これは僕たちの自由のひとつです。2020年に東京五輪が終わり、経済が急激に悪化する懸念があります。そして人口も減っていく。今ですら社会がギスギスしています。貧しい人が貧しい人を虐げ、中間層はおびえて保守化していく。この状況のなか、せめて20年後ぐらいの社会の姿を構想しておかないといけない。
 社会が縮減し、不安定化する時代がくれば、与野党の立場が逆転し、流動化する可能性は以前よりもはるかに高まるでしょう。だからこそ、野党は、今こそ与党とは異なる社会の姿をちゃんと構想していくべきです。まさに千載一遇のチャンスなんです。参院選で野党が勝利したとしても政権は変わりません。でも東京五輪が終わった後に何が起きるかは分からない。与党は現実の政治、日々の政治を動かさないといけないですが、野党は来たるべき時のために社会構想をしっかり練ることができます。
 自民党の公約には1970年代後半の大平内閣が示した、自助、共助、公助という「日本型社会福祉論」のモデルが残っています。内容はともかくこうしたビジョンを示した大平さんは偉大だと思います。他方、自民党は政権を失ったことがあるにもかかわらず、社会構想に関しては進歩していないのです。野党はこの40年前のモデルを打ち破るモデルを提示しないといけない。そうしないと、社会の閉塞感は変わりません。
 今回の参院選から、18歳の若者も投票できるようになりました。若い人たちはぜひ各党の公約を読んでほしい。でも、どちらがお金をたくさん配っているとか、そんな基準で読まないでください。公約の根っこにある考え方の違いを見て欲しいのです。でも、残念なことに、経済政策に限っていえば、各党でほとんど違いがないことに気づくでしょう。ほとんど同じような公約のどこが違うのかを虫眼鏡で見るように一生懸命探すのか。それとも「ほとんど同じことがおかしい」「あるべき姿を示して欲しい」と異議申し立てをするのか。その違いはとても大きいと思います。与野党の間で社会構想の理念の違いが明確に出ているでしょうか。それぞれのポリシーや理念の違いが分かるような公約をつくっている党に投票するようにしてほしいですし、みなさんの厳しい目が政治の未来を変えると思います。  
 
 
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