Light Forest

読書日記

日の名残り

2017-03-20 | 外国人作家

カズオ・イシグロ(土屋政雄訳)『日の名残り』早川書房

1989年ブッカー賞受賞作とのこと。ダーリントン卿というイギリスの上流階級に属する主人に仕えた執事の語りで物語は進む。
解説を読むと、私が読み取れなかったこの作品の文学的価値が書いてあり、なるほど、とは思ったが、
そう難しく考えずに読むと、ただ哀れな執事の話だ。
執事という職業に高い誇りを持ち、世界の中心にかかわる(時代は世界大戦期)ような有力な階級の主人に仕えることで、
自らもその世界を動かすような重大事の一助を担っているという自負。
その職業的領分を果たすことにすべてを懸け、我が事を顧みることはない。
父親の死も、人生の伴侶となりえたかもしれない女中頭との関係も、個人的な感情はすべて抑制されている。

物語は、大戦が終わり、新しいアメリカ人の主人に仕えることになった主人公が、しばしの休暇で旅に出るところからはじまる。
ダーリントン卿に仕えた思い出や、結婚して屋敷を出た女中頭との思い出を蘇らせながらの車旅。
読んでいて、その生真面目さに辟易とするが、時にそれはユーモアとなって描写されることに救われる。
真の偉大な紳士であると信じて疑わなかったダーリントン卿は、大戦後には対独協力者としての烙印を押され、
旅の最後で再会を果たした女中頭に抱いていた淡い期待は裏切られる。
ラストは見事だと思う。結局、そのようなこれまでの自分の人生を嘆いたとしても、彼はやはり執事としての道を生きるのだ。

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