報道写真家から(2)

中司達也のブログ 『 報道写真家から 』 の続編です

中央銀行とは何ものなのか

2010年08月16日 00時13分02秒 | 中央銀行・バブル

 現代の通貨供給システムは、ほとんどの国で同じ形態をとっている。どこの国にも中央銀行と呼ばれるものがある。中央銀行はベースマネー(現金通貨)を経済に供給し、商業銀行は預金通貨を経済に供給している。

 中央銀行は国家の通貨政策を担っているにもかかわらず、今日、中央銀行の政策には政府の意向はほとんど反映されない。中央銀行は、政府にも国民にも干渉されず、完全なブラックボックスの中で通貨政策を決定している。「中央銀行は政府から独立している方が物価の安定が確保される」、というのが世界の共通認識となっているからだ。

 しかし、ごく単純に考えて、国家の通貨を発行している機関が、政府から干渉を受けない存在というのはあまりにも不可解だ。はたして本当にそれが望ましいあり方と言えるのだろうか。「政府から独立することによって物価の安定が確保される」というのは、まったく合理性を欠いた主張としか思えない。

独立性を保ち、物価の安定だけに傾注している中央銀行の方がこれらの肝心な点で優れた実績を上げているという証拠はほとんどないのである。
p71 『スティグリッツ教授の経済教室』 ジョセフ・E・スティグリッツ

たとえば労働者は、中央銀行が過度の金融引き締め策を採ると失うものが多いにもかかわらず、そうした決定の場に代表を送ることができない。その一方で、失業が増えてもたいして失うものはないが、インフレには大きな影響を受ける金融市場の声は、概して十分に代表されている。
p74 同上

こうした仕組みから利益を受けるテクノクラート(高度の専門知識を持った官僚など)や市場参加者は、この仕組みの素晴らしさと、金融政策を政治を超越したところに置かれるべき専門的事項として扱う必要を説いて、多くの国に見事にそれを納得させてきた。
p72 同上

 中央銀行というのは、特定の利権集団の利益を代表している機関である可能性が非常に高い。だとすると、中央銀行を政府の干渉も及ばない機関に祀り上げてしまえば、恒久的にその利益を維持できることになる。そしてその目論見はまんまと成功しているようだ。

 世界中のほとんどの人々は、自国の中央銀行は政府機関だと信じ込んでいるはずだ。それはごく自然に、中央銀行とはそうあるべきものだと人々が考えているからだ。しかし実際は、中央銀行のほとんどは政府から干渉を受けない、法的に独立した民間機関なのだ。そして、人々の手の届かないところで、その生活に多大な不利益をもたらしている。

 この不適切で不公平極まりない仕組みは、どのようにしてできたのだろうか。


金細工師の錬金術

 現在、世界で流通している通貨は、価値の裏づけのない不換紙幣が一般的だ。これは国家の信用を裏づけとして発行されている。それ以前の紙幣は、価値との交換を約束した兌換紙幣だった。兌換紙幣が登場するまでは、価値そのものが通貨として使われていた。つまり、金や銀、宝石だ。通貨としてこれほど確かなものはない。

 ただし、金や銀などの金属貨幣は、その重量と保管の難しさが問題だった。安全な保管庫がない時代は、価値の保存は庶民にとっても金持ちにとっても大きな悩みだった。今日でさえ、金の保管は厄介事だ。かつてのヨーロッパでは、王侯貴族以外で、安全な保管場所を持っていたのは、金細工師くらいだった。日常的に金を扱う金細工師は、頑丈な保管庫を造っていた。必然的に、金細工師は金保管の社会的役割を担うようになった。

彼らの経営は、その取引の公正さよりは彼らの金庫の堅牢さに、より多くを依存していた。
p50 『マネー その歴史と展開』ジョン・ケネス・ガルブレイス

 金細工師は金を預かると、「預かり証」を発行した。預け人は必要なときに預かり証を金細工師のもとに持参して金を引き出し、商取引などに使った。取引で支払われた金は、すぐにまたどこかの金細工師のところに預けられ、預かり証が発行されただろう。引き出された金が、まったく同じ金細工師のところに舞いもどってくることも多々あったはずだ。彼らは、それならわざわざ危険を冒して金で取引をする必要などないという考えにいたる。預かり証に裏書をして渡せばいいのだ。取引のコストも時間も節約できる。この「預かり証」がヨーロッパでの紙幣の起源となった。

 預かり証による取引の安全性と利便性の認識が広まると、金が引き出される割合はどんどん減っていく。所有権が巷で移動しているだけで、よほどの必要がない限り、金は引き出されなくなる。その大前提は、金細工師が確実に金を保管しているという「信用」だ。もし、一人でも金を勝手に流用するようなふとどきな金細工師が現れると、業界全体の信用が崩れる。金はたちまち引き出されて、保管料というコストのかからない貴重な副収入を失う。ギルドの伝統が、金細工師たちの意思統一と規律を守った。

 金細工師全体で保管している莫大な金は、金庫の中に鎮座し続けた。5年、10年、15年……。彼らはその総量を計算したかも知れない。もしかするとそれは、国王の財貨をしのいでいたかも知れない。あるいは、数回の戦費に匹敵する額だったかも知れない。とにかく、目もくらむほどの莫大な財貨が自分たちの管理下で、引き出されることもなく、ただ静かに眠り続けているだけなのだ。ようするにその金は、そこになかったとしても何の影響もないのだ。そして、代々金細工一筋に生きてきた実直な職能集団の心に……

 金属貨幣の時代は新たに金銀が採掘されない限り通貨は増えない。社会の中で流通するおカネの量がほぼ一定であれば、新しい生産を行なう余地はあまりない。新しい生産には、経済の中を流通するお金が増えなければならない。椅子取りゲームのようなもので、ゲームの参加者が増えれば、椅子の数も増やさなければならない。人口が増えると需要が増える。増加した需要を満たすための生産には、その分の通貨の追加が必要になる。しかし、金属貨幣は人為的に増やすことはできない。人口が増え続ける社会では、金属貨幣はつねに不足することになる。

 おそらく、金細工師の元には、常に通貨供給の依頼があったはずだ。金を貸出せば金利収入が入る。しかし、保管庫の中の金は、他人のものだ。貸したくても貸し出せない。ただし、彼らは長年の経験から、金が引き出される割合や季節的パターンなどを把握していたはずだ。一定の金を貸出しても決して発覚しないことを彼らは理解していた。問題は、単独で行なった場合、一回でも想定外の大量引き出しが起これば、犯罪が発覚してしまう。そのとき、金細工師全体を道連れにしてしまう。

 しかし、グループで行なうなら、想定外の大量引き出しにも対応できる。一定量の金をグループで備蓄しておけばいいのだ。この組織的犯罪を決行すれば、金細工師たちはまったくコストをかけずに莫大な金利収入を得ることができる。それともまじめに日々コツコツ、コツコツと金を叩きながら、保管料という副収入で満足するかだ。さあ、あなたならどうする。

 ほどなく彼らは、あなたの期待をあっさり裏切って、ほぼすべての金を貸出してしまった。この犯罪を可能にしたのが、ギルドの存在だ。彼らには専門技術を何世代にもわたって秘匿継承してきたという伝統があり、その結束力は血よりも堅い。ギルド内の秘密は絶対に外に漏れない。ヨーロッパにギルドの伝統がなければ、金細工師のこの危険極まりない組織犯罪は成立しなかっただろう。

 金細工師たちは、金の保管料を得る一方で、同じ金から高金利を稼いだ。最も旺盛な金の需要者は王侯貴族であり、そうした金は外国の奢侈製品の購入などに当てられ、流通から消えた。金は金細工師の元には還流しなくなり、貸出す金が底をついたところで、この犯罪は終わる……はずだった。しかし、金細工師の犯罪の本番は、貸出す金がなくなったときにはじまった。

 金がなければ、金があることにして「預かり証」を貸し出せばいいのだ。預かり証を発行する制約などない。その気になれば無限に発行できる。その事実に気づいたとき、彼らは呆然としたに違いない。金細工師は、錬金術をあみ出したのだ。預かり証とはすなわち、金の等価物にほかならない。

 金細工師は、金が引き出される割合やパターンを把握しているので、預かり証を増刷した分、市中から一定の金を回収して金準備を増やせばいいだけだった。金細工師たちは、無限に増刷できる預かり証で暴利を得た。

 経済の中の通貨は常に不足していたので、預かり証がどんどん増えても何の問題も起こらなかっただろう。それどころか、経済は活性化したはずだ。産業規模が拡大し、新しい産業も興っただろう。金細工師はそのことにも気づいていたかもしれない。もしワインの供給が不足していれば、ぶどう農園に預かり証を配分してやればよい。農園が拡張され、雇用も増える。

 ペンをすらすら走らせるだけで、時間もコストもかけず、莫大な富を築いた金細工師たちは、家業を廃業して、金貸しを専業とするようになる。そして銀行業に発展する。銀行家となった彼らは、預った金をもとに、兌換紙幣を発行して貸し付けを行った。しかし、金細工師の時代と同じで、預った金の総量などにはまったく制約されることなく、多量の紙幣を発行して金利を稼いだ。インチキの仕掛けはまったく同じなのだ。少しだけ違うのは、預った金に対して利息を支払うという点だけだ。人々は、銀行家は預った金の総量を超えて、兌換紙幣を発行していないと信じた。

 自由に通貨を生み出せる彼ら銀行家は、その時代の支配者と言えた。王侯貴族が銀行家のおカネを必要としたのは、金細工師の時代と変わらない。徴税は常に上限に達しているため、王は銀行家の資金なしには、国家の運営ができなかった。王がもっともおカネを必要としたのは戦争の時だ。

 もしかすると戦争をお膳立てしたのは、銀行家だったかもしれない。たとえ敵同士であっても、秘密を共有する銀行家はギルド的友愛精神で堅く結ばれている。戦争は彼らの勢力を拡大するチャンスだった。彼らは、どちら側を勝たせるかを簡単に決定することができた。資金が底をついたと告げられた王が敗者だ。金細工師の末裔たちは、経済や戦争を自在にコントロールしながら、権力を掌中に収めていった。銀行家にとっておカネは、好き勝手に生み出せる文字どおりの紙切れにすぎない。そんなものは富ではない。彼らが欲したのは絶対的な権力だ。

 ヨーロッパの王室が没落したのは、銀行家の単純なトリックを見抜けなかったからだ。「無」から生み出されているだけのおカネを借り続け、領土も財貨も権威も失っていった。その気になれば、王自らがおカネを生み出せることに最後まで気づかなかった。 


 この単純なトリックは、次々と世紀をまたいで行く間に、公的な通貨システムに姿を変えた。金細工師が近代的銀行になり、ギルドが中央銀行になった。しかし、どのように姿を変えてもインチキの本質は変わっていない。銀行は預かったおカネを貸し出して、金利差を得ているのだと人々は信じている。しかし、実際は預かったおカネを貸出しているわけではない。銀行は、「無」から預金通貨を生み出して、貸出している。

 しかし、そうしたことは経済学の教科書には載っていない。
 現代でも、おカネが誕生する単純な仕組みは公にしてはいけないのだ。

経済学の他のいかなる分野にも増して、貨幣の研究は、真実を明らかにするためではなく、真実を偽装し、あるいは真実を回避するために、複雑さが利用されている分野なのだ。
p9 『マネー その歴史と展開』 ジョン・ケネス・ガルブレイス

 
なぜ真実を偽装し、回避する必要があるのだろうか。
 おそらくそれは、この驚くほど単純な仕組みが、経済に対して絶大な影響力を持っているからだろう。バブル景気から恐慌まで。しかし、中央銀行は、マネーは中立で無力だと装っておきたいのだ。そうすれば、誰もマネーに注目しない。中央銀行が独立性にこだわるのも同じ理由だ。彼らは他者を排除したブラックボックスの中にマネーの真実を閉じ込め、密かに経済をコントロールしたいのだ。

 世界的不況下の今日、国債や歳出削減、増税といった項目に議論が集中しているが、それは見え透いた煙幕にすぎない。
 この事態に、世界中の中央銀行は無力を演じ続けている。
 しかし、セントラル・バンカーは本当は何をすればいいかを熟知している。

 

 


<参考資料>

『マネー その歴史と展開』 ジョン・ケネス・ガルブレイス
『スティグリッツ教授の経済教室』 ジョセフ・E・スティグリッツ
『円の支配者』 リチャード・A・ヴェルナー
『戦後日本の資金配分』 岡崎哲二/他
『通貨・金融の歴史と現状』 新宅彰
『現代金融と信用理論』 信用理論研究学会
『決済システムと銀行・中央銀行』 吉田暁
『貨幣と銀行』 服部茂幸
『銀行業序説』 辻信二

教えて!にちぎん 日本銀行の独立性とは何ですか?
http://www.boj.or.jp/oshiete/outline/01102001.htm
日本銀行法改正の理念――「独立性」と「透明性」
http://www.boj.or.jp/type/exp/about/law01.htm
日本銀行の「独立性」と「透明性」――新日本銀行法の概要
http://www.boj.or.jp/type/exp/about/expdokuritsu.htm
2010.01.12  主要国の中央銀行、金融危機で揺らぐ独立性
http://jp.wsj.com/Finance-Markets/Foreign-Currency-Markets/node_21202
2010.05.26  日銀総裁が金融危機に言及、FRB議長は独立性維持の重要性強調
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-15511620100526
2010.08.15  政治VS中央銀行 独立性はなぜ必要か
http://globe.asahi.com/feature/081222/side/02.html

信用創造について
当ブログ記事 『そもそもおカネとは何なのか』②~⑤
http://blog.goo.ne.jp/leonlobo2/e/472b893a115ba84fba9fcc715d5f2287
http://blog.goo.ne.jp/leonlobo2/e/191061a2a824d42c12f8a8f431307a0c
http://blog.goo.ne.jp/leonlobo2/e/36b401ec10b4fb0fe43bb475b6ca2b04
http://blog.goo.ne.jp/leonlobo2/e/8c52f56fcccbdd53678637be2e466568

ジャンル:
経済
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