世界変動展望

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査読は機能しているか?でたらめな査読で無意味な論文を掲載するのはなぜか?

2014-11-16 17:06:29 | 社会

一般に査読付論文は専門家が内容を審査し相当なものが掲載される。査読を行うことで質の高い論文を選別する。しかし中には査読をでたらめに行っている又は査読していない事がある。2014年2月24日のネイチャー誌の記事で大手出版社のシュプリンガーと電子情報系の著名な学会であるIEEEの会議論文の120編以上が機械が作った無意味な論文で撤回されることが報じられた[1]。仏ジョセフ・フーリエ大学(Joseph Fourier University)のフランス人コンピューター科学者、シリル・ラベー(Cyril Labbe)氏がSCIgenというプログラムで作られた無意味な論文がシュプリンガーで16編、IEEEで100編以上掲載されていることを暴露した。なお、発覚した無意味な論文はオープンアクセスジャーナルのものではなく登録制で見れる論文。

SCIgenはMITの3人の大学院生によって作られた論文を自動生成するプログラム。意味不明な論文を瞬時に作成する[3]。3名はSCIgenとは別の無意味な論文を自動作成する簡単なプログラムを作って論文を国際会議に投稿したところ受理された[3]。以下の内容も驚く。

『ラベー氏はSCIgenの特徴的な言葉遣いを探すことで、この詐欺行為を発見したとAFPの取材に語った。

 同氏は2010年、SCIgenを用いて架空の科学者「アイク・アントカーレ(Ike Antkare)」が書いたとする偽の論文を102件作成し、学術論文の検索サイト「Google Scholar」のデータベースにそれらを追加した。

 アントカーレはしばらくの間「世界で最も多く引用された科学者」リストの21位にランクされていた。この順位は、その時36位だった物理学者アルバート・アインシュタイン(Albert Einstein)よりも高かった。[2]』

このような調査で論文の査読に欠陥があることが暴露された。前に悪質なオープンアクセスジャーナルでは論文の査読が行われていない又は表面的なものに過ぎないことを紹介したが、シュプリンガーとIEEEはどちらも著名で権威ある団体で悪質なオープンアクセスジャーナルとは異なる。そのような団体の論文さえ査読が十分に行われない事が判明したのは驚きだ。

査読がきちんと行われている学術誌はたくさんあると思うが、そうでないところもたくさんあり、著名で権威のある団体でもでたらめな査読をしている事があることが暴露されてしまった。そのような団体で査読が機能しているかといえば、明らかに機能していない。ではなぜでたらめな査読を行うのか?

(1)金のためにでたらめな査読をする

[3]で言及されたように国際会議の中には参加者が高額の金を払う必要のあるものがある。金儲けのためにでたらめな査読を行い、とにかく論文掲載させている団体がある。前に紹介した悪質なオープンアクセスジャーナルも高額の金を払って論文を掲載させている。どちらも一言でいえば金儲けで、論文を掲載又は会議にできるだけ参加してもらって金を儲けようとしており、そのために査読はでたらめ又は全く行わず著しく質の低い論文でも受理してしまっている。このような学問を食い物にするような活動を改善しないといけない。

ラベー氏はFox Newsに対して「there is high pressure on research scientists to publish and to do so frequently, which creates an environment where publishing fake research can be incentivized.[4]」(科学者には論文を発表し、かつそれをとても頻繁に行わなければならないという強いプレッシャーがあり、それは嘘の研究発表を誘発しうる環境を作っている。)と回答。一般に研究者は論文を発表しないと研究費が出なくなり事実上研究ができなくなる。だから成果を出せない研究者は欺瞞を行ったとしても論文を発表したり、金さえ払えば載るような偽ジャーナルやIFの低い雑誌に論文を掲載するのだろう。

物理学者のRobert B. Sheldon氏は「It looks like there are far more charlatans than we thought, or conversely, the economic benefits of securing tenure far outweigh the punishment for getting caught. [5]」(我々が思う以上にペテン師が多いようだ。逆にいえば、定年まで勤められるポストを確保する経済的な利益の方が逮捕される罰よりもはるかに勝っているということだ。)と述べている。

そういう研究者のニーズに対応して偽ジャーナルや偽コンファレンスが実在し、高額な金銭と引き換えにでたらめな査読で論文掲載や口頭発表をさせ金儲けしている。

(2)ボランティアのため査読者のやる気がない

査読はボランティアのようなものだ。査読したからといって研究者に特に利益はない。だからでたらめな査読をすることがある。上司に任された査読なのに代わりに部下が査読しているということも・・・。質の高い査読者を確保することは難しい。何かインセンティブを作るといい気がするが、この点をどう解決すべきか?

(3)著名な著者を信用してしまう

論文の著者に著名人が含まれていると信用して受理してしまう場合がある。例えば井上明久の明白な改ざん論文を受理してしまったのは井上が金属ガラス研究の第一人者だった事が原因の一つだろう。日本金属学会にとって井上明久は大ボスだ。シェーン事件の共著者バトログ氏もその分野の著名な研究者でシェーンの論文が信用された原因の一つはバトログ氏が共著者だった事だ。他にも学生が全く研究に関与していない研究室のボスを自分の論文のラストオーサーに加えている例はよくある。ギフトオーサーだが、はっきりいって誰でもやったことがあるのではないか。なぜボスを著者に加えるかというとボスの名前で論文の信用性を上げ、論文を掲載されやすくし読者にも論文を信用してもらうため。例えば「筆頭著者は学生だが東京大学の○○教授が共著者だから、この論文は信用できるだろう。」と思って全然査読せずアクセプトする場合がある。

シェーン事件等の過去の捏造事件を考えれば、このような有名な著者の信用で無条件に論文を掲載するのは間違った態度で、もともと査読とは名前や信用ではなく論文の内容を審査して判断すべきものだから、本来の査読をしていれば質の低い論文の掲載を防げる。(2)の原因も関連して著者名で信用してしまうのかもしれないが、当たり前の事をやっていない事が原因の一つだ。

(4)裏事情

研究者は査読付論文を発表しないと研究費が出ず非常に困るし、学生も博士号を取得できない。研究者にも当然人間関係があるし、研究者が権力をもってたり、そういう人と友人だったりその人の学生だったりする事がある。研究者が困った時に公正に査読を行うかというと・・・。様々な裏事情で査読が公正に行われていないことがある。

(5)不正の隠蔽

これは不正の疑いのある論文の訂正や撤回公告を掲載する時の話で、表向きは理由を編集委員会が審査して訂正や撤回を掲載する。しかし現実には真実不正だが隠蔽するためにわざと過失による訂正や撤回で処理していることがある。これはでたらめな審査というより不正で必ず改善しなければならないと思うものの、私はよく行われているのではないかと思う。例えば東大分生研事件でネイチャー誌が大量のデータ流用で明白な不正なのに過失による訂正で済ませたり大量訂正、生データなし、実験手順すら変更した小室一成・南野徹らの論文をネイチャー誌は訂正で処理したり大量のデータ流用や加工があったのに学会発表の練習用資料に仮作成した資料を誤って投稿したという創作的な嘘を信じて過失による撤回で処理した関連)。ネイチャー誌の記事によると論文撤回公告中の過失の割合はORI等の調査に比して1.5~3倍高いことがわかったという。要するに不正の認定を避けるためにわざと過失で処理した例が多いということ。

それはリンク先で言及されたように学術誌が面目を保ったり名誉棄損で訴えられるのを避けるためだろう。論文に疑義が生じた時に論文の訂正、撤回公告を不正の隠蔽手段として使っている研究者は多い。理研のように研究不正の疑義がたくさんあるのにSTAP論文は撤回するので調査する必要がないと規程に反する事を公言し改革委員会が調査するように要請しても一時期調査を拒否していたという驚くべき団体も存在する。無論、改革委員会がいうように論文を撤回しても必ず調査しないといけない

以上、査読が機能しない原因には様々なものがある。中には不正行為といえるものもある。質の高い査読者を確保するのは難しいが、これらの不適切さを改善する必要がある。

参考
[1]Nature doi:10.1038/nature.2014.14763
[2]独出版社シュプリンガー、機械生成の「でたらめ」科学論文を撤回へ AFP 2014.2.28 その1,2,3.
[3]How computer-generated fake papers are flooding academia theguardian 2014.2.26、一部日本語訳
[4]NATURE WORLD NEWS 2014.3.1
[5]CONECTTING 2014.4.8
[6]この記事も参考にした