世界変動展望

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STAP細胞は世紀の大発見なのか?

2013-02-26 00:07:16 | Weblog

 これは生物学史に残る世紀の大発見なのか。

 「理化学研究所(理研)などが全く新しい『万能細胞』の作製に成功した」というニュースが朝日新聞など各紙の1面トップに載ったのが1月30日。これ以降、刺激惹起性多能性獲得細胞(STAP細胞)をめぐって、さまざまな報道が続いている。2月中旬からは「論文の画像が不自然」などの指摘もあり、理研が調査を始めた。

 発見を主導した理研発生・再生科学総合研究センター(神戸市)のユニットリーダー、小保方晴子さんがリケジョ(理系女子)として注目されたという話は別にして、そもそもいったいどこが大発見なのか。そして、この発見の行方はどうなるのだろうか。

STAP細胞の何が驚きなのか?

 理研やハーバード大学などの研究者が1月30日付の英医学誌ネイチャーで発表した論文の題名は「Stimulus-Triggered Fate Conversion of Somatic Cells into Pluripotency」。「刺激で惹起された体細胞から多能性細胞への運命の転換」と訳せば良いだろうか。マウスのリンパ球を酸性溶液に入れて化学的に刺激したら多能性細胞に変化したという。

 これがどれだけ衝撃的な発見なのかを知るには、細胞の多能性と分化を理解しておく必要がある。

 動物の受精卵は、将来、体のすべての細胞になる、つまり分化する能力、すなわち多能性をもっている。

 受精卵から分裂して、脳・神経、筋肉、血液、心臓、肝臓などのさまざまな細胞に分化していく時、細胞の多能性は失われる。たとえば、いったん心臓の筋肉になった細胞(心筋細胞)は、細胞を取り出して体外で培養しても、心筋細胞のままで、血液や肝臓の細胞に変化することはない。これは「分化状態の記憶」と呼ばれる。

 分化にはDNAのメチル化がかかわっている。DNA上にある遺伝子にメチル化の目印が付くと、その遺伝子が鍵がかかったように働かなくなる。心筋細胞ならば、筋肉として働くのに必要な遺伝子はメチル化されないで機能しているが、使わない遺伝子にはメチル化で鍵をかけてむやみに働かないようになる。

 DNAのどの部位がメチル化したのかは細胞分裂しても、新しく合成されたDNAにも引き継がれる。ただ、卵子や精子ができるときには基本的にDNAメチル化の鍵が外されて分化状態の記憶がリセットされるので、受精卵は多能性をもつ。

なぜ初期化するのか不明

 STAP細胞の驚きは、酸性溶液に漬けるなど、細胞の外からの刺激という、一見簡単そうに見える手法で体細胞の分化の記憶をリセットし、多能性細胞に初期化する原理を発見したということだ。論文によると、STAP細胞では遺伝子のメチル化の鍵が外れてリセットされていることを証明している。

 2006年に山中伸弥・京都大学教授の研究グループが発表した人工多能性幹細胞(iPS細胞)も驚きだった。しかし、iPS細胞が、その言葉通り人工的に4つの遺伝子を細胞に導入して細胞を初期化して多能性を獲得させたため、「ここまで強引にやれば細胞がリセットされるのか」という納得感があった。

 それに比べると、SATP細胞には驚きはあっても、ストンと落ちる納得感がない。
 酸性溶液に漬けるという刺激で、なぜ分化状態の記憶がリセットされるのか。
 この謎に対する明確な答えはまだ示されていない。

 たとえば、体細胞にはもともと緊急時にリセットする仕組みが備わっていて、酸性の強い刺激でリセットがかかったのではないかと想像することはできる。パソコンのリセットボタンのようなものがもともと細胞に備わっていて、小保方さんたちはリセットボタンの押し方を見つけたといわけだ。ただ、いまのことろ仮説に過ぎない。

検証は始まったばかり

 そうこうするうち、STAP細胞の論文や以前の小保方さんの論文の画像に不自然な点があるなどの指摘が出てきた。理研が調査を始め、ネイチャーも2月17日、同誌のニュースサイトで調査を始めたことを伝える記事を掲載した。

 STAP細胞論文で小保方さんの共著者にあたる若山照彦・山梨大教授は、2枚のマウス胎盤の写真が似ている指摘された点について、朝日新聞の取材に対し、「同じマウスで角度が違う写真を2回使ってしまい、一方の削除を忘れた単純ミス」と説明している。

 共著者の一人、ハーバード大のチャールズ・バカンティ教授も21日、「論文の編集過程で生じたささいな間違いの結果」などとする声明を発表した。声明によると「論文全体の中身や科学的データ、結論には影響しないと考えている」という。

 STAP細胞を他の研究者がなかなか再現できないということも疑念に拍車をかけている。

 iPS細胞の研究がこれだけ世界中で活発になったのは、実験に確実な再現性があり、世界中の多くの研究者が追試して研究を前に進めることができたからだ。

 生物学の実験には微妙なテクニックを要したり、独特のノウハウがあったりするのは事実だ。若山教授もネイチャーの記事の中で「簡単ではない」と認めている。

 なぜSTAP細胞では分化状態の記憶が初期化されるのか、そもそもSTAP細胞とは何なのか、研究は始まったばかりだ。STAP細胞を医療に応用するというような夢の話はともかく、STAP細胞自体のなぞの解明や、論文に対する疑問への答えがいま求められていることは間違いない。

WEBRONZA
2014.2.25

浅井文和

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