中川昭一前財務相が「もうろう会見」の失態がもとで辞任し、この件はひとまず落着した。テレビ映像で見た中川氏のもうろう状態は褒められたものではないが、それで財務相を辞めるほどのことなのか、とも思った。早い話が中川氏が酔っぱらったことでG7そのものがチャラになったわけでもなければ、素面だったからと言ってG7にことさら重みを添えるものもない。株屋の思惑で株価ぐらいに少々影響が出たかもしれないが、経済環境が上向きか下向きか、どちらかに急変するようなものでもなかった。あんなもの、お愛嬌ではないか。日本人の面汚しと息巻く向きもいるようだが、電車の中で乗客のほとんどが酔っぱらっていなくても居眠りするのが独自の風物詩となっているお国柄である。中川氏のもうろう状態は格好良いものではないが、私なら日本の余裕のあらわれと外国に吹聴してやる。
中川氏も「もうろう会見」の席上で、眠気覚ましに小泉さんではないがモンキー踊りでも披露すれば良かったのだ。臨機応変の才覚を発揮し得なかったことだけが悔やまれる。その昔、中川氏の大臣職では大先輩に当たる元大蔵大臣泉山三六氏が酒癖で武勇伝を発揮した。「ウィキペディア」によると《予算委員会に泥酔して出席したことが問題となり、また廊下で山下春江議員に抱きついてキスを迫り、山下議員が抵抗すると顎に噛み付くなどの不祥事が発覚、同年(1948年、引用者注)12月に引責辞任し、また議員も同時に辞職した。》のである。このニュースに思春期の私などは興奮したものだから良く覚えている。そう言えば中川氏のご父君中川一郎氏も国会敷地内での立ち小便で名を上げた方で、これなどに比べても「もうろう会見」なんて、それだけ大臣が小粒になったせいかもしれないが可愛いげなもの、と私などはつい寛容になってしまう。ちなみに、泉山氏は《この一件で「大トラ大臣」として知名度が向上した事が功を奏してか、かえって一般人気は高まったと見え、1950年の参議院議員選挙では全国区から立候補、得票数第7位で当選した。以後2期12年務める》(「ウィキペディア」)のである。
中川氏の振る舞いよりも今回の事件で私の関心を惹いたのはG7出席者に同行した取材陣の存在理由である。今日の朝日新聞朝刊に次のような見出しでかなり大きな記事が出ているが、私が問題にするのは下の記事の部分である。


この記事は2月13日のことで《財務省幹部と打ち合わせ後の午後10時40分ごろから、中川氏が記者4人を呼び、宿泊先のホテル内で翌日午前0時半ごろまで懇談。中川氏はジントニック3、4杯を飲んだ。中川氏と麻布中・高校の同級生でもある財務省の玉木林太郎国際局長も加わった。 》(asahi.com 2009年2月20日10時33分)に続くのである。さらに次の記事がある。14日午前8時15分から、イタリア経済・財務省で始まったG7本会合に出席してからの行動なのである。
《中川氏は昼食会の途中で退席し、宿泊先のホテルに戻った。午後2時50分からのロシアのクドリン財務相との会談までの約40分間、レストランで昼食にサラダとパスタを食べた。
昼食には、玉木局長ら職員3人と政務秘書官、通訳、旧知の知人に加え、前夜に懇談していた読売新聞の女性記者が同席。この場でも酒が出された。「大臣がワインを注文した。レストラン側からこのボトルでいいかと聞かれ、大臣がそれでいいと言った。大臣は口をつけた程度の飲み方しかしていない」「読売新聞の記者は取材で近寄ってきて、時間がないので入ってもらった」(19日の衆院予算委員会の玉木局長答弁) 》
ここで私が注目したのは読売新聞女性記者の存在である。ここまで中川氏に密着して取材している以上、マスメディア他社を寄せ付けない彼女ならではの独自の記事が読売新聞を飾っているであろうと思った。私は読売を購読していないので図書館にでも出かけないと調べようがないが、YOMIURI ONLINEの「激震・麻生政権」の特集記事に目を通す限り、私の期待する記事は見あたらなかった。反対に次のような言い訳がましい記事が目についた。
《読売新聞東京本社広報部の話「衆院予算委員会で取り上げられた14日の昼食に本紙記者が同席していたことは既に本紙で報じた通りです。G7取材の一環であり、記者は昼食の間、携帯電話に、原稿の問い合わせなどを受けて数回にわたり席を外したため、中川氏がワインを飲んだところは見ていません。中川氏はろれつが回らない様子ではありませんでした。記者自身はグラスに口をつけていません。前日の13日夜も他社の記者とともに中川氏と軽食をとりながら取材しました」》(2009年2月20日09時52分 読売新聞)
この記事を読んでこの女性記者はなんて失礼な人なんだろうと私は思った。上の衆院予算委員会の玉木局長答弁で「読売新聞の記者は取材で近寄ってきて、時間がないので入ってもらった」とあるその女性記者なのである。わざわざ割り込んだ昼食に同席しながら(食事をともにしたのかどうかわ記事からは分からない)その間かかってきた携帯電話のために数回席を外したというのである。これでこの女性記者には取材よりも携帯電話に出る方が大事だという判断のあったことが分かる。一国の財務大臣(大蔵大臣と言った方が私は重みを感じるのであるが)に取材している間にかかってきた携帯電話に出ること自体、取材相手に対してきわめて失礼であり、取材をいとも軽々しく放棄した以上、報道人としてはすでに失格なのである。
と私なりに正論をちょっと振りかざしたが、実は私は玉木局長の答弁も読売新聞東京本社広報部の話も信じていない。女性記者が14日の昼食に同席したのは取材なんかでありえないと思っているからである。曲がりなりにもG7取材に抜擢された読売新聞の女性記者が上に述べたような非礼を働く人物であるとは私の常識では考えられないからである。とすると答えは一つ、女性記者は取材ではなく、財務相の取り巻きの一人として昼食に同席したのである。
朝日新聞が《この席(14日夜、ホテルでの会合、引用者注)には朝日新聞記者はいなかった》というのも言い訳がましいが、自社の記者が「取り巻き」と決めつけられずに済むことにさぞかしホットしたことであろう。ここで明らかになったことは、朝日記者は少なくとも女性記者が取材したことになっている13日夜の会合にも14日の昼食にも同席していないのだから、取材チャンスにハンディキャップを背負ったことになる。ところが現実にはどうだろう。G7に関して朝日と読売とで「新s あらたにす(日経・朝日・読売)」に現れた記事は似たり寄ったりであった。私の上の推測と矛盾はしない。
今の経済情勢でG7での取り決めに何かの実効を期待する人が居るとは思えない。それをよく知っているはずの日本のマスメディアなのに大勢の取材陣を派遣する。全くの無駄遣い、他人事ながらマスメディアの経営感覚が心配になる。朝日朝刊記事によると記者会見の《会場は80席あり、メディアは50人程度。ほとんどは日本人で、外国人はイタリア人カメラマンら数えるほど》であった。しかしG7そのもので取り立てて報道すべきものは何もない。しかし大金をかけて「取材」に出かけたのに何も無いではまずいな、と思ったところへ「もうろう会見」は格好の材料を提供してくれた。しかも有難いことに外国のメディアが取り上げてくれた。後は尻馬に乗っかれば良いだけの話である。上の朝日の記事にしても良く読めば中川氏の実際の状況がどうであったのかを明らかにしたものではなく、朝日朝刊本紙には下の見出しで記事が続くが、これは事件の本質の探求、そして多くの読者の知りたいと思っている背景の解明を放棄したことへの言い訳の弁なのである。

「もうろう会見」報道で墓穴を掘ったのは中川氏だけではないように思う。









