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■「日本人と英語」を考えてゆくブログ

小学校英語は明治より存在した!

2006年03月08日 | 記事
日本の英語教育、いや、国語教育を含めた言語教育はもしかすると今、岐路に立っているかもしれないと最近考えています。そう考える直接の理由は最近ニュースなどでも取り上げられている、いわゆる「小学校英語」にあります。私自身、無知ではありますが、これまでもこの問題についてはいろいろ書いてまいりました。
前々回の記事においては、大津由紀雄教授を中心として全国の大学教授や英語教育関係者が署名し、文科大臣に提出した「小学校での英語教科化に反対する要望書」を読みながら考えていきました。しかし、去年読んだ本を読み返してみると、小学校英語は昔から存在したのだとあるではないですか。どのような形で存在したのかは後の記述に譲りますが、小学校英語という発想は新しいものではないということです。過去と現在の連続、連携。これを抜きにしては冷静な議論は成り立ちません。ということでこれからは少し歴史的な事柄なども参考にしながらこの「小学校英語」の問題については考えていきたいと思います。

■小学校英語は以前より存在した!

山田雄一郎先生の著書『日本の英語教育』(以下、山田(2005))には次のようにあります。

 ところで、小学校英語というと目新しい印象を与えるが、小学生に英語を教えるという考え自体は決して新しいものではない。ただ、それが明治時代にすでにあったと聞くと、意外に思われる人もいると思う。ところが、それがあったのである。その実態はともかく、少なくとも、規則の上ではそのようになっていた。

(省略)

もっとも、明治の始めの小学校において英語教育がどの程度取り入れられていたかについては資料が乏しく、まだ不明な部分が多い。規則上はっきりしているのは、「明治期を通じて小学校から英語教育が排除されたのは、明治12年の「教育令」から明治17年の「小学校教則網領」の間のみである」ということである。


ただ注意しないといけないことがいくらかありますので、箇条書きにして書いておきます。

◆明治期の小学校は1886年(明治19年)より尋常科と高等科に分かれている。
◆尋常科、高等科ともに4年間あるが、義務教育は尋常科の4年間。
◆小学校に制度としての「英語科」が設けられたのは高等科(10~14歳)の方であり、それも随意科目(選択科目)としてである。

なお、尋常科、高等科の制度は1907年(明治40年)に、尋常科が6年、高等科が2年になったということも付け加えておきます。

少し年表的にまとめると次のようになるかと思います。

1872年(明治5年) 学制頒布。「小学」の規定に「外国語学ノ一二」とあることから外国語は状況によっては教えてもよい科目となる。
1879年(明治12年) 「教育令」により小学校の教科目から外国語が除外
1884年(明治17年) 「小学校教則網領」で、土着の状況によって英語を加えることができる、となった。
1886年(明治19年) 小学校令改正により小学校が尋常小学校(4年間)と高等小学校(4年間)に分かれ、尋常小学校の4年間が義務教育期間とされる。※英語は高等小学校で教えられた。
1907年(明治40年) 尋常小学校が6年間、高等小学校が2年間となる。よって、英語はそれまでより2年遅れてスタートすることとなった。
1911年(明治44年) 小学校の英語は「商業」の授業に含められることとなる。


■賛成?反対?

伊村元道先生の『日本の英語教育200年』(以下、伊村(2003))に当時の小学校英語に対する反対の意見が紹介してあります。

岡倉由三郎は明治27年(1894)に『教育時論に連載した「外国語教授新論」の中で、次の4つの理由から、小学校から外国語を学ばせるのは害こそあれ、利はないと主張した。
1.日本語の習得すら不十分な小学生に外国語を教えるのは弊害が少なくないこと
2.外国語教授に十分な支出ができないので、不適当な教師しか雇えないこと
3.小学校だけで終わる生徒が多く、外国語に費やした時間が無駄になること
4.中学に進む一部の生徒のために随意科として設けても、別途の労力を費やすこととなり、訓育上弊害を生じやすくなること


一方で賛成論からは、例えば、1909年(明治42年)に、伊藤長七が「小学校に於ける英語科」という論文を発表し、さらなる小学校英語の拡張を求めたということもあったようです。山田(2005)は、この伊藤の論文と現在の小学校英語を求める声について次のように言っています。

(伊藤長七の論文は)いわば、英語教育の早期化案で、現在の小学校への英語導入と通底するところがある。


私も賛成論・反対論を見てゆきますと、山田(2005)が言うように、どちらの論も百年前の議論と同じような議論をしているように思います。特に反対を唱える岡倉由三郎の主張の1.国語力の危惧、2.教師の問題、は現在でも言われていることです。賛成論、反対論は別として、百年前と同じような議論をしているということは進歩がないといいますか、残念といいますか・・・。しかし、基本的な問題になればなるほど、その議論や主張に時代の差はないということでもあるのかもしれません。

いずれにしても、今から百数十年以上も前の明治期にはすでに制度的には小学校で外国語(英語)を教えてもよいということになっていたということです。伊村(2003)には、「昭和に入っても付属中学の教官による小学校の英語授業は続いた」とあります。さらに、「全国一律ではなくても、公立小学校でも明治以来戦後の6・3制の発足直前まで、60年以上にもわたって、英語が教えられてきた」とあります。戦争をはさんで、それまでの約60年は小学校で英語を教え、その後の約60年は小学校ではやっていない、ということは事実ですし、非常に興味深いことであります。

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