いくらおにぎりブログ

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【映画】いとはん物語

2008-11-24 | 邦画 あ行
【「いとはん物語」伊藤大輔 1957】を観ました



おはなし
顔がちょっとナンですが、気立ての良いいとはん(お嬢さま)のお嘉津に結婚話が持ち上がり……。

女優さんが、あえて不細工メイクをして映画に出るというのは、例えば成瀬巳喜男監督の「放浪記」で高峰秀子がチャレンジしていましたが、この映画は一味違います。京マチ子のメイクがなんというか、スゴスギ。冗談抜きで、「本当は別の俳優さんが演じてて、京マチ子は声だけあててるんじゃないの」と最後まで疑っていました。

大正時代、老舗が立ち並ぶ大阪西長堀では、お稲荷さんのお祭りが行われています。ここ「扇弥」という扇屋の老舗でも、手代をはじめ小僧さん、女中さんはウキウキソワソワして仕事が手につきません。これには、さすがの女将・おわさ(東山千栄子)もお手上げ。今日は早仕舞いしよ、ということになったのです。

どうやら、このお祭りでは、扇弥のとうさん(娘)三姉妹が、供物をもって参詣するのが恒例のようです。かつぎ(ベールみたいなもの)をかぶって、静々と歩く三姉妹。次女のお咲(矢島ひろ子)、三女の菊子(市川和子)はいずれも、美しくそしてカワイイ顔立ちですが、肝心の長女、お嘉津(京マチ子)の顔はかつぎの下、奥深くに隠れ見えません。

そりゃ総領娘が一番の別嬪だ。三姉妹を見物している青年の一人が意味ありげに、新参者の青年に囁きます。そうか、次女、三女があんなにキレイなんだから、長女はどれだけキレイなんだろう。ワクワク。おっ、かつぎを取るぞ。と、そこに現れたのは、なんというかスゴイ顔。寸足らずの眉に、ショボショボした目。巨大な鼻の穴に、乱食い歯を包むおちょぼ口。「清やんも人が悪いなあ。どんな美人かと思わせといて」。アッハッハと、騙された青年を笑う仲間たち。

そんなお嘉津をバカにする声が聞こえてきたのでしょう。「ちい姉ちゃん帰ろう」と三女が言い出し、次女とともに逃げるように帰ってしまいました。それでも、あとに残されたお嘉津と、小間使いのお八重(小野道子)は、イヤな言葉を聴かないように、懸命にお稲荷様にお祈りをするのです。

「八重、縁結びの神さんだけに、特別に熱心やな」「だって、いとはんだって」「あら、あてみたいなもんやて、やっぱり女やもん。若い女の子なみのお願いはあります」、そんな会話からも二人の主従の仲の良さが伝わってくるようです。「いとはんのお相手って誰やろ」と冗談めかして聞いてみるお八重。しかし、お嘉津は「あての胸の奥の底の底で、そっと思うてることやもん」と、こればかりは教えようとはしないのです。

さて、青年たちは、性懲りもなくお嘉津をからかおうと待ち構えていました。「♪もしもし亀よ、亀さんよ♪」をオカメに変えて、はやし立てる青年たち。同じ男として、こういうヤツらには、グーパンチで教育をしてやりたいところですが、映画の中にもいました、いました。ふざけた歌を聞きとがめて、「失敬なことすんな」と番頭の友七(鶴田浩二)が飛び込んできたのです。「喧嘩だ、喧嘩だぁ」、ドスンバタン。屋台をなぎ倒しながら喧嘩をする友七VS青年たち。戻ってきた次女が「店の名にかかわるやないか」と友七を叱っていますが、これは姉のお嘉津の気持ちを考えていない対応ですよね。お嘉津にとって、友七の行動がどれだけありがたく、心を暖かくするものだったか。「友七、すまなんだなあ、あてのことで。そこいらの壊したお店、あんじょうコト言うて、弁償しといてんか」と、精一杯の感謝をこめてお財布を渡すお嘉津です。

お嘉津のところにお友達が遊びに来ています。どうやら、共通の友人が結婚をするので、お祝いに何をあげようかと相談しているようす。一通り相談も終わり、迎えにきた旦那様(川崎敬三)と連れ立って、仲良く帰っていくお友達。そんな美男美女の組み合わせをほほえましく思って、見つめていた女主人のおわさの表情が強張りました。お嘉津が柱の陰から、美男美女の組み合わせをそっと見つめているのです。いきなりお嘉津が不憫で、不憫でたまらなくなるおわさ。次女などは、最初からお嘉津にお婿さんが来ることはないと割り切り、自分が婿をとって扇弥を継ぐ気でいますが、母親としては、そんな次女の利己的な態度もうとましく、かえって長女のお嘉津への不憫が募るのです。

お嘉津が部屋で書き物をしていると、口笛が聞こえてきました。「庭の千草」という美しく、少し物悲しいメロディです。見れば、番頭の友七が口笛を吹きながら、物干しで菊の花に水をやっている最中でした。近づいて「四国に行くんやて」と声をかけるお嘉津。「へい、土佐まで。しばらく留守にするんで、こいつが心配で」。そう、それなら私があんたのいない間、お水をあげると約束をするお嘉津。お嘉津はちっとも偉ぶらないお嬢さんなのです。というより、友七の丹精した菊を、心から愛おしそうに世話をしているようすからすると……。

桃色のステキな帯止めを見て、キレイですねえ、と嘆息しているお八重。これは、お嘉津が結婚するお友達のためにあつらえた特注品です。「こうてやるわな」とお嘉津は言い出しました。お八重が誰かステキな人と結婚するときには、わたしが、これよりもっとステキな帯止めを買ってあげる。と、それはともかく、忘れてました。引き出物は買ったけど、その前にお祝いの手紙を出さなくちゃ。あわてて、手紙を書き始めるお嘉津。三味線はもちろん、お嘉津の手蹟(て)は並みではありません。たおやかな指から、実に綺麗な字がスラスラと紡ぎだされます。おっと、それでも上手の手から水は漏れるもの。書き損じです。まあ仕方ありません。何の気なしに、そこにサラサラと筆を滑らせるお嘉津。いったい、何を書いているんでしょうね。「ああ、そやそや。菊の手入れするの忘れてた」、軽い足取りで、物干しに向かうお嘉津です。

おわさが部屋にやってきました。何の気なしに、お嘉津の書き損じた反古(ほご)を見つめます。「友七、友七、友七さま……」、余白にびっしりと番頭の友七の名前が書いてあるではありませんか。思わず鼻の奥がツーンとするほどの不憫さに襲われたおわさは、衝動的に「お嘉津」と声をかけてしまったのです。「何やね、おかあちゃん」「実はな、折り入って、あんたに相談がおまんねん」。もちろん、事前に計画していたわけでも、何でもありません。ただ瞬間的に、お嘉津不憫さのあまり、口走った愚かな母の世迷言とさえ言えるでしょう。隠居したいから、あんたに婿を取りたいと言い出すおわさ。「友七や。友七に決めてますんや」。ピキーン。思わぬ言葉に固まるお嘉津。「どやろな」「うち……おかあちゃーん」。手を取り合って泣く母娘。しかしどうしたことでしょう。それを部屋の外でそっと聴いていたお八重の顔が蒼白になっていますよ。もしかして。

ルンルンのお嘉津。思わず鏡に自分の顔を写してみたりしています。でも、そこにあるのは、やっぱり自分が、そして人が嫌ういつもの顔。でも、片手で眉をかくして、もう一方の手で口元を隠せば、うん、そんなに悪くないかも。クルクル。鏡の前で回ってみたり、とにかく大はしゃぎのお嘉津です。しかし、そんなお嘉津とは対照的に、お八重の表情はますます曇っていくのです。

やはり老舗の女主人ともなれば、おわさの行動力は非凡なものが。四国に扇の地紙を買い付けに行っている友七の帰りを待たずに、早速、友七の兄を電報で呼び寄せることにしました。長年、お世話になっている奥様のお呼びとあって、取るものもとりあえず駆けつけてきた友七の兄、松吉(加東大介)に一通り説明するおわさ。「ムリやろか、この話」「いやぁ、勿体無い」と松吉は平伏。「ただなあ、友七がどう考えるか」「いやぁ、滅相も無い」とまた平伏。なんか、話が通じているんだか通じていないんだか、いまいち不安ですが、おわさとしては兄からも結婚の了承を得たと「確信」するのです。

それを聞いて、完全に有頂天のお嘉津。友達から貰った新婚旅行の写真を見ると、それが近い将来の自分の姿に思えてきました。ぽんわわーん。富士山を見ているステッキ片手のステキな紳士。そして、横にいるのは美しい新妻。紳士の吹く「庭の千草」のメロディをウットリと聞きながら新妻はイソイソと後ろをついて歩きます。紅葉の富士五湖はまさに夢のような美しさ。歩き疲れれば、鄙びた茶店で休憩。おや、近在の子供たちが「いちばんぼーしみーつけた」と歌いだしましたよ。そうそう、一番星から二番星の出るまでの間に、願い事をすればかなうと聞いています。思わず、熱心にお祈りをする美しいお嘉津。「何を願ごうたの」という友七の優しい声に、胸が苦しいくらいの幸せを感じつつ、「いつまでも二人。仲良く暮らせますように」とお嘉津は答えます。「そや、いつまでも仲良うにな。私も一緒に祈ろう」。ああん、友七。あたし幸せ、ムニャムニャ。もちろん、夢オチなのは言うまでもありません。

やっぱり電報で呼び返された友七が港につくとお兄さんが待ち構えていました。説明されて、「知らなんだ。いとはんが、それほどまでにわしを」と絶句する友七。しかし、これはタダゴトじゃありませんよ。「兄さん、あんたいくらなんでも、勝手にそんな大事な話きめたんやないやろね」。「……」。えーっ、OKしちゃったの。「断わるっちゅうのか」とお兄さんはオロオロしていますが、こっちだって困りますよ。うーむ。

友七が店に帰ると、訳知りの古株女中お幸(浦辺粂子)が、ススッと寄ってきて、「友さん、あんたハラ決まったの」と声をかけてきました。決まったも何も、こっちだって驚いてる真っ最中ですよ。早速、主人のおわさに呼び出される友七。「他でもないが、兄さんから聞いとくんなはったか」「へえ」。ありがたい話だと思います、けど……ちょっと考えさせてください。うんうんとニコニコのおわさ。すっかり友七が遠慮しているだけだと思い込んでいますよ。それが証拠に、お嘉津の部屋に行って、一部始終を説明してますから。ええっ、考えさせてくれって、と衝撃を受けているお嘉津に、「うふふ。アホやなあ。こんな話の場合にはな、ちゃんと得心はしていても、一応考えて見ました上で、と言うのがお決まりなんや」と自慢しています。そんな母娘の会話を立ち聞きしつつ、ポロリと涙を流しているのはお八重。さあ、どうなるんでしょうか。

お幸の手引きで、お稲荷さんに来たお八重。そこに友七が息を切らしてやってきました。「あんたがここで待ってるさかいにとな、お幸さんがそっと。わての心は決まっとんねん。あんたの覚悟聞かして欲しいんや」。「好き、好きよ」と言いつつ、身を引くというお八重。「このままお別れしたかて、あたしは愛されたんですさかい、あたしはそれだけで生きていけます。でも、もしもあんたが断わらはったら死ぬかもしれへんお方があるでしょ。分かってます。愛の無い結婚ができるかって。でも、それも考えようでは、もっともっと大きな愛情よ。今ではあの方はもう、あなた無しでは生きていかれへんの。そして、とってもいい方なんですもの」。しかし、友七がそんな言葉に納得できるわけもありません。「お八重さん、このまま黙って二人で逃げよか」。黙って首を振るお八重。「そうとも、そんな卑怯なマネはできん。ここで待ってて。話は僕がつけてくる」

そんな話を一部始終、聞いてしまった次女。日頃の冷静さにも似ず、姉ちゃんにそんなこと言わないで、と友七をかきくどきます。どうぞ、姉ちゃんと結婚してあげて。しかし友七は、それはできない、とキッパリ断わるのでした。あの美しい心を騙して、生涯を共にするなんて耐えられない。それに、それじゃあいとはんに失礼です。

しかし、そうは言ったものの、悲しくなってしまうほどモジモジして、それでもひたむきなお嘉津を見ると、友七だって、なかなか真実を切り出せません。なにしろお嘉津はちっとも悪くないんですから。「実はわたくし……。……」。と、そこにお幸がやってきて、陰からちょっとちょっとと手招きしていますよ。なんだろう。ちょっと失礼します。と、お幸はお八重からの別れの手紙を持ってきたのでした。「バカッ。バカバカ」と怒る友七。なんて早まったことをするんだ。何がなんだか分からずにキョトンとしているお嘉津に、友七はだまってお八重の手紙を差し出して、「すんまへん」と走り去っていきます。そして、その手紙を読んだお嘉津の顔はさっと青ざめ、放心状態になりました。ふっと、鏡を見ると、そこには人に愛してもらえない自分の顔があります。泣きながら、鏡に乳液をぶちまけるお嘉津。まるで、そうすれば、自分の顔が消えてなくなるかのように。

お幸から事情をきいたおわさがやってきました。「幸から聞いて。堪忍してや」「ううん。うちはええねん。ほんのしばらくの間だけでも、うれしい目がでけたんやもん」。そう言いつつも、またブワッと涙が溢れるお嘉津。結局、母と娘は手を取り合って、身も世もなく泣き崩れるのでした。うわーん。

「それよりなあ、おかあちゃん。八重と友七さんのこと。出るように計ろうてやってな」と、涙声で言うお嘉津。そこに、近所の子供たちの「いちばんぼーし、みーつけた」と歌うのが聞こえてきました。まるで友七の分身のように、一生懸命丹精してきた菊に囲まれた物干しで、お嘉津はいつまでも顔をおおって泣き続けるのです。


いやあ、こうやって書いてても悲しくなってきました。最初は、ブサイクなお嘉津だけど、友七の愛に包まれて、どんどんキレイになっていくハッピーエンドのお話かと思っていたのに、こんな展開になるとは。徐々に雲行きが怪しくなると同時に、なんだか悲しくなってきて、ラストシーンでは不覚にも鼻の奥がツーンとしてしまいました。

なにしろ、この映画には悪い人がいません(無神経な青年たちは別として)。お嘉津も悪くない。お八重も悪くない。友七も悪くない。おわさだって、お兄さんだって、行動の結果はともかくとして、キッカケは善意で動いているのです。でも、こんな悲しい結末になるとは。

鶴田浩二も小野道子も、いいお芝居をしていました。抑制された演技の裏にあるパッション。それを上手に表現していたと思います。しかし、やっぱりこの映画のキモは京マチ子。とてつもない醜女メイクでありながら、動きや表情の使い方がカンペキで、「いい人」なんだなあと思わせます。そう、最初は仰天メイクでビックリさせて、でも映画が終わる頃には、「お嘉津」という人間が、本当にそこにいて、そして観ている人間がまるで、本当の親友のように「お嘉津」を大好きになっている。そんな難しい役を立派に演じきったと思います。

でも悲しい。お嘉津が幸せになるといいなあ。







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