いくらおにぎりブログ

邦画中心の映画感想ブログです。ネタバレがありますのでお気をつけ下さい。

【映画】黒の凶器

2010-02-01 | 邦画 か行
【「黒の凶器」井上昭 1964】を観ました



おはなし
産業スパイに利用され会社を馘になった片柳は、自らが産業スパイになり……

田宮二郎が久しぶりに産業スパイに復活しました。いやあ、めでたい。やっぱり、中小企業の社長だとか能天気弁護士より、産業スパイの方が田宮二郎には似合ってますよね。


ジャズのメロディとともに、テレビ工場が映りました。タイトルロールにかぶさるように田宮二郎のナレーションが聞こえます。「その頃、各電機メーカーはテレビの増産に拍車をかけていた。月産およそ6万台。一日平均2500台。驚く無かれ、12秒ずつの割合でテレビが誕生している。この過当競争に打ち勝つためには、各メーカーはテレビを大型化するか小型化するか、あるいはカラーテレビの普及を狙うか、ともかく何らかの新しい手を打たなければならなかった」。

ジリジリジリ。5時の終業のブザーが鳴り、ここ大日本電気のテレビ工場では、工員たちが一斉に建物から出てきました。そんな中、若い男子工員のひとりが、ロッカーに入れられた封筒に気づきましたよ。「おい、こんなものが入ってたぞ」「え、俺んとこにも入ってるぞ」「俺もだ」。それはバーエンジェルが二周年記念で出したハイボール1杯のサービス券だったのです。そこにランニングシャツ姿でやってきたのは、検査工の片柳七郎(田宮二郎)。飲めない友達にサービス券をもらって、みんなでバーに行くことにしましたよ。ここで、また田宮二郎の渋いナレーションが。「この一枚のサービス券が俺の運命を狂わせることになった」。確かに、意地汚いことをするとロクなことは無さそうです。

バーでご機嫌な田宮二郎。それもそのはず、ハイボールは1杯だけどタダだし、その上、セクシーなホステス・登川れい子(浜田ゆう子)が自分をかまってくれたんですから。「俺はなんだかまぶしくて、女の顔をまともに見られなかった」と、田宮二郎らしからぬ純情っぷりを発揮しつつ。「また来ていただきたいの。あなたにだけ」と言われると、すっかりメロメロです。

「しかし、一介の検査工である俺になぜ」と疑問に思いつつも、ゴージャスな浜田ゆう子に誘われるまま、ノコノコとドライブに行く田宮二郎。「ねえ、今夜はここに泊まらない」とか言われて、「俺はれい子の虜になった」そうです。まあ昼間は検査工、夜は夜間大学に通って技師になるのが夢な、マジメ一方の田宮二郎にとっては、これはまさに夢のような展開ですからね。

そんな夢見る田宮二郎に、株を買うように勧める浜田ゆう子。そうだわ、自分の会社の株を買いなさいよ、お金貸してあげるから。「大日本電気の株ね、値上がりの情報があるの。本気で買ってみない?」「値上がりの情報って」「RV17作戦。今、あなたの会社が作り出そうとしている新製品よ。それがもし、画期的な製品だったら値上がりは絶対ね」。うわーっ。ウソくせえ。傍から見ると、どう考えても騙されてるんですけど、しかし、恋する田宮二郎は、浜田ゆう子に勧められるまま、ホイホイと新製品の正体を探るのでした。

中央研究所の焼却炉からブラウン管の破片を拾う田宮二郎。「何してんだ」と戸村課長(根上淳)に疑いのマナコを向けられたりしてますが、コトの重大性を理解しないまま、それを浜田ゆう子に渡してしまいます。えへへ、これで彼女が喜んでくれるならお安い御用さ。ルンルン気分がマックスまで高まった田宮二郎は、お母さんの肩をもみつつ恥ずかしそうに言います。「俺なあ、結婚しようと思うんだ」「ねえ、母さんっ。俺たちのこと賛成してくれるだろ」。

そのころ、大日本電気のライバル会社・太陽電器の技術部では、田宮二郎が浜田ゆう子に渡したブラウン管の破片が分析されている真っ最中。「ガラスの厚みと湾曲の具合から復元しますと、だいたい、こんな風になります」。技師は予想図を専務の黒沼(金子信雄)に示しました。「およそ6インチくらいのブラウン管になります」「6インチ。そうすると、これが大日本電気のRV17か」「そうです。画期的なマイクロテレビです」。ふーむ。

数日後、田宮二郎が仲間とお昼ご飯を食べていると、根上淳からの呼び出しがかかりました。「課長、お呼びですか」「片柳クン。君、会社を辞めてもらうことになったよ。理由は君自身の胸に聞けば分かるだろう。組合も君の解雇を認めたよ」。ビックリ仰天した田宮二郎は「ぼ、ぼくは馘になるような覚えはありませんよ」と抗弁してみますが、根上淳はヘビのような冷たい視線を田宮二郎に注ぎつつ言うのです。「そうは言わさんよ。君の行動をずっと監視していたんだ。君が関係しているバーの女給は太陽電器のスパイだったんだ」。

馘になった田宮二郎は、さっそくバーエンジェルに行ってみますが、すでに浜田ゆう子は行き先も告げずに辞めたあと。浜田ゆう子の顔がまぶたの奥にちらつきます。そして、その笑い声が脳裏に反響します。「ちくしょう。俺はやるぞ。俺はやるんだ。俺自身が産業スパイになって、必ずこの敵を討ってやる。俺を罠にかけ、俺の将来の夢も希望もメチャクチャにしてしまった太陽電器の奴らを叩きのめしてやる。目には目を、歯には歯をだ」。ドスッ。鏡を殴る田宮二郎。そこに映った田宮二郎は、無数のヒビに覆われ……。

「それから3年」。走る特急電車には、大日本電気の高杉が女連れで乗っていました。これから新製品の会議に出たあとに、女と白浜の温泉にでも不倫旅行を楽しもうという腹です。と、そこに電話の呼び出しが入りました。雑音のひどい電話ですが、本社秘書課長に出世した根上淳の声に間違いありません。根上淳が言うには、高杉の持っている新型魔法瓶の設計図を狙って太陽電器のスパイが特急に乗り込んでいるそうです。ついては、四日市支店の新藤を応援に送るから設計図を守れとのこと。高杉が女連れなことまで知っている根上淳は、スパイには女も混ざっていると言うもんですから、小心者な高杉はすっかり震え上がってしまうのです。もしかして、俺の彼女がスパイ?ま、まさかね。

四日市から乗り込んできた新藤は、ゴツくて頼りになりそう。ほっ。設計図の入ったカバンを預けて女と一緒にビュッフェに行く高杉。仮に彼女がスパイでも、これなら安心です。しかし、待ってください。ニコヤカに高杉を見送った新藤は、そそくさとトイレに行ってカバンを漁っていますよ。そして、カバンを持ったまま、桑名駅で降りてます。と、ホームで新藤の前に立ちはだかる謎の男。コートにボルサリーノを被り、サングラス姿というイカニモな服装ですが、これは田宮二郎です。田宮二郎が大きくなって帰ってきました。ニヤリと笑いつつ田宮二郎は言います。「そうは問屋が卸さないぜ。それをこっちに返してもらおう。それとも一緒に警察に行くかね。窃盗現行犯だ。どっちにする」「あんた、いったい誰なんだ」「俺は大日本電気の者じゃないが、太陽の黒沼専務にはこってり絞られたことのある男さ。黒沼さんによろしくな」。

設計図を奪った田宮二郎は、いきなりトルコ風呂にいます。体をもませつつ、「どうだい。俺の仕事、手伝ってみないか」とトルコ嬢のマリ子をスカウトしたりして。そう、マリ子をお手伝いにして黒沼専務の家に潜入させようという腹なのです。「スリルがあって銭が儲かって、コタえられないぜ。どうだい」「そうねえ、トルコ娘もそろそろ見切り時だしさあ」。それにしても、どう見ても、マリ子はオツムが軽そうなんですが。人材発掘は、もう少し慎重にやったほうが良いような気もしますけど。

さて、設計図を盗まれた高杉を、大日本電気の長棟社長(石黒達也)がこっぴどく叱っていると、田宮二郎から電話が入りましたよ。えーと、電子魔法瓶の設計図を持ってるんですけど買いませんか。まあ、買いませんかと言われれば買いたいのはヤマヤマな社長なので、秘書課長の根上淳と一緒に田宮二郎に会うことに。でも、「2号さんのお宅にうかがいますよ」と田宮二郎に言われてビックリです。そんなことまで掴んでいるのか。

はい、2号さんの家で社長と根上淳が待っていると、田宮二郎がやってきました。「君はっ!」とビックリする根上淳に、田宮二郎はニヤリと笑います。「思い出しましたか、戸村課長」「かた、片柳だね、君は」「そのとおり。3年前に会社を馘になった片柳ですよ。しかし、本社の秘書課長に出世なさったそうで、おめでとう」。そういいながら、田宮二郎は自慢で鼻がピノキオ状態。ふふふ、俺を馘にした奴らが、今は俺の足元にひざまずくのだあ。と、思ったら「その書類はね。実は太陽電器の連中に盗ましたんだよ」と根上淳はひとこと。確かに、特急に入った電話の声は間違いなく根上淳でした。「一人前の産業スパイになったと大きな口をきいたけどね、まだまだ素人だよキミ。そんなことじゃ」。根上淳にバカにされて、田宮二郎はヨロヨロと帰っていくのです。

その帰り道。夜道を歩いていると、キラリとナイフが光りました。田宮二郎が謎の男たちから襲撃されたのです。とりゃー。うりゃっ。暴漢たちをあっさり返り討ちにする田宮二郎。そんなことも知らずに社長と根上淳は談笑中ですよ。「大丈夫だったかなあ」「ご心配なく」「しかし、手荒なことはしたくないねえ」。そこに田宮二郎がどどーんと登場です。「ホントは喉から手が出るほど欲しかった書類だったんですね」。睨まれてオドオドする社長たち。最後はごめんなさいです。

ところで、黒沼専務の家に女中として潜入した元トルコ娘なマリ子は、掃除をしつつ書類を盗み見したりしています。まじめにスパイをしているみたいですね。おっと、黒沼の息子がマリ子のお尻を触ってきましたよ。マンザラでもなさそうな顔で、ニヤーっと笑うマリ子。取消します。やっぱスパイには向いてないかも。まあ、それはともあれ、縦目ベンツで待っている田宮二郎のところに、マリ子が報告に来ました。とは言え、成果はゼロ。そのうえ、黒沼の息子に惚れたみたいですよ。「彼はねえ、気がいいの。頭は少し弱いらしいんだけどさ。きっとオヤジの反動でああなったのね」。頭が弱いのはお前の方だと、問い詰めたい気分の田宮二郎ですが、ここはグッと我慢我慢。「そりゃそうと、訪問客の写真は撮ったのかい」「うん」。写真を見ていた田宮二郎の顔が驚愕に歪みました。「この女は!」。憎んでも余りある浜田ゆう子の姿が、そこには写っていたのです。

大日本電気の会議室では重役会議の真っ最中。「向こうの情報は分からんのかね。どうしても」「はあ、手は尽くしているんですが」。不甲斐ない部下たちに、社長の血圧は高まるばかり。そこに、いきなり田宮二郎が乗り込んできましたよ。「社長、私の力を利用なさったらいかがですか。太陽電器の電子冷蔵庫の情報は、そこの戸村さんの腕じゃ、ちょっとムリなようですね」。ムカーっとしてる根上淳を尻目に田宮二郎のボルテージは最高潮に。「私がなぜ産業スパイになったのか、あなたには分からないようですね。社長、私は太陽電器のスパイの罠にかかって、この会社を馘になりました。そのために、私の将来の夢も金も地位も、みんなメチャメチャになってしまったんです。私は金が欲しかった。私は奴らに復讐するために、この会社を馘になって3年間、産業スパイの修練をしました。私の目標は太陽電器の黒沼専務です。私はスパイの仕事であいつを叩き潰してやりたい」。えーと、産業スパイの修練ってのがスゴイな。いったい何やるんだろ。

はい、見事、依頼を勝ち取った田宮二郎は、インチキ日系人に変装して黒沼専務な金子信雄のところに。「ワタシは実はCICの者デース」「CIC?」「そう、ゴ存知でしょうが、米軍の対敵情報部の者デース」。ということで、組合に関するあることないことデマカセを言いつつ、こっそりテーブルの下に録音機をしかける田宮二郎。よし、これで秘密はマルっといただきだ。

田宮二郎が、家で隠し撮りをしたフィルムを現像しているとマリ子から電話が入りました。「こないだの写真の女の人が今来てるわよ」「そうか、よし、すぐ行く」。縦目ベンツで飛び出します。ぶろろー。どうにか、浜田ゆう子がオープンカーで帰るところに間に合ったようです。よーし追跡だ。ぶろろー。マンションの前で停まったオープンカーに近づく田宮二郎。田宮二郎に気がついた浜田ゆう子は観念したように黙っています。そのまま、部屋に上がる二人。そして、その部屋は、豪華な調度品でいっぱいでした。バシッ。浜田ゆう子を殴りつけた田宮二郎は言います。「殴るつもりじゃなかった。だが、この部屋を見たら、殴らずにはいられなかったんだ」。確かに、それは騙された人間たちの苦しみで購われた豪華さです。豪華な調度のひとつひとつが、彼女の勲章なのでしょう。言い訳をする浜田ゆう子に、それを許さない田宮二郎。「じゃあ、どうすればいいの」「償いをしてもらうよ」。そう、電子冷蔵庫の秘密を探るのに協力して欲しいんだ。「逆スパイをやれっていうの」「そうだ。黒沼専務を裏切ってもらいたい」、カバッ。ムチュー。田宮二郎のキスに浜田ゆう子はメロメロです。激しく上下する喉。シーツをぎゅっと掴む手。うーん、うまい演出です。下品にならず、しかもエロティック。

さて、浜田ゆう子の協力で、専務の金子信雄の部屋から録音テープを回収できました。そして、それを聞いてビックリ。なんと、電子冷蔵庫は完成間近。明日、金子信雄に書類を見せたら、そのまま特許申請をするそうですよ。「明日になると、書類は専務室の金庫に入っちゃうわ。あそこに入ったら、もう取るのは不可能よ」「今夜なら、まだ技術部にあるというわけだな」。ってことは、今夜中に盗むしかない。

そーっと、そーっと。足音を忍ばせながら技術部に向かう田宮二郎。警備員の足音がすると、ササッと隠れたりして。それでもどうにか、技術部の部屋に着きました。ゆっくりドアノブを回すと……リーン。げげっ、非常ベルが。どどどど。懐中電灯の光がきらめき、男たちが田宮二郎に迫ってきます。慌てて逃げ出す田宮二郎。しかし逃げ込んだ先は、会社のホールです。このままじゃ袋のネズミだ。と、そこに浜田ゆう子が現れました。「さあ早く」。彼女の案内で、一緒に階段を駆け下り、地下駐車場へ。そのまま浜田ゆう子の車で脱出です。ぶろろー。

「なぜ俺を助けたんだ」「あたし、急にあなたを助けたくなったの。あの録音はね、ホント言うと、あなたをおびき寄せるための罠だったのよ。でも最後まで騙しきれなかったわ」。

渋く酒を飲んでいるところに金子信雄が接触してきたり、さらにその刺客に襲われたりしつつも、田宮二郎は元気。復讐の炎はかえって燃え盛っていますよ。しかし、金庫に入った書類はどうしようもない。どこかに突破口は無いのかっ! と、ありました、ありました。マリ子がスパイをやめて、専務の息子とカケオチすると言い出したのです。気前良くカケオチ費用を出す田宮二郎。「そのかわり出発は明日の朝だぜ」「何か計画してるんでしょ」。

太陽電器専務室の電話が鳴ります。「黒沼専務ですね」「そうですが、どなたです」。いや、田宮二郎に決まってるじゃないですか。昨日の夜に会ったのに、もう声を忘れてるんかい。「あなたの息子さんをお預かりしてるものです」と、謎の声っていうか、あまりにも田宮二郎な声は言いました。ムスコさんの命が惜しかったら、書類を公表するのだあ。あ、折り返し、自宅に電話するから、細かい話はその時に、ガチャン。

奥さんはワアワア泣き、速達でムスコの車の鍵が届いたりして、誘拐間違いなしな気分の金子信雄。そこに、また電話です。「黒沼専務ですね。書類を公表する方法をお教えします。お宅の技術研究所にテレビの発信装置がありますね。それで書類を映して放送してくださればよろしい」「君、君は片柳だろ」「そんな名前は存じませんね」。ははあ。そうですか。ともあれ、金子信雄は意外と部下に慕われているようで、みんなは口々に放送しましょうの大合唱。ニセモノ、とんでもない。坊ちゃんの命には代えられないじゃないですか。うーん、まるで高松英郎のような上司だ。

しかし、金子信雄だって凄腕のスパイマスター。ただ青二才の言いなりにはなりませんよ。放送直前に田宮二郎から確認の電話が入ると、こう言い出したのです。「困ったことがあるんだ。190メガでは発信できないんだ」「何っ」「うちの研究所はUHF放送なんだ」「UHF?」「770メガサイクルだ。この方法しかない」。「今さらそんなことを言ってもダメだ」と動揺しまくる田宮二郎ですが、結局は「よし、じゃ770メガサイクルで放送しろ」と言って電話を切るのです。ガチャン。「なぜUHF放送になさったんです」と訝しげな部下に金子信雄は言います。「この辺は障害物が多い。直進性の強い極超短波なら、受信のエリアがうんと狭くなるじゃないか」。さっすがあ。

さらに、金子信雄の指示で、根上淳の尾行班が編成されました。田宮二郎の雇い主は大日本電気のはず。となれば、必ず根上淳は動く。すると案の定、尾行班から無線連絡が入りましたよ。「今、うちを出ました」「車に片柳も乗りました。受像機も持っているようです」「戸村の車からアンテナが出ました。敵は絶対、奴らです」。早速、エリアを絞り込む金子信雄。受信できそうな範囲で、適当な場所は。うーん、ここだっ。そう、セメント工場に違いありません。早速、金子信雄は人員を配置します。見てろ、受信現場を押さえて捕まえてやる。

そして約束の午後7時。書類の放送が始まりました。もっとも、当時のテレビで、放送された書類が、ちゃんと読めるのかカナリ疑問ですけど。まあ、それはともあれ根上淳の車をヒシヒシと取り囲む太陽電器のみなさん。行くぞ、それっ。って、アレ?アレレ?車には確かにテレビがありましたけど、そこには何も映っていませんよ。早速、無線が飛びます。「専務、専務、新藤です」「どうした」「失敗しました」「何っ」「戸村の車から受像してませんでした」「そんなバカな」。ガクっと膝をつく金子信雄。そのとき、現場ではミキサー車が動き出しました。そして、そのミキサー車の後ろにはテレビのアンテナがべろーん。「あ、あれだ。あの中だ」「しまったあ、ちくしょー」と嘆く太陽電器のみなさんをあざ笑うようにミキサー車は走り去っていくのです。ぶろろー。って、ミキサー車のドラムの中に、人が隠れるのは、とてつもなくムリがあるような気が。

金子信雄は呼びつけた刑事さんたちを前に激怒しています。「で、あなたの仰る犯人というのは」「片柳だ。片柳七郎」。「しかし、そう断定されても、充分な証拠がありませんと」と至極真っ当な意見を口にする刑事さんに、金子信雄は言います。「証拠はある。奴の声がある。テープ持ってこい」。さすが、脅迫電話をしっかり録音していたようです。ということで、デッキのスイッチをポン。……、……、ジャーン。いきなり陽気なジャズが流れ出し、ビックリ眼の金子信雄です。

その陽気なジャズを聴きながら。浜辺で踊ってるマリ子とムスコ。燦々と輝く太陽の下で、楽しそうです。

ブーー。浜田ゆう子の部屋のブザーを鳴らす田宮二郎。しかし、不在のようです。隣人に聞くと、浜田ゆう子は田舎に帰ると出て行ったそうですよ。慌てて、田宮二郎は駅に走ります。いました、いました。旅支度の浜田ゆう子発見です。「君はいつか、心の傷は治らないって言ったね。だけど、そのまま放っておいていい筈はないだろ。二人で幸せを掴むまで努力するんだ。俺についてきてくれないか」。感動して浜田ゆう子は田宮二郎の胸に飛び込……なんてことはなく、硬い表情です。「ダメだわ。そんなこと言っても、あなたはもう、あたしなんかの手ではどうにもならないほど怖い人になってしまってるんです」。どうやら、子供の誘拐をネタにしたことが引っかかっているみたいですね。浜田ゆう子はテープを取り出して言います。「お別れするわ。あなたの脅迫電話の声が入ってるわよ。あたしがスリかえといたの」。「じゃ、見送らないぜ」と後ろを見ずに去っていく田宮二郎。孤高の男なフリしてますけど、多分、心の中ではウワーンだと思います。


ええと、ストーリー的にはテレビの放送を使ったりするところが、新機軸でしたね。とはいえ、田宮二郎が最初、マザコン気味の苦学生というムチャな設定だったり、「この会社を馘になって3年間、産業スパイの修練をしました」に代表されるような、トホホな設定もありましたけど。

しかし、実際にこの映画を観ると、なんともカッコイイんですよ。井上昭監督は僕が好きな監督さんですが、贔屓目だけじゃなしに、その映像感覚は抜群です。とにかく、ワンシーン、ワンシーンから目が放せません。そして、脚本はともかく、田宮二郎と浜田ゆう子が絡むシーンは、まるでフランス映画を観るようなオシャレさ。「黒の試走車」がイタリアのネオリアリズモ的だとしたら、こちらはフランスとイタリアの合作な「太陽がいっぱい」な不思議な魅力に溢れる映画でした。

それはそうと、田宮二郎が乗っている縦目ベンツ。うーん、これまたカッコイイ。自分の人生においては、十中八九乗ることはかなわない車でしょうが、真剣に憧れます。







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2 コメント

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かっこよさでは… (joshua)
2010-02-03 22:00:07
「黒のシリーズ」中でもピカイチですねぇ。関西在住のジャズ・ピアニスト、大塚善升を起用したサウンドトラックも出色の出来だと思います。井上昭監督は次作「勝負は夜つけろ」でも、同じく、当時は知る人ぞ知るという存在だったジャズ・ピアニスト、菅野邦彦を起用しており、恐らく相当なジャズ・ファンだと想像されます。
Re:かっこよさでは… (いくらおにぎり)
2010-02-04 10:18:16
joshuaさん、こんにちは

さすが、ジャズについての造詣が深くていらっしゃいますね。僕はジャズについては、まったくの門外漢ですが、それでも、この映画の音楽はいいなあと思いました。

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