いくらおにぎりブログ

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【映画】女は夜化粧する

2008-07-16 | 邦画 あ行
【「女は夜化粧する」井上梅次 1961】を観ました



おはなし
評判のクラブ「ゴールデンダイス」のマダム・小峰登子は、フランス帰りの作曲家と恋に落ち……

マダムを演ずるのは山本富士子ですが、なんというかゴージャスもいいとこ。したたかな女と、恋に突っ走る女の両面をうまく演じていて、素晴らしいです。

まずはナレーション。「バー、キャバレー、アルサロ、未亡人サロ。歓楽街には夜化粧する女たちを求めて集まる男の、さまざまの場所がある。ナイトクラブも最高級の歓楽の場所。そして赤坂に、また新しくナイトクラブが生まれる」。

トン、カーン。今、ここ赤坂の工事現場では、まさにナイトクラブの建設中。視察している建設会社の社長・橋田(森雅之)に、現場監督が「いやあ社長。鉄骨の組立てが四五日遅れましてね」としきりに恐縮しています。遅れは絶対に取り戻しますから、そう張り切る現場監督ですが、橋田は言うのです。「早いのはありがたいがねえ、早すぎて困ってるんだ」「まだ経営する人が決まらんのだよ」。

ギターを弾いている芸者。そうギター芸者こと、小峰登子(山本富士子)です。お客さんにはウケていますが、周りの赤坂芸者たちは渋い顔。特に、君代姉さん、君太郎あたりは、露骨にイヤな顔をしてイヤミを言っています。「だってさ、新劇で食いはぐれて、ギター弾かれたんじゃ赤坂芸者が泣くわよ。他所じゃともかくとして、この土地じゃ年季を入れた芸が売り物なんですからね」。

思わずムカっとした顔になる登子。そう、「柳眉を逆立てる」という言葉は、この山本富士子くらいの美人が怒った時に使う言葉なんだな、と再認識です。

隣の座敷では、社長の橋田が待っています。橋田は、この登子を、新しくできるナイトクラブのマダム候補に考えているのでした。「手っ取り早く聞こう。決心はついたかね」と身を乗り出す橋田ですが、登子としては簡単に「はい」と言えるものではありません。ただでさえ風当たりが強いし、君太郎のパトロンである橋田に店を出してもらう、それがバレたら、何を言われるか。うーん。

「たった今、いじめられて、やっと決心がつきましたわ。やらせていただきます」

建物も完成し、ナイトクラブの開店準備が進んでいきます。一流のバンドに、一流の女の子。そして、マダムである登子の、豪華な衣装。しかし、開店前にあと二つほど「大事な」仕事が残っています。まずは金主の橋田との関係。「ねえ、今夜お暇」と橋田に言い出す登子。「あたしと一緒に箱根に行ってくださらない」。登子の考えでは、橋田との間に体の関係がないと安心できないそうです。そういうもんですかね。ちょっとよく分かりませんが。

そして、もう一つ。それは君代、君太郎に会いに行くこと。もう、会った瞬間に火花バチバチです。「あんた、この君太郎が橋田さんの世話になってるの承知で、その仕事引き受けたの」と君代の先制パンチが飛びますが、そっぽを向いて「ええ」とだけ答える登子。「芸者仲間には、仲間の義理ってものがありますからね」「あーら、いつからあたしを赤坂芸者の仲間に入れてくださいましたの」、バチバチ。どうせ、体を武器に橋田を篭絡したんだろうと決め付ける君代に、「まっ。さもしいわねえ。年季を入れた芸者衆が」と登子は軽くイヤミ返しです。橋田さんとは、体の関係なんか、いっさいありませんよ。指一本ふれさせてません。今の所はね。ともあれ、徹底的にイヤミを言って、艶然と微笑む登子です。

さて、登子と橋田は箱根に向かいます。「ところで、今夜はいったいどういうことになるんだ」と不思議がっている橋田ですが、「私を自由にして欲しいの」「他人でなくなりたいの」「一度だってワケができれば安心できるでしょ」と言われれば、まあ朴念仁じゃありませんからね。

そして温泉旅館に。「これが本当のドライってものよ」と割り切っている登子に、さすがの橋田もタジタジ。「味気ないねえ」「味気ない方がいいのよ。仕事なんだから」。とは言え、登子の表情には不思議な陰が。「何を考えているんだい」「おかしいのよ。なんであんな人のことが浮かんでくるのかしら」。「いいわ、抱いて」と言った瞬間、部屋のライトがピンク一色。わ、わかりやすい。

と、ここで回想シーンに。まだ新劇の女優だった登子は、借金を残して死んだ父のかわりに、弟の学費を稼ぐため芸者への転進を決意しました。しかし、ちょうど劇団をやめたその日に、あの人と出会ったのです。若手新進作曲家の阿久津健(川口浩)です、キラリン。「ねえ、君。付き合ってくれないか。飲みたいんだ」と言われ、あっさりOKしたのはどうして。それは恋。恋なの。まあ、どうでもいいんですけどね。ともあれ、一緒に飲んで意気投合する二人。そのまま、登子は健の稽古場に行くのでした。稽古場は幼稚園。夜の幼稚園で、ピアノを弾きまくる健。その横顔がキラリン。健は、若者らしい覇気を見せて、「天と地はみんな僕のものさ。そして今日は君がいる」とか言っちゃうのでした。すっかり登子はポワワーン。しかし、健はパリに留学するので、所詮は住む世界の違うひと。明日からギター芸者になる登子にとって、手の届かないひとなのです。

ナイトクラブがオープンしました。その名もゴールデンダイス。全て一流で揃えたクラブは、予想通り、いえ、予想以上の客で賑わっています。そんな店内を自信たっぷりに飛び回る登子。もう、そこにはギター芸者の面影はなく、まさに一流のマダムです。しかし、金を貰いにきた弟の正男ちゃん(川畑愛光)は言うのです。「僕、生意気なこと言うようだけど、昔の姉さんの方が好きだな。いつも強いこと言いながら、一人になると泣いていた。今の姉さんは強すぎるよ。乾ききってるよ」。えーと、正男ちゃん勝手すぎ。

すっかり自信をつけ、まさに蝶に生まれ変わった登子に、社長の橋田もクラクラ。せっせと口説いてみますが、「その話ならダメ。お帰りになって」とあっさり一蹴されてしまいましたよ。まあ、そこは演じるのが森雅之ですから、「手厳しいね」と大人の余裕を崩さないのがサスガです。これが、小沢栄太郎とかだったら、どんな意地悪い手を使ってくることやら。それはともあれ、ダンディな橋田は、女の子と一緒に行きたまえと、音楽会のチケットを渡して去っていきました。どれどれ。えっ。登子はチケットを見てビックリ。なんとそれは、パリから凱旋帰国した健のコンサートだったのです。

ということで、コンサート風景。もう健こと川口浩が、燕尾服で指揮棒をガンガン振り回しています。クラシックは門外漢なのでまったく分かりませんが、「砂の器」の加藤剛なみにはキマッテいるんじゃないでしょうか。つまりトホホ方向に。いや、ホント、よく分かりませんけど。しかし、その客席には、登子の姿はありませんでした。

「とっても素晴らしかったわよ」「マダムもいけば良かったのに」とチケットを貰ったホステスさん。でもね、もし忘れられてたら悔しいじゃない。そんな理由を口にする登子は、やっぱり負けず嫌いのようです。しかし、その夜、ゴールデンダイスに健がやってきたのです。「あら、健ちゃん」と喜ぶ登子。やっぱり、恋は先に動いたほうが負けですからね。ちょっとしてやったり、の気分でしょうか。その上、健は昔の約束を覚えていて、ギター芸者の曲を作曲してくれていたのです。健の伴奏で、譜面を初見で歌いだす登子。♪女はよるぅ、夜化粧するぅーっ♪、思いっきりムード歌謡なのはともあれ、吹き替えなのがマイナスポイントかな。

二人は、思い出の場所、夜の幼稚園に向かいました。ピアノを弾いている健の横顔を見ていると、登子の心に幸せの感情が巻き起こってきます。しかし、それと同時に不安の感情も。「あたし帰るわ」と駆け出す登子。「怖いのよ。私の心の中に、あなたが忍び込みそうで」「あの晩に、僕の心にはもう君が忍び込んでいたさ」。家路を急ぐ登子のあとを尾いてくる健。そのまま、部屋の外に居座っちゃいました。ドア越しに二人は話します。「ねえ、頼むから帰ってよ」「やだよ」。「ぼくは帰らないよ」「お願い、帰ってよ」。…………。おやっ。いないのかしら?「健ちゃん、健ちゃん、帰ったの」「まだだよ」、ほっ。おっと健がドアを開けようとしてきました。「いけないわ、いけないわ。健ちゃん」、入ってきました。「いけないわ」、うわごとのようにつぶやきます。「いけないわ」、チュー。「いけないわ、いけないわ、健ちゃん」、情熱チュー。「いけないわ、いけないわ、いけないって言うのに」、健の後頭部をムンズと掴んで強引にチュー。登子、けっこう積極的です。

健は、オーケストラで指揮棒を振れることになったものの、団員や常任指揮者と対立。演奏旅行は中止されそうな雰囲気です。さいわい恩師(上原謙)や、先輩の中井(田宮二郎)の懸命の取り成しで、どうにか和解の兆しが見えてきたものの、そこに椿事が出来したのです。それは、登子の弟、正男ちゃんの遭難でした。慌てて山に向かう登子。しかし、健は「心配で来ちゃったよ」と演奏旅行をドタキャンして、ついてきてしまったのです。「バカ、バカ、バカ、バカ、健ちゃんのバカ」と怒りつつも嬉しそうな登子。ついでに、正男ちゃんもあっさり助かり、全てはメデタシ、メデタシでした。あっ、ただ健ちゃんはクラシック界から追放ですけどね。

そのまま、ゴールデンダイスのジャズピアノ弾きになった健。まあ、マダムとピアノ弾きがデキていれば、仮に目の前でいちゃつかないにしても、不思議とバレるもの。まして、この店はマダムの魅力で持っていたようなものですから、当然、売り上げは落ち込みはじめます。

そんな中、健を心配してやってきた先輩の中井とマネージャーの島村。しかし、今の登子にとっては、それが健を侮辱しにやってきたとしか思えません。「それ皮肉。帰ってよ」「ひどい人ね、あんたたちって」とキレまくった挙句、「あの人は、私のために一生を棒に振ったんですからね。私、守るわ。あの人を命がけで」と宣言するのでした。しかし、美女が怒ると画になります。たとえ、それが勘違いで怒っていたとしても。

一方、社長の橋田は、赤坂芸者コンビから、あることないこと登子の中傷をたっぷり聞かされました。もっとも、知性派の橋田ですから、健と登子のことは(歓迎はしないにしても)了解済み。他の中傷も、所詮根も葉もない噂話と割り切っているようです。しかし、このままにしておけないのも、また事実。ということで、早速、登子にお説教です。「いいかい、登子。現に客は減っているんだぜ。共同経営の土建屋の社長として言わしてもらえばだ。個人の情事は絶対に店に持ち込んでもらいたくないな。それからもう一つ、個人の橋田の立場から申せばだ。君が敵から噂に尾ひれをつけて、悪口言われるのがたまらんのだよ」。じゃ、お休み。颯爽と去っていく橋田。しかし、恋に狂っている登子にとっては、良薬も苦すぎて飲めなかったようです。「みんなで。みんなで仲を裂こうとするわ」と、ブランデーをグイっと呷るのでした。

健の従妹(叶順子)から、そして弟の正男ちゃんからも、ヤイヤイ言われた登子。そうよね、あの人は、やっぱり指揮をしなくてはダメっ。でも、あの人と離れたくない。いったい、どうしたらいいの。そんな気持ちの時に、健の先生が尋ねてきました。とりあえず、開口一番「怖い、先生が」とか、随分なことを言う登子ですが、先生が健を思ってくれているのは分かります。それに健の父が、かつて女性のために、一流の作曲家への道を断念したんだ、と聞けば、身につまされる思いも巻き起こります。「つまり、健ちゃんにお父様と同じ道を歩かせたくない、って仰るんですのね。……。……。別れろと」。しかし先生は言うのです、「いや、本当に二人が愛し合っているなら、結婚すべきだと思いますよ」。「ええっ」。ただ、仕事は辞めること。それが先生の条件でした。

いったんこの道に入った者が、平凡な家庭に落ち着けるものか、と自問自答する登子。ブランデーのグイっ。お店に出ないで考える登子。グイっ。ラストまでグイっ。「マダム、どうしたの」と聞かれて、グイっ。グイっ。とうとう、グデングデンです。すると、無人のはずのホールから、ピアノが聞こえてくるじゃありませんか。それもクラシック。「健ちゃん、健ちゃん」ヨロヨロ。「健ちゃんっ!}「なんだ登子。酔っ払ってるのかい」。「健ちゃん、はっきり言ってよ。あなた後悔してるんじゃないの。あたしとこんなことになって」、酔っ払いの言いがかりです。

まあ、そんな痴話げんかみたいなことはさておき、やっぱり、このままでは健ちゃんがダメになってしまうと思い直した登子。とうとう、別れる決心をしました。思い出の場所、夜の幼稚園での待ち合わせです。この幼稚園も、勝手に思い出の場所にされて、いい迷惑だと思いますが、これっきりですから、カンベンしてね。ぽろん、ぽろん、一本指でピアノを弾いている登子。そこに健ちゃんがやってきました。「どうしたの。こんなところに呼び出したりして」「分かるでしょ。私の話。……。初めて会った場所でお別れしたいと思って」。「僕はやだ。登子を離さない。離すもんか」「もっと抱いて。もっと強く。お別れなんだから」「やだ、やだ、僕はやだよ」「私だって。じゃあ、健ちゃん、音楽捨ててくれる」。そう言われて、目をクワっと見開く健。健の脳裏には、オーケストラを意のままに、音楽を紡いだ記憶が、走馬灯のようにぶわっとよみがえります。

「私にははっきり分かっているの。あなたは音楽を捨てて生きてはいけないのよ。あたしも人並みの奥さんになんか、なれっこない。さあ、行って」。そうは言われても、立ち去れませんよ。しかし、次の登子の言葉は決定的でした。「あたし、橋田さんと一緒になるかもしれない」。

走っていく健。幼稚園の前には、謎のダンディ紳士、橋田が佇んでいます。「橋田さんですね」「ええ」「登子を頼みます」。スタタタ。登子が出てきました。別れたのか、と聞く橋田に、登子は答えます。「ええ、好き合っていながらよ。私、あなたと一緒になるかもしれないって言ったわ。あの人の気持ちがきっぱり割り切れるよう。ねえ、どこかに連れて行って」。そう、箱根でも熱海でも、どこにでも。「ありがたいことになったね」と車を走らせる橋田。流れ去る町の明かりとシンクロするように、登子の脳裏には、健との記憶が流れていきます。あんなこともあった。こんなこともあった。「おい、登子。登子、着いたよ」。そこはゴールデンダイスでした。

「君の生きる所は、ここしかないさ」
「やるわね、橋田さんも」
「ちょっといい所を見せたかったのさ。じゃ男と女の関係で、これからは口説くぜ」
「フフフッ。惚れさせたら偉いわ。だいぶ懲りたから」
「それだけに楽しみさ。じゃあ」

テレビでは、健の演奏会が放送されています。中井をピアノ伴奏に、健の成功は留まるところをしらない様子。と、男性問題で悩んでいるホステスが登子に相談を持ちかけてきました。「そういう時には、お化粧するの」とアドバイスをする登子。「マダム、みなさんがお待ちかねですが」。そう、今いくわ。テレビのスイッチを切って、ホールに向かう登子。登子の目の前には、華やかな世界が待っているのです。


水商売の女をとりまくダンディな森雅之と若い男。このフォーマットは、この映画の前年に撮られた成瀬巳喜男の「女が階段を上る時」と共通ですが、見事に違う雰囲気の映画に仕上がっています。もちろん監督の資質の違いもあるでしょうが、なんといっても主演女優の差が大きいでしょう。成瀬監督のヒロインは高峰秀子。なんとなくやるせなくて、シミジミしてきます。一方、山本富士子のゴージャスなこと。もう、ブワっと咲きほこって、バサっと散る、みたいな。ちょっと違うかな。まあ、いいや。(ちなみに、「女が階段を上る時」も好きな映画です、念のため)

川口浩の、ストレートな坊ちゃんぶりは、もう見ていて安心できるレベルなので、置いておきます。ここで、注目したいのは森雅之のカッコよさ。男だったらこうありたいね、という素晴らしさです。前述の成瀬監督、そして溝口監督の映画などでは、留まるところを知らないヘタレた男を演じ、こういった映画では、とことんダンディな男を演じきる。この俳優さんの奥深さは偉大です。川口浩の先生役で出ていた上原謙もダンディキングですが、森雅之の前では、少し霞んでしまいそうです。なにしろ森雅之はダンディ大王。ちなみに、以前読んだ森雅之のムックのサブタイトルは「知性の愁い、官能の惑わし」でした。なんていうか、言いえて妙。

山本富士子の台詞回しは、上手の一言。すでに触れたように、同じ「いけないわ」の連呼でも、一つひとつに意味があります。同じ言葉なのに、全てがちゃんと違う意味に聞こえたのには、ビックリでした。他にも、「健ちゃん」という言葉にも、全部、違う感情を込めていて、これまた感心。当たり前ですが、プロっていうのはスゴイものです。

基本的には、数多く撮られたプログラムピクチャで、単なるメロドラマでした。しかし、職人技を誇る監督に「プロ」の俳優たちが合わされば、これだけのものが作れるんだ、という見本のようです。

ただ、強いて難点を探せば、最後のシーンが少し冗長でした。ホールに出た山本富士子が、お客さんと会話を交わしたり、ダンスしたりするところで「終」ですが、ここは「マダム、みなさんがお待ちかねですが」と言われたところで「終」にして欲しかった。パチンとテレビのスイッチを切って、控え室を出て行く山本富士子の背中でエンドマーク。やっぱり、映画の終わりは、主人公の背中でキマリと思うのですが。







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