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【映画】江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者

2007-06-05 | 邦画 あ行

【「江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者」田中登 1976】を観ました



おはなし
郷田三郎は、親の遺産で仕事もせずにブラブラしている男。趣味は、屋根裏に登っての覗きです。ある日、美しい貴婦人美那子の痴態を見た郷田の中で何かが変わりました。そして、見られた美那子の中にも妖しい何かが蠢き出したのです。

ロマンポルノの鬼才、田中登監督の「昭和史三部作」の第2作目です。ちなみに1作目は阿部定事件を描いた「実録 阿部定」、3作目は責め絵師の伊藤晴雨を描いた「発禁本「美人乱舞」より 責める」です。

郷田三郎(石橋蓮司)は日課になっている屋根裏の徘徊を続けていました。すると、天井裏の明り取り越しに、坂を登ってくる貴婦人の姿が見えたのです。「これは素敵だ」と思わずつぶやく郷田。坂を登ってくる洋装の貴婦人は清宮美那子(宮下順子)と言い、郷田の住む下宿「東栄館」であることをしようとしているのです。
部屋に入った美那子を待ちかまえていたのはピエロ。「奥様、お待ち申し上げていました」「さあ、脱がせてちょうだい」
貴婦人の美那子は、公園で拾った下賎なピエロに体を任せます。「ピエロー」「ピエロー」と喘ぐ美那子。郷田は、そんな風景を屋根裏から、息を詰めるように見ています。ふっ、と美那子の視線が天井に向かいました。自分を凝視する視線に気づいています。妖しく笑う美那子。それを見て凝然とする郷田です。

美那子の夫・清宮は大金持ち。かつては美那子の家の書生をしていたのですが、今では高嶺の花だった美那子を所有しているのに歪んだ喜びを感じています。車の後部座席で、清宮はステッキを使い美那子を玩ぶ征服感に恍惚としていますが、美那子は郷田の視線を思い出してさらなり高みに到達しているのでした。

一方、郷田は屋根裏をはい回っています。救世軍の活動に熱中している遠藤が女中を玩ぶさま、その偽善に笑い声をあげ、女流画家の美幸が、モデルの女をいたぶっている姿に軽い興奮を覚え、しかし、本当に気になるのは貴婦人のことばかりです。

清宮家の運転手は蛭田。蛭田は貴婦人美那子に、暗い情熱を抱いています。奥様の味方として、ピエロを探しだしたのも蛭田でした。そして、今は椅子職人に命じて一脚の椅子を用意させました。奥様の椅子になりたい。そう、自分の体がすっぽり入る椅子を作って潜み、こっそり奥様を全身で感じてみたいのです。
「けっこうな椅子。蛭田いるんでしょ」と椅子に座る美那子。蛭田の体温を感じたのでしょうか。「いるのね蛭田」と恍惚の表情を浮かべるのです。椅子からは「はい、奥様。やわらかでございます」というくぐもった声が答えます。はげしくあえぐ美那子。人間椅子の外と内では、歪んだ欲情が高まっていくのでした。

郷田は、美那子の面影を求めて浅草のルナパークに出かけました。ピエロに声をかけメイクアップ道具を入手した郷田は、女郎屋に上がり、自らにピエロのメイクを施します。そして女郎相手に「奥様、奥様」とあえぎながらことに及ぼうとするのでした。まあ、まっとうな神経を持った女郎からは「何すんだと、しつこい客はキライだよ」と、追い出されてしまうのですが。

中途半端な気分の郷田は、あいかわらず屋根裏に登り、明り取り越しに外を見ています。もう、郷田の心には美那子の面影が全てなのです。そして、待った甲斐がありました。再び美那子がやってきたのです。早速、ピエロと痴態の限りをつくす美那子。今度は最初から天井の目を意識しています。見られている、その気持ちがさらなる高みに美那子を連れ去ったようです。股間に埋まったピエロの首を両腿で締め上げる美那子。美那子は絶頂に達したのです。

翌日の新聞には「道化師の変死体 隅田川べりに浮く」という記事が踊るのでした。

突然、郷田の元に運転手の蛭田がやってきました。奥様の使いでお迎えに来たと言うのです。取るものも取り合えず屋敷に行く郷田。美那子は郷田に「確かめたかったのよ」と言います。「あなたはいつも屋根裏に潜んでいた。あなたの目がなければ、あたしはもうダメになってしまった。もう私はあなたを離さない」と言って、自らを慰め始める美那子。郷田はそんな美那子の姿を、見下すように見ています。しかし、その心の中は歪んだ欲情が渦巻いているのでしょう。「ここに来た甲斐がありました。あなたも僕と同じ種類の人間のようですね」と言い放つのです。

郷田の心に何か変化があったのでしょう。日課の覗きに新しい遊びが加わりました。それは、屋根裏から糸をたらして、毒を流してみる遊びです。郷田は、救世軍の遠藤の口元にヒ素を流します。徐々に、徐々に。ゆっくり死んでいく遠藤を見る郷田の顔に笑いが浮びます。この上なく愉快そうな恍惚の笑顔です。

郷田は再び美那子のところに呼び出されました。「あなたね。私には分かる」と言う美那子。「私と同じ立場になって下さったのね」と妖しく郷田を見つめます。そう、二人には今までの快楽が、ちっぽけに見えるほどの快楽。そう、殺人という究極の快楽を知ってしまったのです。

郷田は同宿の女流画家・美幸にボディペインティングをしてもらうことにしました。奇妙な線が郷田の全身に描かれていきます。ちなみに、何かの象徴かもしれませんが、ぼくにはまったく意味が分かりません。

美那子は、いつものように股間を激しく人間椅子にこすりつけて果てた後、人間椅子に油を注ぎました。そして火をつけます。「蛭田、そのまま椅子におなり」。ついでに、行きがけの駄賃で夫の清宮を毒殺する美那子。もう、怖いものなんか、何もなさそうです。その足で、郷田の下宿に向かう美那子。美那子もまた女流画家に、真っ白な裸身いっぱいに、奇妙な線を描いてもらうのでした。

「これで完成よ」。美幸が美那子に言います。奇妙な線を描かれた郷田と美那子。二人は怖い顔をして美幸に迫ります。「やめて、出てって」と言う美幸の言葉が、空しく響きます。二人は、ツィゴイネルワイゼンのレコードをかけながら、美幸を玩ぶのでした。まるで、お互いしか存在しないかのように見つめ合う郷田と美那子。ただ、その手だけが、美幸の体をはい回るのです。そして、美那子の両腿にはさまれ、美幸は死にました。ピエロと同じように。

今までは準備の儀式だったのでしょうか。ようやく郷田と美那子は屋根裏で体を重ねます。まるで、獣が暗がりで交尾するように。と、その時、ドーンという音がしました。まるで近くに爆弾が落ちたような音です。大正12年9月1日の昼です。

関東大震災によって、街は壊滅しました。もちろん、郷田の下宿東栄館も例外ではありません。郷田も美那子も、そして殺された美幸も、がれきの中にその屍をさらしています。殺したもの、殺されたもの、それどころか東京中の人間が、皆等し並に屍を白日の元にさらしたのです。

下宿の女中は、生き残りました。ワケの分からない唄を唄いながら、上半身裸になった女中は、ギラギラした日差しの中、体を洗います。井戸の水を汲む女中。手押しポンプをどんどん押します。次から次へとあふれ出てくる水。水。水。やがて、その水は真っ赤な、真っ赤な血の色に染まるのでした。

とりあえず、一言で言ってしまうと変態の映画です。ただ、それじゃあ、あんまりですからもう少し詳しく書きますね。

昭和史3部作の1作目「実録 阿部定」は、ご存知の通り阿部定が、痴情の果てに相手の男を殺し、陰部を切り取ったという事件でした。この事件の解釈は色々あると思いますが、ぼくは結局のところ、この事件は「精神が肉体に敗北した」というところに肝があると思うのです。いけない、いけないと思っていても肉体の得る快楽にとことんまで耽溺していく阿部定。そして、最後にモノとしての陰部を切り取る行為まで含めて、「肉体」が精神を凌駕して自己主張を始めるさまを象徴しているのではないでしょうか。

一方、昭和史3部作の3作目である「発禁本「美人乱舞」より 責める」はどうでしょう。これは、責め絵師の伊藤晴雨が、これと見込んだ女を徹底的に責めていく過程が描かれます。彼の目的は結局のところ肉体の快楽ではありません。むしろ、芸術の探求といった部分で極めて精神的な何かを追い求めているのです。そして、狂気の淵に入り込めば入り込むほどキリがない、その限界の無さは、まさに「精神」が肉体の限界を軽々超えていってしまう瞬間だったといえるでしょう。

さて、この映画。これは非接触の映画です。郷田の覗きという行為はもちろん、人間椅子の蛭田も直接には美那子と接触することはありません。では、肉体の映画ではなく精神の映画なのかというと、それもちょっと違います。なにしろ自分の精神が、相手の精神と感応して、何か化学変化を起こすわけではないのですから。むしろ覗きという「引きこもり」的な行為に見られるように、そこには自閉的で、自己完結してしまう救いの無さが描かれます。結局のところ、その行為はどこかに暴発していくわけでもなく、あくまで陰湿に沈殿していくのです。そこが、つまり「変態」の映画だということです。

最後のクライマックスも、3作の中では異質です。阿部定は、最終的に自分の行った陰部切断という行為によってクライマックスを迎えました。伊藤晴雨も、相手の女の精神を壊してしまったことで、クライマックスを迎えます。しかし、この映画では「関東大震災」という天災によってしかクライマックスを迎えることができなかったのです。それは、自分の中で全てが完結して、現実社会に対して働きかけができないということを象徴しているのではないかと思うのです。

石橋蓮司は、想定内。変な言い方ですが、実際ビックリするわけでもなく、ガッカリするワケでもなく、淡々と変態を演じていて好感が持てます。まあ、好感っていうのも変ですが。

宮下順子は、あんまり良くなかった。この人は、いじめる役よりいじめられる役の方がはまるような気がします。それに貴婦人よりも、場末の娼婦などを哀感タップリに演じた方がはるかに良いです。その点では、谷ナオミなどの方が合っていたかもしれない、と思います。





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