いくらおにぎりブログ

邦画中心の映画感想ブログです。ネタバレがありますのでお気をつけ下さい。

【映画】安城家の舞踏会

2009-06-05 | 邦画 あ行
【「安城家の舞踏会」吉村公三郎 1947】を観ました



おはなし
借金まみれの安城伯爵家では、最後の舞踏会が行われ。

まさに日本国憲法が施行され、華族制度が廃止された年に作られた映画です。この映画は1947年のキネ旬ベストワンにも選ばれました。まあ、そこらへんについては、のちほど。

背中を向けていた女がクルっと振り向いて言います。「敦子は反対でございます。今さらそんなことなすったって、何の足しになりましょう。わたくしはイヤでございます」。別の女が反論します。「舞踏会を開くのは、何かの足しになるとかならないとか、単純な理由からじゃないわ。このうちが、由緒ある安城家が夢のように消えていく記念じゃない」。

ここ、安城伯爵家では、次女の敦子(原節子)と、長女で出戻りの昭子(逢初夢子)が激論中です。「お姉さまは、夢のように消えていくと仰るけど、華族という特権階級がどうして消えなければならなくなったかということを少しも知ろうとはなさらないのね。私たちの生活を根こそぎ否定してきた時代の流れよ。分かろうとなさらないのね」。そんな姉妹の言い争いを、我関せずといった風に、タバコの煙を吐き出しながら聞いているのは、長男の正彦(森雅之)。そして、お父さんの安城忠彦伯爵(瀧澤修)は、なんだかいるんだかいないんだか、影が薄い感じです。

と、女中が「遠山さんがお見えになりましたが」とやってきました。「敦っちゃまがお呼びになったのね、遠山なんかを」と露骨にイヤな顔をする姉の昭子。そう。それも、そのはず、かつて安城家の運転手だった遠山は、今では運送業で財をなし、この由緒ある安城家の屋敷を買い取れるほどまでになったのですから。こんなこと、プライドの高い昭子には、とても受け入れることはできません。もちろん、お父さんの安城伯爵も別の意味で、遠山の来訪には否定的です。「このうちのことについては、今日、弟に新川のところへ行ってもらってるじゃないか」。結局、借金で首がまわらなくなっている安城家は、金を貸してくれている新川の好意にすがって家名を保つか、もしくは遠山に家を買い取ってもらい、借金を整理するしか、道は無いのです。

「昭子さま、お久しゅうございます」とペコペコする遠山(神田隆)。どうやら、遠山は昭子のことが好きでたまらないようです。しかし、昭子は「あたくし、ちょっと」と出て行ってしまいました。遠山としては、ちょっとガックリな感じ。まあしょうがない、殿様にもご挨拶しなくちゃね。「敦子さまに事情をすっかりお聞きしたもんですから、そんなら一肌脱ごうって気になったんですよ。いやあ、財産税じゃすっかり裸になった人が多いですな」。50~60万なら出せますと胸を張る遠山に、しかし、安城伯爵は売る気はないと断りました。それというのも、新川の娘と息子の正彦が婚約しているので、結婚すれば借金なんかチャラという判断があるようです。

「敦子、このうちを遠山に売るのはやめてくれ」とスタスタ去っていく安城伯爵。さすがに、遠山も「すいませんでした。私の口が過ぎましたね」と敦子に謝っていますが、まあ怒らせてしまったものはしょうがない。なるようになるでしょう。

そんな話が階下で進行している間、長男の正彦といえば、自分の部屋でピアノなんかを弾いたりしています。そこに、女中の菊(空あけみ)が「お紅茶を持ってまいりましたが」とやってきました。「分かってるよ」とピアノを引き続ける正彦。と、菊が体ごと鍵盤にガチャーンと飛び乗って、挑発的な視線を向けてきます。「どうしたんだい」「早くなんとか決まりをつけて。あたし、このまんまじゃ不安で不安で」。

さて、遠山が辞去すると、物陰に潜んでいた姉の昭子が出てきました。薔薇の花をむしりつつ、「成り上がり者の癖して生意気だわ」と怒っています。「何を怒ってらっしゃるの、あのことはもう昔の過ぎ去ったことじゃないの」と言う敦子に、「あたくしが結婚に失敗したもんだから、あいつお腹の中では笑ってるのよ。いい気味だ、ぐらいに思ってるんだわ」と怒りはさらにヒートアップ。「だってそうじゃありませんか。遠山がうちを飛び出したんだって、あたくしの結婚が原因じゃない。あたくしがこのうちに帰ってきたら、いつの間にかまた出入りするようになって。いまだに独身だっていうじゃない、気持ちの悪い。あいつがこのうちを買うなんて、どんな下心があってのことだか分かりゃしない」。

ふう。まったくお父様もお兄様も、それにお姉さまも頼りにならない。どうしたらいいのかしら。大礼服を着たおじいさまの肖像画を眺めてブルーな気分の敦子。そこに、おじさんの由利武彦(日守新一)が汗を吹きふきやってきました。「ね、おじさま。新川さんの方、どうなりましたの」「いや、それがね。どうもダメなんだよ」。敦子の想像は悪い方に的中したようです。「昔の関係は関係だ。今は今だと、こう言うんだ。まるっきり、このうちを自分のものにした気でいるよ」。思わず「やっぱりねえ」と嘆息する敦子です。

まあ嘆息ばかりしていても、事態は解決しないので、敦子は行動開始です。まずは、使用人たちを集め、「長い間、みんなにはとっても良くしてもらったけど、いよいよお別れしなくてはならないわ」と宣言。年老いた家令の吉田(殿山泰司)などは、どこでもいいから殿様にお供したいと訴えますが、「ありがとう、吉田。その気持ちはうれしいんだけど、わたくしたちもね、今度は人に使われなくちゃならなくなるの」とキッパリ言うのです。そして、今度は父の安城伯爵のところに。

「さっきね、お父様、おじさまがいらしたの」「で、新川は何と言った」「駄目でございますって」。安城伯爵はガックリです。「わしには信じられない。あんなに、このわしを信頼していた男が」「新川さんが信頼していたのはお父様の人格ではなくて、お父様のお肩にかかっていた、伯爵という肩書きなんだわ」。いやいや、そこまで追い討ちをかけなくても。「ごめんあそばせね、お父様、こんなこと申し上げて」と言って、部屋を飛び出す敦子。と、何かを思いついたのでしょう。また逆戻りして言うのです。「ね、お父様。舞踏会開きましょ。そして、それをきりに新しい生活を始めるの。ねっ」。

着飾った紳士淑女たち。楽団の奏でる音楽。安城家では舞踏会が行われています。伯爵のお姉さんの春小路夫人(岡村文子)は、昔、このホールで西園寺公爵も伊藤博文もワルツを踊ったなどと、昔話を始めたりして、いかにも安城家最後の舞踏会にふさわしい雰囲気が漂ってきました。

とはいえ、内実は悲喜こもごも。長男の正彦は、女中・菊の積極果敢なアタックというか脅迫に頭を痛め、元運転手の遠山は、スーツケース一杯のお金を持ってきたものの、昭子に相手にもしてもらえずショボーン。そして、成金の新川(清水将夫)は安城家との関係を清算すべくやってきているのに、その娘の曜子(津島恵子)はそんなことも知らずに、正彦にウットリです。まあ、このままじゃ、ただではすみませんね。

【かわいそうな遠山編】
憧れの昭子さまがやってきたので、お話をしようとした遠山。しかし、昭子は遠山をガン無視して去っていこうとするじゃありませんか。思わず、遠山は昭子の腕を取ります。「何をするの。汚い!」。「汚い……」とガガーンな遠山。しかし、ここは勇気を出して言わなければ、「昭子さん、結婚してください」。しかし、昭子はそっぽを向いたまま答えるのです。「華族はなくなったわ。だけど、やはり昭子の心は貴族よ」。ズダダダ。走り去っていく昭子を遠山は唖然と見送るのです。悲しくなった遠山は厨房に。そう、昔運転手をしていた遠山にとっては、紳士淑女の集うホールより、こちらの方が落ち着くようです。顔なじみのおばちゃんにお酒をもらって、かっくらう遠山。「俺は夢を見てたんだ。こっけいな夢をみたバカモノなんだ」。ちなみに、演ずる神田隆は東京帝国大学を卒業してたりします。

【伯爵、やけっぱち編】
安城伯爵は新川を自室に呼び、「ねえ新川君。昔の関係を考えてくれて、今までの借りは水に流してもらえないか」と頼んでみました。しかし、戦前はヘイコラしていた新川なのに、なんだか偉そうですよ。「あなたと私の関係は、この際、スッパリ打ち切っていただきますよ」。ガガーン。「打ち切るというと」「つまり、用立てたお金のカタに、今夜限りこのうちはいただくってコトですよ」。そのまま部屋を出て行こうとした新川は、ふっと気づいたかのように、振り返って続けます。「それから、もうひとつ。曜子と正彦さんの婚約の件も解消していただきますよ」。外の廊下で正彦が会話の一部始終を聞いていることにも伯爵は気づかず、新川に哀願します。「新川君、助けてくれたまえ。生まれてこのかた、ただの一度も頭を下げたことのない、このわしがこうして君に恥を忍んで頼んでるんじゃないか。蔑んでくれてもいい。笑ってくれてもいい」。おやおや、伯爵はスンスンと鼻をすすり始めてしまいましたよ。しかし新川は冷然とタバコを吸いながら黙っているのです。プチン。キレた伯爵は、絵の後ろに隠してあったケースからピストルを取り出しました。「安城さん、危ない」と動揺する新川。しかし、伯爵は廊下の外から敦子が、こちらを見ているのに気づき、うろたえ、悄然としてピストルを下ろすのです。「お父様、ご辛抱あそばせ。おとうさまーっ」。

【正彦、やけっぱち編】
「昭子、やっぱり新川のヤツ、悪党だな」とつぶやいた正彦は、意を決したように曜子に歩み寄りました。まあまあ。ほら、もう一杯。そうして、ムリヤリ曜子に酒を飲ませます。いい加減グダグダになった曜子を庭の温室に連れて行く正彦。ガバッ。「正彦さま、ダメっ」と抵抗する曜子を押し倒す正彦。しかし、その時、ガチャーンと温室のガラスが砕け散りましたよ。見ると、女中の菊が怖い顔で睨んでいます。正彦はとたんにやる気をなくしました。「結婚してくださるわね。ね、結婚してくださるわね」と繰り返す曜子にも、すっかり興味をなくしたようです。

【曜子、ブチ切れ編】
サロンで曜子を探していた新川のところに、「正彦さまが、正彦さまが。うぇーん」と駆け込んできた曜子。背中は草まみれ、後ろのホックが外れてひどい有様です。もちろん、周りの紳士淑女たちは、好奇の視線を注いでいます。正彦はというと、悪びれることもなく、そんな親子を冷ややかに見つめているだけです。と、その瞬間、曜子がブチ切れました。「正彦さま、待って。ケダモノっ。あなたなんかと誰が結婚するもんですか」、そのまま、往復ビンタ。さらに往復プラス1ビンタが炸裂。正彦は計5回のビンタを顔にモロに食らうのです。「アハハ」と高笑いをした正彦はいきなりピアノの前に座り、ショパンの革命のエチュードを演奏し始めました。さすが、高貴な生まれの人は、反応がヘンだ。

【そしてムチャクチャに】
曜子がダッシュで去り、新川も帰ることにしました。なにしろ、周りの視線が痛いですもんね。と、そこに敦子が「新川様、お待ちあそばして」と声をかけてきました。見ると、両手いっぱいの札束を抱えています。はい、借りてたお金は返します。えーと、どういうこと? そこに、グデングデンに酔っ払った遠山も登場。「おう、新川。けえれ。その金持って、とっととけえれ」。もう、周りの紳士淑女たちは驚くというより唖然モードに。「みなさーん。おらは遠山庫吉(くらきち)だ。たった今、この俺が、このうちを買ったんだ」。ギロリと睨んでいる昭子を無視してわめきたてる遠山。「あのシャンデリアも、このコップも、みんな俺のものになったんだ」。歩き出す遠山。まるでモーゼの出エジプトのように、人の海がザザーっと割れていきます。そして、向った先には昭子。遠山と昭子は見つめあいます。「昭子様、おしあわせに」、スタスタ。しばし、その後姿を見送った昭子は「とおやまさんっ」と叫んで、家宝の甲冑を蹴倒しつつ走り出しました。ズドド。「もったいない」とイヤな顔をしている家令の吉田に、敦子は言うのです。「いいの。あれでいいのよ」。

砂浜をヨロヨロ歩く遠山のシルエット。昭子は、途中コケて、砂浜をスゴイ勢いでゴロゴロ転がったりしながら追いかけていきます。とりあえず、おしあわせにー。

【菊の殴りこみ】
敦子のはからいで、お妾さんの千代と伯爵の結婚が発表されたりと、お客さんにとっては、ほとんどスペクタクル映画を観ているかのような「舞踏会」も終わりました。自室に引き上げ。ベッドにゴロンと横になる正彦。と、そこに怖い顔の菊がやってきましたよ。「この人でなし。殺してやるから」、グイ、グイ。思いっきり正彦の首を絞めています。「よせよ、冗談よせったら」、ゲホゲホ。菊は、結婚してくれるって言ったのにぃー、うわーん、と泣き出します。「人でなしのあんたが好きなんだわ」。「人でなし。俺は何だ。人じゃないのか」と正彦はつぶやくのでした。

【死亡フラグ立ちまくり?】
千代も引き取り、自室に戻った伯爵。「なんにもやるものがないが」と家令の吉田に、愛用の懐中時計を渡したりしています。これって、死亡フラグですよね。「古いものが滅びて、新しいものが生まれるために、こうしてわしらは滅びていくんだ。滅びて、滅びがいのあることじゃないか」。

【魂のタックル(慶応大学)】
第六感で、お父様の危機を察知した敦子。慌てて、家の中を探し回ります。でも、広い家って、こういう時不便ですね。お父様が見つかりません。ホールで呆然とする敦子。と、そこに伯爵が入ってきました。大礼服を着た先代の肖像画を見ていた伯爵は、ポケットからピストルを取り出し……。「あっ」と叫んだ敦子というか原節子は10メートルほどの距離を猛ダッシュします。そのまま伯爵にアターック。どすん。「ごめんあそばせ、お父様」。微妙に髪の乱れた伯爵が、フラフラになりつつ「はぁ」とタメイキをつきます。「どうして、死ぬなんてこと」「許してくれ、敦子。お父様の生涯は、もう今夜で終わったんだ」「いいえ、これからお父様の新しいご生涯が始まるんだわ。これから本当の生活が始まるんだわ」。敦子はレコードにそっと針を落として、「おとうさまっ」とブリっこポーズを決めます。月明かりの差し込むホールで踊りだす二人。ホールの上の廊下から、ウルウルしつつ、それを見ていた正彦は「菊っ」と菊を抱きしめます。

音楽が続くなかワルツを踊り、外を見る伯爵と敦子。海岸には、まるで年月を知らぬかのように、波が押し寄せては引いていくのです。


えーと、告白します。昔、初めて観た時には、原節子のタックルしか印象に残りませんでした。大柄な原節子が、10メートルをダッシュしてドッカーンですからね、そりゃ脳裏に焼きつくというもんです。しかし、こうして改めて観なおすと、、、ダメだ、やっぱり原節子のタックルしか記憶に残らない。

もちろん、単純な二元論で割り切れるものでもありませんが、映画には「普遍の芸術」という側面と、「時代の証言者」という二つの面があります。もちろん、どちらか一方しか存在しないわけじゃなくて、両者が綱引きをして、その緊張関係の中に映画は存在するのだと思いますが。

で、この映画に関しては、公開当時は、バリバリに「時代に迎合した」映画だったんじゃないかと思われます。なにしろ新憲法が施行された直後ですからね。庶民にとっては、華族の没落っていうのは、大物芸能人のスキャンダルと同じくらいに刺激的な素材だったんじゃないでしょうか。「ザマーミロ」という感情と、それと同じくらい強い、何か「喪失感」みたいな感情。そこをうまく突いた映画だなと。

そう考えると、民芸の森雅之や瀧澤修というキャスティングも納得です。これが同じ民芸でも、宇野重吉じゃなんとなくカッコがつかないですもんね。あくまで、貴族的な顔立ちの人たちが演じないと、滅びの美学になりませんから。当然、原節子も同じ線だと思います。

キネ旬のデータベースを見ると、キャストがかなり変更されているのが分かります。女中の菊が空あけみではなく幾野道子になってたり、曜子が津島恵子ではなく植田曜子になっていました。なにより大きな変更だなと思ったのが、初期段階では昭子役が、逢初夢子ではなく入江たか子だったらしいこと。入江たか子といえば、原節子と並ぶ戦前の美人女優で、なおかつ子爵家の出身ですからね。もし、実現していたらホンモノ度がさらに高まったのにと残念です。あと、松竹ではなく東宝ですが、この年デビューした久我美子も捨てがたい。こっちはさらに格上の侯爵家出身ですから、曜子役にキャスティングされていれば……。まあ、夢は夢ですが。

ともあれ、俳優たちの演技が、やけに舞台っぽいことを除けば、今観ても面白い映画でした。









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