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【映画】女渡世人 おたの申します

2009-09-25 | 邦画 あ行
【「女渡世人 おたの申します」山下耕作 1971】を観ました



おはなし
借金の取立てのために、岡山の宇野に向った太田まさ子(藤純子)は、トラブルに巻き込まれ……。

女渡世人シリーズの2作目です。小沢監督の1作目は平凡な作品でしたが、この映画はかなりスゴイ。まさに「藤純子」の集大成と言っても過言ではないと思います。

東映の三角マークが終わると、いきなり藤純子がアップで、仁義を切ります。「わたくし、生国は関東です。関東は上州伊勢崎です。渡世、縁持つ親はありません。当時(現在の意)、大阪南田勘兵衛さんご一家にお世話いただき、旅中にまかりあります。姓名の儀、太田まさ子。渡世上、上州小政と発します。昨今の駆け出しです」。

さて、その上州小政ことまさ子(藤純子)は、手本引の胴を終えて、南田親分(遠藤辰雄)の前に、「つとめさせていたただきました」と挨拶に出ました。「あんた目当てに、通って来やはる旦那衆も多いそうな」と札束をポンと投げる南田親分。そうそう、こいつを紹介しておこう。「梅田の銀三はんや」。銀三(待田京介)に会釈をするまさ子。と、そこに子分がやってきましたよ。どうやら、スッテンテンになった客が、宇野にある船宿の権利を担保にコマ(金)を貸してくれと泣きついているそうです。「何ぼほどいるねん」「へえ、300円です」。

再び、手本引の札師をつとめることになったまさ子。しかし、強い。スッテンテンになった客は、あっという間に追加の300円もすってしまったのです。「今の勝負はイカサマじゃあ」と短刀を抜いて、まさ子に切りかかる客。えいっ。まさ子は手もなく、客を投げ飛ばします。と、そこに銀三が現れ、客の腹をドスでえぐったのでした。さらにトドメを刺そうとする銀三を押しとどめるまさ子。「待ってください。それで落とし前は充分です」。

「姐さん、イカサマ呼ばわりして、こらえてつかあさい」と息も絶え絶えな客を、腕の中にかきいだくまさ子。そのまさ子の菩薩のような表情に、客は安心したのでしょう、「姐さん頼みがあるんじゃ」と言い出しました。自分は良吉といって、岡山の船宿「浜幸」の息子。しかし放蕩が過ぎて、こんなところで命を落とすことになった。それを父親にわびておいて欲しい。そして「お袋に、今年も金比羅参りをできんで、スマン……」ガクッ。

もちろん、客が死のうが生きようが、南田親分としてはどうでもいいこと。とにかく金です。300円を若い衆に取り立てに行かせなければ。と、まさ子が言い出しました。「お待ちください。そのホシは私に取りに行かせていただけませんか」「あんたが」「はい、私が任された勝負だったんですから、私がけじめを付けて参ります」。もちろん、まさ子としては、良吉の最期の願いをかなえてやりたいのです。

船中で、口のうまい福松(南利明)を助けたり、渡り床(流しの床屋さん)の職人、音羽清一郎(菅原文太)と出合って運命を感じたりしつつ、まさ子は宇野へ到着しました。さあ、これからが気の重い時間です。「ごめんください」。船宿「浜幸」に着いて、挨拶をするまさ子。「どなたさんでしょうか」と良吉のお母さん(三益愛子)が出てきましたよ。しかし、どうやら盲目のようです。さらにお父さんの幸作(島田正吾)も登場。なんていうか、濃い夫婦ですねえ。かたや伝説の母モノ女優。かたや一人芝居な男ですから。

「300円、確かに良吉の筆跡に間違いねえ。これがあんたのご用件か」と、ギロリとまさ子を見るお父さん。「はい、いただきに参りました。ご無理でしたら、私の一存でけじめを付ける方法もありますが」とまさ子はあくまで謙虚です。「そんなご心配はしていただかんでええ。わしも昔は遊び人とも付き合いがありましたけえ。いや、この証文にはケチはつけん。きれいに払います」、ただし……。まだお母さんは息子が死んだことを知らない。だから、そのことだけは黙っていて欲しい。「今はわしだけが胸にたたんでいるkとじゃから、それだけはご承知おき願いたいんじゃ」。

早速、古い友人の社長に金を借りに行くお父さん。権利書を片手に、「これを担保に黙って貸していただきたいんじゃ。浜幸の店と、裏の家作(貸し家)一切の権利じゃ」と頼みます。「あんたとは昔からの古い付き合いじゃけえ、もう、こんな他人行儀はせんでもええがな」と言いつつ、権利書を受け取る社長。あぶない、あぶない。だいたい、こういう場合、ろくでもないことが起きるんですよね。

待っている間、手持ち無沙汰なまさ子は、浜幸の裏にある長屋を覗いてみることにしました。おや、赤ん坊が泣いています。思わず抱き上げて、「よい赤ちゃん」とうっとりした表情のまさ子。と、そこにたくましい女たちがワラワラと現れ、「親方さんのところにおいでなすった」と声をかけてきました。そう、女たちは、漁に出ている男たちの妻で、浜幸の長屋に住み、浜幸の作業場で内職をしているのです。まさ子を大歓迎する女たち。なかでもリーダー格のおりく(三原葉子)などは、美しいまさ子を、大阪の芸子さんだと勝手に決めてかかっているようです。

金を用意してきたお父さんに懇請されて、一晩、泊まることにしたまさ子。しかし、それがまずかったようです。というのも、地元の滝島組と浜幸のトラブルに巻き込まれてしまったのです。発端は、滝島組の飯場のあまりにヒドイ待遇に逃げ出した男が、お父さんに助けを求めてきたことに始まりました。見るに見かねて、岡山まで逃がす算段をとるお父さん。しかし、滝島組とすれば、このままでは示しが付きません。なんとしても男を連れ戻して焼きを入れたいところです。さらに、お父さんの友人の社長が、滝島(金子信雄)のところに「滝島君、ええ話、持ってきたぜ」と権利書を持ってきたから、さあタイヘン。どうにか浜幸とのケンカの口実を手に入れて、権利書をたてに店から家作まで奪い取ってしまえ。と、まあ、こうなるわけです。

結局、お父さんに逃がしてもらった男は、すぐ滝島組に捕まり、お父さんの手引きで逃げたとペラペラ話したみたいです。早速、男を連れて、浜幸に乗り込んでくる滝島。「とっつあんの手引きで逃げたと、はっきりしゃべっとるんじゃい」。さあ、この落とし前をどうしてくれる。ぐぐっとつまるお父さん。さらに、「浜幸。銭がなけりゃ、これで弁償してくれ」と滝島が権利書を出してきたからビックリです。「なんで、それを」「小西商会の社長さんが、どうしても遊郭を作らにゃならんと、わしのところに相談に見えられたんじゃ」。

このままだと、店はもちろん、裏の長屋も取り壊しの運命。「親方さん、なんで権利書なんか担保に」と、おりくを始めとする「たくましい」女たちも騒然としています。「こらえてくれ。どうしても300円の金が入用だったんじゃ」と、お父さんはペラペラと事情を話し始めましたよ。「昨日、先方から使いが来たけ、工面して払ってやったんじゃ」。「昨日ちゅうたら、じゃあ、あのお客さんが」「畜生。あの女、うちらには、知らん顔しとって」。なんだか、まさ子は一気に悪者扱いにされてしまいました。

いたたまれないまさ子は、滝島組で祝杯をあげている小西社長のところに直談判に向いました。300円を返すから、権利書を返してくれと要求するまさ子。しかし、社長は言を左右にトボケまくってます。「旦那さん。あたしは渡世人ですよ。そんな小僧の使いできませんよ」。まさ子はここで、声をグッと低くして言います。「出してもらいましょうか」。切った張ったの世界に生きる渡世人の迫力にビビる社長。と、そこに滝島が出てきて、言います。「渡せんな、帰れ」。「滝島さんですね。この件は、わたしとコチラさんの話です。控えてくださいませんか」と、まさ子はピシャリです。三日待つと宣言するまさ子。「三日経って、ご返事がない場合は……」とドスを懐から出して続けます。「渡世上の落とし前を付けさせていただきます。よござんすね」。社長はワナワナして、声も出ない様子。たまりかねた滝島は、再び口を出しました。「その落とし前はわしが受けよう」。「お前さんには関係ないと言ったろう。それとも、この上州小政にケンカを吹っかけるつもりなのかい」。

「今、わしらを助けてくれる気持ちがあるんじゃったら、なんでその時、良吉を助けて下さらんかった。たとえ非はあの子にあったとしてもじゃ」と理不尽な怒りをぶつけてくるお父さんに、「渡世人には渡世人としての立場がございます。どうか、あたくしの意地を通させて下さいまし。お願いいたします」と頭をさげるまさ子。ホント、なんでこんな目に遭うんだか。長屋を荒らしにきた滝島組の組員をやっつけても、女たちはありがとうも言いません。むしろ滝島組よりまさ子を憎んでいる雰囲気です。思わず悲しくなったまさ子は、「あたしはこんな女だったんです」と言うのでした。もちろん、女たちは無言で睨んでいるだけですけど。

さて、捕まった男のことを心配して、滝島組の飯場に向うまさ子。おや、行きの船中で出あった福松がいましたよ。話を聞くと、ここの飯場は相当にヒドイところのようです。どうしても辛抱できなかったら、私のところに逃げてきて、と言うまさ子。あと、ついでに、この間、脱走して捕まった男のことも頼みます。「命に危険があるようだったら、すぐに私に知らせて欲しいの」。しかし、まさ子の、この行動はムチャだったようです。なにしろ、ここは敵地ですから。ほら、悪そうなのがまさ子を取り囲んできましたよ。と、そこに南田一家で出あった銀三が現れました。「この場はわいに任してんか」。どうやら銀三は滝島と兄弟分なものの、「はっきり言うたら、非は滝島の方にある」とまさ子の味方をしてくれるみたいです。「わいが、あんじょう取り計らいますさかい、しばらく、このわいに任しといてはもらえまへんやろか」。もちろん、まさ子に否やはありません。というか、地獄に仏とは、このことでしょうか。

なぜか、お母さんと金比羅参りに行くことになったまさ子。「まさ子さん、あなた本当は良吉の嫁なんでしょ」とお母さんは、まさ子のことを渡世人とは思っていないようです。もちろん、それは向こうの勝手な勘違いとは言うものの、お母さんの夢を壊すことは忍びない。お母さんの笑顔の横で、まさ子はただ一人、苦しむのです。

金比羅参りから帰ると、そこに福松が男を連れて、飯場から逃げてきました。「助けてきてくれたのね」と喜ぶまさ子。銀三もやってきて、二人を逃がす算段を整えてくれます。ありがとう銀三さん。と、思ったら、なんてこと。どうやら、銀三はまさ子が目当てだったようですよ。口説き始める銀三に不審の念を抱くまさ子。「ひとつだけ聞いておきたいことがあるんです。あんたと滝島は昔からの付き合いだったら、大阪で良吉さんを殺したのは、始めからの絵図だったんですか」「……」。沈黙が答えのようです。おっと、そこに清一郎が現れて、銀三の首にピタっとドスを当ててきましたよ。えーと、覚えてらっしゃいますか。まさ子が船上で出合った運命の人です。「梅田の銀三。探し回ったぜ。五年前、てめえに斬られた音羽勘次郎の兄、清一郎だ。出ようか」。

土砂降りの雨の中、対決する清一郎と銀三。「銀三。てめえは勘次郎が女房にするはずだった女に横惚れしやがって、闇討ち食らわしやがった。女も自殺したの知ってるだろ」。銀三は何も言えません。銀三の首からドスを放し、「抜け」という清一郎。「わいも梅田の銀三や、手ぶらでは死なんで」、どりゃー。はい、銀三はあっさりと清一郎にドスを叩き落されました。弱いな。「ま、待ってくれ。なんぼでもやる。堪忍してくれ」と銀三はペコペコしています。「くたばりやがれ」とドスを振りかぶる清一郎。まさ子は止めに入ります。「待ってください。こんな情けない人に落とし前をつけても、弟さんは喜びません」。「姐さん、止めないでおくんなさい」「こんな男の命と引き換えに、あんたに赤い着物をきせたくない。あたしはイヤですっ」。思わず出てしまった愛の告白に、自分でもビックリしたまさ子は、そっと傘を拾い上げ、清一郎に差し掛けます。恥じらいからか、顔を背けつつ、後れ毛を直すまさ子。ゾクゾクっとするほど色っぽい仕草です。

夜の海岸。清一郎は灯篭をそっと流しました。「勘次郎もこれで、忘れてくれるでしょう」。「長い間のご苦労もあったでしょうに、余計な口出ししてすいません」と深々と腰を折るまさ子。しかし、清一郎はさっぱりした表情です。今度は姐さんの手伝いをしますよ、と言う清一郎。「私はもう、何にもすることが無くなっちまったから、苦労があったら、少し分けてもらいてえんですよ」。思わず、まさ子は、母が自分を捨てて、男と満州に逃げてしまったことを話します。「憎いおっかさんだけど、でも、心の片隅で、おっかさん。呼んでる時もあるんです」。

滝島組は、勝負に出てきました。浜幸の長屋に火をかけたのです。タイヘンだ、赤ん坊が取り残されている。井戸の水をかぶって、火炎の中に飛び込むまさ子。どうにか赤ん坊を救い出し、まさ子は「坊や。坊や」といとおしそうに撫でています。しかし、女たちに赤ん坊は取り上げられ、感謝の言葉どころか、「放せ、このバカ」と言われてしまうのです。思わず、忍び泣くまさ子。そこに清一郎が現れて言います。「姐さん。やくざは日陰の花だ。日向に咲こうなんてかんげぇたら、てめえが惨めになるだけですよ。どんなに日陰に咲こうと、おめえさんの花の美しさは、私には分かってます」。

滝島組の暴挙に、お父さんは完全にキレました。ピストル片手に、滝島組に乗り込みます。ロボットのようにカクカクした動きで、滝島を脅すお父さん。「滝島。わしも浜幸と呼ばれて、町の衆の音頭を取ったこともある男じゃ。ケンカを売るなら買うちゃる」。滝島はみっともないほどビビっています。「分かった、浜幸。わしが悪かった」。と、銀三が背後からお父さんをグサッ。とことん、卑怯な奴です。ビビった反動で、お父さんのピストルを奪い、撃ちまくる滝島。「さて、これをどう始末するかだな」。「手は打っといた。わいに任しときい」と、銀三は答えて言います。さあ、どんな卑劣な手を考えているのやら。

呼び出されたまさ子が、滝島組にやってきました。「あんたに引き取ってもらいたいものがあるんや」とニヤついている銀三の視線の先を見ると、なんとお父さんの遺体じゃありませんか。「それから、そっちの奴もな」。うわっ、庭には福松と男の死体が。そういえば、二人が逃げる手配をしたのは銀三でした。ということは、最初から、銀三は二人を殺す気だったんですね。「あたしに黙って引き取れと言うんですか。あたしの目は節穴じゃないんですよ」と気色ばむまさ子ですが、ふすまが開いて、三度ビックリです。なんと、南田一家のオヤブンじゃありませんか。銀三の仲立ちで、滝島と兄弟盃を交わしたというオヤブン。ってことは、つまり、まさ子は渡世の義理から、滝島に手を出せないということです。勝ち誇った銀三は言います。「わいへの落とし前は、この場でつけてもらわな」。憤怒の表情を押し隠し、黙ってドスを抜くまさ子。うぐっ。小指を落としています。

お父さんのお葬式を終え、立ち去ろうとするまさ子をお母さんが呼び止めました。あなたが良吉のお嫁さんじゃないことを私は知っていた、と言い出すお母さん。まさ子は言います。「あたしが良吉さんを殺したんです」「まさ子さん、そんなことは私は知ってましたよ」。そう、全てを知っていたお母さんは、どす黒い、底の知れない暗闇に落ちることを嫌って、あえて憎しみを封印しようとしていたのです。「そこから逃げたい一心で思いついたのが、あなたが良吉の嫁であったと信じ込むことだったんです」。しかし、演じているうちに、いつしかまさ子を本当の嫁だと思うようになったと言うお母さん。いつまでも、ここにいてね。

月明かりの差し込む座敷で、清一郎からもらったお守りの鈴を鳴らしているまさ子。その表情は、何かを決断したかのようです。と、そこに清一郎がやってきました。「お家さんを裏切っちゃいけませんよ」「清一郎さん。あたしは日陰の花なんです。日向には咲けません。何も仰らないでください」「姐さん。私も一緒に死なせてください」。ハッとして清一郎を見つめるまさ子。そして、まさ子を見つめる清一郎。

バサァッ。袈裟切りをするまさ子の姿がいきなり映し出されました。「オヤブン、殴りこみだぁ」。当たるを幸い、長ドスで敵を斬り斃していくまさ子。もちろん、清一郎も一緒です。憎い滝島の腕を斬るまさ子。そこに、南田のオヤブンが出てきました。「小政。どうしても俺の顔をつぶす気かっ」「オヤブン、どいておくんなさい」「うるせえ、俺の言うことが聞けんのか」「こればっかりは」「おのれ、わいが相手じゃ。刺せるもんなら刺してみい」。南田のオヤブンは長ドスを振りかぶります。と、そこに自らの体をたてに突っ込んでくる清一郎。斬られつつ、ドスを南田に叩き込みます。そんな清一郎を、またも後ろから刺してくる銀三。「清一郎さんっ」「俺は大丈夫だ」。そう、ここで止めては全てがムダになり。後ろ髪を引かれつつ、逃げ出した滝島を追うまさ子です。

「銀三。てめえって野郎は」「やかましい」。お互いに体をぶつけつつ、ドスを腹に叩き込み合う二人。ぐさっ、ぐさっ、ぐさっ、ぐさっ。

不意打ちを食らって、滝島に肩を斬られるまさ子。しかし、髪を振り乱しつつ、渾身の一撃を滝島の体に突き通しました。自らの血と返り血で、真っ赤に染まっているまさ子です。

けじめを付けて、急いで清一郎のところに戻るまさ子。「清一郎さん」「姐さん、おめえさんは、おめえさんだけは日向に咲かしてやりたかった。ひな……」「清一郎さーんっ」。

巡査に護送されるまさ子。途中、浜幸の葬儀で祈っているお母さんを見つけました。「お家さん、まさ子です。許してください。あたしができることは、これしか無かったんです」とわびるまさ子。お母さんは無言です。さらに、女たちの刺すような視線を浴びて、ヨロヨロと連れて行かれるまさ子。と、お母さんが叫びました。「まさ子っ」。まさ子はバッと振り返ります。「まさ子、行っちゃいけない」「おっかさーん」。しかし、お母さんに走り寄ろうとしたまさ子は、巡査に押さえられるのです。目にいっぱいの涙を溜めたまさ子は、「おっかさん」とつぶやきながら、連行されていくのでした。

まず、最初にひとこと。もし、この文章を読んで、「この映画、たいしたことないな」と思われたとしたら、それは全面的に僕の責任です。僕の文章力が足りないだけで、この作品は本当にスゴイ映画です。「日本女侠伝」シリーズはもちろん、「緋牡丹博徒」シリーズの全作品よりも、この作品の方が上だと断言します。

まずストーリーがいいです。アウトローたる渡世人といえど、その世界には規範があります。もちろん、その中で、仁義を知っているヤクザ組織のオヤブンが、仁義を知らない新興ヤクザに殺されたりするところにドラマが生まれるわけですが、この映画はちょっと違います。つまり、藤純子が仕えるべきオヤブンは、名目上、何も悪いことはしていないのです。ただ、藤純子が敵対しているオヤブンと兄弟の盃を交わしただけで、むしろ争いを止める側に立っています、理屈では。しかし、それに逆らい、ドスを振る藤純子。それは、アウトローである自分を自覚し、その規範をよりよく守ることで生きてきた藤純子が、その世界からさえも追放されることを意味しています。言い換えれば、アウトローの世界のアウトローになるということです。マイナスとマイナスをかけるとプラスになりますが、藤純子はプラスの世界であるカタギの世界にも行くことはできません。どんなに彼らのために尽くそうと、「放せ。このバカ」と言われるのが関の山です。つまり、もう世界のどこにも居場所はないのです。

そんな居場所のない藤純子に惚れて、「一緒に死」ぬとまで言ったのは、「私はもう、何にもすることが無くなっちまった」人間である菅原文太だけでした。これはとても暗示的です。この世で何もすることの無い人間というのは死者だけですから、結局、藤純子に付き合おうというのは、死者だけ。つまり、藤純子も死者の世界に半分、足を踏み入れているということなんでしょう。

もう一つのストーリーの軸は、藤純子と三益愛子の心の交感。ここも深いです。母に捨てられたという経験が負い目になりつつも、「心の片隅で、おっかさん」と呼び続けている藤純子。そして、自分の息子を殺した女と知りつつも、修羅の世界に落ちないために、藤純子を嫁(つまり義娘ですね)と思い込もうとする三益愛子。そんな二人が、母娘になっていく過程が、なんとも泣かせます。あくまでフィクションとして始めた母娘ゴッコが、最後には真実のものになる。しかし、それが真実になった時は、何かが決定的に壊れてしまった後の話。そのやるせなさが、胸を打ちました。

さて、山下耕作監督といえば、作品中に「花」を入れることで有名。緋牡丹博徒でも実に効果的に花を使っていました。しかし、この映画には花が出てきません。それもそのはず、藤純子が「花」なのですから。

とにかく、この映画の藤純子は尋常でない美しさです。菩薩のような表情。母の表情。娘の表情。どれも完璧です。実際問題として、顔の造作と言うことだけでいえば、山本富士子などいくらでも「美人」はいます。しかし、藤純子の場合は、表情を作る天才なんだと思います。その場面、その場面で求められる表情は千差万別です。それを咀嚼して、これ以外は考えられないといった形で、出すことができる。それは、場面にピッタリ合っているがゆえに、このうえもなく美しく見える。つまり、そういうことなんでしょう。中でも特筆すべきなのは、最後の殴りこみの美しさ。まとめていた髪がほどけ、返り血を浴びた表情。そこには凄惨なのに、いえ、凄惨だからこそ出てくる美しさがあります。こればかりは、いくら言葉を連ねても、うまく表現できそうにありません。ただ背筋が震えるほど美しいというのはこういうことか、と思いました。

笠原和夫の緻密で、奥の深い脚本。山下監督の繊細な映像美。そして、それに答えきった藤純子の演技。この映画は、その三点が完璧に融合した奇跡的な作品です。それにしても、この映画公開時の藤純子は25歳。それで、あれだけの表情を見せるなんて……、信じられません。







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2 コメント

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最高傑作! (めんち)
2009-09-26 02:05:13
ご無沙汰しております。

僕も以前、観ました。
山下耕作は、本作と「総長賭博」と甲乙つけがたいがたいですね。ともに傑作です。

山守親分ほどせこくはないが、金子信雄の敵役もはまっていると思います。南利明を投入してアクセントをいれる山下監督は「将軍」の名にふさわしいですね。

でも、藤 純子は「表情を作る天才」とは・・・全く同感です。
観なくては (いくらおにぎり)
2009-09-28 09:20:53
めんち(かつ)さん、こんにちは。コメントの反映が遅れてすみませんでした。

評判の高い「総長賭博」……実は観てないんですよ。笠原和夫ファンなので、観なくてはと思いながらも、鶴田浩二がネックで。

でも、食わず嫌いはよくないので、今度、機会があれば観ることにします。

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