【「天国の駅」出目昌伸 1984】を観ました

おはなし
美しい"かよ"は、夫を二人殺し死刑になってしまいました。
実際に起こった殺人事件をもとに作られた映画です。ホテル日本閣事件といわれるそれは、小林カウという女性が引き起こしたもので、彼女は女性としては戦後初の死刑執行を受けたのです。ということで、事件のあらましを調べると、かなりスゴイ展開。それを清純派の小百合ちゃんが演じるということで、当時はそれなりに話題を呼んだ作品です。
沛然と雨が降りしきっています。ここは東京拘置所。今まさに死刑の執行が近づいているようです。房には正座をしている女性がひとり。荒れた顔に、それでも丹念に指で紅を差す女性。女性は「お待たせしました」と刑務官に言って、刑場にひかれていきます。教誨師に「何か言い残すことはありますか」と聞かれ、「いいえありません……あたし」と言いよどむ女性。「何ですか」「きれいでしょうか」。
昭和30年。結城駅の前をビッコの男が歩いています。男は林場栄三(中村嘉葎雄)と言い、戦争で下半身が不自由になってしまったのです。そんな栄三は、若くてキレイな妻を抱けないものだから、嫉妬のかたまり。今日も家に帰ると、自分の家を覗いている若くてハンサムな警官を見つけてしまい、嫉妬に狂うのでした。
「いま若い巡査が来てたろ」と妻のかよ(吉永小百合)を怒鳴りつける栄三。かよは懸命に否定しますが、「じっとしてろ、調べりゃ分かる」と栄三はかよを押さえつけ、着物の裾を割るのです。あれー。そんな有様をじっと覗いている巡査の橋本(三浦友和)。ちょっと目付きが異様な感じです。
かよは結城紬を織って、一家の家計を支えています。腕が確かなので、織物工場の人からも信頼されているようす。特に、工場で雑役をしている知恵遅れのターボ(西田敏行)などは、かよをまるで女神でも見るように崇めています。しかし、かよは女神でもなんでもなく、ひとりの女。今日も、織物の合間についつい、股間に手を這わせてしまうのでした。そんな恥ずかしいところを、やっぱりじっと覗いている巡査の橋本。さっと家に入り込み、「奥さん、誰にも言いません」「ぼくは奥さんが好きです」と言いつつ、かよを押し倒します。「あの人が帰ってきます」と言いつつ、その気になる"かよ"。これも女の業でしょうか。
ということで、この段階までで、小百合ちゃんは中村嘉葎雄に「検査」されちゃうは、自分でシチャうは、ついでに三浦友和に抱かれて「燃え」ちゃうはと、体当たり演技爆発。とはいえ、そこは小百合ちゃんですから、色気ゼロなのが困りものです。なんか目をつむって髪を振り乱せば、それが「体当たり」だと思っているのかもしれません。
それはともかく、かよはすっかり若い男に溺れてしまいました。当然、栄三にバレるのも時間の問題です。持っていた杖で折檻される"かよ"。「酒だ、酒持ってこい」と怒鳴る栄三。その時、かよはふっと視線に気づきました。巡査の橋本が相変わらず、外からじいっと覗いているのです。ハッとして、袂を探るかよ。そう、そこには白い粉が。その粉を酒に混ぜ、様子を窺うと、ブクブク。白い泡を吹いて栄三は絶命です。
「明らかに毒物だな。どっちが言い出したんだ」。橋本は取調室で尋問を受けています。尋問しているのはベテラン刑事の五十沢(丹波哲郎)です。「ぼくは知りません」とシラを切る橋本巡査。いえ、元巡査ですね。橋本は事件後、十日で警察を辞め、二十日でかよの下に転がり込み、さらには"かよ"から金を引き出し、法政大学の夜間部にちゃっかり入学したのです。
人待ち顔で、結城駅にたたずむ"かよ"。東京の大学に通っている橋本の、久しぶりの帰省を心待ちにしているのです。しかし、帰ってきた橋本を見てビックリ。なんと女連れじゃありませんか。そのうえ、かよのことを「姉さん」と呼びかける始末。ガーン。橋本の連れてきた女は幸子(真行寺君枝)と言って、ちょっと軽そうですが、あきらかに"かよ"より若いじゃありませんか。その上、橋本は幸子を結婚するつもりだというのですから、ムキーッな感じです。すっかりムクれた"かよ"に、「あいつとは仮の夫婦なんだよ。本当の夫婦はあんたとなんだよ」と猫なで声を出す橋本。しかし、もう信用できません。ついでに幸子もその会話を聞いていたので、すっかり橋本の悪事はバレバレです。とは言え、橋本は"かよ"の殺人を知っているのです。仕方ない。家を売って、手切れ金を捻出するしか"かよ"に道はないのです。「あの薬は私が飲めばよかった」とつぶやく"かよ"。橋本は「いるんだったら、また手に入れてやるよ」とうそぶくのです。こいつ悪い奴ですね。
渓谷の上にかかる鉄橋をゴトゴトと走る電車。とてつもなくキレイな紅葉の中、かよと幸子は錦谷駅にやってきました。「死なないでください。あんな男のことで死んだりしたらつまらないわ」と言う幸子。「あなた、あたしが死ぬと思ってついてきてくれたのね」と"かよ"は感謝感激です。紅葉を見つめ「きれい」とつぶやく幸子に、「こんなとこに住んでみたいわ」と答える"かよ"。
「それから一年」。いきなりかよは「姉妹」という民芸品屋を開いています。もちろん幸子も一緒。なんだか大林宣彦監督の映画みたいな展開になってきましたよ。ともあれ、そんな平和な日常に、いきなり不吉な影が。ガラガラっと扉が開いて、男が現われたのです。「あんた、わしを覚えてませんか」「結城警察の五十沢ですよ」。ガーン、丹波哲郎がいったい、この鄙びた温泉にどうして。「橋本くんいないんですか」「あっ、あなたパラチオンって知ってますか。虫を殺す農薬なんですがね、人も殺せますよ」とか、何だか核心をついた質問を浴びせてきます。五十沢は慰安旅行でたまたま来たとか言ってますが、本当でしょうか……。はい、本当でした。温泉芸者をしている幸子が、ちょうどそのお座敷に出たんですから間違いなさそうです。だとしたら、すごい偶然ですね。
ま、それはともかく、バカのターボが"かよ"を慕って温泉町の雑役として居つき、ついでに土地の大旅館「大和閣」のご主人・福見(津川雅彦)も"かよ"を愛しているという、まさに両手に花状態。そして、福見は大和閣の一角に、かよの店を出して欲しいとまで言い出したので、かよの人生は順風満帆な感じです。
しかし、そこに忍び寄る不吉な影が……(って、そればっか)。それは、福見の奥さん(白石加代子)が病院から退院してきたのです。旅館に帰るなり、かよの店を破壊しまくる奥さん。ちょっと尋常じゃありませんが、それもそのはず。奥さんの病気は脳方面なのでした。バカのターボが飛び込んできて、「このやろう、ぶっ殺すぞ」と"かよ"をかばいますが、まさに竜虎相打つといったところでしょう。
でも、この出来事がかよと福見をかえって接近させたのは皮肉というものでしょうか。「狂った女房を持ってると、人には言えんことばかりでね」と男泣きしてみせる福見に、ドキっとしてしまう"かよ"。「お姉さん、同情なんかすることないのよ」と言う幸子に、かよは「同情なんか」と答えてみますが、いや、これは完全に「その気」になりましたね。
さて、温泉の宣伝ポスターに幸子の写真が載ったことをキッカケに、橋本が訪ねてきました。この橋本、かよからたんまり金をせしめたくせに、ギャンブルで学費が続かなくなり、今はしがないタクシー運転手をしているのです。そして、たまたま見かけたポスターで幸子が温泉にいることを知り、金を無心にきたのでしょう。ところが、かよも、この温泉にいることを知り、方針変更。かよなら、秘密を握っている分、いくらでも金をむしり取れそうです。しかし、そこに「待った」をかけたのが福見。事情はよく分からないものの、かよのために200万円もの大金をポンと積み上げ、橋本を追い返すのでした。
それを知った幸子は手のひらを返したように、福見との結婚を"かよ"に勧めます。ついでにバカのターボも、おかよさんが大和閣の玄関の真ん中に立って、客を出迎えたらきっと似合うと言い出しました。そうはいっても福見には奥さんがいるんですけどね。これをどうするつもりでしょう。しかし、ここで福見がターボを呼び出して、何やら相談しています。「わがった。ちゃんとやっから」と答えているターボ。まさか、まさか。
病院から家に帰る途中の奥さんは、登山鉄道から突き落とされて死にました。それを聞いてビックリした"かよ"。何かを察知したのか、「ターボさん、どっか行ってたの」と問いただしてみます。しかし、「いかったね、神様がいて。かよさんが幸せになるよにってしてくれたんしょよ」と見当ハズレな答えを返すターボ。いや、そんな都合のいい神様はいないから。
それはともかく、奥さんが死んだので、かよは晴れて福見と結婚することになりました。雪のなか、雪よりも白い白無垢を着た"かよ"が歩いていきます。それを道端からそっと見て、「きれいだ。きれいだ」と見送るターボです。
そして迎えた新婚初夜。「あの、お話があります」と切り出す"かよ"。しかし福見は「私は何も聞かない。聞きたくないんだ」と、話を聞くのを断固拒否です。「でも」と言いつのる"かよ"の唇をキスで塞ぎ、「私はこれでも嫉妬深いんだ」と言う福見。ここからは津川雅彦お得意のラブシーンです。
しかし、そこに忍び寄る不吉な影が……(って、三度目)。なんと幸子が死にました。奥さんと同じように、登山鉄道から渓谷に落ちて死んでいるのを発見されたのです。とは言え、実はこれは事故死。再び金をせびりに来た橋本を、かよのために殺そうとした幸子が、誤って電車から転落したのです。しかし、そんなことを知らない"かよ"は半狂乱で、「どうか私を東京に行かせてください」「幸子は橋本に殺されたんです」と福見に頼み込みます。しかし福見は「東京に行きたいなら行きなさい、その代わり二度と帰ってくるな」と激怒しています。どうしましょう。はい、やっぱり東京に行くことにしました。「行かねえで」とターボが追ってきますが、やっぱり妹の仇を取らなくては。ところが駅についた"かよ"は、「雪のため運休します」の張り紙を見て呆然。「おかよさん、帰っぺ」とターボに言われちゃってます。
そこに車を乗り付けた福見が登場。とりあえずターボをパンチで黙らせ、そのまま"かよ"を連れて帰ってしまいました。なんかターボは殴られ損な気もします。かよを家に連れ帰った福見は、「昔のことは忘れろ」と言い放ちます。忘れられなければ唖になれ、「わしはこの体があればそれでいい」とか言っていますが。そのまま"かよ"を抱く福見。もちろん津川雅彦のネチっこい演技炸裂です。しかし"かよ"は無反応。そしてとうとう、「私を捨ててください。私は前の夫を殺した女です」と衝撃の告白をするのでした。ショックを受ける……のかと思ったら平然としている福見。「お前は俺から逃げられると思うか」と目の前しか見えていないようです。「私はあなたの何なんですか」「キレイなおもちゃだ。たまらなくキレイなおもちゃだ」。さすが津川雅彦です。
ネチネチと自慢の愛撫を繰り広げる福見ですが、「よしてください」と"かよ"は燃えてきません。こうなったら、と首を絞め始める福見。「俺が喋れば死刑だ。こうやって首を絞められて死ぬんだ」と脅かし半分、プレイ半分なヘンタイっぷりです。さらに自分で慰めるんだ、と"かよ"にムリヤリ、あれを強制し始めちゃいました。どんどん津川雅彦のエロ度が高まっているんですが。「恥ずかしいだろ」「どうだいいだろ」と、ヘンタイ度もマックスに。と、気づくとターボが部屋を覗いています。おっと、これはいいところに。「来い、来るんだ」とターボを寝室に引っ張り込む福見。あまつさえ、ターボに"かよ"を抱けとまで言い出しました。オロオロしつつも、そおっと"かよ"に手を伸ばすターボ。「誰?」「俺です」。そこに福見が踊りかかってきて、ターボの首を絞め始めました。ああ、奥さん殺しをさせたターボをここで殺して、後腐れないようにする作戦だったんですね。「かよ手伝え」と福見は言います。それに答えるように火箸を握り締める"かよ"。えいっ、グサっ。刺されたのは福見でした。
かよとターボの逃避行が始まりました。かよをおぶってターボは懸命に歩きます。途中で寄った露天風呂でターボは、まるで女神に仕える下僕のように、丁寧に"かよ"についた血をふき取っています。「かよさんはキレイだよ。神様よっかキレイだよ。雪よっかキレイだよ」と言われて、思わず涙ぐんでしまう"かよ"。「来て。ここに来て私を抱いて」。しかしターボは「できねえ」と首を振るばかりです。
さて警察が二人を追跡中。警察犬をそろえて、大々的な山狩りです。「この山、越えられますかね」と地元の警官に聞いているのは五十沢刑事こと丹波哲郎。地元の警官が「ムリです。死ぬのと一緒です」と答えていますが、確かに雪山をなめたら死ぬのは「八甲田山」でご承知のとおりです。それに二人は防寒具もつけてませんしね。案の定、斜面を滑り落ちていく二人(ここは、もちろんスロー)。雪まみれになった顔を見て笑っている二人は、ついでに雪遊びを始めちゃいましたよ。もちろん、ここもスローでコッテリと。さすが出目監督のトホホ演出が光ります。山の稜線に現われた虹を見て泣く二人、とかなんとかやってるうちに、二人は山越えに成功しちゃったみたいです。雪中行軍隊よりスゴイかもしれません。
人気のない駅に到着した二人。人がいるかどうか分からない販売口に向かって「2枚、2枚ください」と声をかけてみる"かよ"。もちろん、何の答えもありません。と、思ったら警官隊がワラワラ出てきました。グワーッと暴れまくるターボを何人もの警官が、そうがかりで押さえ込もうとしています。そして、駅事務所からスッと現われ、「手錠かけさせてもらうよ」と渋くキメる五十沢刑事。「もういいのよ、もう」と言われて、ターボもおとなしくなりました。いつのまに差し出されたのでしょう。販売口には大人切符と子供切符が一枚づつ、そっと置かれています。多分、ここは泣かせポイントなんでしょうが、微妙に空振り気味なのが悲しいです。
「二人でどこ行くつもりだったんだね」と五十沢刑事に聞かれた"かよ"は言います。「……天国です」。ついでに「どうして二人の夫を殺しちゃったんだ」と聞かれて「愛が欲しかったと思います」とも。
橋本は懲役6年。ターボは死刑になりました。そして、今、"かよ"の死刑執行が行われようとしています。首に縄をかけられ、一瞬の沈黙の後、ガタンという音が響きます。思わず数珠を弾き飛ばすほどの勢いでお経を読んでいた五十沢刑事はつぶやきました。「天国に行ければいいが」。
美しい紅葉が、まるで赤と黄色の雲のように広がる中、登山電車が走っていきます。乗っているのは女が一人。裸足の足元だけが映し出されますが、それは"かよ"の足のようです。かよの乗る電車は、はたして天国の駅につけるのでしょうか。
ああ、この映画は意見が分かれそうです。脚本は早坂暁。これを、あの「夢千代日記」の早坂暁が書いた感動作と取るか、「北京原人 Who are you?」の早坂暁が書いたと取るかで、評価は180度変わってしまうんじゃないでしょうか。
現実の事件は、映画のようにキレイではなく、結城紬ではなく作ってるのは漬物だし、奥さん殺しも体を餌に、カウ自身が命じて殺させているし、と同情の余地全くなし。ついでに犯人の写真を見ると、どこから見ても田舎のオバチャンなところが痛すぎます。そんな題材をもとに小百合ちゃん主演で映画を撮る。これはかなりツライものがあります。そうなれば、多少整合性が取れなくても、ムリヤリ感動ものにするしかない、そう早坂暁が考えても、これは仕方ないでしょう。で、当然、無理な土台に建てた建物が、まともな建物になるはずもありません。出来上がってみると、増築に増築を重ねた古い温泉旅館みたいなヘンなデキになってしまいました。
とは言え、キャストはなかなか工夫の後が。なにより、丹波哲郎を刑事役で引っ張り出したのは素晴らしいです。まるで「砂の器」の今西刑事がよみがえったような気さえします。それに根っからの善人な三浦友和を、ある意味一番の悪人に起用したのも意外性のあるいいキャスティングでした。奥さん役の白石加代子もかなりの迫力。怖い方向に振れきった、頭のおかしい人をやらせたら、白石加代子が日本で一番じゃないでしょうか。なにしろ目を見た瞬間、「違う、何かが違う」と思わせるようなイッちゃった演技ですから。
しかし何と言っても津川雅彦。キャスティングのキモは、ここにあります。どうみても色気不足の小百合ちゃんを補うには、エロ大将の津川雅彦が絶対に必要です。津川雅彦のネチっこい演技があったからこそ、映画がどうにか形になったとさえ言えるような気がします。
ともあれ、ダメな企画を前提に、早坂暁のムチャな脚本、絶妙のキャスティング、出目監督のコテコテなお約束演出という、ありえない組み合わせで出来上がったこの映画。観て損はないと思います。得があるか、と聞かれると言葉に詰まりますが。
ちなみに企画は、岡田裕介です。ああ、やっぱりね。

(冒頭のテロップ。"駅は乗れない"って、この段階で日本語崩壊)

(個性派1や)

(個性派2)

(それに狂気派に囲まれて)

(小百合ちゃんもタジタジ)
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おはなし
美しい"かよ"は、夫を二人殺し死刑になってしまいました。
実際に起こった殺人事件をもとに作られた映画です。ホテル日本閣事件といわれるそれは、小林カウという女性が引き起こしたもので、彼女は女性としては戦後初の死刑執行を受けたのです。ということで、事件のあらましを調べると、かなりスゴイ展開。それを清純派の小百合ちゃんが演じるということで、当時はそれなりに話題を呼んだ作品です。
沛然と雨が降りしきっています。ここは東京拘置所。今まさに死刑の執行が近づいているようです。房には正座をしている女性がひとり。荒れた顔に、それでも丹念に指で紅を差す女性。女性は「お待たせしました」と刑務官に言って、刑場にひかれていきます。教誨師に「何か言い残すことはありますか」と聞かれ、「いいえありません……あたし」と言いよどむ女性。「何ですか」「きれいでしょうか」。
昭和30年。結城駅の前をビッコの男が歩いています。男は林場栄三(中村嘉葎雄)と言い、戦争で下半身が不自由になってしまったのです。そんな栄三は、若くてキレイな妻を抱けないものだから、嫉妬のかたまり。今日も家に帰ると、自分の家を覗いている若くてハンサムな警官を見つけてしまい、嫉妬に狂うのでした。
「いま若い巡査が来てたろ」と妻のかよ(吉永小百合)を怒鳴りつける栄三。かよは懸命に否定しますが、「じっとしてろ、調べりゃ分かる」と栄三はかよを押さえつけ、着物の裾を割るのです。あれー。そんな有様をじっと覗いている巡査の橋本(三浦友和)。ちょっと目付きが異様な感じです。
かよは結城紬を織って、一家の家計を支えています。腕が確かなので、織物工場の人からも信頼されているようす。特に、工場で雑役をしている知恵遅れのターボ(西田敏行)などは、かよをまるで女神でも見るように崇めています。しかし、かよは女神でもなんでもなく、ひとりの女。今日も、織物の合間についつい、股間に手を這わせてしまうのでした。そんな恥ずかしいところを、やっぱりじっと覗いている巡査の橋本。さっと家に入り込み、「奥さん、誰にも言いません」「ぼくは奥さんが好きです」と言いつつ、かよを押し倒します。「あの人が帰ってきます」と言いつつ、その気になる"かよ"。これも女の業でしょうか。
ということで、この段階までで、小百合ちゃんは中村嘉葎雄に「検査」されちゃうは、自分でシチャうは、ついでに三浦友和に抱かれて「燃え」ちゃうはと、体当たり演技爆発。とはいえ、そこは小百合ちゃんですから、色気ゼロなのが困りものです。なんか目をつむって髪を振り乱せば、それが「体当たり」だと思っているのかもしれません。
それはともかく、かよはすっかり若い男に溺れてしまいました。当然、栄三にバレるのも時間の問題です。持っていた杖で折檻される"かよ"。「酒だ、酒持ってこい」と怒鳴る栄三。その時、かよはふっと視線に気づきました。巡査の橋本が相変わらず、外からじいっと覗いているのです。ハッとして、袂を探るかよ。そう、そこには白い粉が。その粉を酒に混ぜ、様子を窺うと、ブクブク。白い泡を吹いて栄三は絶命です。
「明らかに毒物だな。どっちが言い出したんだ」。橋本は取調室で尋問を受けています。尋問しているのはベテラン刑事の五十沢(丹波哲郎)です。「ぼくは知りません」とシラを切る橋本巡査。いえ、元巡査ですね。橋本は事件後、十日で警察を辞め、二十日でかよの下に転がり込み、さらには"かよ"から金を引き出し、法政大学の夜間部にちゃっかり入学したのです。
人待ち顔で、結城駅にたたずむ"かよ"。東京の大学に通っている橋本の、久しぶりの帰省を心待ちにしているのです。しかし、帰ってきた橋本を見てビックリ。なんと女連れじゃありませんか。そのうえ、かよのことを「姉さん」と呼びかける始末。ガーン。橋本の連れてきた女は幸子(真行寺君枝)と言って、ちょっと軽そうですが、あきらかに"かよ"より若いじゃありませんか。その上、橋本は幸子を結婚するつもりだというのですから、ムキーッな感じです。すっかりムクれた"かよ"に、「あいつとは仮の夫婦なんだよ。本当の夫婦はあんたとなんだよ」と猫なで声を出す橋本。しかし、もう信用できません。ついでに幸子もその会話を聞いていたので、すっかり橋本の悪事はバレバレです。とは言え、橋本は"かよ"の殺人を知っているのです。仕方ない。家を売って、手切れ金を捻出するしか"かよ"に道はないのです。「あの薬は私が飲めばよかった」とつぶやく"かよ"。橋本は「いるんだったら、また手に入れてやるよ」とうそぶくのです。こいつ悪い奴ですね。
渓谷の上にかかる鉄橋をゴトゴトと走る電車。とてつもなくキレイな紅葉の中、かよと幸子は錦谷駅にやってきました。「死なないでください。あんな男のことで死んだりしたらつまらないわ」と言う幸子。「あなた、あたしが死ぬと思ってついてきてくれたのね」と"かよ"は感謝感激です。紅葉を見つめ「きれい」とつぶやく幸子に、「こんなとこに住んでみたいわ」と答える"かよ"。
「それから一年」。いきなりかよは「姉妹」という民芸品屋を開いています。もちろん幸子も一緒。なんだか大林宣彦監督の映画みたいな展開になってきましたよ。ともあれ、そんな平和な日常に、いきなり不吉な影が。ガラガラっと扉が開いて、男が現われたのです。「あんた、わしを覚えてませんか」「結城警察の五十沢ですよ」。ガーン、丹波哲郎がいったい、この鄙びた温泉にどうして。「橋本くんいないんですか」「あっ、あなたパラチオンって知ってますか。虫を殺す農薬なんですがね、人も殺せますよ」とか、何だか核心をついた質問を浴びせてきます。五十沢は慰安旅行でたまたま来たとか言ってますが、本当でしょうか……。はい、本当でした。温泉芸者をしている幸子が、ちょうどそのお座敷に出たんですから間違いなさそうです。だとしたら、すごい偶然ですね。
ま、それはともかく、バカのターボが"かよ"を慕って温泉町の雑役として居つき、ついでに土地の大旅館「大和閣」のご主人・福見(津川雅彦)も"かよ"を愛しているという、まさに両手に花状態。そして、福見は大和閣の一角に、かよの店を出して欲しいとまで言い出したので、かよの人生は順風満帆な感じです。
しかし、そこに忍び寄る不吉な影が……(って、そればっか)。それは、福見の奥さん(白石加代子)が病院から退院してきたのです。旅館に帰るなり、かよの店を破壊しまくる奥さん。ちょっと尋常じゃありませんが、それもそのはず。奥さんの病気は脳方面なのでした。バカのターボが飛び込んできて、「このやろう、ぶっ殺すぞ」と"かよ"をかばいますが、まさに竜虎相打つといったところでしょう。
でも、この出来事がかよと福見をかえって接近させたのは皮肉というものでしょうか。「狂った女房を持ってると、人には言えんことばかりでね」と男泣きしてみせる福見に、ドキっとしてしまう"かよ"。「お姉さん、同情なんかすることないのよ」と言う幸子に、かよは「同情なんか」と答えてみますが、いや、これは完全に「その気」になりましたね。
さて、温泉の宣伝ポスターに幸子の写真が載ったことをキッカケに、橋本が訪ねてきました。この橋本、かよからたんまり金をせしめたくせに、ギャンブルで学費が続かなくなり、今はしがないタクシー運転手をしているのです。そして、たまたま見かけたポスターで幸子が温泉にいることを知り、金を無心にきたのでしょう。ところが、かよも、この温泉にいることを知り、方針変更。かよなら、秘密を握っている分、いくらでも金をむしり取れそうです。しかし、そこに「待った」をかけたのが福見。事情はよく分からないものの、かよのために200万円もの大金をポンと積み上げ、橋本を追い返すのでした。
それを知った幸子は手のひらを返したように、福見との結婚を"かよ"に勧めます。ついでにバカのターボも、おかよさんが大和閣の玄関の真ん中に立って、客を出迎えたらきっと似合うと言い出しました。そうはいっても福見には奥さんがいるんですけどね。これをどうするつもりでしょう。しかし、ここで福見がターボを呼び出して、何やら相談しています。「わがった。ちゃんとやっから」と答えているターボ。まさか、まさか。
病院から家に帰る途中の奥さんは、登山鉄道から突き落とされて死にました。それを聞いてビックリした"かよ"。何かを察知したのか、「ターボさん、どっか行ってたの」と問いただしてみます。しかし、「いかったね、神様がいて。かよさんが幸せになるよにってしてくれたんしょよ」と見当ハズレな答えを返すターボ。いや、そんな都合のいい神様はいないから。
それはともかく、奥さんが死んだので、かよは晴れて福見と結婚することになりました。雪のなか、雪よりも白い白無垢を着た"かよ"が歩いていきます。それを道端からそっと見て、「きれいだ。きれいだ」と見送るターボです。
そして迎えた新婚初夜。「あの、お話があります」と切り出す"かよ"。しかし福見は「私は何も聞かない。聞きたくないんだ」と、話を聞くのを断固拒否です。「でも」と言いつのる"かよ"の唇をキスで塞ぎ、「私はこれでも嫉妬深いんだ」と言う福見。ここからは津川雅彦お得意のラブシーンです。
しかし、そこに忍び寄る不吉な影が……(って、三度目)。なんと幸子が死にました。奥さんと同じように、登山鉄道から渓谷に落ちて死んでいるのを発見されたのです。とは言え、実はこれは事故死。再び金をせびりに来た橋本を、かよのために殺そうとした幸子が、誤って電車から転落したのです。しかし、そんなことを知らない"かよ"は半狂乱で、「どうか私を東京に行かせてください」「幸子は橋本に殺されたんです」と福見に頼み込みます。しかし福見は「東京に行きたいなら行きなさい、その代わり二度と帰ってくるな」と激怒しています。どうしましょう。はい、やっぱり東京に行くことにしました。「行かねえで」とターボが追ってきますが、やっぱり妹の仇を取らなくては。ところが駅についた"かよ"は、「雪のため運休します」の張り紙を見て呆然。「おかよさん、帰っぺ」とターボに言われちゃってます。
そこに車を乗り付けた福見が登場。とりあえずターボをパンチで黙らせ、そのまま"かよ"を連れて帰ってしまいました。なんかターボは殴られ損な気もします。かよを家に連れ帰った福見は、「昔のことは忘れろ」と言い放ちます。忘れられなければ唖になれ、「わしはこの体があればそれでいい」とか言っていますが。そのまま"かよ"を抱く福見。もちろん津川雅彦のネチっこい演技炸裂です。しかし"かよ"は無反応。そしてとうとう、「私を捨ててください。私は前の夫を殺した女です」と衝撃の告白をするのでした。ショックを受ける……のかと思ったら平然としている福見。「お前は俺から逃げられると思うか」と目の前しか見えていないようです。「私はあなたの何なんですか」「キレイなおもちゃだ。たまらなくキレイなおもちゃだ」。さすが津川雅彦です。
ネチネチと自慢の愛撫を繰り広げる福見ですが、「よしてください」と"かよ"は燃えてきません。こうなったら、と首を絞め始める福見。「俺が喋れば死刑だ。こうやって首を絞められて死ぬんだ」と脅かし半分、プレイ半分なヘンタイっぷりです。さらに自分で慰めるんだ、と"かよ"にムリヤリ、あれを強制し始めちゃいました。どんどん津川雅彦のエロ度が高まっているんですが。「恥ずかしいだろ」「どうだいいだろ」と、ヘンタイ度もマックスに。と、気づくとターボが部屋を覗いています。おっと、これはいいところに。「来い、来るんだ」とターボを寝室に引っ張り込む福見。あまつさえ、ターボに"かよ"を抱けとまで言い出しました。オロオロしつつも、そおっと"かよ"に手を伸ばすターボ。「誰?」「俺です」。そこに福見が踊りかかってきて、ターボの首を絞め始めました。ああ、奥さん殺しをさせたターボをここで殺して、後腐れないようにする作戦だったんですね。「かよ手伝え」と福見は言います。それに答えるように火箸を握り締める"かよ"。えいっ、グサっ。刺されたのは福見でした。
かよとターボの逃避行が始まりました。かよをおぶってターボは懸命に歩きます。途中で寄った露天風呂でターボは、まるで女神に仕える下僕のように、丁寧に"かよ"についた血をふき取っています。「かよさんはキレイだよ。神様よっかキレイだよ。雪よっかキレイだよ」と言われて、思わず涙ぐんでしまう"かよ"。「来て。ここに来て私を抱いて」。しかしターボは「できねえ」と首を振るばかりです。
さて警察が二人を追跡中。警察犬をそろえて、大々的な山狩りです。「この山、越えられますかね」と地元の警官に聞いているのは五十沢刑事こと丹波哲郎。地元の警官が「ムリです。死ぬのと一緒です」と答えていますが、確かに雪山をなめたら死ぬのは「八甲田山」でご承知のとおりです。それに二人は防寒具もつけてませんしね。案の定、斜面を滑り落ちていく二人(ここは、もちろんスロー)。雪まみれになった顔を見て笑っている二人は、ついでに雪遊びを始めちゃいましたよ。もちろん、ここもスローでコッテリと。さすが出目監督のトホホ演出が光ります。山の稜線に現われた虹を見て泣く二人、とかなんとかやってるうちに、二人は山越えに成功しちゃったみたいです。雪中行軍隊よりスゴイかもしれません。
人気のない駅に到着した二人。人がいるかどうか分からない販売口に向かって「2枚、2枚ください」と声をかけてみる"かよ"。もちろん、何の答えもありません。と、思ったら警官隊がワラワラ出てきました。グワーッと暴れまくるターボを何人もの警官が、そうがかりで押さえ込もうとしています。そして、駅事務所からスッと現われ、「手錠かけさせてもらうよ」と渋くキメる五十沢刑事。「もういいのよ、もう」と言われて、ターボもおとなしくなりました。いつのまに差し出されたのでしょう。販売口には大人切符と子供切符が一枚づつ、そっと置かれています。多分、ここは泣かせポイントなんでしょうが、微妙に空振り気味なのが悲しいです。
「二人でどこ行くつもりだったんだね」と五十沢刑事に聞かれた"かよ"は言います。「……天国です」。ついでに「どうして二人の夫を殺しちゃったんだ」と聞かれて「愛が欲しかったと思います」とも。
橋本は懲役6年。ターボは死刑になりました。そして、今、"かよ"の死刑執行が行われようとしています。首に縄をかけられ、一瞬の沈黙の後、ガタンという音が響きます。思わず数珠を弾き飛ばすほどの勢いでお経を読んでいた五十沢刑事はつぶやきました。「天国に行ければいいが」。
美しい紅葉が、まるで赤と黄色の雲のように広がる中、登山電車が走っていきます。乗っているのは女が一人。裸足の足元だけが映し出されますが、それは"かよ"の足のようです。かよの乗る電車は、はたして天国の駅につけるのでしょうか。
ああ、この映画は意見が分かれそうです。脚本は早坂暁。これを、あの「夢千代日記」の早坂暁が書いた感動作と取るか、「北京原人 Who are you?」の早坂暁が書いたと取るかで、評価は180度変わってしまうんじゃないでしょうか。
現実の事件は、映画のようにキレイではなく、結城紬ではなく作ってるのは漬物だし、奥さん殺しも体を餌に、カウ自身が命じて殺させているし、と同情の余地全くなし。ついでに犯人の写真を見ると、どこから見ても田舎のオバチャンなところが痛すぎます。そんな題材をもとに小百合ちゃん主演で映画を撮る。これはかなりツライものがあります。そうなれば、多少整合性が取れなくても、ムリヤリ感動ものにするしかない、そう早坂暁が考えても、これは仕方ないでしょう。で、当然、無理な土台に建てた建物が、まともな建物になるはずもありません。出来上がってみると、増築に増築を重ねた古い温泉旅館みたいなヘンなデキになってしまいました。
とは言え、キャストはなかなか工夫の後が。なにより、丹波哲郎を刑事役で引っ張り出したのは素晴らしいです。まるで「砂の器」の今西刑事がよみがえったような気さえします。それに根っからの善人な三浦友和を、ある意味一番の悪人に起用したのも意外性のあるいいキャスティングでした。奥さん役の白石加代子もかなりの迫力。怖い方向に振れきった、頭のおかしい人をやらせたら、白石加代子が日本で一番じゃないでしょうか。なにしろ目を見た瞬間、「違う、何かが違う」と思わせるようなイッちゃった演技ですから。
しかし何と言っても津川雅彦。キャスティングのキモは、ここにあります。どうみても色気不足の小百合ちゃんを補うには、エロ大将の津川雅彦が絶対に必要です。津川雅彦のネチっこい演技があったからこそ、映画がどうにか形になったとさえ言えるような気がします。
ともあれ、ダメな企画を前提に、早坂暁のムチャな脚本、絶妙のキャスティング、出目監督のコテコテなお約束演出という、ありえない組み合わせで出来上がったこの映画。観て損はないと思います。得があるか、と聞かれると言葉に詰まりますが。
ちなみに企画は、岡田裕介です。ああ、やっぱりね。

(冒頭のテロップ。"駅は乗れない"って、この段階で日本語崩壊)

(個性派1や)

(個性派2)

(それに狂気派に囲まれて)

(小百合ちゃんもタジタジ)
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またまた、関西では、今晩深夜に「天国の駅」が放映されます。
朝まで生テレビとかちあうので、どうしようかなと思案中で、こちらへ立ち寄ってみました。
小百合さんは、時々変わった映画に意欲を燃やすのですね。 ちょっと不思議なのですが。
ご自分の持ち味を分かってらっしゃるのか、それとも世間のイメージを打ち破りたいのでしょうか?
なんにしても暗い映画で、いまの気分では見たくなくなりました。 田原総一朗は嫌いだけど、「朝まで」にいっちゃおうかな。
前回は「天国の大罪」を、観るかどうか悩んでいらしたんですよね。結局、アレはご覧になられたんでしょうか。
次は、「霧の子午線」あたりを観るかどうか悩まれた時にでも、おたちよりいただければ幸いです。
「天国の大罪」は見たのですが、とっても恥ずかしかった。(私が恥ずかしがることはないのですが)
どうなってるの、という展開で、やっぱり小百合さんにはこういう映画には出ないでいただきたい。
永遠のアイドルがめちゃめちゃじゃないの。