いくらおにぎりブログ

邦画中心の映画感想ブログです。ネタバレがありますのでお気をつけ下さい。

【映画】ある殺し屋

2006-12-19 | 邦画 あ行

【「ある殺し屋」森一生 1967】を観ました。



おはなし
板前として小さな店を経営している塩沢(市川雷蔵)には裏の顔があります。それはすご腕の殺し屋。ある日も、ヤクザの親分の大和田を殺し2千万円の報酬を受け取りました。そんな塩沢に接近してくるフーテンの圭子(野川由美子)とヤクザの前田(成田三樹夫)。3人はでかいヤマを計画するのですが、実は圭子と前田はできていて……

おはなしは、とてもシンプルです。しかし、意図的に時間軸をずらした構成になっているので、パッと観ると話の全容がつかみにくく謎めいています。しかし、その謎が観ていくうちに徐々に氷解していくのは、非常に快感。とても練り込まれた良い脚本です。ちなみに脚本は増村保造と石松愛弘のコンビ。納得です。

映画の冒頭は、いかにも普通な人っぽい市川雷蔵が雑踏の中を歩くシーンからです。タクシーに乗った雷蔵は埋め立て地へ。そこで今にも崩れそうなオンボロアパートの部屋を借りることにします。土砂降りの雨の中、そこにやってくる野川由美子。
「小池ですけど、兄さんの部屋は?」と言って部屋に上がり、雷蔵に「仕事に差し支えないかしら、この雨」と尋ねます。ああ、二人は兄弟で、小池という名字なんだな、と思うとこれが全くのデタラメ。ここから過去と現在を行ったり来たりする複雑な構成に、観客は翻弄されることになります。

野川由美子は、無銭飲食をしては体で払うわよ、というスタイルのフーテン娘。たまたま、店で一緒だった雷蔵が金を払ってくれたので、これはいいカモと付きまといます。女房気取りで、雷蔵がやっている小料理屋「菊の家」に入り込み、先輩の従業員(小林幸子)と張り合いますが、雷蔵にはまったく相手にもされません。しかたなく、店の椅子を並べて寝ていたところ、小林幸子が出勤してきます。慌てて、セーターを脱いで下着姿になり、髪もくしゃくしゃにして「あの人しつこくて、これじゃ体が持たないわ」なんて言う姿は、可愛いの一言。大きな目とぽっちゃりした唇で、いかにも頭の軽そうな悪女を演じさせると、野川由美子は完璧ですね。もちろん相手の小林幸子が、(この当時は)とても地味で暗そうなので、余計に対比したときに野川の天然ぶりが際立ちます。ともあれ、雷蔵が小林幸子が出てこなくなったことに疑問を感じているようですが、基本的にはどうでもいいというスタンス。野川由美子が居座ってもどうでもいいし、とにかく人というものに興味がなさそうです。

ヤクザの成田三樹夫は、組長の木村(小池朝雄)に命じられて、雷蔵に殺しの依頼をします。敵対する暴力団の大和田を500万円で殺して欲しいと言うのです。あっさり断る雷蔵ですが、小池朝雄自身が出向いて2000万円で依頼をすると、重い腰を上げることになりました。ホテルの廊下で、まさに殺そうとした瞬間に、子供が飛び出してきて中止するなど、印象的なシーンを挟みつつ、雷蔵は大和田を殺すことに成功しました。
「さて、約束どおり塩沢に2000万円払うとするか」という小池朝雄に
「まったく、いい商売ですねえ」と感心しまくる成田三樹夫。まず、小池朝雄が約束を守るという所があり得ない展開で笑えるんですが、報酬のデカサに目がくらんでしまう成田三樹夫のチンピラっぷりも素敵です。
さっそく、金を届けに行った成田三樹夫は「あっしを弟分にしてください」と雷蔵に直訴します。もちろん
「俺は自分一人でしか、仕事をしない。死刑台には一人で行く」とあっさり却下されますが。

当然、諦めの悪い成田三樹夫は、これまた諦めの悪い野川由美子と体の関係を結び、二人で雷蔵をハメル計画を立てます。まあ、小悪党同士が組んでも、戦力は上がらないと思いますけどね。計画はこうです。ボスの大和田を失って混乱している大和田組から、2億円相当の麻薬を雷蔵の力でかすめ取ろう、そのあと雷蔵を殺せば大もうけだ。
雷蔵は、そんな二人の魂胆を知ってか知らずか、計画に乗ることにしました。

雷蔵はプロらしく、緻密な計画を立てていきます。現場近くに潜伏用のアジトを借り(冒頭のアパートです)、3人で喰った寿司の折り詰めも、人数がバレないようにばらばらに捨てること、などと指示も細かいです。当然、金は欲しいが細かいことは苦手な二人は、ぶつくさ文句を言っていますが、うまいこと麻薬の奪取に成功しました。

「粉で持っていくか、それとも捌くまで待つか」と聞く雷蔵に、成田三樹夫は後方にぴょーんとジャンプしつつ
「そんな必要はねえよ。あんたの仕事は終わったんだ。気の毒だが死んでもらうぜ」と言い放ち銃を構えます。
でも、まったく動じない雷蔵。むしろその眼力に、成田三樹夫はタジタジです。「早く撃っちゃいなよ」と野川由美子にせっつかれて、ようやく引き金を引きますが、弾丸は出ません。そうです、こんなこともあろうかと雷蔵は拳銃から弾丸を抜いておいたのです。しかし、雷蔵はあっさり二人を許しました。
成田三樹夫は「塩沢さんっ」と感激モード。放っておいたら靴でも舐めかねない勢いです。

しかし、そこに小池朝雄たちが襲ってきます。良かった、このまま小池朝雄が「良いヤクザ」だったら、どうしようかと思いましたよ。野川由美子は、とっとと一人で逃げ出しますが、自分の麻薬を小川に落とし台無しに。成田三樹夫の麻薬は、乱闘中にすべてぶちまけてしまいます。しかし、雷蔵が、敵のベルトをさっと引き抜き、敵をバタバタと倒したので、形勢逆転。命乞いをする振りをしながら、雷蔵に襲いかかった小池朝雄も倒されメデタシメデタシです。

成田三樹夫はそのまま去ろうとする雷蔵を追いかけ
「待ってくれ、塩沢さん。あっしも連れていってくださいよ」と頼みますが
「色と仕事のけじめがつかねえ男は、ごめんだな」と断られます。ついでに「二人で分けな」と自分の麻薬を置いていく雷蔵。

野川由美子も「ああ、ひどい目にあっちゃったね」とノコノコ戻ってきました。しかし、そのまま立ち去ろうとする成田三樹夫。野川由美子は「あたいも連れて行ってよ」と頼みますが、成田三樹夫は一言
「女は色と仕事のケジメがつかねえ、ごめんだな」
うーん、最高です。
「ふん、あんな奴はこっちでお断りだよ」と野川由美子も去っていきます。そこに残されたのは、麻薬の入ったベビーパウダーの缶が4つ。

もう、この一連のシークエンスを観れただけで、この映画は満点です。まるで、フランス映画を思わせるような展開にシビレました。音楽はスペイン風のギターが流れていますが、とにかく邦画には珍しい、すごく乾いた感じです。

野川由美子と成田三樹夫は、小狡い中にも憎めないキャラクターを演じていて、文句のつけようがありません。
そして雷蔵。「雷蔵はモノクロに限る」と思うので、カラー作品のこの映画では正直言って、多少物足りない所もあります。でも、それを補って余りある「虚無感」が素晴らしいです。静かな動きの中に漂う、深い絶望みたいなものを全身で表現できた雷蔵はなんて素晴らしいんでしょう。











いくらおにぎりブログのインデックスはここ
いくらおにぎり日記はここ



ある殺し屋 [DVD]
『映画・DVD』 ジャンルのランキング
コメント (2)   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 【映画】恋しぐれ 秩父の夜祭り | トップ | 【映画】顔役 »
最近の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
凄腕の極み (シャケ)
2006-12-21 08:01:36
ご無沙汰です、シャケです。

ねえ、最高ですよね。
これを貶されたら、正直、もう駒は残ってないっていうか、かなり僕自身(いい意味で)満点に近い映画です。

結構好きで劇場で少なくとも三回は見てますが、最後の成田三樹夫の台詞は必ず劇場がどっと沸きますね。

出てくる主要登場人物が、どれもはまり役なのも素晴らしいし、脚本の細部(弁当ガラを分けて捨てる、etc)も文句のつけようがない。冒頭の工事途中の抜けのいい風景と人ごみの雷蔵も音楽と相俟って忘れられないシーンです。

雷蔵が普段は滅多に人に気付かれないほど普通の人だというのは有名ですが、その身近な裏の顔をメインに持ってくるという企画と、そういうことをさりげなくやらせると、おそらく歴代でも指折りの森一生が監督というのもよかったのかなと思います。

でもまあほんと最高です。もの凄く腕の立つ料理人に、さらっと「もしよかったら」っておすすめで出される料理って、経験ないですがきっとこんな感じなのでしょうね。
現代の忍者 (いくらおにぎり)
2006-12-21 09:42:11
しゃけさん、コメントありがとうございます

確かに良い映画ですね。雷蔵の現代劇ではベストかもしれないですよね。

でも、思うんですが、これっておそらく「忍びの者」シリーズの後継でしょ。
「現代の忍者ってことで、殺し屋でも主人公にするか」と安直に企画されたような気もしますけど。

あわせて読む