いくらおにぎりブログ

邦画中心の映画感想ブログです。ネタバレがありますのでお気をつけ下さい。

【映画】おとうと

2007-09-15 | 邦画 あ行

【「おとうと」市川崑 1960】を観ました



おはなし
げんのおとうと碧郎は、ちょっとグレ気味。それというのも作家の父は放任主義、母は義理の母で冷たいのです。そんなおとうとを心配していたげんですが、やがて碧郎が病に倒れ……

撮影は宮川一夫。その映像世界は、、なんてことは分からないし、書けません。ただキレイというか迫力のある映像であることは確か。それが、この重めな作品世界に陰影を付けています。

雨の中、肩を怒らせてずんずんと歩いていく碧郎(川口浩)。それを小走りに、傘を持って追いかけてくるのは姉のげん(岸恵子)です。「機嫌直った。これ持ってく」と差し出す傘ひとつ。どうやら、弟の碧郎は父母、とりわけ母に不満をもっている様子です。

百貨店で「万引きだ」「まだ若いじゃないか」という声が上がりました。見れば捕まっているのはげんです。控え室に連れ込まれたげんは、店員からムチで脅され、風呂敷の中身を開けるように強要されました。気の強いげんにとって、それは最大の屈辱です。出てきたものは、母のリュウマチの薬。それに母の白髪染め。もちろん、それぞれ受け取りもある、立派にお金を出して買ったもので、これはとんでもない言いがかりです。店員は、げんを泥棒扱いにしておいて、きちんと謝りもせず、むしろリュウマチの母が白髪染めを使っていることをバカにしている様子なのでした。

そんな母(田中絹代)はお客さんと会っています。お相手は教会の知り合いの夫人(岸田今日子)で、母はロザリオを手にしながら「父親がかわいがりすぎて、我がまま放題にいたしましたので、今では手に負えなくなって困ってしまいます」と愚痴っている真っ最中です。「もとはサッパリして良いお子さんでしたがねえ」と受ける夫人に「そうなんでございますよ。かえって姉の方が底意地が悪かったりして」と答える母。どうやら、母は後妻で、姉弟のことを嫌っているようすなのです。

何かと言うと自分がリュウマチなのを理由に、姉をこき使い、自分を嫌う母を憎んでいる碧郎。しかし、そんな家のゴタゴタに、作家である父(森雅之)は、我関せずの態度です。それを良いことに、ますます高飛車な態度を取る母。それに反発する碧郎。これでは悪循環ですね。

そして、とうとう碧郎は万引きをして学校を放校処分になってしまいました。「せっかくクリスチャンの学校に骨を折って入れたのに」と嘆く母。もちろん、それは碧郎の将来を慮ってではありません。「あたしは血がつながっていないんだもの。あたし自身の名誉だって考えなくちゃ」と言う言葉から分かるように、自分が教会で得る立場のことだけが心配なのです。そんな母親に、さすがの父も怒りました。「俺は愛情の何のと言うより先に、もっと毎日毎日の弁当のことでも、靴のひものことでも、はっきりした実際のことをどうしようかと思っているんだ」「碧郎の身の回りはげんがやっていると見ているが違うか。げんはひとっかど役に立っていると思っているが違うか」
思わず、父の言葉に泣き出すげん。父は見ていてくれた、分かってくれていたという喜びの涙です。しかし、キリスト教狂いの母が理解したのか、その心の奥底に言葉が届いたのかは分かりません。

学校を転校しても碧郎の悪い遊びは納まらず、馬の足を折ってしまうなど、ますますエスカレートしていくようです。さらに碧郎を取り調べた刑事がげんに付きまとい、強引に自分のものにしようとしたりと、姉弟そろって、なかなか多事多難な日々。

そんなある日、碧郎はイヤな咳をするようになりました。「うっすらと悲しいなあ」なんて、日頃の碧郎に似合わないようなことも言い出します。

「少し発見が遅かったようですね」とげんを責めるお医者さん(浜村純)。どうやら碧郎は結核のようです。本人には結核だと教えていませんが、もちろん碧郎も気づいているようすです。

碧郎はサナトリウムに移りました。げんは付きっ切りで看病し、金に無頓着だった父も慣れぬ色紙を書いてみたりして、少しでも家計をどうにかしようと頑張っています。しかし、病勢は衰えず、碧郎は大吐血をしてしまうのでした。

再び、都内の病院に戻る碧郎。誰も何も言いませんが、もう手の施しようがないのでしょう。すっかり病み衰えた碧郎は、姉さんの島田が見たいと言い出しました。早速、桃色の派手な着物に、島田髷を結って病院にやってきたげん。いつもの気の強い性格に似ず、娘々した服装をしたげんはとても恥ずかしそうです。「立派だよ」と言う碧郎。「ただ、忠告するよ。姉さんはもう少し、優しい顔する方がいいな」

命の灯が燃え尽き、ますます、透き通るようになっていく碧郎。見舞いに来た父は、とにかく碧郎が可愛くて、可愛くて仕方が無いようすです。碧郎は姉に言います。「俺は姉さんに比べると悪党だ。こんなにしてもらって、まだ試そうっていう根性の方がみみっちいよ。姉さん、ありがとう。そんなに優しくしてもらっちゃ、すまないな」

母も足を引きずってやってきました。「動けないのが一番辛いよ。母さんも気の毒だ」と優しい言葉をかける碧郎。そんな碧郎の顔を見ていられない母は、廊下に出てしまいます。「私は今日、決心してきたんだけど。碧郎さんに信仰を勧めたいと思って。信者にして天国にやりたいと思って。でももう、あの子は良い子になって、お祈りもいらなくなってる。私よりイエス様の方が先に救って下さった」とげんに泣きながら語る母。
「あんたにもすまないって思っているんだけど、思うばかりで、手足が。本当に私はみんなに申し訳がない」

「しみじみと生きているありがたさが分かるような気がする。誰もみんな良い人ばかりなんだ。今頃気がつくなんて、少し遅いやね」と語る碧郎。もうすっかり聖人みたいになってきました。

夜、眠れないと訴える碧郎。そんな碧郎にげんは、夜12時になったら茶話会をしましょう、と言います。看護婦さんたちも誘って賑やかに。お互いの手をひもでしばって、11時半になったら起こしてね、と眠りにつくげん。

「碧郎さん、引っ張った?」と起き出すげん、しかし、碧郎の様子がおかしいです。大きく荒い息をついています。父が慌てて駆けつけました。虫の息の碧郎に「碧郎や、どうだな、分かるか」と声をかける父。げんは、泣き出すのをこらえるように、唇を尖らせています。遅れて母もやってきました。「碧郎さん、碧郎さん」と声をかけますが、碧郎は答えません。

「もうそんなに呼ぶのは止せ。いいじゃないか」と言う父。その時、碧郎の腕が何かをつかむように上がりました。

「ご臨終です」という言葉を聴くなり、げんは倒れました。脳貧血です。そのまま、看護婦の詰め所に寝かされるげん。画面は上のほうから、その部屋を映し出しています。画面の右半分は真っ黒。左半分に寝ているげんが映っています。ムクムクっとげんが起き出しました。見守る母が驚くのにも、気づかずエプロンをつけるげん。「お母さんは休んでてください」と言うと、パタパタとげんは部屋を出て行くのでした。


こんな書き方をするのも、何ですが、たいした話ではありません。継母と折り合いの悪い姉弟。不良化する弟。ありふれた病にかかって死んだ弟。ただ、それだけの話です。今でも、馬をバイクに置き換え、結核をガンに置き換えれば、いくらでもありそうな話です。

そんなお話を、市川崑監督は丹念に、丹念に描きました。

家族の死とは、人間にとって、とてもパーソナルな出来事で、なおかつ普遍的な出来事です。

よっぽど有名な人でなければ、もしくは、よっぽど悲劇的な死でなければ、人が他人の死に、本当の意味で心を動かされることは少ないでしょう。普通の人間が、普通に死ぬとき、その死を本当の意味で、重く受け止めるのは家族だけです。

また、誰か知らない人が死んだとき、人はその死を悼みますが、それは結局のところ、身近な家族の死を心に浮かべて、それで悲しみを理解できるのです。

つまり「死」というのは、理念だけで理解できるものではなくて、結局のところ、身近な人の死を経験してこそ、感情的に理解できるものなんじゃないでしょうか。

その点で、この映画は、そういった身近な人間の「死」というのを実に丹念に描ききっていたと思います。ぼく自身、この映画を見ながら家族の死を思い出し、末期の看病の日々が鮮やかに脳裏によみがえってきました。

何も派手なことはない。ただ故人との小さなエピソードの一つ一つが、その人の死の後も、心に残り続ける。そんなことを描いた話だと思いました。

映画を見ていると、人が死なない映画というのが、意外と少ないことに気づきます。もちろん、主人公が難病で、なんていう映画はもちろんのこと、普通の映画でも画面には出てこない人の「死」が、物語を動かしていくことはよくあることです。もちろん犯罪映画やアクションだと、いとも簡単に人は死んでいきます。そして、見ている方も、当たり前のように、主人公が敵を倒した、くらいの認識で済ませたりしているのですが、やっぱりそれだけでは、いけないんでしょうね。

どんな人の死にも、意味があり、それをパーソナルに重く受け止める人がいる。これをたまにでも考えるのは、とても大事なことだと思うのです。

出演者はさすがに厳選されているだけあって、みなさん、とても良いお芝居をしていました。







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4 コメント

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はじめまして (mat)
2007-09-16 22:23:20
ちょっと古い邦画がすきなのですが、なかなかガイドがなくて・・・とてもいいブログにたどりつきました。これからもよろしくお願いします。
2つとも素晴らしいブログですね (いくらおにぎり)
2007-09-17 17:56:02
matさん、はじめまして

ガイドだなんて、とてもとてもですが、地道に更新をしていますので、またよろしかったらぜひ。

matさんのブログを拝見させていただきました。展覧会場の写真がとても素敵でビックリです。また、もう一つのブログも拝見させていただきましたが、ドリームにお乗りなんですね。ミッキーマウスのカバーといい、ホント、キレイなオートバイだと思います。さすがにセンスの良い方は違うと感心してしまいました。
Unknown (安子)
2009-12-05 10:01:54
おとうと について。がさつ極まりない批評をありがとうございました。






Re:Unknown (いくらおにぎり)
2009-12-05 12:06:55
どういたしまして。

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