いくらおにぎりブログ

邦画中心の映画感想ブログです。ネタバレがありますのでお気をつけ下さい。

【映画】地獄

2007-10-22 | 邦画 さ行

【「地獄」中川信夫 1960】を観ました



おはなし
大学生の清水は、ひょんなことから地獄行き……

基本的に、現世で数々の罪を犯した人たちが、全員地獄に行って苦しむというお話なのですが、これがもう、とんでもなくヘンな映画なので、マトモにストーリーを追えそうにありません。ごめんなさい、許してください。

真っ黒な背景に棺が。釘を打たれ、火に投じられます。半裸のお姉ちゃんたちをバックに、「あなたぁ」「よーい、スタート」の掛け声が。なんだか、最初から壊れてます。

ここから先、丁寧にストーリーを追ってもいいのですが、書いていてウンザリしそうですし、そもそも時間軸が行ったり来たりのうえに、完全に「狂って」いますから、読んでいただいてもワケが分からないと思います。そのため、主要登場人物の紹介でお茶を濁すことにします。

清水
詰襟姿の大学生。ちょっと気が弱めですが、恩師の娘のハートをゲットするなど、やることはやってます。演じるのは天知茂(29歳)。車に同乗していたら、友人が人を撥ね殺すわ、彼女とタクシーに乗れば、事故で彼女が死んでしまうなど、不幸のどん底を歩く男。口癖は「許してください」

田村
清水の友人で、やっぱり大学生。人を撥ね殺しても冷たく笑っている性格。たまたま同乗していた清水に、お前が悪いと言い切って、それを信じさせてしまう男でもあります。以後、とんでもないところにヒョッコリ現われ、映画をかき回していく道化師的な役回り。最後に明かされますが、悪魔に魂を売っていたらしい。演ずるのは沼田曜一(36歳)。得意技は、気持ちの悪い高笑い。

矢島教授
清水の恩師。戦争中に、戦友の水を奪った経験アリ。気が弱そう。

幸子
清水の恩師、矢島教授の愛娘。自首するという清水に付き合ってタクシーに乗ったところ事故死。地獄に行ってから明かされますが、ひそかに清水の子を身ごもっていたらしい。演ずるのは三ツ矢歌子。

矢島夫人
娘の幸子が死んでから気が狂う。好きな言葉は「幸子を返して、ぎゃーっ」。夫と共に、鉄道自殺する。

やす
田村がひき殺したヤクザの母。超常的な力で清水を付け狙う。とりあえず、清水以下、多数を毒殺。

洋子
田村がひき殺したヤクザの情婦。清水を付け狙うも、つり橋に蹴つまずいて転落。

剛造
清水の父で、養老施設「天上園」の悪徳経営者。隣の部屋で病気の妻が寝ているのに、情婦を囲うという荒技が得意。毒で死ぬ。

イト
清水の母。彼女が危篤になったので、清水は天上園に帰ることになった。実は、画家とひそかに浮気をして子供をもうけていたチャッカリさんでもある。病死。

絹子
剛造の情婦。清水を見た瞬間に、すっかりのぼせ上がり色目を使いまくる。得意技は発情。階段から落ちて死ぬ。

円斎
画家。友人の剛造に頼まれ、天上園で地獄絵を書いている。死ぬ。

サチ子
円斎の娘で、清水を密かにしたう女の子。幸子にそっくりなのは、演じているのが三ツ矢歌子だから(見も蓋も無い)。地獄に行ってから、実は清水と実の兄妹であることを知る。死ぬ。

その他天上園に出入りする人
お医者さん、記者、刑事など。みーんな、人殺しの経験あり。みんなまとめて、やすの毒入り日本酒を飲んで地獄行き。

天上園に入居するお年よりたち
腐った魚を食べて、こちらも全員、地獄行きじゃぁ。

閻魔大王
いや、閻魔大王は閻魔大王。演ずるのは、急きょ頼まれた嵐寛寿郎。結構、ノリノリ。

渋い声
地獄の説明は、若山弦蔵。この人の声で、映画のランクが微妙にアップした感じがする。

ということで、主要登場人物が全員、おっ死ぬと、そこからは地獄篇スタート。これでもか、これでもか、と地獄の風景が映し出されます。三途の川や、賽の河原などメジャーな観光スポットはキッチリと押さえつつ、特撮にも力が入っています。特に感心したのが、皮剥ぎの刑。皮をむかれて骨や内蔵むき出しになる刑ですが、ちゃんと心臓がトックン、トックンと動いているのが、イヤーな感じです。

そんな地獄を、「許して下さい」と言いながら彷徨う清水。しかし、清水はそこで、衝撃の事実を知ったのです。それは幸子が身ごもっていて、二人の子供も地獄行きなこと。おお、見れば確かに、はすの花の上には、赤ん坊が泣きながら乗っているではありませんか。ということで、清水の「赤ちゃんを救え、大作戦」が後半の肝になります。

えーと、救えたかって? いや、見ててもよく分からなかったんですけど。どうなんだろう。ともあれ、最後は、ダブル三ツ矢歌子が、キレイな服を着て、パラソルなんかクルクル回しつつ天国に召されていくシーンで終わります。

見終わると、とりあえずヘンな高揚感があったので、まあ楽しい映画であったことは間違いありません。なんとなく、鈴木清順の「ツィゴイネルワイゼン」や「陽炎座」を髣髴とさせるような気がします。もっとも、ワケが分からないけど、楽しい、という意味においてですが。

カメラは斜めになったり逆さになったりと、ワケの分からなさを助長し、とにかく全編から漂うのは「キチガイ」の香り。解釈のしようもありません。とは言え、ヒントもあります。それは沼田曜一がメフィストフェレスであるということ。実際、役作りの時に、沼田曜一が監督に聞いたところ、メフィストだよと言われたそうですから、間違いありませんね。すると、結婚もしないのに妊娠してしまった三ツ矢歌子はグレートヒェンで、天知茂がファウストである、とスッキリ話はまとまります。そう、ゲーテの「ファウスト」です。だから、最後に三ツ矢歌子が天国に召されるシーンは、
メフィストフェレス「裁かれたのだ」
天上の声「救われたのだ」(ファウスト第一部 高橋義孝訳)に相当するんですね。
まさに、
「……永遠にして女性的なるもの、
われらを引きて昇らしむ」(ファウスト第二部 高橋義孝訳)という結論のようです。

いやあ、良かった。ファウストなんだ。それにしても、閻魔大王も出てくるなんて、やけにオリエンタルなファウストではありますけど。

ちなみに、中川監督は美術の黒沢治安に、「今日(社長に)呼ばれてね、閻魔大王を出せって言われたんだよ」「黒ちゃん、閻魔大王どうやって出すんだよ」(「地獄でヨーイ・ハイ!」ワイズ出版より)とボヤイテいたそうなので、本来は、高尚な和製ファウストを作るはずが、どこかで激しく間違ってしまったんでしょうね。







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1 コメント

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地獄 (みーん)
2008-08-30 23:26:13
なるほど、ファウストだったんだぁ。さずが、いくらさま。中川監督ってスゴいですよね。脚本を越えて一秒一秒にリアリズム(?)があるというか、魂が宿っている気がして、いつもたまげます。
嵐カンさまも、どんな役でも、見せますよね。

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