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【映画】(秘)色情めす市場

2006-09-06 | 邦画 ま行

【「(秘)色情めす市場」田中登 1974】を見ました。
*(秘)はマルに秘のマル秘



おはなし
トメ(芹明香)は大阪西成の売春婦。やはり売春婦をやっている母よね(花柳幻舟)、白痴の弟実夫(夢村四郎)と暮らしている。西成のドヤ街には雑多な人たちが集まっているが、そんな中でたくましく生きていくトメ。ある時は母の客を奪って母娘喧嘩になったりするけど、白痴の弟にはとても優しいです。しかし、ある日、弟は首を吊って死んでしまい……


濃縮還元100パーセントジュースっていうのは、輸送費節約のため水分を飛ばして200とか400パーセントにします(濃縮)。それを小売り容器に詰める段階で水を加えて100パーセントにする(還元)のですが、この映画。濃縮しっぱなしで、還元するのを忘れてます。

日活ロマンポルノという枠組みは多数の傑作を産み出しました。それは裸さえあれば後は何をやってもいい、という雰囲気の中で若い監督たちが、自由に映画を作れたからです。でも、逆に言うと日活ロマンポルノという語感のせいで、見る人を選んでしまうのも事実。しかし、見なければもったいないです。本当に傑作の宝庫ですから。

この映画、冒頭は通天閣のアップから始まります。そこからズームアウトすると、「トルコ温泉」の看板が大きく写ります。そして、カメラはパンして、石壁に寄りかかる二人の女に。一人はかき氷を食べています。モノクロのなかにも、陽炎の立つような暑さが伝わってくる画面。ここまでで、場所は大阪、それも場末らしい。季節は夏。それもうだるような暑さだ。ということが、表現されています。まったく無駄のない、濃縮された映像です。

その後、クレジットの後、カメラは大阪西成はあいりん地区の映像を映します。仕事を求めて立ち尽くす人々。どうみてもヤバそうな映像です。実際、監督は浮浪者に化けて、道路に寝転んでヨーイハイのサインを出し、カメラはファインダーを覗いて構えられないので、隠し撮りのように撮ったそうです。そんな思いをするのも、この映画の前年にはあいりん地区で第21次暴動が起こったばかり。っていうか、第21次って何だよ、と思わずにはいられないくらい日本一のホットゾーンだったんですね。

トメは、こんな町で売春婦として生きています。いい年をして、売春婦を続けている母親と白痴の弟と共に。言ってみれば最悪の環境。でも、トメはそれをあまり気にしていない様子です。ここから抜け出したいという気持ちも無いし、もう抜け出せない、堕ちてしまった私、みたいな感傷も無い。ただ、ふわふわと、上がろうともせず、下がるわけでも無く、漂うばかりです。母親のいい男であるオッチャンにも、金さえ貰えば抱かれるし、買った女が年増だと怒り出した客がいれば、その年増が母親だろうと、出かけていって代わりに抱かれます。強いて言えば、トメが本当にリラックスできるのは、弟の実夫に体をまかせている時だけのようです。白痴の実夫が、意味の分からないうなり声をあげながらトメの体をまさぐる時、トメの顔は快感に震えるようにも、可愛い我が子を慈しむようにも見える、何とも言えない表情を見せるのです。トメは言います「長生きしてや。うち生まれる前から、ずっと一緒だった気するんや」

母親が妊娠しました。トメに堕す金をくれとねだる母親に「うちん時みたいにな、どこぞの路地で産めばいいやんか」と答えるトメ。やがて母親は、金を稼ぐために枕泥棒をします。そして、それが客にバレ、引きずり出される母親。母親は堪忍して、と言いながらゲロを吐き、そして流産します。それを見ていたトメは客に抱かれながら、初めて涙を流します。「うちもああやったんや、実夫もああやったんや」

その夜、トメは実夫に最後まで許します。「好きなようにしてええんや。好きなこと好きなだけしい。人間や思わんでええんや、うちは、うちはゴム人形なんや」泣きながら実夫に抱かれていたトメの心の中にあったのは絶望なんでしょうか。

と、今までモノクロだった映像がカラーに変わります。真っ赤な太陽のアップ。鮮烈なイメージです。魂にずしんと響く見事なカットに圧倒されます。ニワトリにヒモをくくり付けた実夫は大阪の町を歩き出します。天王寺駅を通り、大坂城の横を歩く実夫。そこに流れるのは村田英雄の「王将」。実夫は通天閣に登ります。階段を一歩一歩。上まで上った実夫は、連れてきたニワトリを放り投げます。羽ばたいてみろとばかりに。しかし、ニワトリはどこまで行ってもニワトリ。飛べるわけがありません。実夫はゴーストタウンで首をくくって死にます、ニワトリのように。それを見つけたトメは言います。「この町何でやの、こいつが行ってもうたら、人全然おらんようになってしもたんや。実夫が連れてったんやろか」いなくなったのは、人でしょうか。それともトメ自身なんでしょうか。



トメは、相変わらずの日々を送ります。通天閣が見える原っぱで、スカートを広げ無心にまわるトメの映像で、映画は終わります。

サイドストーリーでは、文江(宮下順子)と斉藤(萩原朔美)の話が語られます。こっちは、メインストーリーとは違って、割と軽め。文江を地回りのヤクザで大人のおもちゃ屋をやっている浅見に取られる斉藤。代わりにダッチワイフを渡されます。大阪の町をダッチワイフをかついで歩き回る斉藤。斉藤は、文江と浅見に付きまといます。古煙突の跡で斉藤に見せつけるように文江を抱く浅見。「女を返せ」という斉藤は、マッチを取り出します。それを奪って一服つける浅見。そしてマッチが足下のダッチワイフに落ちると、ガスで一杯のダッチワイフは大爆発。全員爆死。「なんじゃコレ」です。遠くに大坂城を臨み、手前には電車が走っているところで、もうもうと舞い上がる煙。いや、タイミング間違えたら電車は緊急停車ですよ。よくこんな画を取ったものです。だけど、こんなお馬鹿な話なのに、宮下順子が演ずるだけで、物哀しくもエロティックになるのは、さすがとしかいいようがありません。ちなみに斉藤役の萩原朔美は詩人の萩原朔太郎のお孫さんだそうです。



さて、主演の芹明香は完璧な演技でした。というより、まさに目の前にトメという人間が存在しているかのようです。監督はキャスティングにあたって「人生張り付いてる人」以外は選びたくなかったそうですが、まさに適役。この映画を観た後に、誰か他の女優でこの役ができたかと考えると、想像すら出来ません。また、弟役の夢村四郎も狂気の演技が凄過ぎます。オーディションにはたこ八郎と二人残ったそうですが、まあリアルな狂気より、演ずる狂気の方が、よりリアルに見えると言うことでしょう。もちろん、たこ八郎も悪い役者ではありませんが。また、花柳幻舟も良い演技をしていました。

もう口を開けば、「素晴らしい」「完璧」「凄い」の連発ですが、実際映画のデキが凄いんだからしょうがないです。ともかく、監督や脚本家の情熱のありったけを注ぎ込んで、役者もそれに答えたんだから、これはもう傑作ができあがるのも当たり前でしょう。もし、機会があれば絶対見るべき映画のひとつだと思います。

 

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2 コメント

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今日観に行きます (えれ)
2010-07-03 07:19:15
当日まで内緒にしてくれと言われましたが、もう言ってもいいですよね。今日観に行きます。
レビュー、とても参考になりました。
わたしは女子ですが、映画が大好きです。
楽しんでこようと思います。
Re:今日観に行きます (いくらおにぎり)
2010-07-04 18:29:28
えれさん、はじめまして。

>当日まで内緒にしてくれと言われましたが、
ははあ、どなたに。
>もう言ってもいいですよね。
いいか悪いかは、私にはちょっと判断できかねます。

むむう。誰かと勘違いされてませんか。

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