いくらおにぎりブログ

邦画中心の映画感想ブログです。ネタバレがありますのでお気をつけ下さい。

【映画】下町の太陽

2006-12-24 | 邦画 さ行

【「下町の太陽」山田洋次 1963】を観ました。



おはなし
下町に住む町子(倍賞千恵子)は、化粧品工場に勤めています。長屋での生活は決して裕福なものではありませんが、同じ工場に働く道男(早川保)という恋人もいて、幸せ一杯です。しかし、正社員登用試験に熱中する道男の、ライバルを蹴落としてまで社員になりたいという考えに付いていけなくなった町子は、鉄工所に勤める良介(勝呂誉)の求愛に心が揺れるのでした。


山田洋次監督の長編デビュー作です。そのため良い意味でも、悪い意味でも、ストレートな(というか若い)演出が目立ちます。

映画の冒頭は、デートをする町子(倍賞千恵子)と道男(早川保)の姿から始まります。80万円もするステレオセットにびっくりしたり、100万円にダイヤにため息をついたり、まあどこにでもいる、お金はないけど幸せなカップルです。
二人はつつましいデートを終えて、帰路につきます。
「ほら隅田川を越えると、ぐっと空が暗くなるだろ」という早川保。
いや、墨田区に住んでる人とかが聞いたら怒りますよ。

倍賞千恵子の家は長屋です。年寄り達は日がな一日集まっては、うわさ話に笑い声をあげ、子供たちは路地を駆け回っているような典型的な下町の風景がそこにあります。倍賞千恵子の家族は、父(藤原釜足)、おばあちゃん(武智豊子)、そして高校生と中学生の弟二人の5人家族。下の弟は、万引きをして捕まったり、近所の鉄工所の不良工員たちとつき合っているようで、倍賞千恵子は心配でなりません。ある日、鉄工所に文句を言いにいった倍賞千恵子は、そこで工員の良介(勝呂誉)と出逢いました。まっすぐな視線で、懸命に溶鉱炉で働く勝呂誉を見た、倍賞千恵子は反発しつつも、すこし心が引かれるのを感じました。

それというのも、彼氏の早川保は本社の社員に登用されるために猛勉強中なのです。もちろんコネを最大限に利用することも忘れていません。社員になったら、下町を出て郊外の団地に住むのが夢と公言してはばからない早川保に、倍賞千恵子は付いていけないものを感じています。そして、いよいよ試験の日。自信満々な早川保でしたが、結果は不合格。仲間で嫌味な金子(待田京介)に負けてしまいました。すっかりやる気を失ってしまった早川保でしたが、チャンス到来です。なんと金子が自動車事故を起こし、長屋の老人をはねてしまったのです。幸い老人のケガは軽傷でしたし、内密にして欲しいと待田京介から頼まれた早川保ですが、これ幸いと会社に密告。結局、繰り上がりで早川保が正社員になることに成功しました。もちろん倍賞千恵子としては、そんな早川保に幻滅します。

公会堂で行われたダンスパーティの夜。倍賞千恵子は勝呂誉に、「お願いがあるんだ。付き合ってくれないか、今夜だけ」と頼まれます。浅草の「花やしき」で楽しい一時を過ごす二人。別れ際に「恋人いるの?」と聞かれてためらいながら頷く倍賞千恵子。でも、心は微妙なんでしょうね。

社員になれてすっかり得意な早川保は、倍賞千恵子に求婚します。しかし、倍賞千恵子は聞き返します。
「もしもよ。試験に落ちても道男さん、あたしと結婚の約束するつもりだった?」
早川保は、責任が持てないとか、男の理屈で返事をします。倍賞千恵子はさらに聞きます。
「ねえ、愛情だけじゃ結婚できないのかしら」それにも、あれこれ理屈で答える早川保。
「でも」「でも」
結局、下町を出て郊外の団地で文化的に暮すという早川保の考えが、どうしても倍賞千恵子には納得できません。
「そりゃあ下町は煙だらけ。家の中は昼でも暗い。空はかすんでる、でも太陽はその上に照ってるの」
そう言って、二人は別れるのでした。

勝呂誉は、朝起きると、胸が苦しいのを感じました。理由は倍賞千恵子のことを考えてしまうから。可愛いですねえ。好きな人のことを考えると、本当に胸が苦しくなるんだ、ということを発見した勝呂誉は、
「当たって砕けろだ」と、通勤中の倍賞千恵子に告白をすることにします。通勤電車の中で、みんながクスクス笑いをする中、「おれは真剣なんだ」と言って、精いっぱいの告白をする勝呂誉。じっと見つめあう二人。倍賞千恵子は、ふっと笑って、窓の外を見るのでした。

エンディングは荘重な感じの合唱から倍賞千恵子の歌声に。映像は、鉄工所で働く勝呂誉。化粧品工場で働く倍賞千恵子。そして昼休みでしょうか。作業着でバレーボールに熱中する倍賞千恵子のカットがインサートされて終わります。ほとんどソビエトのプロパガンダ映画のようです。立て!万国の労働者、みたいな感じです。

倍賞千恵子は、全編に渡って「なぜ?」「どうして?」といぶかしげな顔をしていたような気がします。
幸せな結婚をして、団地で文化的な生活を送っているはずの友人が、旦那さんの遅い帰りを化粧をして待っていると聞けば、「素顔の方が良いと思うわ」とトコトンこだわり、
試験に落ちて落ち込んでいる早川保が「女の子になんか分からないよ」と言えば、どうしてそこまで社員になりたいのか分からないと、「なぜ?」を連発し、
求婚を断る時も、二人の価値観の違いを「でも」「でも」と食い下がって、じっくり考えていく。

これは、山田洋次監督が「自分の頭で考える」女性像を造形したかったのと同時に、自身の長編デビュー作に当たって、とことんまで映画のあり方を考え続けた姿勢が反映されているのかもしれませんね。
いずれにしろ、同期の大島渚、それに吉田義重や篠田正浩が松竹を去っていく中、松竹大船流の作風を守り抜いた山田洋次監督らしく、徹底的に庶民の目線にたった映画ではありました。

例えば、東野英治郎が演ずるピッピの源さんは、子供をトラック事故で亡くしてからは頭が少しおかしくなって、毎日、路地で笛を吹いて子供たちを誘導しています。でも、ある日大通りで、いつものように誘導しようとしたところ、待田京介のクルマにはねられてしまいました。家にかつぎこまれた東野英治郎の家をのぞき込む長屋の住人たち。路地でやってりゃ良かったのに、大きな会社にはねられて良かったねえ。賠償金がいくら取れるかな、などとわいわいがやがや。

こんな下世話でいながら、おかしくて、ちょっとホロリとさせるような演出が、デビューで普通にこなせてしまうのは、さすがミスター松竹としか言い様がないです。

ただ、貧乏だけど気の良い長屋の人々、というファンタジーを無批判に受け入れ過ぎて、話にリアリティがなくなってしまった気はします。それに、倍賞千恵子の家にテレビがあり長男は大学の受験勉強中というのも気になりました。この映画が公開された時のテレビ普及率は50パーセント程度、大学進学率は20パーセント弱らしいので、それを両方クリアしている倍賞千恵子の家は、決して貧乏とは言えないんじゃないかと思います。
ここは、「兄ちゃんの受験が終わるまでは、テレビはお預けだな」という演出があっても良かったと思うのですが。


(松竹と言えばお茶の間)






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