いくらおにぎりブログ

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【映画】暁の合唱

2007-10-19 | 邦画 あ行

【「暁の合唱」鈴木英夫 1963】を観ました



おはなし
朋子は倉敷のバス会社に勤める新米バスガール。彼女は社長の弟と、ハンサムなバス運転手の間で、心が揺れ動くのですが……

主演は星由里子ですが、その相手役に抜擢されたのが、この映画が実質的デビュー作の黒部進。というより、ウルトラマンのハヤタ隊員といった方が通りがいいですね。

ピッ、ピッ。笛を吹く女性を先頭に、体操着で走る6人の娘たち。女子高生の部活でしょうか。と、思ったら土手に上がって発声練習を始めました。続いて切符切りの練習も。これは、新人バスガールの新人研修のようです。
斎村朋子(星由里子)も、その新人の一人。葉っぱの切符を切るマネをして、クスっと笑っています。

バスが走ります。運転手は浮田(宝田明)。車掌は星由里子です。おじさんから下卑た冗談を言われて泣き出してしまう星由里子。まだまだ新人さんですね。そうかと思うと、次は無賃乗車です。切符を落した、スラれたと言い出す若い男。宝田明も加勢してくれないので、一人で断固とした処置を取ろうと頑張る星由里子です。

バスの営業所に男を連れて行き、事務の米子(新珠三千代)に「この人、無賃乗車なんですよ」と意気揚々と引き渡す星由里子。しかし、新珠三千代も宝田明もクスクス笑っています。よく聞けば、若い男は社長の弟の三郎(黒部進)だったのです。んもう、と怒り出した星由里子は、宝田明に「お詫びに自動車の運転、教えてください」と口を尖らせるのでした。

早速、空き地でジープを運転し始める星由里子。そこにバイクに乗った黒部進が突っ込んできました。キーッと急ブレーキ。どうやら黒部進は、星由里子をからかいたくて仕方ないみたいです。その後、黒部進のバイクに乗せてもらう星由里子。まあお約束ですね。星由里子は聞きます。どうして車に乗らないの、と。それに答える黒部進の台詞が凄い。「ぼく頭弱くて、試験ってやつが大キライなんだ」

ハヤタ隊員は頭が弱いそうですよ。悪いんじゃなくて弱い。それも、自動車の免許が取れないほどに。なんか絶望的な感じですね。しかも、バイクには乗れるわけだし。微妙すぎます。

さて、星由里子が初サラリーを貰って、義母におみやげを買ったり、弟が先生のおちんちんの番付を作って怒られたりと、まあどうでもいいようなエピソードが続きまして……

倉敷駅に一人の紳士が降り立ちました。なにしろ山村聰ですから、これ以上ないくらい恰幅の良い紳士。この紳士は、駅で貰った赤い風船を片手に、バスの営業所に向かいます。ビジュアル的には赤い風船と山村聰という、ミスマッチ感覚がポイント、なのかな。

営業所に入った山村聰の目に飛び込んだのは、ジープの下から突きでいている足。とりあえず、そこに足がある以上、蹴ってみるのが礼儀でしょう。ゲシっ。おっ、足が蹴り返してきました。蹴り返された以上、踏むのが礼儀でしょう。グニュっ。

「何すんのさ、人の足踏んづけたりして」と怒りながら、出てきたのは星由里子です。「女か、君は」と驚く山村聰。いや、男ならいいのかと思わないでもありません。
そこに、やってきた宝田明が「社長っ」と呼びかけます。そう、山村聰こそ、このバス会社をはじめ、建設会社など多数を所有している小出信吾その人だったのです。ちなみに、事務の新珠三千代は、山村聰のお妾さんということで。

足を踏んだおわび、ということで山村聰は宴席を設けました。呼ばれたのは、もちろん星由里子。それに宝田明と新珠三千代。あとから黒部進も合流です。しかし、バス会社も妙に閑散としているし、これしか社員がいないんじゃないかと疑ってしまいます。冒頭、6人もの新人バスガールがいた以上、かなりの規模のバス会社のはずなんですけどね。もう少し、俳優さんを雇ったほうがいいと思いますよ。

ともあれ、宴席ではブラジル帰りの山村聰が熱く希望を語ります。「わしもできれば、向こうの骨になってもいいと思っているんだ」と、ブラジルに作った建設会社への愛を語ったりして。どうやら日本の会社は弟にまかせようと思っているみたいですが、黒部進は頭が弱いそうですから、止めておいた方がいいと思うんですけど。

酔った帰り道。何気なく酔った黒部進を支えちゃったりする星由里子。そんな姿を見て、ガーンな表情で去っていく宝田明。やっぱり、ヒラの運転手より社長の弟ですよね。それも、うまくすれば次期社長だし。ともあれ、二人きりのお散歩です。「これから僕が行くところに付いてくる」と言われて、「行くわ」と即答の星由里子。少しはためらいなさい。向かった場所は映画館の中の個室。そう、黒部進は今のところ、お兄ちゃんの映画館を二つ三つ任されているようなのです。ちょっと、いや、かなりうらやましいですね。

しかし部屋に入ると、そこには女が待っていました。ちなみに演ずるのは原知佐子です。実相寺昭雄の夫人ですが、それより大映ドラマ「赤い~」シリーズのいびり役といった方が分かりやすいかもしれません。どうやら、黒部進は、原知佐子に別れ話を切り出そうとしているのですが、一人だと怖いので、星由里子を連れてきた模様。頭弱いと言いながら、悪知恵は回るようじゃないですか。案の定、バチバチと火花を飛ばす女二人。原知佐子が、小バカにしたように、星由里子の頬を撫でます。その瞬間、全力で原知佐子の頬を張り飛ばす星由里子。あきらかにやり過ぎです。その後、なんか恋愛についての、よく分からない会話が続きますが、ホントよく分からないので無かったことにしておきます。

バスが走ります。角隠しをつけたお嫁さんが乗ってきました。気の良い婆さん(北林谷栄)も一緒です。なんだか愛想のない星由里子ですが、お嫁さんが嫌いなんでしょうか。さらに、小汚いオバサン(菅井きん)も乗ってきました。あ、こちらには明らかに嫌悪の表情を浮かべる星由里子。根本的なところで、この人、客商売に向いていません。北林谷栄が、菅井きんや、その汚い子供におにぎりを振舞ったりして、和やかな車中ですが、そんな中、星由里子だけがなんだかふくれっ面です。

あ、土手の一本道で、いきなり菅井きんが産気づきました。「車止めい。生まれるぞ」と一喝する北林谷栄。乗客たちはワラワラとバスを降りて、どうしようとオロオロしていますが、そんな中、星由里子の台詞が凄い。「いやだわ、どうして子供なんか産まなきゃいけないの。いやいや」
角隠しをつけたお嫁さんまでもが、裾を端折って甲斐甲斐しく働き、宝田明は産婆さんを呼びに走り出す。そんな状況でもまだ「いやだわ、いやいや」と頭を抱えている星由里子に、北林谷栄の怒り炸裂です。「このバカおなごっ!」。怒られて少しは反省したのか、ようやく水汲みに走る星由里子。しばらくして子供が生まれました。「生まれたのね」とちょっと感動する星由里子ですが、まだまだ飛ばしますよ。

生まれた子供のために、餞別を渡そうと北林谷栄が発案して、みんなお金を出し始めます。宝田明の制帽に百円、五十円となけなしの金が入れられていきます。そこにお財布の中身を全部入れてしまう星由里子。北林谷栄が、こういうものは気持ちだからムリをしちゃいけんよ、とたしなめると、「だって、あの人貧乏なんですもん」と暴言を吐くのです。もちろん、再び、北林谷栄の怒りが炸裂したのは言うまでもありません。しかし、本当にムチャクチャです。なにしろ、貧乏なのにどうしてあんなに子供を産むのかしら、とかNGワード続出ですから。

会社に戻っても、自分の恋愛感を滔々と語る星由里子。これまた、かなり身勝手なんですけどね。そして、いかにも「ついで」といった感じで、宝田明と新珠三千代の恋愛感も聞いてみることにします。宝田明は、好きになればなるほど、黙ってしまったり、ブツブツ文句を言ってしまうかな、との答え。嘘付け、ですよね。宝田明なら華麗なトーク全開でしょう。新珠三千代と言えば、ただ黙って笑っています。おお、このアダルトな感じはさすが新珠三千代。

新珠三千代のところにお泊りをすることにした星由里子。すっかり「お姉さま」とか言って懐いています。そんな星由里子に、「朋子さん、あなたの知恵を借りたいことがあるの」と言い出してしまう新珠三千代。迂闊です。迂闊すぎます。星由里子に知恵を借りてどうしますか。社長のお妾さんをやめて真っ当に生きたい気持ち。その反対に社長を求めてしまう女の弱さ。そんな、こもごもの気持ちを訴える新珠三千代。しかし、案の定、星由里子にはそんな気持ちは「まったく」分からないようなのです。まあ、ぼくにもお妾さんの気持ちは分かりませんけどね。

星由里子は、練習の甲斐あって、運転免許の試験を受けることにしました。立ち会っていた宝田明も納得の無難な走りです。しかし、試験車両から降りるやいなや、お腹を押さえる星由里子。どうやら、盲腸のようです。びっくりして駆けつけた新珠三千代に星由里子は、手術の時に着物を脱がされるのはイヤンイヤンと駄々をこねます。もちろん、人の良い新珠三千代は、私が立ち会ってあげるからと励ましますが、手術時間が30分と聞いてクラクラになってしまいました。どうやら、血を見るのが苦手なようです。じゃあいいわ、とあっさりした星由里子は「浮田さんに立ち会ってもらうわ」と宝田明を勝手に指名するのです。いや、裸を見られるのがイヤンイヤンだったのでは。まあしかし、宝田明としては、特に断わる理由もないので「うん、君さえ濁った後悔を残さなければね」と同意するのです。でも「濁った後悔」ってフレーズは凄いな。

手術後、お見舞いに来た黒部進は、手術に宝田明が立ち会ったと聞いて、あからさまに嫉妬の表情を浮かべています。そんな黒部進を挑発する星由里子。「ねえ、あなたは女性を母性型と娼婦型に分ける説知ってる」「あたしはそのどっちかしら」。知らない、ぼくは女性を好きな型と嫌いな型に分けるからと答える黒部進に「じゃあ、私は好きな型?嫌いな型?」と重ねて問う星由里子でした。それに答えられない黒部進の代わりに、ぼくが答えましょう。あなたは自己陶酔型だと思います。

さて、傷も癒えた星由里子は山村聰に呼び出されました。自分はブラジルに行って帰るつもりもないから、ぜひ黒部進の嫁になってくれという山村聰。ついでに、新珠三千代には宝田明と一緒になってくれ、と言い出します。「バカにしてるわ」と怒る星由里子。うん、これにはまったく同感です。

原知佐子から星由里子のもとに電話が入りました。色々言っていますが、要はあんたに黒部進を譲るわ、ということらしいです。あたしは北海道に帰って、ほとぼりを冷ましたらつまらない結婚をするわ、と言う原知佐子。もっとも、自殺せずに北海道に帰りついたらね、と最後にチクリと棘を残してくのが、さすが原知佐子です。

夜、会社に電話が入りました。黒部進からの電話で、自分の経営する映画館から、もう一つの映画館までフィルムを運んで欲しいと言うのです。しかし、突然の電話で運転手も出払っています。困る新珠三千代に、私が運転しますと言い出す星由里子。

星由里子の運転するジープは快調に山道を飛ばします。横に乗っている黒部進も最初はビビっていましたが、これなら大丈夫でしょう。と、突然、暴風雨が襲ってきました。ついでにジープはガス欠。どうしましょう。ピカッ、ドッカーン。雷が落ちてきました。ここで注目したいのは、雷の音が爆発音なこと。もっとハッキリ言うと、円谷特撮映画でコンビナートとかが爆発する音そのものです。さすが、東宝か円谷か知らないけど、音源ライブラリーを使いまわしてますねえ。そして、そんな爆発音のなか佇む黒部進、いやハヤタ隊員。一瞬、この映画な何の映画か分からなくなりそうです。

またピカッと光りました。「ああ怖い」と言って黒部進に抱きつく星由里子。キャッ、とか言って抱きつくのは分かりますが、「ああ怖い」と冷静に言って抱きつくのはどうなんでしょう。もちろん、抱きつかれた黒部進としては、ドギマギしつつ星由里子を見つめます。無言で見つめ合う二人。と、いきなり星由里子は黒部進を平手打ちです。そのままハンドルに突っ伏して泣き出す星由里子。もう、ワケ分かりません。もちろん、ワケ分からないのは黒部進も同様。とりあえず、村に行って助けを呼んでくる、と豪雨の中ジープを飛び出していくのでした。

しばらくすると、後ろから乗用車がやってきました。心配した宝田明と新珠三千代が駆けつけてきたのです。ねえ車貸して、と乗用車に乗っていってしまう星由里子。スゴイ、「ねえ乗せて」じゃなくて「ねえ貸して」ですから。残されたかっこうの二人ですが、「あなたのこと社長から聞きました、あなたさえ良かったら」と宝田明がモジモジしながら新珠三千代を見つめていたりするので、まあ放っておきましょう。

黒部進に追いついた星由里子。無事にフィルムを隣町の映画館にも届けたし、メデタシメデタシです。そこに突然、黒部進が真面目な顔をして星由里子に言います。
「朋ちゃん、俺、兄貴と一緒にブラジルに行こうと思うんだ」。意思が弱くて、流されやすい自分は「このままではどうにもならない」と言うのです。
「何年くらい」「2年」

ブラジルに立つ山村聰と黒部進を見送る、星由里子、宝田明、それに新珠三千代。とは言え、ここは空港でもないし、港でもありません。あくまで倉敷駅なのがポイント。電車はとっとと出て行きました、「さあ、商売、商売」と気合を入れる星由里子。星由里子と宝田明は駅を出るとバスに乗り込みました。ところが、バスはなぜか客が鈴なり。って、ことは路線バスのドア開けっ放しで、二人は見送りに行っていたんですね。

星由里子の歌うテーマソングが流れる中、バスはゴトゴトと畑の一本道を走っていくのでした。


ああ、これは分からない。登場人物の心情がさっぱり理解できません。ほとんど、異星人を見ているような気分。これほど感情移入を拒むヒロインってのも珍しいし、山村聰の社長も鬼畜すぎます。サスペンス映画とメロドラマの名手である鈴木英夫監督にして、この映画?と首を傾げてしまいます。もっとも、ツッコミどころが満載なので、別の意味では満腹になれましたけど。

原作は「青い山脈」の石坂洋次郎なので、もしかして本来のお話は、「世間を知らずに高飛車だった主人公が、周りの人間から教化されて、大人になっていく」とかいう、感動的なものかもしれません。でも、鈴木演出の星由里子はあまりにダークな気配に満ち満ちているので、どこまでいくんだコイツ、と思ってしまいました。それに、確かに菅井きんは見た目が貧乏くさいですが、手を握られて、いかにも汚そうに顔をしかめるヒロインっているでしょうか。

あと、後半の山場の暴風雨のシーン。なにも無理やりにサスペンスにしなくてもという、「やり過ぎ感」が素敵です。こうまでして、鈴木監督はサスペンスが撮りたかったのか、と業の深さを感じずにはいられません。

鈴木監督は、この作品のあと「悪の階段」を撮りました。山崎努や西村晃の怪演が光る、犯罪映画の傑作です。やっぱり、鈴木監督には、こうしたフィルムノワールか、司葉子の出てくる、冷たく金属質なメロドラマこそが似合っているようです。

ちなみに、星由里子は若大将シリーズでは、屈託の無いかわいいお嬢さんを演じていて、とてもキュートな俳優さんですから、念のため。







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