いくらおにぎりブログ

邦画中心の映画感想ブログです。ネタバレがありますのでお気をつけ下さい。

【映画】あなたと私の合言葉 さようなら、今日は

2007-06-23 | 邦画 あ行

【「あなたと私の合言葉 さようなら、今日は」市川崑 1959】を観ました



おはなし
青田和子は、自動車会社に勤めるデザイナー。和子には父の決めた婚約者がいますが、結婚に躊躇しています。それというのも、和子は父のことが心配でたまらず……

市川崑監督のモダンな感覚にあふれた映画ですが、よく見るとある有名監督のパロディにもなっているような。

大卒で、自動車会社の設計部門のデザイナーをしている青田和子(若尾文子)は、メガネの似合うバリバリのキャリアウーマン。美人で聡明な彼女は、同僚社員からもあこがれの視線を向けられていますが、まったく意にも介していない様子です。

ある日、友人の市毛梅子(京マチ子)が大阪から和子を訪ねてきました。梅子は老舗の料理屋「与太呂」の女将で、東京進出の計画を実現するために上京してきたのです。仕事が楽しい梅子は結婚についても「あれは能無しのすることや」と一刀両断の女傑なのです。そんな梅子に和子は「あなたに会って欲しい人がいるの」と切り出しました。

和子は妹の通子(野添ひとみ)と、父の伍介(佐分利信)の3人暮らし。スチュワーデスの通子は家事がまったくできず、父の伍介は会社を辞めてしまったものの、家事はすっかり和子頼りという有様なので、結局和子が一家の主婦として頑張らざるを得ないのです。
そして、梅子への頼みというのは、父が決めた許婚の渡辺半次郎(菅原謙二)に「角が立たないように」お別れを言って欲しいというものでした。

実は和子と半次郎はお互いに憎からず思っている仲。しかし半次郎が会社の都合で大阪勤務になってしまった以上、和子としては父を捨ててまで半次郎の胸に飛び込むことはできません。

大阪に帰った梅子は、早速、半次郎のもとを訪ねました。しかし、そこで半次郎にすっかりのぼせ上がってしまったのです。強引にアプローチを始める梅子。しかし、半次郎としては和子が婚約破棄を言い出したからと言って、はいそうですか、と梅子に乗り換えることのできるような器用な人間ではないのです。

ところで、青田家には出入りのクリーニング屋がいます。夜間大学に通うその青年は片岡哲(川口浩)と言い、和子に憧れているようですがまったく相手にされず、逆に妹の通子からアタックを受けているようです。

半次郎との婚約を勝手に断ったことで、父の伍介が怒りだしました。しかたない。ちょうど大阪出張の予定があった和子は、あらためて半次郎と話し合うことにしました。
大阪へ着き、まず梅子のもとを訪ねた和子ですが、梅子から
「うち、好きになってもかまへんか」「誰を」「半次郎さん」
と言われてしまい困ってしまいました。寝耳に水だったのは、料理屋を一緒にやっている血のつながらない兄の虎雄(船越英二)も同様。懸命に梅子に翻意を迫り、「なあ和子さん、わてら似合いの夫婦ですな」と和子の応援まで頼もうとしますが、梅子はまったく聞く耳を持ちません。

梅子と連れ立って半次郎の会社を訪ねた和子。私は結婚できないから、梅子さんでどう?という和子に半次郎は「僕を断った代わりにあの人を推薦しようというのか。愚劣だよ」と怒り出してしまいました。こうなったら正直な気持ちを言うしかありません。
「お父さん、口では結婚しろって言うけど、本当はそうじゃないのよ」とベソをかきながら言う和子。「寂しい、かわいそうなお父さんなんて、あたしとってもイヤ。イヤ、あたし。お父さんはいつでも威張っていてもらいたい」と泣き崩れます。
「だめだ、だめだ。泣いたりしちゃ」と思わず和子を抱き寄せる半次郎。和子のメガネが飛んで、パリンと割れてしまいました。

「ぼーっとしちゃった。メガネが無いと半ちゃんの顔、ちょっとぼーっとしてるわ。頭までぼーっとして、はっきり考えられないみたい」という和子の顔は、思わずドキっとするほど、無防備でかわいいのです。「ぼーっとしてていいんだ。何も考えなくていいんだ」と半次郎は和子のオデコにキスをします。
「知らなかったのよ。半ちゃんがあたしのこと、そんなに想ってくれてること」とうっとりしている和子に、しかし半次郎は興ざめなことを言い出しました。お金さえあれば、お金さえあれば、君のお父さんには家政婦を雇って僕たちは結婚できるのに、と。情熱ではどうにもならないの、と反論する和子ですが、半次郎(というか菅原謙二)はニブイのでどうにも分かっていない様子。送ろうと言う半次郎に「いい、一人で帰りたいわ。帰って泣くわ」と答える和子。「どうして」「ふふっ。メガネ壊されちゃったって……」
いや、良いです。最高です。若尾文子の演技は最高です。熱狂的な若尾文子ファンでなくても、このシーンはドキっとしそうです。まして若尾文子ファンならズキュンとハートを射抜かれること間違いなしです。

父の伍介は、和子のお見合いを決めてきました。しかし当日になると、お腹が痛いの何のと理由をつけて、和子を出かけさせようとしません。やっぱり、お父さんは和子に依存しているようです。

妹の通子に「哲ちゃんと結婚したいの」と告白された和子。「哲ちゃんに言ってくれない」「あたしが結婚したいって言ってるって」と通子は和子に頼み込みます。妹は当然、哲が和子に憧れているのに気づいていますから、和子自身から哲に頼んでもらえば、話が早いと思ったのでしょう。もちろん、哲に対して何の恋愛感情も持っていない和子は可愛い妹のために引き受けます。

和子に呼び出されて、和子の職場に喜び勇んで出てくる哲。ところが、蓋を開けてみれば、通子と結婚してあげて、という和子の言葉にガックリです。しかし、優柔不断な哲は、和子に愛の告白をするわけでもなく、あっさり流されてOKしてしまうのでした。そこに半次郎が顔を出します。「ぼく結婚するんだ」と視線をそらしながら言う半次郎。相手は梅子で、どうやら、梅子の積極的なアタックに根負けしてしまったようです。まあ、最初に振ったのは和子の方ですから、文句をいえる筋合いではありませんが、ちょっとガッカリですね。

半次郎は東京への異動が決まり、梅子と半次郎は東京で結婚式をあげることになりました。梅子は和子の父に、早く再婚してください、と頼みます。和子はお父さんのことが心配で結婚もできない、お父さんあなたが和子を縛っているんだ、と梅子は言います。そんなことはない、とムッとする父の伍介。火花バチバチです。

梅子と半次郎の結婚式が終わりました。半次郎の母が、伍介のところに挨拶にきました。なにしろ、本来は和子こそが半次郎と結婚するはずだったのですから。かいがいしく働く和子を見て、複雑な表情の伍介と半次郎の母。

伍介は悟りました。伍介は和子に言います。
「人間は一人で生まれて一人で死ぬんだ。」「ところがお父さんうっかりしてて娘を捨てるのを忘れていたんだ。自分の娘は自分のものだと思っていたらしい」
「いいわ、それで」と答える和子。しかし伍介は自分に言い聞かせるように続けます。
「自分の子供から離れるということが、人生の最後で最大の試験なんだね。難しいことだ」
和子はベソをかきだしてしまいました。そんな和子に、好きな人はいないのかい、と尋ねる伍介。いや、好きな人はもう結婚しちゃいましたから。和子は会社から、アメリカに行ってデザインの勉強をしてこないか、と言われていることを話します。それはいい、行っておいで、と勧める伍介。和子はしばし考えたあと、「ごめんなさい、じゃあ行きます」と答えるのでした。正面からのショットの切り返しが続きます。「お父さん結婚したら」という和子の顔。困った顔の伍介の顔。「申込者殺到よ」という和子の顔。むむむ、どこかで見たことのあるような……

横浜港。アメリカに向かう船が停泊しています。旅立つ人、見送る人、人また人です。和子もまた、その中にいました。父や妹、みんなが見送る中、船は汽笛をあげて岸壁を離れました。やがて、手にしっかり握った紙テープをくしゃくしゃに丸めた和子は、メガネをすっとかけるのでした。

映画の前半は、ロボットのような話し方を俳優にさせ、スピーディな展開で、さすがモダニストの市川崑と思わせていたのが、後半になると段々あの映画のようなお話に。そう、小津安二郎の「秋刀魚の味」にそっくりになってきました。そのうえ、演出もここでは人物を正面から捉えたショットを切り返すという、まるっきり小津安二郎演出。うわあ、と思いましたけど、でもこの映画の方が「秋刀魚の味」より先なんですよね。ということは、やっぱり小津の「晩春」あたりを意識して作ってみたら、「秋刀魚の味」の先取りになってしまったということでしょうか。
いずれにしろ、悪ノリに近い部分を感じつつも、そこは市川崑監督です。和子が最後に結婚してチャンチャンではなく、誰とも結婚せずにアメリカに勉強に行ってしまうというのが、実に痛快な終わり方だと思いました。

男優は川口浩、菅原謙二、船越英二、と大映東京のスターがずらりと揃いましたが、いずれも情けない役どころなのがミソ。特に川口浩が、野添ひとみの強引なアタックで恋のレースから脱落していくところは、よくあるパターンの上に、現実を反映しているのでおかしさが増します。
それと佐分利信。どちらかというと強面で、声もドスが効いているのに、やっている役が笠智衆そのまんまというのは、かなりおかしいです。

それから、この映画の見逃せないところは、何と言っても若尾文子。だいたいメガネっ娘の若尾文子という貴重極まりない設定が、既にうれしさ爆発なのに、そのメガネを取ったり外したりすることによって、気の強い女とかわいい女の両極端を見せるので、これはもうファンにはたまりません。

とにかく市川崑監督の縦横無尽の演出が楽しく、若尾文子はキュートという、どこをとっても文句の付けようのない作品でした。

ちなみに冒頭のシーンで、駆け出し時代の田宮二郎が旧名の柴田吾郎で、ちょい役として出ていました。


(メガネっ娘も)

(メガネを外してもキレイですね)

(二人はいつも一緒)

(ダメな菅原謙二、川口浩、船越英二)

(京マチ子も可愛い役でした)

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