いくらおにぎりブログ

邦画中心の映画感想ブログです。ネタバレがありますのでお気をつけ下さい。

【映画】海は見ていた

2008-11-10 | 邦画 あ行
【「海は見ていた」熊井啓 2002】を観ました



おはなし
深川の岡場所で働くお新。ちょっといいなと思った若侍には裏切られたものの、新しく好きな人ができて……。

山本周五郎の原作を黒澤明が脚本化。その遺稿を、社会派監督の熊井啓が撮った。とりあえず、これだけ聞くと、スゴそうな作品です。実際、初めて観たときには、あまりな展開にのけぞりました。えっ、こうなるの。こ、これはスゴイ。

江戸・深川。葦ばかり生い茂っている、この海沿いの集落を、カメラは空から捉えています。まあ、それがとてつもなくCG以外の何ものでもないにしろ、これは深川の岡場所なのです。さらにカメラは下がっていき、道行く客の袖をひく女郎たちが見えてきました。吉原のような、幕府に認められた遊郭とは違い、どことなく庶民的な雰囲気のただよう歓楽街です。

昼の喧騒とはうって変わって、夜の岡場所には人影もまばら。ここ、葦の屋では女郎たちが手持ち無沙汰そうにしています。菊乃(清水美砂)が読む本に、じっと耳を傾けているおその(河合美智子)にお吉(つみきみほ)。どうにか、客が取れないものかと、店の外に立っているのはお新(遠野凪子)です。そこに女将のおみね(野川由美子)が出てきました。「お新ちゃん、そろそろ閉めようか。今夜、もうダメだよ」。

と、そこにやってきたのは、まだ若い侍(吉岡秀隆)。「上がれないか。泊まりたいんだ」と、どうにも焦った様子です。「初めてなんだ」という言葉がなるほどと頷けるほど、オドオドした様子の若侍は、お新に言うのです。「実は今、喧嘩をして追われてるんだ。誰か探しに来るかもしれないが、その時は……」。

「はい」と答えたお新。こんなことは、初めてではないんでしょう。菊乃とテキパキと示し合わせ、若侍を指物師の馴染み客ということにしてしまうのです。部屋に招きいれ、刀を隠し、元結を切って、髷を町人風に。カチンコチンの若侍の横に、裸になって滑り込めば、準備完了というものです。

さあ、案の定、地回りの梅吉に連れられて、追っ手がやってきました。うまいことトボけて、さらに当て付けてみれば、ほーら。追っ手は帰ってしまいましたよ。まあ、確かに人の濡れ場なんて、バカらしくて見てられませんものね。

翌朝、お新に折り目正しく挨拶をして帰っていく若侍。お侍から、いいえ他人から、そんなにキチンと挨拶なんかされたことないのでしょう。思わずドギマギしてしまうお新です。そんなお新に菊乃が声をかけてきました。「で、あれからどうしたの」「あの人、着物をキチンと着て、両手をついて"ありがとう"、そう言うとそのままジッと座ってるの。仕方がないから、私もお辞儀をして座ってたの」「朝まで?」「ええ」。

おやまあ、と去っていく菊乃。お新は幸せそうに外を眺めます。ポワーン。と、菊乃が戻ってきました。「あのお侍、ウブでいい子らしいけど、惚れちゃダメよ。惚れる相手じゃなくってよ」「分かってるわよ、そんなこと。だいいち、もう来る人じゃないわ」。また、外を眺めるお新。でも、今度は悲しそうな表情です。ドヨーン。

女将さんと、常連のご隠居さん(石橋蓮司)が話し込んでいます。話題は、今、菊乃の部屋に上がっている男のこと。「ところで、馴染みの客って、例のやくざっぽい男かい」「ええ、あんな男とは、早く切れたほうがいいって言ってるんですけど、なかなかねえ」。と、言ってるそばから、その男、銀次(奥田瑛二)が階段をトントンと降りてきました。苦みばしった顔に、隙のない目つき。やはり、どうみてもタダモノではなさそうです。「じゃあ、考えといてくれ」と菊乃に行って去っていく銀次。どうせ、ロクなことじゃないんでしょう。案の定、「考えといてくれって、何の話」と女将が聞くと、菊乃は「住み替えの話よ。あたし、もうイヤだってきっぱり撥ね付けたの」と答えるのでした。

さて、ある日のこと。ひと目を避けるように笠を目深にかぶった侍が、葦の屋を訪ねてきました。誰かと思えば、あの時の若侍です。思わぬできごとに、ビックリするやら、嬉しいやらで、呆然とするお新。その若侍は井原房之助といい、刃傷沙汰の結果、親から勘当されて、叔父の家に厄介になっているそうです。「これから時々、来るよ」という房之助に、二度と来ちゃダメです、と言い出すお新。勘当中の身分で、こんな悪所に出入りしていたらタイヘン。というのは建前で、その実、そんな房之助に惚れてしまいそうな自分が怖いのでした。なにしろ、自分は女郎。相手は勘当中とはいえ歴としたお侍さん。身分が違います。たとえ、金で買ってもらえたとしても、それだけのこと。その恋が、祝言といった形に実を結ぶことはないんですから。

その後、何度となく房之助が訪ねてきても、病気だ、泊りの客がいる、と言いたて、決して会おうとしなかったお新。とは言え、そんな我慢が長く続くわけもなく、とうとう去っていく房之助を追ってしまったのです。橋の上で見つめ合う二人。もう、どうにでもなれ、といったところでしょうか。

予想通り、房之助はとても良い人でした。私は汚れていますと言うお新に、「お前は汚れているものか」と断言する房之助。考えてもご覧、人の体は髪だって歯だって抜け替わるじゃないか。人の体は日々変わるんだ。だから、消せない汚れなんかない。「でなくちゃ、ひどすぎるじゃないか」。感涙に咽ぶお新。しかし、それ以上に感激したのは、その話を立ち聞きしていた仲間の女郎たちだったのです。自分たちのいる場所を悪所といい、その境遇を苦界と呼ばれる彼女たちの立場。仮に、どんなに着飾ることができても、おいしいお酒が飲めたとしても、彼女たちを貫くのは、宿命であったり運命と呼んだりする、逃れようのない鎖です。しかし、房之助の言葉は、そんな彼女たちに勇気を与えたのでした。

そんなお化粧、もうやめちゃいなさい、と言い出すお吉。実は私たち、あのお侍の話を聞いちゃったの。これからは、私たちが代わりにお客を取る。だから、あなたはキレイな体で、あのお侍さんに会うのよ。おそのも言い出します。あたしたちの中から、お侍のお嫁さんが出るなんてステキだわ。「姉さん、この気持ち、よく分かるでしょ。元はお侍の奥方だったんだから」、そうおそのに言われ、渋々うなづく菊乃。ということで、お新は、仲間のおかげで客を取らなくて済むようになったのです。

もう客を取っていないと言うと、房之助も「こんなにうれしいことはない」と喜んでくれました。どうやら、房之助自身も、近々勘当が許されそうということで、そうなったら、いよいよ……。思わず自分の両肩を抱いて、震えを懸命に抑えるお新。かつて、幸せというものを感じたことのないお新は、幸福の予感に体が震えだすのだということに、初めて気づいたのです。

大川端の桜が咲き、そして青葉が目にまぶしいくらいに萌え盛るころ、紋付をパリっと着た房之助が喜び勇んでやってきました。「実はやっと勘当を許されてね」。「まあ」とわが事のように喜ぶみんな。じゃあ、お祝いに、みんなでお酒を飲みましょうよ。「いや、そうもしてられないんだ。この機会に婚礼もしてしまおうということになってね」。ふーん。で、「どなたのご婚礼」と聞いてみる菊乃。「もちろん私のさ。相手は次席家老の娘でね。二年前から許婚で……」。あれ、あれれ。みんなは完全に固まっています。「どしたんだ、みんな」と房之助。プチーン。お吉が完全にキレました。「あたし言うわ。言ってやるわ」、やめてよ、モガモガ。そのまま仲間に引きずられていくお吉。女将がそっとそばによって、カクカクシカジカと房之助に説明をします。「まさか、みんな、私がお新と一緒になると……」と絶句する房之助。完全に凝固しているお新、そして切れ切れに聞こえてくるお吉の「殺してやるー」という叫びを背中に、房之助はほうほうの体で、陽のあたる世界に帰っていくのでした。

青い空にポッカリと浮かぶ入道雲。ジリジリと照りつける太陽。夏がやってきました。房之助の一件以来、葦の屋にはロクなことがなかったようです。女将さんは体を壊し、湯治に行ってしまい、お新もまた寝付いていたのです。でも、ようやく体調の戻ったお新は、今日から見世に出る(客を取る)ことができそうです。そんなお新の復帰後、初めての客は、良介(永瀬正敏)という暗い目をした職人崩れでした。鶏の朝を告げる声に、目を覚ましたお新。ふと隣を見ると良介が部屋の隅でうずくまっているじゃありませんか。見れば、泣いているようです。自分が不幸なのに、不幸な人間を見るとたまらなく同情してしまうお新は、良介のことが気になって気になって仕方ありません。

相変わらず房之助のことを怒っているお吉。その怒りの矛先は菊乃に向かいます。姉さんは武家の出なんでしょ。だったら房之助が何を考えていたかくらい分かったはずだわ。まあ、八つ当たりですね。もちろん、負けずに言い返す菊乃。き、気まずい。と、良介がまたやってきました。ホッとして、出迎えるお新。さあ、荷物を預かって……。おや、これは。良介は匕首(あいくち)をもっていました。こんなもの、危ないわよ。それに見回りが来て、見つかったらタイヘンなことになるわ。それにしても、この良介の暗い目は何を見ているんだろう。「ねえ、あんたのこと知りたいわ。あんたって、どんな人」。

「俺か、俺なんか虫けらみたいなもんよ」と言い出す良介。問わず語りに、身の上を話し始めました。五つの時に、母親と死に別れたこと。それからは乞食になって、大きな犬と冬の寒さを暖めあい、食べ物を分け合って暮らしたこと。「やめて、もうやめて」、人のいいお新は、もう涙をポロポロ流して同情しています。「でもな、俺の不運はそれからだぜ」。番小屋の爺さんに拾われ、商家で奉公することになったものの、十八になってその商家を出たら、それまでの給金はすべて爺さんに騙し取られていたこと。今度は料理屋に拾われ、包丁を握れるようになるまではタダ働きという条件で働き始めたこと。しかし、五年の奉公で腕もあがり、包丁を持たせてくれといったが最後、
「翌朝、俺の荷物が店の表に放り出してあった。俺は阿呆だ。間抜けなのさ。間抜けだからいつも、貧乏くじ、引くのさ。畜生、何か無茶なことしてやりてぇ。そういう気持ちになって匕首買ったんだ」。

もう、こうなるとお新は止まりません。心の奥から噴き出してくる同情が、恋に変わってしまいます。「当分のお金なら、私がなんとかするわ。死んだお父っあんや兄さんにする代わりに、あんたにするわ」と言い出しました。「考えてみると言って。お願いよ、一生のお願いよ」。

早速、女将さんの代わりにお金を預かっている、菊乃姉さんに相談するお新。しかし菊乃は「止した方がいい。とんだ目に遭うよ。そういうのが大抵、終いにはヒモになるのよ」と一蹴です。なにしろ、実体験から出ている言葉ですからね。でもお新だって負けてはいません。「あの人に大事なのは今なのよ。この一時なのよ、姉さん。たった今、その横丁を曲がるか曲がらないかで、あの人が死ぬか生きるかが決まるの。そして私はただ、その横丁を曲がらせたくないだけなの。それだけなのよ、姉さん」。

かねてから菊乃を落籍そう(身請けしよう)としているご隠居と、まったり飲んでいる菊乃。お新の態度に、何か感じるものがあったのでしょう。私もここらへんで、あの男と手を切って、ご隠居さんと暮らすのもいいかもと思い始めています。しかし、それを見抜いたかのように銀次がやってきました。やっぱり、菊乃を鞍替えさせようという魂胆を諦めていないようです。「今度はどこ行けっていうの」「八王子だ」。これには菊乃の我慢の緒もキレました。「冗談じゃない、イヤですよ。まさか、もう話はできているんじゃないでしょうね」。金をジャラリと見せて、嫌な笑いを浮かべる銀次。「あたしはね、もうあんたなんかの言いなりにはならないよ」と啖呵を切る菊乃。と、今度は銀次がキレました。「なにぃ。おめえ、まさかあのジジイと」と言うが早いか、菊乃を殴り飛ばし、押し倒すのです。

ドタンバタン。キャーッ。そんな音が聞こえて、ゲッソリとした表情のみんな。なんだか、たまらないな。血の気の多い良介なんかは、今にも匕首を抜きそうな不穏な顔です。とは言え、音もやがて静まり、ボロキレのように横たわる菊乃を残して、銀次は去っていきました。と、その時です。ゴロゴロ、ドッシーン、雷が鳴り始め、波がザッパーンです。どうやら台風が近づいてきたようです。「これじゃ、とても帰ぇれねえな」と言う良介を残し、他の客たちは、あわてて葦の屋を出て行きました。

ヒュー、ガタガタ。雨混じりの突風がものすごい勢いで吹き付けます。どうやら、向かいの店は逃げ支度を始めたようで、アチコチで避難する人たちのザワメキも聞こえてきます。「おーい。廓橋も八幡橋も流されたぞぉ」「大水だぞぉ。上流から水がどーっと来てるんだ。今は大潮だ、海も危ねぇー」。偵察にでていたお吉は、引きつった顔で戻ってくると、黙って身支度を始めました。慌てて、おそのも逃げ支度を整え、出て行きました。後に残ったのは、女将さんに店を頼まれたと、頑張っている菊乃と、お新、良介だけです。

メキメキ。各所で屋根が剥がれ始めました。バリバリ。黒塀が吹き飛んでいきます。さすがに、この状況に「逃げたほうがいい」と言い出す良介。しかし「あんた、お新ちゃんを連れて逃げてくださいな」とあくまで菊乃は意地を張っています。「姉さんも逃げるんだ。充分、やったよ。さあ支度しよう」。えーと、そうお。逃げてもいいかしら。じゃあ、早速。慌てて、身の回りの物やら、金やらを集め始めるお新と菊乃。しかし、なんてことでしょう。このディザスター真っ盛りに銀次が戻ってきたのです。もちろん、菊乃を心配してではなく、女将さんの銭函目当てに。まさに火事場泥棒ならぬ水場泥棒です。返して、と絶叫する菊乃。返ぇしてやれ、と凄む良介。しかし、とことんワルな銀次にとって、そんな言葉は、蛙の面になんとやら。それどころか、良介を階段から叩き落すのでした。ヨロヨロ。再び階段を登ってくる良介。匕首を片手に侮蔑の笑みを浮かべている銀次の横を通り、そのままお新の部屋に。それ見ろ逃げやがった、と得意顔の銀次ですが、再び出てきた良介を見てビックリです。なんと匕首を構えているじゃありませんか。

完全にイッテしまっている良介の迫力にジリジリと後ずさりをする銀次。ヘンな奇声を発してみても、良介は一歩、また一歩と近づいてくるのです。そのまま、外に出る二人。土砂降りの雨の中、死闘が始まったようです。少しして、葦原の中からヨロリと姿を現したのは良介でした。「もう済んだよ。あいつは片付けた。ああいう奴は勘弁ならねえ」。お新が喜んでいいのか、悲しんでいいのか分からないでいる間に、良介は奉行所へ行くと言い出しました。罪は罪として償わなければ。

「あんたっ。お逃げなさい」と菊乃が言い出します。「上方へでも行って、ほとぼりを冷まして帰ってくるのよ。あたし、それまでお新ちゃんを預かってるわ。さあ、早く」。お新も「あたし待ってるわ」と声をそろえます。えーと、そうですか。じゃあお言葉に甘えて、「じゃあ姉さん、頼んだぜ」と走り出す良介。

先ほどまでの突風・豪雨が嘘のように、気持ちのいい夕焼け空が広がっています。岡場所全体が水につかり、半壊の家、全壊の家であふれています。「とうとう逃げ損なっちゃったね。ごめんよ、お新ちゃん」と頭を下げる菊乃。「何を言うのよ、姉さん。あたし、姉さんと一緒なら平気。でも何だか気味が悪いわね。急に静かになって」。どうも、お新はこの状況をいまいち理解できていない様子です。それならば、これでどうだ。「川の暴れ水は収まったけど、今度は海の水がゆっくり上がってきてるのよ」、ズゴゴゴゴ。

切羽詰った様子で、「お新ちゃん、一番いい着物はどれ。私はこれを着るから、お新ちゃんも」と言い出す菊乃。ええっ、姉さん、どういうこと。思わず、口をへの字にして「あたしたち死ぬのね」とつぶやくお新。うぇーん。

なんだか水位がグイグイと上昇し、とうとう屋根の上に逃げた二人。見上げれば、空は降るような星空です。思わずデカイ声で「荒海やぁ、佐渡によこたふあまのがわぁ」と叫んでみる菊乃。「姉さん、武家の出だから、何でも知ってるのね」とお新は尊敬のマナザシです。

「ハハハ。あれは嘘。武家育ちなんて、真っ赤な嘘よ。ここまで身を落とすと、生きていくのはタイヘン。毎日、毎日、とてもツライ。その気持ちにツッカエ棒かわないと、生きていけないのよ。武家育ちなんで、そのツッカエ棒よ。ああ、これでサッパリした。嘘をついたまま死ぬのはイヤだからね」。「死ぬって、姉さん」と愕然とするお新。そういえば、あたしたちピンチだったわ。荒海やぁとか、やってる場合じゃなかったわ。ボコボコ、なんだか下の方で崩れる音がしてくるし。いやぁーーーー。

「おーい」「おーい」。誰かが舟を漕いできます。「おーい、そこの屋根のお人ぉ。葦の屋の人のこと知らねえかぁー」あっ、良介です。良介が戻ってきました。「姉さん、良さんよ。良さーんっ
「おしーーーん」。これには、男性不信な菊乃も感心します。「お新ちゃん、お前さん、今度こそ本当に立派な男を釣り上げたね」。

「早く乗ってくれ。この舟、沈みそうなんだ」。確かに、お新に続いて菊乃が乗ろうとすると、舟は危険なほど沈んでいます。「さあ、姉さん乗ってくれ」「ダメだよ。この舟、三人乗ったら沈んじゃうよ」。えーと、とりあえず立派な男と言ったのは取消しね。もう、この役立たず。と、そんな顔はおくびにも出さず、お姉さんぶってみる菊乃。戻ってくるという良介に言います。「それよりあんた、よくお聞き。お前さん、もう大丈夫だよ。何にも心配することはない。何もかも、海が飲み込んで隠してくれた。何だかお前さんたちのこと、海が見ていて、助けてくれたみたい。さあ、ッ早くお行き。そして二人でしっかりやるんだよ。そうだ、二人にこれをあげる。長いことかかって貯めたんだ。ズッシリあるよぉ」。腰巻から、虎の子の貯金を出して渡す菊乃。でも、女将さんの銭函はしっかり、足元に置いておくかたりが、とても律儀です。

「姉さーん」「姉さーーーーん」。お新の声がだんだん遠ざかっていきます。「こんばんは」とかかれた提灯を振って、それに答えている菊乃。二人は行ってしまいました。「これでホントの一人ぼっちでござんす。いっそ、いい気持ちだぁ」。菊乃はうーんと伸びをするのです。


前半は「いかにも山本周五郎」みたいに始まり、最後はハリウッドばりの「ディザスター映画」に早変わり。なんだか、スゴイ映画です。昔、クリスチャン・スレイターとモーガン・フリーマンが、洪水の起こった町で大金を巡ってあらそう「フラッド」って映画がありましたけど、それを髣髴とさせます。

ところで、黒澤明は、この脚本を映画化しようとして暖めていたものの、製作コストが合わなくて寝かしていたそうです。いやあ、実現しなくて、本当に良かったですね。もしクロサワだと、絶対に巨大オープンセット作っちゃいますよ。それも寸分違わぬものを2個。1個はもちろん海沿いですね。で、役者に衣装着せて、ひたすら台風待ちですよ。もう、とことん待っちゃいますから。もう1個は山間部に。その上の川をせき止めて、きっと人造湖を作りますね。で、一気にそれを決壊させて、撮影すると。多分、スタッフの2~3人は奥田瑛二のように海まで運ばれるんじゃないでしょうか。もう間違いなしです。

冗談はさておき、役者ははまっていました。清水美砂の姉さんっぷりをはじめ、気の強いお吉のつみきみほ、頭は軽いけど人のいいおその役の河合美智子、まだ硬さの残るものの、そこがかえっていい味を出している遠野凪子。もちろん、誰も江戸時代の深川にある岡場所なんて見たことないわけですが、いかにも「いそう」「ありそう」な雰囲気です。

奥田瑛二のヘビのような目付き。永瀬正敏のキレたら何をするか分からないたたずまいも見事。しかし、それより「いい人」オーラを発散しながら、やっていることはエゲツない吉岡秀隆が最高です。無頓着なまでの善意で、人を持ち上げて叩き落す。これができるのは、本当に「いい人役」が板についてる吉岡秀隆をおいて、他には無理でしょう。中途半端な善人ぶりだと、かえって白々しくなりますから。

ともあれ、基本はとてもシッカリした映画です。木村威夫の美術も見事ですし、岡場所という名の牢獄に閉じ込められた女性の、心の動きや葛藤もうまく表現されていました。その上、パニック大作なんですから、これは色んな意味で、面白いです。







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4 コメント

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ごぶさたしてます (ゆう)
2008-11-13 09:44:45
海は見ていた…タイトルの意味てこうやったのかと思いました。深い。山本周五郎はさぶなどが有名ですが、後口のさっぱりした話が多い。この映画は前から見たかったので探して見ます。ま、同じ山本でも山本一力の本を全部揃えてますが、彼は同郷の方なんで。あかね空、観たことありますか?
ネタが思いつかないとき (いくらおにぎり)
2008-11-13 14:56:02
>同じ山本でも山本一力
読んだことないです。
>あかね空、観たことありますか?
観たことないです。

と、これだとあまりにそっけないので、どーしよう。なにかパーティジョークでもひとつ。うーむ。

なにも思いつかない。すいません。悪気はないので、許してくださいね。
つまんない質問するから (ゆう)
2008-11-13 18:54:55
どうもすみません。山本つながりで話しただけですき。海は見ていた物の本にも着こなしが素敵ゆうて取り上げられてました。遊女ファッションがええがですかね。さて、そろそろ坂本龍馬の誕生日兼命日が近うなってきました。彼の生まれた場所が上町ってとこなんですが、毎年イベントやってますよ。
高知 (いくらおにぎり)
2008-11-14 09:33:17
高知、行ってみたいですねえ。というか、カトリックですけど、お遍路さんで四国を回ってみたいなあ、とか思います。まあ、宗教的な意味ではなく歩いて旅をしてみたいんですけどね。なんかオリエンテーリングっぽくて楽しそうだし。

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