いくらおにぎりブログ

邦画中心の映画感想ブログです。ネタバレがありますのでお気をつけ下さい。

【映画】億万長者

2007-01-25 | 邦画 あ行

【「億万長者」市川崑 1954】を観ました



おはなし
小心者の税務署員(木村功)が、原爆作りに夢中な少女(久我美子)や守銭奴の芸者(山田五十鈴)に翻弄されて、繰り広げる諷刺喜劇です。


1954年は映画の当たり年です。なにしろ「七人の侍」がキネ旬ベストテンの3位にしか入らなかったくらいですから。1位、2位は木下恵介監督作品、それ以外にも成瀬巳喜男監督が2本、溝口健二監督も2本と、錚々たる作品に恵まれた、まさにヴィンテージイヤーと呼ぶにふさわしい年でした。

同じ1954年の3月1日には、ビキニ環礁で水爆実験が行われています。被爆した第五福竜丸の悲劇を通して、日本でたいへんな反核運動が起こった年でもあったのです。その世相を反映して「ゴジラ」が作られたのも、この年のことでした。

さらに、この年は汚職が社会問題になった年でもあります。「造船疑獄」という大規模な贈収賄事件が発覚。後の総理大臣、佐藤栄作にまで逮捕状が請求されるなど、政界も大混乱だったようです。

映画は「日本新名所 数寄屋橋」というテロップと共に、街頭で原爆・水爆を作ろうと訴える少女・鏡すて(久我美子)の姿から始まります。原爆・水爆を作れば日本は平和になる、だから寄付をお願いします、としきりに道行く人に訴える少女ですが、しかし誰も相手にしません。

次は「日本新名所 小菅刑務所」というテロップと共に、檻の中で演説している脱税政治家・団海老蔵(伊藤雄之助)の姿が映し出されます。檻の中は、背広を着た政治家らしい人で満員。保守党の政治家の団がしきりに演説をしますが、野次が飛び交い、まるで国会の風景のようです。

「日本新名所 赤坂料亭」というテロップの後には、芸者の花熊(山田五十鈴)が、居並んだ芸者たちに、早口でまくし立てています。

「日本新名所 羽田飛行場」では、一人の男が、いよいよ外国に旅立とうとしています。アルマイト業界の普及宣伝のため、一働きしてくると意気盛んです。とはいえ、実のところ彼は貧乏なスプーン屋。借金をしての海外旅行のようです。

さて、銀座にある和光の時計台。しかし、おかしいです。文字盤のてっぺん、12が入るべき位置には25という数字が、ここは不思議な世界でしょうか。

下の通りには、小心者の税務署員・館香六(木村功)が歩いています。この館というのが、うだつの上がらない男。署長(加藤嘉)をはじめ、みんな適当に汚職をしているのに、彼は正義感というよりは単に気が小さいために、汚職の一つもできずにいます。

もちろん、税金の取立ても苦手です。飛行機が墜落して死んだスプーン屋の家に、取立てに行けば、逆に言い負かされてスゴスゴと帰り、失業者の贋十二(信欣三)の家を訪ねても、やっぱり取り立てできません。そのうえ、贋のバラックの2階に下宿している少女が原爆を作っていると聞くと、慌てて沼津までの123.5キロを走って逃げてしまうほどです。

しかし、署長からは怒られ、ほのかな恋心を抱いている署長の娘(左幸子)にまでバカにされた館は、一念発起。署長の娘と一緒に貧乏な贋十二の家を訪ねて、家財の差押さえを言い渡し、さらに汚職をする決意をします。しかし、小心者の悲しさ。スプーン屋の未亡人にたかが一万円を渡されただけで、オタオタしてしまい、その金を原爆少女にあげてしまいます。

「罪の意識は館を苦しめ抜いて、ついに彼は死を決意した。しかしなかなか簡単に死ねるものではない」

と言うとおり、クルマの前に飛び出してはみたものの失敗。たまたまクルマに乗っていた花熊に問われるままに、汚職の件を打ち明けた館は、笑い飛ばされてしまいます。そして逆に、そんな正直な人は見たことないとか、正義のために汚職メモを作ったらどうだ、などとおだてられ、すっかりその気になってしまいました。

その日以来、うって変わったようにバリバリ働き始めた館。帳簿を何冊もめくり、裏話にも参加して聞き耳を立てる毎日です。贋十二の家の長男・門太(岡田英次)との間に子供ができてしまった署長の娘も、キビキビした館の態度を誤解して、モーションをかけてきました。

ようやく脱税メモを完成させた館は、喜び勇んで花熊のところに出かけます。しかし、そこには先客が。こっそり立ち聞きすると、相手は脱税政治家の団。花熊とはかつて愛人関係だったのです。そのうえ、花熊は館の作った脱税メモを、汚職政治家などに高く売りつける計画を団に話していました。
ショックを受けた館は、放心して外に出ました。そして、脱税メモを落としてしまいます。しかし、そのメモが検事総長に拾われてしまったからさあタイヘン。館の脱税メモをキッカケに一大疑獄事件が巻き起こってしまったのです。

署長からは裏切り者となじられ、花熊からも責められる館ですが、事はいよいよ大きくなってきました。国会の行政監察委員会に喚問された団は「あたくしちょっと記憶にございません」ととぼけ、署長は泣き落としでごまかそうとしますが、そこに館が乱入してきました。「僕が書きました」と言って、事実を包み隠さず話そうとすると、委員会は爆笑の渦。とうとう、館はひっくり返ってしまい、「館は不思議な狂人としてつまみだされた」そうです。

その後、脱税政治家の事故死が大きく報じられる中、館の決断で、差押さえを受けた贋家は、切羽詰って一家心中を計画しています。残しておいた一張羅を着て、さあ死のうと思った家族は、しかし死ぬ手段が見つかりません。まさか、ネコイラズをそのまま飲むわけにもいかないし、仕方なく長男(岡田英次)は自分のズボンを売って薬を買うことにして、出かけます。そこに下の子供が近所でマグロが捨てられているよ、と言い出しました。そう、ビキニの灰を浴びた原爆マグロです。どうせ死ぬんだし、最後においしいものを食べようと、一家はマグロをお寿司にしてパクついています。

そこに館がやってきました。一家がお寿司をパクついている様子を、気のない様子で覗き込んだ館は、2階にある原爆少女の部屋に上がりこみます。「ちょっと寝かしてもらうよ」とウツラウツラした館が目覚めると、原爆少女は嬉しそうに原爆4号が完成したというではありませんか。ビックリして階下に逃げ出す館。ちょうどそこに薬を買った長男も帰ってきました。贋一家は全員、原爆マグロの放射能にあたって死んでいます。

取るものもとりあえず、二人は逃げ出します。どこまで逃げよう、沼津なら東京から123.5キロあるから、小田原まで逃げればどうにか、そんな会話を交わしながら走る二人。途中の分かれ道で二人は、さようならと別々の方向に走り去っていくのでした。


なんとも、不思議な映画です。脚本は市川崑ですが、脚本協力に安部公房の名前がありますから、どことなくシュールな雰囲気も漂います。当時の疑獄事件と水爆実験をベースにしつつも、どこか面白みがあります。なにか実験的な社会派コメディ映画とでもいう、ワケの分からない作品に仕上がりました。

主演の木村功は、この年の「七人の侍」とはうって変わって、この不思議な映画において、とことん不条理な運命に巻き込まれていく男をうまく演じています。

それに原爆製造にこだわる少女役の久我美子も汚い服を着て大奮闘。もとがお嬢様ですから、どんなに汚い服を着ていても清潔感があるのが、また不思議な感じで非常に良かったです。

伊藤雄之助は、日ごろの怪優振りを遺憾なく発揮して、あいかわらず上手いなあと思わせますし、岡田英次にいたっては、後に国際的ハンサム俳優になるのが信じられないような壊れっぷりです。なにしろ、最後、木村功と逃げ出すシーンではブリーフ姿で、街中を疾走するんですから。

そして、何と言っても凄かったのが山田五十鈴。この年の2月に離婚したばかりの加藤嘉と共演というのも話題性バッチリですが、それよりなにより自由自在な演技には、感心を通り越して恐ろしくなってくるくらいです。電話で話す一人芝居の部分では、すごい長台詞を、かなりの早口で一気にまくし立てる姿にまったく淀みがありませんし、表情の一つ一つが迫力とおかしさを兼ね備えていて、まさに天才としか言いようが有りません。そのうえ、ふとした時に見せる仕草がとても可愛い。戦前の山田五十鈴は、それはもうコケティッシュな魅力に溢れていましたが、それを髣髴とさせるデキでした。

そして、加藤嘉と山田五十鈴がユニゾンで台詞をこなすシーンはおかしいです。結構な長台詞を、ピッタリと合わせる二人は、さすがに元夫婦と感心しつつ、思わず大爆笑させてもらいました。

ともあれ、市川崑監督の実験精神あふれるこの作品。もちろん、社会情勢やテクニックに的を絞ってみるのも良いですが、とにかく普通に見ても、とても面白い作品でした。いや、市川崑監督って、凄いですね。



(テロップの出方もおしゃれ)


(木村功は好演)


(久我美子は熱演)


(山田五十鈴は余裕の演技)


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6 コメント

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初めまして (箱 ミネコ)
2008-08-21 11:47:54
たった今、この映画をテレビで見たところです、
昔の映画という先入観でうっかり大まじめに見てしまい

昏倒(笑)

この憤り?というか謎を沈めるために
急いで検索しましたが、なかなかこの映画についての情報が得られませんでした、

そんな時、このブログにようやく当たり、
全てが氷解、
なるほどでした!!納得!

まさに同じ印象を私も持ちました、
たしかにシュールで奇々怪々、
危うい面白さにはまりました、
市川監督は天才、そして俳優陣はノリノリで怪演!

よかった、こういう見方でこの映画は正しいのですね~
安堵しました。

本当にこのレビューが読めてよかったです、
正気に返れました(笑)
ありがとうございます☆

そしてこのブログ、とっても面白いです!
これから過去のエントリーも読み進めますね、
思わぬ出会いですが、これから更新楽しみにします、
よろしくお願い致します。
ありがとうございます (いくらおにぎり)
2008-08-21 15:37:58
箱ミネコさま、はじめまして

実人生において、褒められることがあまりないので、少しドギマギします。でも、喜んでいただけたのなら、とてもうれしいです。

>先入観でうっかり大まじめに

確かに、先入観は怖いですよね。ぼくもクロサワ映画はエライ!みたいな先入観に、だいぶ騙されました。本当は、クロサワ映画には名作が何本か存在する、ってだけなんですけどね。
拙ブログの記事にリンクさせて頂きました (fountain801)
2009-01-31 22:06:39
事後報告で申し訳ありません!!「億万長者」の内容でもっとも解り易かったので、(あととてもすてきな内容!!)だったので、説明リンクさせて頂きました。すいません。何か異議がございましたら、リンク外させて頂きますね。
しかし、邦画の趣味がかぶりまくりなんですが!「億万長者」の縁なのですが、今後も読ませて頂きたいと存じます。
ありがとうございます (いくらおにぎり)
2009-02-02 10:49:32
fountain801(izuminy?)さん、はじめまして。こんにちは。

もちろん、何の異議もありません。というか、むしろありがとうございます。

ところで、「こはやかわけのあき」ですか。勉強になりました。やっぱり、普通は「こばやかわ」って読みますもんね。
「億万長者』 (まーご)
2009-07-22 21:41:11
初めまして。いつも楽しく拝見しております。
『億万長者』は、出てくる人皆壊れてますね!特に、普段のイメージとは正反対の役を演じている久我美子と岡田英次には唖然としました。久我美子はボロを纏っても凛とした感じがまだ残っているのですが、岡田英次は本当に頭の悪そうな人に見えました。『二十四時間の情事』のフランス語を操るインテリを演じていたとは全然信じられません・・・。
こんにちは (いくらおにぎり)
2009-07-23 11:12:08
まーごさん、はじめまして。こんにちは。

>頭の悪そうな人に見えました

言い得て妙ですね。あまりに的確な表現に大笑いさせていただきました。
ハンサム俳優なのに、パンツいっちょうで走りまわってるし。どこまでやるんだか。

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