いくらおにぎりブログ

邦画中心の映画感想ブログです。ネタバレがありますのでお気をつけ下さい。

【映画】珠はくだけず

2007-10-05 | 邦画 た行
【「珠はくだけず」田中重雄 1955】を観ました



おはなし
小森徹、喬は仲の良い柔道兄弟だったのですが、社長令嬢の五月を同時に愛してしまい……

筋の運びは平板で、あまり面白くないです。ただ、ところどころ見逃せないシーンもあるし、強引かつ怒涛の展開は、ツッコミどころ満載でした。

ピカッ、ゴロゴロ。激しい雷雨の中、真っ暗な柔道場で、二人の男が取っ組み合っています。小森徹(菅原謙二)と弟の喬(根上淳)です。二人は、熱い息を吐きながら、ひたすら乱取をしています。額には迸る汗。まあ、台風の中、締め切った柔道場ですから、暑いのは当たり前ですが。
「勝ったら俺の言うとおりにするんだぞ」という菅原謙二。どうやら、弟が会社を辞めたのを怒っているようです。「俺は浅井鉱業がイヤになったんだ。会社勤めがイヤになったんだ」と怒鳴り返す根上淳。暑っ苦しい男二人の乱取は続きます。

バタン。道場のドアが開きました。逆光に浮かぶのは、モンローのような白いドレスを着た五月(若尾文子)です。ご丁寧に、折からの風にドレスもなぶられ、まさにファム・ファタル(運命の女)登場!といった感じ。若尾文子が「タカシさんっ」と言うやいなや、走って逃げ出す根上淳。よし、ツカミはバッチリ。これは面白い映画になりそうです。と思ったら、この後は泣かず飛ばずの展開になってしまうんですけどね。

「また考え込んじゃってるの」とマダム(水戸光子)の声が響きます。どうやら、これは根上淳の回想だった模様。マダムに尻を叩かれ、仕方無さそうにドラムの練習に行く根上淳です。しかし、根上淳はわざと練習に遅刻していったため、ドラムの座を後輩(川崎敬三)に取られてしまいました。川崎敬三は感謝していますが、根上淳の恋人(川上康子)は、そんな不甲斐ない根上淳に不満そうです。

東京に向かう飛行機の中。筑紫炭鉱の若社長・竹山(船越英二)は、隣に座った女とイチャイチャしています。さすが船越英二。イチャイチャぶりが、ネットリとしているのはサスガですね。そのまま、車で女を田園調布まで送っていく船越英二。女は、一軒のクリーニング屋に入っていきます。そのクリーニング屋は小森クリーニング店。あれ、小森と言えば。

そう、女は菅原謙二たちの妹・きみ子(藤田佳子)でした。ちなみに、兄弟は5人。医者をしている長兄。浅井鉱業に勤める次兄の菅原謙二。ドラム叩きの3男、根上淳。一人娘の藤田佳子。それにお茶をやっている末弟です。ついでに言うと、お母さんはイヤミな表情が素敵な三益愛子でした。

根上淳以外の家族が、一堂に揃いました。長兄が博士になったので、お祝いの会をしようというのです。しかし三益愛子は「喬をのけ者にするんなら、私出たくないよ」とひとりムクレテいます。どうやら、会社をドロップアウトしてドラム叩きになった根上淳は、一家の頭痛の種な雰囲気です。

浅井鉱業の社長(柳永二郎)は、大の柔道好き。家に道場まで作ってしまったほどです。そして、社長の最初のお弟子さんは、娘の若尾文子、それに菅原謙二と根上淳の小森兄弟だったのです。とりあえず、ここでとても珍しいシーンが。それは菅原謙二と若尾文子の柔道シーン。二人は乱取をしているのですが、ここで若尾文子が思いっきり投げられています。さすがに一本背負いとか投げ技は無いものの、足払いとかでひっくり返っている若尾文子というのは初めて観ました。カット割りでごまかしていないので、まちがいなく本物です。で、これがちゃんと受身を取っているんですよ。凄いな若尾文子って。

さて、銀座の町をぶらついていた根上淳は、若尾文子が船越英二と歩いているのを見かけました。止せばいいのに尾けてしまう根上淳。若尾文子と船越英二はフランス料理屋に入りました。どうやら、お見合いだったようです。「五月さんを初恋の人だと思っている」とネットリ視線を飛ばす船越英二。「奥様とは恋愛結婚だったんでしょ。死んだ方って、とっても美しく見えるんですってね」と、船越ビームを軽くブロックする若尾文子。ほとんど、竜虎相打つといった風情ですが、ここは若尾文子の貫録勝ちのようです。

そんな、会話がなされているとは知らず、料理屋のバーで悶々としている根上淳。あ、若尾文子たちが個室から出てきました、思わず、パッと顔を隠す根上淳はまるで男子中学生のようですね。それも柔道部の。ともあれ、根上淳が若尾文子たちを尾行していると、なんてことでしょう。浮浪児が若尾文子のハンドバッグを持ち逃げしたのです。思わず、正体をさらして「ハンドバッグはきっとお返しします」と怒鳴ってしまう根上淳でした。

根上淳のたむろしているバーに菅原謙二がやってきました。しかし、根上淳は若尾文子のハンドバッグが気になって相手をするどころではありません。「あいつの気持ちが分からないんです」とマダムの水戸光子にこぼす菅原謙二。しかし、兄のくしえに他人にこぼしてどうする。

一方、若尾文子のハンドバッグを取り戻した根上淳は、それをこっそり開けてみました。ちょっと、いやかなり最低です。そこにあったのは根上淳の写真。そして裏には一言、馬鹿と書いてあったのです。根上淳は、そこに何か言葉を書き加えるのでした。

若尾文子のお父さんは浅井鉱業の社長ですが、折からの炭鉱不況で会社は左前。打開策は、船越英二と若尾文子を結婚させ、船越英二社長の筑紫炭鉱と合併するしかありません。そんな中、船越英二や菅原謙二などを連れて、九州の炭鉱に視察に行くことにしました。

菅原謙二は、現地の社員から、社長のお気に入りと白い目で見られ、さらには社長のお嬢さんといつ結婚するんですか、と聞かれてしまう始末。これは、とんでもないことです。確かに菅原謙二は若尾文子を愛していますが、若尾文子は根上淳が好きなんですから。

船越英二は、九州入りしたものの温泉旅館で逢引中。相手は菅原謙二の妹です。とりあえず若尾文子を口説きつつ、妹までモノにしてるんですから、タイシタ男です。とは言え、妹は妙に積極的。その上、なんだか視線が思いつめているというか、デンジャラスなんですけど。

家に帰った妹は母の三益愛子に、船越英二と結婚するんだと言い切っています。船越英二はそんなこと言っていなかったとは思うんですけどね、確かに甘い言葉はささやいていますが。しかし、コレを聞いている三益愛子の演技がサイコー。カッタルそうに、しかも不機嫌そうな表情が、まさに三益愛子そのものではありませんか。確か高峰秀子は、三益愛子を評してやる気のない女優と呼び、成瀬巳喜男にも怒られてたと何かで書いていましたが、まさにその通りな感じです。そりゃ、この映画の原作者で大映重役の川口松太郎の奥さんだし、現場では誰も文句を言わないでしょうが。

さて、柳永二郎は娘の若尾文子に、船越英二との結婚を勧めています。「パパはお前に決して強制はしない」と言いつつ、ネッチリ、ネッチリと若尾文子を責めあげるパパ。この父の提案を、さしたる理由もないのに断わるというのは、二人の間に信頼関係が無いという事であろうか、みたいに妙にリクツっぽい長台詞が続きます。脚本は高峰秀子の旦那さん松山善三ですが、まだデビューして間もないせいでしょうね。はっきり言って、ヘタな脚本だなあ、と思います。これじゃ論文ですよ。

ともあれ、好きな人がいると父に告白した若尾文子は、「約束を破棄してくるまで待っててください」と根上淳のところに向かうのでした。

根上淳がドラムを叩いています。フリフリのシャツを着てノリノリです。正確にはノリノリ演技を要求されてヤケッパチになっているように見えますが。そんな根上淳をホレボレと見ている恋人の川上康子。これまた、ホレボレ演技をしなさい、と監督に言われ、「これでいいでしょうか」と頑張ってるなあ、といった感じ。そんなところに若尾文子がやってきました。「あなたのような方の来るところじゃありません」とツレない根上淳に、若尾文子は懸命に愛を訴えます。でも頑なな根上淳。若尾文子は「とうとうダメになっちゃった」と写真を残して帰ります。その裏には、「馬鹿」→「救われぬ馬鹿」→「救われぬ馬鹿と馬鹿」とそれぞれが書き足していった言葉が書かれています。えーと、ここは感動するところですか。そうですか。

さて、立ち去る若尾文子を尾行していく根上淳の恋人。なんでまた、と思いますが、これもストーリー上の要請ということでひとつ。しばらくして、帰ってきた恋人は根上淳に「あっ、たかべえ。あのお嬢さん、米村っていう待合に入ったよ」と御注進です。ちなみに、ここでの「待合」は、上品なラブホテルとでも思っていただければ。
何っ、と嫉妬に燃えて走り出す根上淳。いや、さっきの硬派ぶりはどうしたんだよ、というほどの変わり身の早さに唖然とします。それをまた、行かないで、と泣いて止める恋人。ワケが分かりません。

さて、待合では船越英二が若尾文子に「男ってものはね、五月さんのような人と二人っきりでいると、自分を抑えることのできない動物なんだ」と言っています。複雑な表情の若尾文子。内心では、このまま抱かれても仕方ない、とでも思っているのかもしれません。そこに、女将が、電話です、とやってきました。あっそう、と気軽に部屋を出る船越英二。しかし、女将は小さい声で、根上淳の妹が来ていることを告げるのです。ビビリながら、妹に会う船越英二。妹は「五月さんが一緒なんでしょ」と言い出しました。もう、完全にテンパっています。君だってぼくに婚約者がいるのは知っていたじゃないか、と船越英二が言っても、もう妹には聞こえていません。「あなたは私を弄んだのね」と泥沼なやり取りに。たまらず部屋を出た船越英二は若尾文子と鉢合わせ。妹は「あの人が五月さんね」とキレまくっています。黙って帰っていく若尾文子を呆然と見送る船越英二。しかし、そんな船越英二を妹は階段から突き落とすのでした。そんな、大騒ぎなところにやってきた根上淳。とりあえず自分の恋敵が何で自分の妹に?と目が点です。

持つべきものは医者の兄弟ですね。船越英二は根上淳たちの長兄の病院に担ぎ込まれています、これなら、死んでもごまかしてもらえますよね。不機嫌な顔で「打ち所が悪ければ馬鹿になるところだ」と根上淳に怒っている長兄。いや、この際、根上淳は何も悪くないんですけどね。ともあれ、もう面会しても良かろうと、妹は船越英二に対面することになるのですが。

「あの瞬間、はっきりきみ子さんの心が見えました」と夢のようなことを言い出す船越英二。大丈夫でしょうか。「突き落とした私の気持ちが分かったの」と調子こいたことを言い出す妹。そのまま妹は、悲劇のヒロインよろしく「私満足なんです。突き落とすくらい、あなたを愛することができたかと思うと」と自分の世界にヒタっています。

「でも、今は違うよ。もう遊びじゃない。突き落とされた瞬間、これが本当の愛情だと悟った」と言う船越英二。やっぱり、お兄さんの恐れたとおり、打ち所が悪くて馬鹿になったんじゃないでしょうか。相変わらずヒタっている妹は「いいわ、哀れんで頂戴。このみじめな抜け殻を」と新劇の舞台みたいな恥ずかしい台詞を言い出します。こりゃ、人の言うこと全然聞いていないな。

長兄から連絡を受けた三益愛子と菅原謙二は、とりあえず船越英二の様態を心配するわけでもなく、妹を連れ戻すこともせずに道場に急ぐのでした。いわく、苦しいときに根上淳は道場に行くから、だそうです。勝手な親子だ。案の定、道場にポツンと座っている根上淳。三益愛子は言います。「今も胸に溜まっているものを吐き出したくなったんだろ」予想通り、三益愛子の言葉に釣られた根上淳は「母さん、ぼくはもう辛抱できないんだ。何かに自分を叩きつけなければ、どうしようもなくなってしまったんだよ」と答えます。
三益愛子は、次に菅原謙二にターゲット変更。「徹、お前も同じだろ、そうだろ」。えっ、俺っすか。「お前もムシャクシャしているものを叩きつけて本当のものにぶつかりたいんだろ」。思わず、「ぶつかりたいんだよ、母さん」と答えてしまう菅原謙二。

なんで会社を辞めた、と根上淳に詰問する三益愛子。沈黙。なんで、会社を辞める弟を止めなかった、と菅原謙二に詰問する三益愛子。沈黙。「二人とも、お嬢さんを想って、何で隠してるの」と爆弾を投げつける三益愛子。二人は動揺。
「柔道家なら柔道家らしく、人生の勝負をここでハッキリおつけ」
チーン。三益愛子カップの始まりです。

父と二人でシミジミしている若尾文子。そこに、キェーっという奇声が響き渡ります。これは庭に建てた道場から聞こえてくる音。あわてて道場に行った若尾文子に「あっ、お嬢様。気の済むまでやらせておいてください」と言う三益愛子。いや、人の家の道場に勝手に入り込んで、何を言ってるんだ、この人は。

倒されても倒されても、立ち上がって向かってくる根上淳にビビる菅原謙二。きっと、アポロもロッキーを目の前にした時、同じ恐怖にかられたに違いありません。やがて、「たかしっ」「兄さんっ」と二人は抱き合います。なんか泣いてるし。そして、菅原謙二はトドメの投げ技を一本。あっ、投げるんだ。
「良い試合だったよ」と頷く三益愛子。「私にはイヤな試合だったわ。3年もかかったんですもの」と泣き笑いな若尾文子です。

根上淳のバンド演奏を三益愛子と若尾文子が聞いています。もうノリノリかつ満面の笑みで、ドラムをバリバリ叩いている根上淳。ほとんどバカとしか思えません。「何が面白いんだろう」とボソっとつぶやく三益愛子。さすが三益です。
お母様、働くのなんかやめて楽隠居してうださいね、という若尾文子に三益愛子は答えます。
「まだまだ働きますよ。馬鹿がもうひとりいますからね」
その馬鹿、もとい菅原謙二は、一人、道場で受身の練習をしているのでした。

いやあ、別の意味で面白かったです。松山善三も駆け出しのころは、こんな脚本を書いていたんですね。それにしても、左前の若尾パパの会社はどうなったんだとか、疑問がいろいろ湧いてきます。船越英二は馬鹿になったんだろうか。菅原謙二は、一緒に稽古する相手もいないのか。根上淳は、このまま満面の笑みでドラムを叩き続けるのか。

そして、何より心配なのが、三益愛子がお姑さんで、若尾文子はやっていけるのか、ということです。どう考えてもタイヘンだぞー。しかし、そう考えると川口浩の奥さん、野添ひとみは本当に凄いですね。三益愛子に仕えたわけですから。

クレジット的には菅原謙二がトップで、以下、根上淳、若尾文子、そして三益愛子と続きますが、この映画、完全に三益愛子が「全部」持っていってしまいました。あと、強いて言えば「イッチャッテル」妹役の藤田佳子の映画でもあります。

「柔道家なら柔道家らしく、人生の勝負をここでハッキリおつけ」
「いいわ、哀れんで頂戴。このみじめな抜け殻を」


(ノリノリ根上淳と)

(イッチャッテル妹の母親は)

(このあたしさ。なんか文句あるかい)

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