いくらおにぎりブログ

邦画中心の映画感想ブログです。ネタバレがありますのでお気をつけ下さい。

【映画】鬼の棲む館

2007-12-05 | 邦画 あ行

【「鬼の棲む館」三隅研次 1969】を観ました



おはなし
廃寺に潜む、悪党の太郎と情婦の愛染。そこに棲み付くことになった太郎の妻・楓。そして、その寺を高野山の上人が訪れたことから……

谷崎潤一郎の戯曲が原作で、基本は4人の男女の心理劇とでもいったものですが、それを高々と突き抜けていく新珠三千代のド迫力演技が見ものです。

鬱蒼と木の生い茂る山道を、一人の女(高峰秀子)が歩いています。笠を被り、息を切らせながら山道を登った女は、やがて荒れ果てた山寺にたどり着きました。

ほとほととお堂の戸を叩きながら、「お頼み申します。お頼み申します」と言う女。反応がありません。庫裏に入り「お頼み申します。お頼み申します」と重ねて問ううちに、ようやく男(勝新太郎)が出てきて「何をしにきた」と冷たく言うのでした。「お久しゅうございます」という女に、「お前とは縁を切ったはずだ」とぶっきらぼうに言い放つ男。「あなたさまは切ったと仰いましても、私の方は切れてはおりません」。

男の名前は太郎。女の名前は楓。南北朝時代の混乱のさなか、太郎は楓を捨てて、この山奥の廃寺に移り住んだのです。

「あの方とは一緒でござりましょ」と問う楓に、「当たり前だ、こんな山奥で一人で住めるか」とうそぶく太郎。しかし、楓はめげずに「私はあの人に会うまでは帰りません」と声を励ますのです。と、そこに「私に御用がおありなら、どうぞこちらへ」と一人の女(新珠三千代)が艶然と微笑みながら出てきました。「愛染でございます」「楓でございます」。二人の女は笑いつつも、バチバチ火花が飛んでいるようです。

「今でも都では二人の帝が京都、吉野に別れて戦をしていられるのでござりましょうか」と世間話をしかける愛染に、固い表情で「はい」と答える楓。どうも、スケールは愛染の方がでかそうです。「太郎殿、薪がありません」と愛染に言われ、のっそりと薪を取りに行く太郎を、楓は複雑な表情で見送っています。「太郎殿が欲しかったら、連れて行っても私はかまいません」と言う愛染。楓も負けじと「はい、いずれはきっと」と答え、この廃寺に居座る決心を固めたのです。

南朝方の侍たちがやってきました。「今宵はこのお堂にて一夜を明かし、明け方を待って吉野に向かうことにしよう」と言うのです。そこに、お堂には入れぬ、と太郎が斬りかかりました。大降りの太刀をブルンブルン振り回しています。「太郎殿が斬られたらどうなさる」とニヤニヤ笑いながら言う愛染。「太郎殿が斬られたら、きっと涙だけは流すでしょうね」と続けます。しかし、楓は「私は太郎殿と一緒に死にます」と気丈に答えるのです。

暴風のように荒れ狂い、返り血で真っ赤になった太郎。楓がいそいそと血を拭いている間にも、愛染は「今宵のあの人は素晴らしい」と恍惚の表情を浮かべています。楓を邪険に振りほどき、愛染と抱き合う太郎です。

そのまま寺に居ついた楓。女王のように振舞う愛染の下僕が太郎であれば、さらにその下女といった趣です。しかし、季節は冬。やがて食糧も尽きてきました。「愛染、京へ出てくるぞ」「何をしに」「喰い物を盗んできてやるわ」。ドリャっと仏像を一刀両断にし、薪代わりにしたあと、飢狼のように駆け出す太郎。

太郎はそのまま、混乱の京で悪党となり、一揆の先頭を走り、焼き討ちをし、着物から食糧から刀を振るって奪い取るのでした。

それから3年の月日が流れ……、寺に一人の僧(佐藤慶)が一夜の宿を求めてやってきました。「わしは高野の一条院の住職をしているものじゃ」と名乗る僧に、「上人様とは知らずに勿体無いことをしました」と平伏する楓。そんな姿を物陰からジッと見ている愛染は、何故か不気味な笑みを浮かべています。

上人に身の上話をした楓は「これをご覧くださりませ」と戸をガラっとあけました。そこには色とりどりの着物に、鎧や刀がずらり。「上人さま、私の夫は今では、無明の太郎といって、都に鳴り響いた大盗人でございます」「夜道に人を待ち伏せては、人の命や宝を奪い、宿りを求める旅人があればおおかた生きては帰しません」。なんか聞き捨てなりませんね。しかし「早よう、主の帰らぬうちにお立ちになされた方がよろしゅうございます」という楓の言葉に、上人は太郎に会って、教化したいと言い出したのです。まさか鬼でもあるまい、と言う上人に、しかし、楓は言います。「実は真の鬼が他におるのでございます」

「去年の冬の、雪の降る夜でござりました」と話し出す楓。戦に追われてきた女が、それは鬼のような女で、その色香で太郎をだまし盗人にしてしまった、と口を極めて罵る楓。

そんな楓に上人は、「そなたにも鬼がいる」と言い出しました。「私は鬼ではございませぬ。鬼はあの女でございます」と言い返す楓。しかし上人は「はて、分からぬかのう」と、人を嫉妬する気持ちにも、鬼が宿っていることを諭すのでした。ありがたいお経を楓に渡し、これを唱えれば心の鬼がいなくなると上人が言った、まさにその瞬間、悪名の太郎が躍りこんできます。「やい、クソ坊主。世迷言はそれだけか」と怒鳴り、その袋を出せ、と脅かす太郎。

上人は慌てず騒がず、「この袋に触れてはならぬ」と言い渡します。「この中には愚僧が持仏の観世音菩薩があるのじゃ」。渡せ、それがイヤなら法力を見せてみろと、襲い掛かる太郎。あ、上人が仏像を手に、お経を唱え始めました。ピカーっ。仏像が光り、太郎の目を射抜きます。っていうか、こんなところで特撮とは、予想もしない展開。ショックでへたり込む太郎。楓は「南無、観世音菩薩」とひたすらお経を唱えるしかできません。

と、そこに愛染が「上人様、お久しいことでござります」と出てきました。「おお、愛染殿か」と答える上人。そう、二人は実は知り合いだったのです。かつて上人は少将の君として、栄華を極めた身。そして、美しい白拍子の愛染に入れあげたあげく、中将の君を殺して仏門に入ったのでした。

上人を奥に誘いつつ、愛染は太郎にそっと耳打ちをします。「おぬしのために仕返しをしてやるのじゃ」「こんどは、この愛染の法力を見せてあげましょう」と。

「男に抱かれとうて仕方がないのでござります。生きている人はみんな私と同じはありませぬかのう」と言って、上人をじっと見つめる愛染。「上人様は女性が恋しゅうはございませぬか」と言って。ネットリした視線をからみつかせます。「恋しゅうはない」と答えて、お経を読み始める上人。どうもガードが固いようですね。

仕方がない。次は酒を進める愛染。しかし「いや、仏に仕える身なれば、酒は慎みたい」と上人は飲もうとしないのです。「酒も断ち、女性も断ち、霞の上の上人様では、生きた世の中の凡俗は救えないのではございますまいか」と愛染も、リクツで攻めてみます。あ、これは効いたようです。じゃあ一杯だけ、と酒を口に含む上人。愛染は、私にも一杯と酒を飲み、「これで上人様も、この愛染も同じ人になりましたな」と言って、甘えたような表情を見せます。いかん、いかん。「何だか体が熱うなってきましたな」と上着を脱ぎ、着物の襟を緩める愛染。色気攻撃です。ちらっと見える乳房にクラっとする上人。思わず、昔愛染を抱いた時の記憶がまざまざと蘇えってきちゃいました。

一方、そのころ、太郎は楓に酒をつがせながら待っています。上人の法力が勝つのか、愛染の色気が勝つのか。いきなり楓が顔を覆って泣き始めました。「私は尼にでもなってそなたの幸せを祈りとうございます」。「尼にも坊主にでも勝手になれ」と言い放つ太郎。楓は、すっと泣き止むと、杯を床に叩きつけ、「心の底まで冷え切ったお人じゃ」と罵ります。あ、これは嘘泣きでしたか。「わしの心は愛染には熱いぞ」と言う太郎に、すさまじい形相で楓は言います。「愛染の心は上人様の法力で調伏されて冷え切るのじゃ」

あ、上人様はハアハアいってます。ズリズリと後ずさる上人に、愛染が迫り、着物の前をバッとはだけました。思わず、目が釘付けになる上人様。愛染の潤んだ瞳が、上人を捉えて離しません。握られる手。抱きつかれる体。そして、二人はそのまま床に倒れこみ……

裸で横たわって虚脱している上人。横にいた愛染は「坊主の念仏より、この愛染の体か勝ったぞ」と言って、前をスッカリはだけ、両手を大きく広げて、ギャハハハと高笑いを始めました。折からの風に髪はなぶられ、なんだかスゴイことになっています。

「この世はあさましい鬼の棲みかじゃ」と悔しそうな楓。上人は這いつくばって部屋の隅に逃げたかと思うと、そこで自らの舌を噛み、そしてフガフガとお経を唱え死にました。「地獄の餓鬼に、このような宝はいらぬ」と上人の持仏を取り上げる愛染。しかし太郎は「いや上人様は紫色の雲を見て死んだのじゃ。仏の姿を見て死んだのじゃ」と反論するのです。

「ふふっ、この愛染を拝んで死んだのじゃ」
「違う、あの上人様の安らかな顔を見よ」
「愛染、仏を殺して気持ちがいいか」
「私は仏に勝ったのじゃ。この体が勝ったのじゃ。ひゃーはっはっは」
ザシュッ。太郎の太刀が、後を見せずに鞘走りました。声も上げずに絶命する愛染。

「愛染」と、死体にキスをする太郎。「愛染、愛してる。愛してる、ぬがががっ」と、なんだか色んな意味で気持ちが高まっちゃったみたいです。

「上人様。今こそ、無明の太郎は目が開き申しました。ただいまより、この太郎は出家となり、上人様の回向のため、愛染の菩提を弔うため、この観世音菩薩を肌身離さず御山へ参りまするぞ」と宣言する太郎です。

すっかり出家の服装に身を固めた太郎が寺を出て歩き出しました。後ろには、楓が見え隠れに付いていきます。山道に錫杖の音が、シャリン、シャリンと響いています。

まず高峰秀子は、さすがの名演技。貞淑で、哀れな境遇に耐える妻と見えつつも、心のどこかで自分の正義に酔っている鼻持ちならない女を上手く演じています。これが、本当に、ただひたすら虐げられるだけのかわいそうな演技をしてしまうと、この話は崩壊してしまいますから。やはり、この楓という人物の中にも鬼が棲んでないといけませんから。

そして勝新は、うーん、殺陣が凄かったですね。室町時代以前の、打ち刀とも言われる大振りの太刀を振り回す殺陣はまさに圧巻。若山・勝兄弟と言えば、刀だろうが槍だろうが何でもござれの、まさに殺陣の天才ですが、その片鱗を見せてくれました。もっとも、こういった少人数の、観念的な芝居に向いているかどうかは、また別の話ですが。

新珠三千代は、これは、スゴイ。もうスゴイとしか言いようがない。色気というよりエロけを全開にした姿は、まさに神がかりです。じっと見る目の吸い込まれそうな感じ。ニヤっと笑う唇のいやらしさ。そのちょっとした仕草の一つひとつが、もう完全に男を虜にするオーラに満ちています。これじゃ、太郎も狂うよな、と納得でした。

しかし、最期に太郎がいきなり出家を決意するところには唖然としましたが、案外、出家解脱のきっかけはこんなところにあるのかも知れませんね。「歎異抄」でも「善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや」と言っていますから。まして女はリアルな世界を生きて、男は、頭でっかちに、観念の世界に遊びがちなものでしょう。







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4 コメント

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鬼の棲む館 (みーん)
2008-08-31 02:14:25
確かに、よく観るとどえらい映画です。新珠さんが、本当にとにかく凄すぎ。あの乳首は、文子さまのように代役ですか。
何事かと思いました (いくらおにぎり)
2008-08-31 18:45:29
みーんさん、はじめまして。こんにちは。

えーと、4時間弱で、17件のコメント、お疲れさまでした。でも、さすがに、それに全て、お返事はできませんので、あしからずご了承ください。
2~3日に一件くらいのペースで、ゆるゆるとコメントをいただければウレシイんですけど。
私は愛染派です。 (晴雨堂ミカエル)
2009-07-30 01:51:59
映画ブログの晴雨堂です。
 
私は愛染ちゃんが好きですね。上人様を論破して一発抜いてやって、全裸で仁王立ちになって高笑いは、迫力ありました。愛染こそ、唯我独尊の本来の釈迦の教えに忠実です。このキャラ好きですね。
Re:私は愛染派です。 (いくらおにぎり)
2009-07-30 15:47:48
まあキャラとしてはいいんですが、自分の近くに、全裸でギャハハとか笑ってる人がいたら、間違いなく道の反対側に行きますね。そしてそこから、お巡りさんが駆けつけるまで、じっと見つめると。

もちろん、それも新珠三千代ならの話で、愛染恭子クラスなら、そのまま立ち去るかもしれません。

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