いくらおにぎりブログ

邦画中心の映画感想ブログです。ネタバレがありますのでお気をつけ下さい。

【映画】私たちの結婚

2010-10-01 | 邦画 や〜わ行
【「私たちの結婚」篠田正浩 1962】を観ました



おはなし
正確に言うと「お姉ちゃんの結婚」かもしれません。

松山善三と篠田正浩の共同脚本。ってあたりで、なんだかヘンな感じです。木下恵介の愛弟子で松竹らしさを体現している松山善三に、もう一方は松竹ヌーベルバーグの篠田正浩ですからね。どんな作品になるんでしょうか。

煙突が立ち並ぶ川崎の工業地帯。いすゞ自動車の川崎工場もその一画にあります。おや、おりしも職工の駒倉(三上真一郎)が事務所に続く階段を駆け上り、会計課に飛び込んでいきましたよ。「キミ、キミ」と事務員の日比野圭子(牧紀子)を怒鳴りつける駒倉。「なんですか」「サラリーの計算、キミがやっているのか」「そうです」「俺の月給、足りないんだ。調べてくれないかな」。そう言いつつ、月給袋をポーンと放り出す駒倉に、圭子も微妙にムカツキモード。「足りないって、いくら足りないんですか」「10円だ」。と、圭子の同僚が、「ああ、あたしが入れたやつかもしれないわ」と引き出しから10円を取り出して、バチンと叩きつけて言います。「はい10円」。うーん、この態度はいけませんね。もっとも、駒倉の方も、もう少し大人な態度で言えばいいのにとは思いますけど。ともあれ、駒倉と圭子の出会いは、最悪だったということでひとつ。

一日の仕事を終え、圭子が帰りのバスに揺られていると、「お姉ちゃん」と妹の冴子(倍賞千恵子)が寄ってきましたよ。そうだ、現場勤務の冴子なら知ってるかも。「冴子の方に、駒倉信三郎って人、いる?」「駒倉信三郎。いるわよ。釣りキチガイ」「何してる人」「エンジンの組み立て」「だから、あんな汚い服を着てたのかあ」。同じ工場勤務でも、きれいな事務所と現場では、微妙に差があるみたいですね。と、冴子が言います。「今度の日曜日、みんなで魚釣り行くのよ。お姉ちゃんも行かない?」。

さて、圭子・冴子姉妹の家は、羽田で海苔の養殖をやっています。今日もお父さん(東野英治郎)が海岸で仕事をしていると、そこにパリっとした身なりの男がやってきました。「日比野さん」「おお。松本さんじゃないか」。どうやら、松本(木村功)は、お父さんの古い知り合いのようですね。「懐かしいですねえ。10年前とちっとも変わらない」「いやいや、海はもうだめだ。昔は、海の色は子どもが青い色で書いたもんだが、今じゃ真っ黒だ。今日もアレだけだ」。確かに、羽田空港の拡張工事などで、海苔養殖はキビシイようです。ま、そんなことはともあれ、松本を家に連れて行き、飲み始めるお父さん。お母さん(沢村貞子)は困り顔ですが、お客さんとあっては仕方ありません。

と、そこに圭子たちが帰ってきましたよ。あらお客さん。でも誰だろう。お母さんに「松本さんだよ」と言われても、「はあ?」って感じです。「覚えてないかね。もう10年になるもんね」。いや、まったく覚えてないっす、私たち。「今はね、日本橋の生地屋さんに勤めてて、係長さんなんだよ」。ははあ、それで。「誰、松本さんって」「昔、うちによく来た担ぎ屋だよ」。なーるほど、汚いカッコをしてた闇屋もどきと、今のスーツをパリっと着た男では、イメージが一致しないのはあたりまえです。「担ぎ屋ぁ。イヤんなっちゃうな、お父さん」と潔癖な圭子は、思いっきりイヤな顔です。さらに、お母さんからお酒代に千円を無心され、イヤさ倍増な気分。「あーあ。どっかに落っこってないかな、百万円くらい」と圭子がグチると、冴子が言い出します。「お姉ちゃん。二人でお金持ちのおじさま族でも引っ掛けちゃおうか」。「そうね。やっちゃおうか。ストリップでも」。いや、ここで期待した人、残念でした。これは東映じゃなくて松竹の映画ですからね。なんか、二人が踊りながらシュミーズ姿になるくらいのもんです。

適齢期とでも言うんでしょうか。圭子の身辺がいきなり賑やかになってきました。まずは、お父さんに、組合長さんの息子が圭子と結婚したがっているという情報が。相手は奥さんと死別したみたいですが、組合長と親戚になれれば、借金とか色々と都合がいいなあ。一方、冴子に誘われ駒倉と釣りに行った圭子は、なんかトキメクものを感じてモヤモヤ気分。うーん、駒倉さんってステキかも。さらに、圭子に一目惚れした松本は、プレゼントの洋服生地を持ってきたりして。

そんな中、圭子はお使いで東京の本社に行きました。そして、その帰り道に、学校時代の友人、有島さん(春川ますみ)と出会ったのです。「あら圭子じゃないの」「有島さん」。有島さんに誘われ、お茶をする圭子。それにしても、派手だなあ、この人。ミンクのコートとか着てるし。「あんたも恋人作るなら、青い目がいいわよ」と言い出す有島さん。どうやら、有島さんは外人と「自由」恋愛をしてお金をもらっているみたいですね。「気持が悪いわ。青い目の外人なんて」「あら、あんたズレてるわね。雪村いづみだって、松本弘子だって、みーんな外人と結婚して、青い目はステキだって言ってるじゃない」。出ました。みんな攻撃。それもサンプル数がたったの2件。「相変わらずね、有島さんって。学校時代とちっとも変わらない」。

そうは言ったものの、布団に寝ころがって考えちゃう圭子。うーん、贅沢もいいなあ。そして冴子に言います。「冴子、こーんな大きなショートケーキ、食べたことある。イチゴが二段に入ってるの」。眉間にシワをよせ、じっくり考えた冴子は答えます。「見たことはあるわ」。ナイスな反応すぎ。「あたし、今日食べたのよ」「誰に奢ってもらったの」「有島さん。学校時代の友達よ」。「へえ、あの人、今なにしてんの」と聞く冴子に圭子は言います。「毛皮の外套着て、皮の手袋はめてたわ。月に5万も取るんだって」「5万円!」「うらやましいと思うでしょ。あんただって」。そりゃもちろんですよ。「だんぜん、うらやましいわ。ね、どうすれば5万円も月給取れるの」「それが問題よ。つまりね、ひとくちで言えば美貌を売るってことよ」「つまりアレか」「そうよアレよ」。うーんアレか。でもアレしてまでお金欲しいと思わないなあと言う冴子に圭子も答えます。「あたしだって思わないけど、なんだか腹がたつのよ。あたしたちの生活って、靴一足買えないじゃない」。と、そこに「圭子、圭子」とお母さんがやってきました。「明後日返すから、千円貸しとくれよ」。ほらね。

ま、それはともあれ、海辺で駒倉と話し込んでいる圭子。俺は貧乏だけど、希望はいっぱいだぜ、みたいな感じで夢を語る駒倉を見ていると、これもいいなあと思っちゃいます。アレをしてまでお金を貰うより、こういった人と一緒になった方が幸せなのかもしれないわ。

その同時刻に、妹の冴子はインタビュー中。というのも、近所のみよ子さんがやっぱり貧乏な日通のドライバーと結婚したので、お姉ちゃんのために、貧乏暮らしは、どんなもんなのかを調べようと思ったのです。
「主食はたいしたことないのよ。問題は副食費よね」
ふむふむ。
「主食、副食、あわせて8千円。一日250円。それから電気代、水道代、お風呂代。旦那さんのタバコ、奥さんの化粧品代。たまには映画だって観たいでしょ。だから、どんなに安く見積もっても1万3千円はかかるわよ」
「1万3千円」とメモメモした冴子は、またまた眉間に皺を寄せて聞きます。
「それだけあれば、やってけるのね」
「苦しいけどね」
「やればやれるもんね?」
なんか倍賞千恵子、怖いんですけど。違ってたら、あとで責任を取れとか言い出しそうなイキオイ。ま、それはともあれ、一日に使えるお金を、最初から割り当てちゃえばいいのよ、と言い出すみよ子さん。「割り当てが無くなったら、あとは何もしないで寝ちゃうのよ」。ほほう、それはいいことを聞きました。「そうね。寝ちゃえばいいわね。お腹も空かないし」。そんな冴子にみよ子さんは、フフッと笑いながら言います。「寝ちゃうって言ったって、一人で寝るわけじゃないでしょ。いいものよ、結婚って。お金が無くたって。あんたも早くしなさい」。おっと、「寝る」違いだったようです。それは、かえってお腹が減りそうな気もしないでもありません。

松本からお母さんに手紙が来ました。圭子さんをお嫁にくださいと言うのです。これには、鷹揚に構えていたお父さんもヒートアップ。しまった。とっとと組合長の息子とお見合いをさせねば。もちろんお母さんに、「おい、この手紙のことは内緒にしとけよ」と口止めするのも忘れません。しかし、夜になって、圭子にお見合い話を切り出すと、横から冴子が言い出しました。「なんだあ。お姉ちゃんのことなら心配いらないわよ。ちゃんと好きなひと、見つけたもん」。「何い」と怒るお父さんに、冴子は続けます。「そうよ。お父さんもお母ちゃんも安心しなさい。駒倉さんってね、とっても会社で評判いいの」。「バカなこと言うな。職工なんかと一緒になって、どうすんだ」と怒りまくるお父さんに、またも冴子は勝手に言います。「職工だっていいじゃないの。恋愛しちゃったのよ。好きになっちゃったのよ。好きになっちゃったらしょうがないじゃない」。と、今まで黙っていた当の本人の圭子は静かに聞きます。「お父さん、どうして、そんなにあたしをお見合いさせたいの」「い、い、いい話だからよ」とドギマギするお父さん。横からお母さんが言います。「組合長の息子さんだよ」。これで圭子にはピーンときました。「お金借りたいためね」。「何を、このぉ」。図星を指されたお父さんは、圭子を殴ります。あれえ。

家を飛び出した圭子は、夜の海に向かって叫んでいます。「やい、貧乏。貧乏のバカぁあああ」。うううっ。そこに冴子が駆けつけて言います。「お姉ちゃん、やっぱり駒倉さんのこと好きだったのね。お姉ちゃん、どんなことがあっても結婚しちゃいなさいよ。うち飛び出したってかまやしないわ。みよ子さんがね、二人で1万3千円あれば、なんとかやってけるって言ってたわよ。愛しあってれば、ご飯なんか食べなくたって、楽しいって言ってたわよ」。うわあ、やっぱりみよ子さんの発言を「絶対視」してるし。しかも、最後の方、ちょっと曲解してます。倍賞千恵子、危険すぎ。

さらに倍賞千恵子の暴走は続きます。翌日、働いている駒倉のところにドスドスやってきた冴子は言い出しました。「駒倉さん、あなたは、あたしのお姉ちゃんのこと、どう思ってるの」「どうって」「今日はあたし真剣なのよ。駒倉さんも真面目に返事してちょうだい。お姉ちゃんのこと、好き?嫌い?」。いや、二者択一なら「好きだよ」。「本当に」「ああ」「じゃあ、なぜ結婚申し込まないのっ」。倍賞千恵子、トップギア。「いいこと。今度の日曜日、駒倉さんの寮へ、二人で遊びに行くわよ」。じゃっ、ドスドス。ああ、行っちゃった。

さて、圭子は有島さんに誘われてお出かけです。「ねえ、どこ行くの」「ボーイハントよ」。「怖いわ」とか言いつつ、豪華なバーに連れられてきた圭子は、そこで松本と出会ってビックリ。なんとなく話してみると、松本はとてもいい人でした。そして、松本は言います。「僕は昔、あなたから闇屋って罵られたことがある。覚えてますか」。そんなこと、さっぱり覚えていなかった圭子ですが、松本にはその言葉がショックだったようです。そして、その悔しさをバネに奮起し、闇屋を辞め、苦労して今の仕事についたそうですよ。「僕はもう闇屋じゃない。貧乏の奴隷になって無気力になりたくないっ」。キリっとした表情の松本は圭子を見つめて、続けます。「うれしいんだ。こんな風にあなたに会えるなんて思ってもみなかったから」「あたしもです」「ホントですか」。

次の日曜日。冴子は駒倉のいる寮にやってきました。「今日ねえ、お姉ちゃん来られなくなっちゃったのよ」。せっかく、ウキウキして掃除をしていた駒倉もガックリ。「どっか行ったの」「有島さんと約束があるんだって」。言いたいことを言った冴子は、「じゃっ、さいなら」ズドド。ああ、行っちゃった。

しかし、実のところ、圭子は松本とデート中でした。貧乏の苦労を人一倍知っていながら、努力して今のサラリー3万円をゲットした松本。さらに、親切でスマート。そのうえ靴まで買ってくれたりして、とりあえず嫌いになる理由は皆無というものです。

翌日のお昼休み。姉妹がそろって走っていると(なぜ走る?)、たまたまみよ子さんを目撃しちゃいました。なんだか旦那さんと言い争っています。とりあえず立ち聞きしてみると、話題はヘビー。「あたしイヤよ。どんなことがあったって、赤ちゃん産むわ」「そんな無理言うんじゃないよ」。どうやら子供を堕ろす堕ろさないでモメているみたいですね。「イヤよ、イヤよ。そんなことイヤ」。うううっ。泣いているみよ子さんを、じぃーーーーーーっっと見つめる姉妹。いや、ちょっと遠慮しないと。それにしても、貧乏ってツライですね。

そんな空気も読まず、冴子に煽られまくっていた駒倉は圭子にプロポーズをすることに。「すぐ返事をしなくたっていいんだ。僕にだって、今、結婚を申し出る資格があると思っちゃいない。でも、僕はどうしようもないくらい、圭子さんが好きだ。圭子さんが付いてきてくれるのなら、どんなギリギリの暮らしにも負けないで働くつもりだ。俺たちは檻の中に入ってるワケじゃないんだ。俺たちの周囲がばい煙で覆われていたとしても、その向こうは青い空とつながっているんだ。青い空があるうちは僕は決してあきらめないっ」。うわっ、今、俺いいこと言いまくったんじゃね。圭子さん、感動しまくってんじゃね。しかし、貧乏の辛さを目の当たりにしたばかりの圭子は、まったく感動してなかったみたいです。

さらに、姉妹が帰りのバスに乗っていると、みよ子さんが産婦人科からヨロヨロ出てくるのを目撃。まあ狂信的な冴子はともかく、圭子はすっかりドン引きモードです。

そのうえ、家に帰ると、松本に買ってもらった靴を片手に、お父さんが激怒中。「圭子、この靴は誰に買ってもらったんだ」。言い訳してみたものの、しつこい追求に圭子もキレて、松本にもらったことを告白しました。何が悪いのよっ、まったく。あたしだって、幸せになる権利はあるわよっ。

早速、目の据わった冴子は行動開始。翌日、松本の仕事場に押しかけましたよ。「なんです。話っていうのは」と穏やかに言う松本に、冴子はわめきます。「松本さん、お姉ちゃんに結婚を申し込んだでしょ」。「ハハ。圭子さんから聞いたの」「お姉ちゃんと結婚するのはやめて下さい。お姉ちゃんは好きな人がいます」。「好きな人?」とガガーンな松本に冴子はさらに言います。「お願いだからもう会わないでください。私はそれを言いに来たの。美しい恋愛をお金なんかで汚さないでください」ズドド。ああ、また行っちゃったよ。おっと、唖然としている松本のところに速達が届きましたよ。なんだろう。ふむふむ。ええっ。

リーン、リーン。会社の電話を取った圭子は、相手の声を聞いてビックリ。松本じゃありませんか。「圭子さんですね。明日の朝、僕と一緒に田舎、行ってくれませんか。岡山です」。そう、さっきの速達は松本の母が倒れたという連絡だったのです。そのため、松本としては、ひと目だけでも圭子を自分の母に会わせたいと思ったみたいですよ。「行ってくれますか? 実はさっき冴子さんが来て、あなたには好きな人がいるから、あなたとは付き合わないでくれって言うんです」「冴子がっ」「いやあ、そんなことはいいんです。僕はあなたを信じています。僕と一緒におふくろに会ってください」。圭子は少し考えたあと、ハッキリと答えるのでした。「あたくし、行きます」。

となれば、駒倉とのことをキチンとしておかなくては。早速、夕方の海辺に駒倉を呼び出した圭子は言います。「あたし結婚します。明日、その人と、その人の田舎に行きます。この間、考えさせてくださいって言いましたね。あたし、一生懸命考えたんです」。以上。いや、以上じゃ困るのが駒倉。「僕とでは幸せになれないって言うんですね」と恨み節を言ってみたり、さらには「分かった。君は負けたんだ」と脅してみたり、あの手この手。しかし圭子の決心は揺らぎそうにありません。「君はわざわざ、それを知らせに来てくれたんだね」と駒倉は肩を落とすのです。「そんな風に言わないでください」「どんな風に言えっていうんだ。お幸せにって言うのかい。元気でねって言うのかい。俺はイヤだ。君がいつか後悔する日を祈ってる。君のような考え方がいいハズがない。そんなはずはないよ」ズドドド。行っちゃいました。

「ただいまあ」、冴子が家に帰ると、両親がずどーんと暗い顔です。「どうしたの」。「姉ちゃん、姉ちゃん、うちを出て行くんだって」とお母さん。「出て行くって、どこへ」「松本さんと結婚するんだって」。ムキーッ。「お姉ちゃんが松本さんと。そんなのダメよ。あたし、絶対反対よ」。いや、それは圭子に言わないと。

それもそうねと、部屋に押しかける冴子。荷物をパッキング中の圭子の前に立ちはだかります。「お姉ちゃん、駒倉さんとのこと、どうすんのっ。お姉ちゃんは駒倉さんのこと好きだったんじゃないのっ」。目が怖い。目が怖いよ、倍賞千恵子。さらに説明をする圭子を無視して、「何よっ、こんなもの」とバッグを取り上げちゃいましたよ。「あたしね。さっき駒倉さんとハッキリ別れてきたのよ。返して。ねえ、返して」。ここまで言われれば、思い込み大魔神の冴子も、どうしようもありません。「駒倉さんもそれでいいと言ったのね」とショボーンです。良かった、刃物とか振り回さなくて。

一方、駒倉は行きつけのおでん屋で、友人のスズキクンをお供に、やけ酒の真っ最中。おでん屋のおばさん(清川虹子)が「この頃の若い子はね、みんなそうだよ。仕方ないじゃないか」と慰めても、聞く耳を持ちません。さらに「そんなに惚れてんなら、キッスぐらいしちゃえば良かったのに」とおばさんが言うと、「したよ」と仰天発言。「した。お前、キスしたのかよ」とスズキクンが興奮しているのは、まあ置いておいて、おばさんは「そうかキスまでしたのにねえ」と同情モードです。もっとも清川虹子の場合、キスでダメなら襲っちまいなよくらい言いそうなのが怖いところです。しかし、ここで怖いのは、清川虹子ではなくて、外から覗いている貞子のような黒い陰。じぃーーーーーーっ。うわっ、貞子じゃなくて冴子だ。ズルズルと冴子がおでん屋に入ってきて、言います。「お姉ちゃん、行っちゃうわよ」。えーと、こいつもか。倍賞千恵子なら、お姉ちゃんを監禁しちゃいなさいよくらい言いそうだから怖い。アキレス腱を切っちゃえば動けないわよ、とか。しかし、フラれて悲しんでいる駒倉は、冴子なんかを相手にしている余裕はないのです。ちっくしょう。「一万七千円の俺に、何ができるっていうんだ。ええっ」。負けじと言い返す冴子。「一万七千円がなによ。あたしなんか、一万円の給料も取ってないわ」。えーと、なんで給料の比べっこをしてますか、あなたたち。「駒倉さんのバカ。意気地なしっ」と言う冴子の頬に、駒倉のビンタが飛びます。ばしっ。時が止まります。凝固するみなさん。と、冴子が叫びました。「あたしのホッペタぐらいしか引っぱたけないんでしょ。お姉ちゃんをなぜ引っぱたかなかったのよ。意気地なし。意気地なし。うわーん」ズドドド。

店を飛び出して、外でエグエグしている冴子のところに、おばさんがやってきて言います。「冴ちゃん、あんたは本当は、駒倉さんが好きだったのね」「うえーん。ぴくっ」「そうなんでしょ」「……」「そうなのよ。あんた、いつの間にか駒倉さんを愛していたのよ。自分でも分からない心のどっかで駒倉さんが好きだったのよ。姉さん、恨んじゃいけないわ。ねっ。姉さんには姉さんの行く道があるのよ。あんたにはあんたの行く道があるようにね。あんたの恋愛はこれから始まるのよ。いい男、見つけんのよ。大きな目開けてね。分かったわね」。それを聞いて、ぱーっと明るい顔になる冴子。なんだか別の意味で突っ走りそうで怖い。

電車に乗って、愛する松本といっしょに、彼の故郷に向かっている圭子。どうぞ、お幸せに。一方、いつものように、工場に向かう道を歩いている駒倉。しかし、その斜め後ろからは冴子が接近中です。キッと前を向いて、何を考えているのか分からない冴子は、今度は何をやらかすのやら。煙突からは、快調に煙が出ています。モクモク。


なんか、どうしてそうなるんだろう。って感じの映画でした。おそらくは松山善三が考えた骨格部分は、木下恵介の「この天の虹」や、山田洋次の「下町の太陽」みたいな、良くも悪くも「松竹流」の映画だったんじゃないかと想像するんですが、篠田正浩監督の手が入ったことによって、不思議な映画に変身してしまったようです。それはまるで、穏やかな日常の皮を一枚めくってみたら、そこにはおどろおどろしいウネウネした気持ちの悪いモノが眠っていたみたいな。

そもそも山田洋次監督の映画での「品行方正」な役はともかく、倍賞千恵子はかなりの才能の持ち主。日常から微妙にズレた、半分狂気に足を突っ込んだような役でも、軽々とこなせる女優さんです。ですから、この映画のキチガイっぷりもガチなうまさ。あくまで松竹流でいながら、よく見ると、松竹ダークサイドに入っているのが最高でした。

それはともあれ、キャスト順ではトップを倍賞千恵子に譲っているものの、お姉さん役の牧紀子はとてもキレイ。松竹には珍しいクールビューティっぷりで、すっかり惚れました。ちょっと万里昌代に似ているところもあって、新東宝なり東宝にいれば、もっと活躍できたんじゃないかと残念な気もします。







いくらおにぎりブログのインデックスはここ
いくらおにぎり日記はここ
ジャンル:
映画(DVD)
キーワード
お姉ちゃん 倍賞千恵子 ビューティ 負けないで あきらめない ショボーン ボーイハント 下町の太陽 雪村いづみ いすゞ自動車
この記事についてブログを書く
Messenger この記事をはてなブックマークに追加 mixiチェック シェア
« 【映画】不敵な男 | トップ | 【映画】恐怖女子... »

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
牧紀子 (多可一)
2010-10-08 22:33:16
はじめまして。
私は牧紀子さんについていろいろ調べています。彼女の松竹での最大の作品は「白い牙」(1960)でこれは五社監督と井上靖作の3つの作品の1つで、この作品に彼女は主役として選ばれています。そのほか2つの主役は有馬稲子、山本富士子で彼女自身かなり期待されていたのでは。さらに彼女はデビュー2作目「どんと行こうぜ」で主役。相手役は津川雅彦。デビュー2作目で主役を貰った松竹女優は岸恵子以来だったとのこと。ちなみに篠田正浩の監督第1作目ではヌードダンサーで主演しています。
ついでに「私たちの結婚」で、のり干し場で会話していた沢村貞子とあるおばさんの話が面白かった。50年前と今とあまり変わらないきが。
Re:牧紀子 (いくらおにぎり)
2010-10-10 11:50:03
多可一さん、こんにちは。

ホームページを拝見しました。そこにも載っていましたが、恐怖劇場アンバランスのころの牧さんは、かなりメイクもどぎつくなられて、「えっ、これが牧紀子」とビックリでした。
Unknown (多可一)
2010-10-18 23:58:28
ホームページをご覧いただき恐怖劇場アンバランスの牧紀子さんは33歳で確かに熟女に近くなっていますね。4年後の着物の写真はさらに年をとった印象を持っています。
それはそうと牧紀子さんの映画作品は50本あるのに今まで見たのは松竹時代が6本、それ以外が8本と少ないですね。
Re:Unknown (いくらおにぎり)
2010-10-19 11:12:21
多可一さん、こんにちは。
えーっ!33歳……なんか老けて見える。
33歳というと、今なら松たか子とか、ほしのあきくらいなんですけど。
アンバランスの牧紀子さんはどう見ても、40代な感じだったような。やっぱり美人すぎると老化も早いんでしょうか。

コメントを投稿

現在、コメントを受け取らないよう設定されております。
※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。

トラックバック

現在、トラックバックを受け取らないよう設定されております。
※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。

あわせて読む